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殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
第四部 以下、事件の真相に触れる箇所が……
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鹿野信吾の手記 3

 

    鹿野信吾の手記 3

    

 水沼よ。外堀がだんだん埋まってくるようだな。ここまで事実はもうハッキリしてるじゃないか!

 確かに良美――近藤の妻の方だが――ややこしいな、こっちも今後「良美ちゃん」とちゃん付けにするよ――良美ちゃんを殺して首を撥ねたのは近藤社長なんだろうが、水沼お前はそれを二階で見てたんだろう? それで、アリバイ工作のつもりか知らないが、近藤社長は良美ちゃんに化けて離れに引き籠る。それをお前がサポートしてたのは自分で白状したじゃないか。

 水沼、お前がどうやったのか知らないが、離れは密室だった。まあ、それは置いておく。お前がどうやって近藤を殺せたのか? それもわからないが、それも置いておく。

 ただ、お前は良美――お前の奥さん――かつてこっちも付き合っていた彼女を殺したんだな。奥さんを殺したあとにのうのうと別荘にやってきていた研究員、佐藤稔――それがお前だった、と。

 奥さんを殺したあと、この別荘で何をしたかったのかはわからんが、顔を見られたくなかったんだな。サングラスとマスクで変装して昼間に別荘にやってきた。こっちもカルディナでやってきていたから、そこで鉢合わせだ。

 死刑囚の手記に、変装したお前と俺、鹿野信吾=尾崎諒馬が出会うシーンがあったよな。俺は本当はお前の変装を見抜いていた。だからとぼけて「坂東善です」そうお前のペンネームを答えた。

 

 その時の私はサングラスに大きめのマスクをしていました。正直顔を見られたくなかった。ということは既にこの時から事件を起こすつもりでいたのか? いや、どうも頭が混乱している。いや、わからないと書くべきか? それはここではまだ言えません。

 

 お前はそう書いている。そうだよな。別荘に来る前に自宅で奥さんを殺してるんだよな。変装したくなる気持ちはわかるし、理由を言えない気持ちもわかるよ。

 もう、すべてわかったよ。

 もうすべて……

 しかし……

 

 本当にあの死刑囚の手記はお前が書いたのか?

 お前は虚無への供物を読んでいない?

 

 アンチ・ミステリーというのもよくわからない?

 まして「世界の悪意のすべて」云々もピンとこない?


 お前はそう書いた。

 確かにそうだろうな。

 

「世界の【悪意】のすべてを一身に引き受けたような、そんな探偵小説を書くんだ」


 その言葉の重い意味をお前なんかにわかるわけがない。

 

 わかるのは……

 僕……

 鹿野信吾――尾崎諒馬と……

 あの人……

 

 お前にあの手記が――あの死刑囚の手記が書けるはずがない!

 すると誰が書いたんだ?

 

 何だ?

 どういうことだ?

 

 このままの流れでいくと、水沼の告白で事件が終わってしまう。

 それではミステリーではなくなる……

 本格ではないかもしれないが……

 これはやはりミステリーなんだ……

 いや、アンチ・ミステリーか?

 

 いや、それでいいのかもしれないが……

 

 せめて、あの密室の謎だけは……

 

 水沼よ お前にとってもこれはミステリーなんだろ?

 


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