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殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
第四部 以下、事件の真相に触れる箇所が……
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〇〇〇お茶会 4


   〇〇〇お茶会 4

   

 ついに四回目の〇〇〇お茶会。出席者は前回と同じ。


 尾崎凌駕「次は水沼さんの手記が書かれる順番かと思いますが、なかなか書かれないので、急遽お茶会を開催しています」


 水沼は参加しているが何も答えない。


 尾崎凌駕「信吾――尾崎諒馬先生は何かありますか?」


 尾崎凌駕の問いかけに鹿野信吾も無反応だ。


 藤沢「じゃあ、今回はお二人はROMということで、我々だけで進めるとしますか。事件についてはかなりわかってきてますが、一番正確に書き下せるのはやはり神の視点を持つお二人ということに――」


 尾崎凌駕「お二人は相変わらず小説は読んでない?」


 青服&黒服「ええ、読んではいません」


 尾崎凌駕「小説は、研究員の佐藤稔の妻――彼女も殺されていますが――佐藤良美の話になっています。その辺のことで話せることはありますか?」


 青服「佐藤良美は会長の娘さんですね。勝男の姉の――」


 尾崎凌駕「ええ」


 黒服「彼女は別荘には来ていませんのでカメラの映像には映ってはいません。なので、いくら神の視点を持っていても……」


 藤沢「名誉会長室で働いていた――つまり、会長の身近におられたわけですから、何か知ってることはないのでしょうか? あ、そうだ!」


 尾崎凌駕「あ、そうか! お二人は佐藤良美は知っている。じゃあ、その夫の佐藤稔とは面識は――」


 藤沢「そうです。面識があれば、二階の殺人現場に居合わせた佐藤稔が――」


 青服「いえ、面識はないのです。別荘でのカメラ映像で『佐藤稔』と思ったのは確かなんですが、その顔と名前の記憶がどこから出てきたのか……たぶん、パーティで誰かに聞いたと思うのですが……。ですので、それが会長の娘婿であるとも言えないし、違うとも言えない」


 尾崎凌駕「そうですか、残念です」


 黒服「話を戻しますが、会長は娘良美さんを溺愛されていました」


 青服「しかし、良美さんは家が心底窮屈で――あ、心理的な意味ですけれども――」


 黒服「良美さんは高校卒業と同時に家を出られた」


 青服「多少の連絡はあったようですが、長いことほぼ絶縁状態――会長はそれを心から嘆いておられました」


 黒服「会長が尾崎諒馬の熱心なファンというのは本当ですが、実は娘が彼と付き合っているのを知っておりましたから」


 青服「尾崎諒馬の力を借りて何とか娘を家に取り戻したかった。〇〇家に――。ここは小説だと近藤家となると聞いていますが、一応伏せさせてください。我々二人は小説を読んでおりませんし――」


 尾崎凌駕「ややこしいのでこのお茶会では〇〇ではなく近藤で通してもらえませんか?」


 青服「いや、努力はしますが、どうもピンとこないので……。会長は息子勝男を実は嫌っておりました。跡取りは良美の婿に――いや、婿殿との間に生まれるお子にすべてを譲る考えもありました。しかし、良美さんの決心は固く、家に戻るつもりはないようでして――」


 黒服「尾崎諒馬さんとも破局したようで、ツテを失った会長はとても嘆いておりました」


 尾崎凌駕「良美さんは別の男性――佐藤稔、小説では水沼、またはペンネーム坂東善ですがその彼と結婚したのでしょう? そのお二人に子供ができれば――」


 青服「いえ、会長はその坂東善という方を認めてはおりませんでして……。失礼ながら……」


 黒服「それにその方は――」


 水沼「もうやめてくれないか!」


 突然水沼が声を上げた。


 水沼「俺は種無しなんだよ。会長に根本的に嫌われていたんだ」


 黒服「そう伺っています。それで、会長は溺愛してきた娘良美さんのことは諦め――」


 青服「息子勝男――良美さんの弟、勝男に嫁をとることに決めたのです」


 黒服「実は以前から本当に苦労して全国あちこち手配しておりまして――」


 青服「勝男の嫁候補に良美ちゃん――ああ、同じ名前で混乱しますが『ちゃん』を付ければ区別できると聞いていますので、我々もそうさせていただきます――嫁候補の良美ちゃんを見つけていたのでございます。その良美ちゃんとの縁談を早々に進めるということに――」


