水沼の手記 4
水沼の手記 4
うーん、俺が手記を書かないせいか、割り込むようにお茶会が開催され、二階の殺人現場に鹿野信吾=尾崎諒馬がいて、良美ちゃんが新婚の夫に惨殺される現場を呆然と見ていたことが暴露された。何しろ神の視点だから、間違いはない。信吾も否定はしてないしな。
つまり、俺の嫌疑が一つ晴れた、そういうことだ。
おう、そうだった。俺の妻を殺したのも会長の息子、近藤勝男――近藤社長だった可能性が高い、それも判明したな。
これも俺の嫌疑が晴れたわけだ。
サングラスとマスクで変装したため、鹿野信吾に疑われ、最後、やるか? やられるか? の大立ち回りをナタとハンマー――信吾がナタで、俺がハンマーだったな――とにかく物騒な決闘だったわけだが、小説では詳しく書かれていない。
まあ、俺は信吾のナタが頭に当たった記憶があって、そこで記憶が途切れているが、俺にも手ごたえはあったはず――つまり信吾にも俺のハンマーが当たったはずだ。そうだ、確かに当たった!
信吾の最初の一振りが空ぶって、逆に振ったニ撃目と、俺の最初のハンマーの一撃が、丁度クロスカウンターのようになって……。
信吾の二撃目はナタの刃の方ではなく、背の方だったから俺は死なずにすんだんだろうな。とにかく相撃ちだったはず――
その後、どうなったんだろう?
気絶した俺にはその後は書けない。
信吾も気絶したなら書けないな……。
さてこのあとどうなったか? それはまだ詳しく書くことはできない。
信吾も第二部の七章の最後でそう書いている。いや――
つまりは密室殺人……
やはりこれはミステリーなのだ。
本当の最後はそうなっている。
ここまで、ずいぶん迷走しているが……
大体、誰が犯人か? は神の視点の導入でおよそハッキリしてるじゃないか!
時系列で言うと……
最初の殺人――俺の妻で会長の娘、佐藤良美を殺したのは会長の息子で勝男、つまり、近藤社長。
次の殺人――殺されたのは近藤社長の妻の良美ちゃんで、殺したのはやはり近藤社長。
最後の殺人はその近藤社長が殺されたんだが……
犯人はまだ不明。俺は現場では鹿野信吾を疑って、鹿野信吾は俺を疑って決闘になったが、改めて考えてみると俺にも信吾にも凶行は不可能だ。
ああ、そうか!
近藤会長が自白している「太陽が眩しかった」それが動機だと!
サイコパスの息子のやらかした犯罪の責任を親の会長がとった、と――
お天道様に顔向けができない!
それで落とし前を付けた、と――
まるで、小指を切り落とすかのように、息子勝男を始末した、そういうことだ。
コードネーム首猛夫、そう呼ばれる殺し屋を会長が別荘に送り込んだ。
その首猛夫が近藤社長殺して、首を撥ねた!
そして密室から煙のように消え失せた!
それが、このミステリーの最大、かつ唯一の謎!
それを解かねば!
しかし、俺にこの密室の謎が解けるのか?
いや、解くというよりも何か一つぐらいちゃんとした密室トリックを考え出さねば!
信吾、いや尾崎諒馬!
それでいいんだろう? これはミステリーなんだろう?
お茶会は参加者の推理合戦でみんなでワイワイ楽しく密室の謎を解けばいいんだろう?
俺にはアンチ・ミステリーも、その「世界の悪意」云々も何もピンときちゃいない。ただ、密室の謎の解明だけが今の興味のすべてだ。
その謎が解ければ……
俺はここから出してもらえるんだろう?
この暗黒の世界から外へ出してもらえるんだろう?
ただ文字が綴れ、文章が読めるだけのこの暗闇から――
なぜ、みんな黙っている?
またお茶会を開いてくれ!
信吾でも凌駕でも藤沢さんとやらでもいい。何か文章を俺に読ませてくれ。
俺は書いてるぞ! 書かないと気が狂いそうなんだ。
いや、書いているだけでは駄目なんだ。
コミュニケーションは双方向!
誰でもいい、俺の書いたこれに何か返事をしてくれ!
俺は……
ああ、自業自得か……
やはり俺は人殺しだ……
妻を殺したのは俺だ……
白状するから助けてくれ……
俺をここから出してくれ!




