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殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
第四部 以下、事件の真相に触れる箇所が……
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尾崎凌駕と鹿野信吾の会話 その2

 

   尾崎凌駕と鹿野信吾の会話 その2

   

 直接ではないが、尾崎凌駕と鹿野信吾が二人きりで久しぶりに会話している。システムはチャットのようなものなのか? Web会議システムのようなものなのか? まあどちらでも大差はない。

「よくわからんが、背負う、と、引き受ける、似たようなものじゃないのか?」尾崎凌駕は気遣うようにそっと尋ねる。

「僕は小説家なんだ……。書いている世界はチープで文章は稚拙かもしれないが、小説家なんだ。些細でも言葉の違いは重く感じる」

 尾崎凌駕は黙っている。

「やはり、あの時まったく別の世界――夢の国、ワンダーランドに迷い込んだんだろうか? あの重い言葉が似てはいるが別の言葉にすりかわった別世界に――」鹿野信吾はかなり参っているようだ。

「しかし、俺もネットで検索して確認したぜ。藤沢さんの言ったことは本当だよ」尾崎凌駕がそう言う。

「僕もだ。暗闇にいるが、ネットへはアクセスできる。確かにあの人はそう言っていた。しかし――」

「まあな。確かにこのWeb小説『殺人事件ライラック~』は『世界中の悪意』云々ではないな。警察上層部の『闇』とか出てくるが、それを告発するのが主題ではないだろうし、登場人物も少ない。つまり小さな世界の話だ。『思案せり~』もそうだな」

「あれは檸檬だった……」

「ん? 梶井基次郎か?」

「そうだ。どう思う? 梶井は実際に檸檬を丸善に置いたのか? 否か?」鹿野信吾が真剣に訊く。

「現実の話か? フィクションか? そういう質問か? 檸檬爆弾を梶井は実際に丸善に置いたのかどうか?」

「本物の爆弾を置いたのなら犯罪だが、檸檬爆弾は犯罪ではない。そうだろう? 現実をそのまま書いた。きっとそうだ。それでも小説なんだ。太宰治も『津軽』の最後で確かこう言ってる。作者は虚飾を行はない。読者をだましはしない。つまり現実をそのまま書いて、でも小説――」

「今度は太宰治か……」

「『思案せり~』は現実をそのまま書いた。実際に前半部分はある新人賞に応募したのだ。それをその人は出版社に確認して、これは現実を書いているから失格って。でも北村さん――太宰に理解のある北村さんは『だから何?』って」

 鹿野信吾は興奮しているようだった。

「その人が僕のやったことについて調べたことが、審査に影響している。つまり、――私見によれば、作者目下の生活にいやな雲ありて、才能の素直に発せざるうらみあった――僕には太宰の気持ちがわかったような気が――」

「しかし君はミステリー作家なんだろう?」尾崎凌駕が訊く。

「そうだ。だから中井英夫なのだ。『虚無への供物』も前半だけで江戸川乱歩賞に投じられた。僕のあの言葉は檸檬だったし、『思案せり~』自体が檸檬だった」

「すまん、ちょっとわかるようでわからないかも……」尾崎凌駕は少し困惑していた。

「そうか、そうだよな。鉄格子の内側はやはりこっちなんだろうな。とにかく僕は中井英夫は純文学の方に近いと思っている。大体『虚無への供物』の再評価は埴谷雄高がきっかけって――。埴谷さんはミステリー作家ではない」

「少しは落ち着いてくれよ」尾崎凌駕は何を話そうか考えていた。「Web小説『殺人事件ライラック~』に話を戻していいか?」

「そうだな。今はそれが一番――」鹿野信吾は少し落ち着いたようだ。

「記憶は完全に戻ったのか?」尾崎が訊く。

「完全ではないが、だいぶ思い出した気はする」

「これはミステリーでいいんだよな? アンチ・ミステリーかもしれないが、密室トリックはあって最後暴かれる」

「そのはずだ。ただ、僕にもまだわかっていない」

「『針金の蝶々』の密室はどんな感じなんだ?」

「ちょっと待って簡単に書くから……」

 鹿野信吾=尾崎凌駕は次の文章を書いた。



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