 黒服「何しろ息子勝男は困ったことに――」


 藤沢「サイコパス?」


 黒服「それもありますが、性的マイノリティ――、いや、令和のこの時代にそんなことを言ってはいけないのですけど……」


 青服「まあ、勝男は列記とした男性なのですが、女装の趣味が――」


 黒服「本人はもう女性として生きたい、とまで言っていたとかも聞いているのですが、とにかく、世間体もありますし、何しろ、会長が創業したグループ会社の跡取りになるわけでして」


 青服「そういう、御子息勝男の異常な――いや、そんなことは言ってはいけませんが、サイコパス気質もありますし、御子息のことは諦めて娘の良美の子供を――とも考えていたんですが、そっちもうまくいかず……」


 黒服「先ほど種無しと……」


 青服「なので、会長は御子息の勝男にこう言ったのです。女装しても構わないが、結婚だけはしてくれと、そして子供だけは作ってくれと。それだけしてくれれば、あとはお前の自由に生きてよい、と」


 黒服「子供さえ――跡取りだけ作ってくれれば、そのあと手術して本当の女性になっても構わない、と」


 青服「御子息、勝男は自分の思い通りにならないと癇癪を起す子供でした。それで学校もほとんど行っておらず……。とにかく、癇癪を起してしまうと例の――」


 黒服「サイコパス気質がよりハッキリと現れてしまう……。不登校なのが幸いして子供の時に表立った問題を起こしてはおりませんが、もし普通に登校していたら……」


 青服「本当にゾッとします。今回も――といってももう二十年以上前の話ですが――あのような惨劇に……」


 尾崎凌駕「なるほどよくわかりました。まあ、サイコパスの話はこの辺で――。とにかく会長は息子勝男の妻として良美ちゃんを全国から探してきた、と――。女装癖があり、将来は性転換するかもしれない息子だが、それでも結婚して子供を産んでくれる女性を見つけてきた」


 藤沢「灯台下暗し、それが鹿野信吾、つまり尾崎諒馬の幼馴染だった、と」


 黒服「さあ、そこまでは存じ上げておりません。かなり早い時期から良美ちゃんと会長は連絡とっていたようですが。とにかく、勝男の嫁となった良美ちゃんは我々にとっては謎が多くて、会長がどういうツテを使って、また、どういう条件で候補を絞り込んだのかは知らないのです」


 青服「ただ名前は良美でなければならなかったようです」


 黒服「はい、御子息勝男さんの嫁は会長にとって義理の娘になるわけですが、実の娘――溺愛していた良美さんが家を出ていった後、その代わりに溺愛するためには名前は良美でないと……」


