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殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
第四部 以下、事件の真相に触れる箇所が……
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鹿野信吾の手記 2 に代えて、ある姉妹の会話


   鹿野信吾の手記 2 に代えて、ある姉妹の会話

   

 ※本来なら鹿野信吾が事件についての手記を書くはずであるが、唐突に彼は以下の文章を書いた。

 

 僕は小説家なんです。実際にその現実を知らなくても小説としてある姉妹の会話のパートを書くことはできる。

 

 

「姉さん」

 そう呼ばれた女性が呼びかけに答える。

「おお何でしょう? 妹さん」

 そうしてすぐにゲラゲラと笑い始める。

「姉さんって呼ばれたからって、妹さんって呼び返すのって可笑しいよね」

「名前でいいんじゃない?」

「じゃあ、あなたも名前で呼んでよ、姉さんじゃなくて」

「じゃあ、良美さん」

「何ですか、良美ちゃん」

 そう言い合ってまたゲラゲラ笑い始める。

「まったく、名前が一緒って困ったもんよね」姉さんと呼ばれた良美の方がそういう。

 困った――と言いながら良美姉さんは嬉しそうだった。

「まだ、正式に妹じゃないけど、すぐに妹になるのね」

「そうなるのかな?」妹さんと呼ばれた良美ちゃんは少し困った顔をする。

「弟の勝男が良美という女性と結婚すると私に妹ができる――義理だけどね。で、あなたがその良美ちゃん――私の妹になるわけだ。私、ずっと妹が欲しかったんだ。可愛い妹がね。弟じゃなくてね。勝男ちゃん――って呼んでもちっとも可愛くないじゃない。良美ちゃん――って可愛いじゃない。まあ、私も良美だけどね」

「私の結婚はどうでもいいから、姉さんの結婚について教えて」良美ちゃんがそう訊く。

「え、稔との結婚?」

「姉さんは稔さんが好きだったの?」

「稔さん? どっちの?」姉の良美が笑って質問に質問で返す。

「同姓同名ってややこしいよね。ペンネームにしましょうか? どちらも作家だし」

「そうミステリー作家」良美姉さんはちょっと嫌な顔する。「私、ミステリーって大嫌いなんだ。人殺しの話なんて何が楽しいのか……」

「でも尾崎諒馬は殺人事件を書いていない」

「そうね」

「坂東善は書いたんでしょ? 完全な密室って」

「そうらしいね」

「じゃあ、なぜ坂東善と結婚したの? 尾崎諒馬じゃなくて」

「そりゃ……」良美姉さんは困った顔をする。「尾崎諒馬が作家でどの程度稼いだか? 知ってる?」

「知らないけど、坂東善よりは稼いでるでしょ?」

「そりゃそうだけど……」

「じゃあ、なぜ?」

「坂東善は私との結婚のために『ミステリー作家になる』という夢を捨ててくれたの。あなたも大人になればわかるわ。いつまでも夢を追うような男に結婚する価値はない」

「でも、尾崎諒馬は姉さんのために殺人事件のない本格ミステリーを書いたんでしょ? 三冊も――。殺人事件の嫌いな姉さんのことを思って!」

「そういうの嫌なのよ!」良美姉さんは不機嫌になった。「ミステリーが好きなら殺人事件でも何でも書けばいいじゃない。私のことなんかほっといて。例えば、良美ちゃんを殺して首を撥ねて、密室に放り込んで――」

 良美ちゃんが黙ったので良美姉さんは素直に謝った。

「ごめん。尾崎諒馬はあなたの初恋の人だったんだよね」

 良美ちゃんは黙って頷く。

「でも、あなたは子供なのよ。そんな幼いころの初恋なんて何の価値もないわ。それに――」

「それに何?」

「あなたもその初恋を捨てて別のパートナーを選んでるのよ? 違う」

「まだ、わからないわ?」

「でも、そうしないと、私の『妹』にはならない。〇〇グループ会長のパパ、睦美は――」

「そうね。会長さんは全国必死で良美を捜して――勿論条件は名前だけではないけど」

「そう、よく見つけてきたわよね。その良美と息子――つまり私の弟勝男と結婚させる――そしてあなたは私の妹となる」

「そうね。私は姉さんの妹になりたい」

「だったら、結婚するしかないんじゃない? そして、勝男と良美の間には愛の結晶が……」

「気持ち悪い」妹の良美は心底嫌な顔をする。

「でも、それがパパのすべてだよ。跡取り――つまり〇〇グループのすべては生まれる孫に――」

「姉さんが子供を産めばいい!」

「駄目よ、私は家を出たの。もうパパとは関係ないの」

「財産要らないの?」

「要らないわよ。私はただ自由が欲しい」

「私も財産要らない」

「まあ、あなたの目当ては財産ではないわね。とにかく私の可愛い妹になって頂戴」

「勿論、それは嬉しいけど……」

「けど、何」

「姉さんが少し憎い」

「なぜ?」

「私の初恋の人、尾崎諒馬を捨てたから」

「変なの。とにかく私はミステリーが嫌いなの」

「私は好きだよ。そこは姉さんとは違う」

「え? 人殺しの話だよ?」

「いいんじゃない?」

「ああ、そうか」

「何がそうかなの」

「いや、別に……」

「ミステリーが好きって人たくさんいるよ。別に普通だよ。人殺しだってほんと何ともないよ」

「まあ、そうかもね。私が変なんだよね……。でもほんとミステリーって嫌いなんだよね」


 これが本当にあった会話なのか、それは定かではないが、やはり書いておこう……


 ※〇〇にはある苗字が入るが伏せておく。

  それが近藤会長との約束であるので。 


 


  藤沢による挿入

  

 ここで読者の混乱を避けるために伏せていた佐藤稔の妻の名前を書いておく。

 

   佐藤良美(さとうよしみ)


 尾崎凌駕との話で本名は伏せる方がよい、とのことだったが、現時点では書かないと却って読者は混乱するだろうから。



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