 藤沢「なるほど、名前が良美で容姿も実の娘に似ている――そういう女性を何とか見つけ出してきた」


 黒服「さあ、似ている似ていないの判断は個人の主観もありますので――」


 青服「実は、会長の亡くなった奥さんの前に会長には別の女性がおりまして、その人の名前が良美だったと聞いておりまして」


 黒服「会長の初恋の人だということです。その人の名前が良美で、どちらかといえば、その初恋の相手によく似ていると聞いています、見つけ出した良美ちゃんは」


 尾崎凌駕「その良美ちゃん――二十年前に犠牲になった勝男の妻の良美ちゃんについて他に何かわかっていることは?」


 青服「いいえ、それが何も……」


 黒服「実は孤児だった可能性も……。両親についての情報が一切なく……」


 青服「容姿が似ているということは、会長の初恋の女性と何か繋がりがあるのかもしれませんが、そこは本当に何も――」


 黒服「神の視点といいながら面目ないですが……」


 尾崎凌駕「いや、ありがとうございます。興味深い話でした。謎の良美ちゃんについては鹿野信吾、尾崎諒馬の方が知っているんじゃないか?」


 しかし鹿野信吾=尾崎諒馬は黙っていた。


 藤沢「幼馴染だったんでしょ?」


 信吾(諒馬)「そのはずですが……、どうもうまく思い出せない。困ったな」


 尾崎凌駕「やはり記憶の混濁がまだ……。随分、流暢に文章を綴っているから忘れていたが、まあ傷は深いか……。思い出せそうか?」


 信吾(諒馬)「わからない……。でもそれがミステリーに関係あるのか……」


 藤沢「そうですね。話を戻して……、えーと……」


 尾崎凌駕「佐藤良美――つまりは会長の実の娘さんが、自宅で殺された話について――最初、彼女はカメラに映っていない、つまり別荘には来ていないと」


 黒服「左様です」


 青服「佐藤良美さんが自宅で殺されたことが我々が招集されたきっかけでして―」


 尾崎凌駕「招集? きっかけ?」


 黒服「はい、前のお茶会で申し上げました」


 青服「あくまでカメラを設置したのは『針金の蝶々』の執筆支援ですが、リアルタイムの監視員を送り込んだのには理由があります。確かそう喋ったはずです。その時は、いえ、まだ言える段階ではない……そう申し上げたのですが」


 藤沢「今なら言えると?」


 黒服「はい、小説は読んでいませんが、指示はありましたので……」


 青服「パーティの始まる少し前、会長の元に連絡がありました。佐藤良美が自宅で死んでいる、と」


 尾崎凌駕「連絡? 誰から?」


 青服「御子息の勝男から」


 藤沢「死んでるというのは、殺されてると?」


 黒服「わかりません。ただ、会長が我々に言ったのは『娘の自宅でサイコパスの息子がついに……』と。顔面蒼白でしたから――」


 青服「勝男が殺した? それはわかりません。会長からはただ『ついに――』それだけ……。しかし、それで我々が招集されました。私はすぐにサングラスとマスクで変装して別荘に向かいました」


 黒服「私は何かあった時のリザーブとして麓のホテルに……」


 藤沢「現場の自宅の確認は? 警察には?」


 青服「首猛夫が向かったと聞いています。警察に連絡したかは彼に訊かないと……」


 黒服「あとで首猛夫から、確かに佐藤良美と思われる女性の遺体があったと、そう聞いています。勿論、すべて会長には報告されています」


 藤沢「それで、警察には?」


 黒服も青服も答えない。


 藤沢「そうか……県警のトップと近藤グループのトップ、つまり会長は繋がりがある」


 青服「ええ、常々、会長は御子息勝男のサイコパス気質について県警上層部には相談しておりました。しかし、事件が起こる前には何もできない――そう言われておりまして」


 黒服「更に言えば、起きてしまっても何もできない――その辺のことは我々よりも首猛夫の方が詳しいかと」


 藤沢「その首猛夫は――」


 青服「さあ、その後どうなったかは……」


 黒服「事件後退職したのは確かですが……。彼は我々二人とも彼の素顔すら知らないのです。会ったことはありますが、常に変装してましたので」


 尾崎凌駕「わかりました。どうもありがとう。いつか首猛夫に詳しく聞ければいいですね。でも、恐らく、勝男は姉の首を撥ねたんでしょうね。佐藤稔の自宅で――」


 黒服も青服も何も答えない。


 藤沢「じゃあ、次は……」


 藤沢は次の話題を探す。


 青服「次の話題はこちらで選んでよろしいでしょうか?」


 尾崎凌駕「構いません、何でしょう?」


 黒服「前回のお茶会で少し、中途半端になったところがちょっと……」


 青服「会長以外に一人映像を全部見ているものが……」


 尾崎凌駕「確か、首猛夫――殺し屋の……」


 青服「はい、彼が離れの中の映像で見た内容をここで――」


 尾崎凌駕「詳しく、お願いします」


 青服「詳しくと言っても非常に簡単なんですが……」


 黒服「ある人物が首のない遺体の胸に牛刀を突き刺すの見た――と」


 尾崎凌駕「殺人のまさにその瞬間を見た、と?」


 青服「いえ、首はもうなかったので既に殺されている遺体に牛刀を突き刺したんですが……」


 黒服「それで、血が噴き出してその人物に血がかかった、と」


 信吾(諒馬)「たぶん、それは僕かと――」


 藤沢「ああ、そういえば小説に――確か第二部の……」


 信吾(諒馬)「五章です。ちょっと読み上げます。ちょっと待って――。あった、ここだ。鹿野は血の付いた牛刀を右手に持ち、狂ったようにネグリジェの胸の辺りに突き立てていた。血がほとばしり、鹿野は返り血を浴びた。牛刀はバスタブ内に落ちていたやつだ。多分、凶器に間違いなかった。犯人もそれを使ったのだろう。これは――」


 藤沢「バスルームの遺体は人体模型だったんでしょう? それを確かめるために牛刀を突き立てた」


 信吾(諒馬)「そうです。手術痕がどうした、というのは水沼の反応が見たかっただけです」


 水沼は何も答えない。


 信吾(諒馬)「五章の後の方にこうも書いてる。気を失う前に鹿野信吾は思い出していた。それはカメラには絶対に映らぬもの――彼の手が感じたぬくもりだった。ベッドの死体はまだ暖かく、バスルームのそいつは冷たかった」


 藤沢「つまり、触った温度で人体模型だと気づいた、と」


 信吾(諒馬)「そうです。それで腹が立って、模型をズタズタにしてやろうと思って……。まさか胸にあんな仕掛けがあるなんて知らなかったから……。随分返り血を浴びて……」


 青服「なんだ、そうだったんですね。我々は小説を読んでないので、てっきり犯人が映った重要なシーンかと――」


 黒服「いや、それでも、もう一つ重要な情報が……」


 青服「あ、そうですね。確かに結構重要な……」


 藤沢「何です? その重要な情報というのは?」


 黒服「離れの方はわかりませんが、二階の殺人現場――会長の御子息勝男がその妻良美ちゃんを殺した映像は青服が見ていて、私も聞いていますが――」


 青服「はい、その時に佐藤稔が殺人現場を見ていたと――」


 藤沢「それは前に聞きましたよね。ただ、その佐藤稔が、鹿野信吾か、水沼かはわからない」


 黒服「はい、ですが、首猛夫は離れの映像も二階の映像も両方とも見ておりまして――」


 青服「彼もそれが鹿野信吾か、水沼かはわからないと思いますが、ただ、二階で殺人現場を見ていた男と離れで首のない遺体――ああ、人体模型でしたね――それに牛刀を突き刺した男は同じようだった、と。首猛夫は事件後そう申しておりました」


 尾崎凌駕「ふーむ」


 水沼「やはり俺じゃないぞ、その佐藤稔は」


 鹿野信吾は何も言わない。


 藤沢「鹿野さん、いや尾崎諒馬さん、どうなんです?」


 信吾(諒馬)「わからない……。離れの方は記憶があるが、二階の方は……。僕が良美ちゃんの殺害現場を呆然と見ていた? わからない」


 水沼「俺じゃない! それは断言できる」


 しばらく――いや、かなりの時間沈黙が続いた。


 尾崎凌駕「ふーむ、今日はこれでお開きにしましょうか?」


 その一言で、水沼と青服、黒服のウィンドウが消えた。

 ただ、残りの三人のウィンドウは残ったままだった。

 藤沢は前から気になっていたことを鹿野信吾=尾崎諒馬にぶつけてみることにした。



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