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殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
第四部 以下、事件の真相に触れる箇所が……
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〇〇〇お茶会 3 続き


   〇〇〇お茶会 3 続き

   

  

 青服「事件の真相――それはやはり母屋の二階の寝室で、会長の御子息が配偶者を殺して、首を撥ねて……。それを私はリアルタイムで見た、と」


 黒服「まったくおぞましいですが……。勝男が妻、良美を惨殺した。それは映像に残っていました。会社と家の名誉を守るために会長の指示でその映像は破棄されましたが」


 藤沢「殺人の正にその現場映像を見たと? 心臓をえぐるのは?」


 青服「はい、勝男は妻良美に瀉血処置を施しておりましたが、血液を――その……。通常は400ccほどでやめるはずなんですが、そのままずっと……。良美さんには何やら薬でも使ったのか? 特に抵抗する風でもなく、眠るように……」


 藤沢「そのまま殺した、と? その後に――」


 青服「おそらく、出血多量で亡くなったのかもしれませんが、勝男の手には包丁が……。それで胸を――」


 藤沢「ふうむ、惨いな。その後に……」


 青服「ええ、胸を深く(えぐ)ったあと、良美さんをうつ伏せにして――、その首を……、後ろから……」


 しばらく沈黙が続く……。

 その沈黙を破って……


 黒服「青服はそのおぞましい映像ですっかり震え上がってしまったのですが、その時、ちょっと不可解なことがあったようで……」


 青服「はい、その殺人と斬首の現場の映像に映っている人物が一人おりまして……」


 藤沢「え? 他に誰かいた?」


 青服「ええ、その人物はその顛末――殺人と斬首の様子を呆然と眺めておりました」


 尾崎凌駕「それは――その人物は誰です?」


 黒服「佐藤」

 青服「稔」


 ――え、どっちの?


 尾崎凌駕「鹿野信吾と水沼、どっちでしょうか?」


 尾崎凌駕が当然の質問をする。


 青服「それがよくわからないのです。我々はエンジニアでただ、映像を監視してただけで……」


 黒服「小説の中では佐藤稔が二人おられるようですが――坂東善と尾崎諒馬、つまり水沼と鹿野信吾がいるとは聞いていますが、現実しか知らない我々からするとその区別すらついていないのです」


 青服「ただ、佐藤稔なる人物が泊っている、という認識がその時はあり、ああ、佐藤稔が映像に映っているな、という記憶が……。そう解釈ください」


 黒服「それが、小説内での鹿野信吾なのか、水沼なのか、は我々にも何とも――」


 尾崎凌駕「鹿野信吾つまり尾崎諒馬の方は当時に近い写真、今、プロフィール画像に映っていますよ。それを見れば……」


 青服「勿論、当時なら答えられると思いますが、何しろもう二十年以上経過してますし、どういうお顔の方だったは今はわからないのです。ただ当時映像を見た時、佐藤稔だと……」


 尾崎凌駕「鹿野信吾つまり尾崎諒馬は別荘でバーベキューをつつきながらサングラスとマスクの研究員と話をしてますが――」


 青服「我々は本社グループ会長室に籍を置くものでして、その研究員は子会社メディボーグの研究員か、水沼さんとやらの変装ではないでしょうか? 我々ではないです」


 藤沢は信吾(諒馬)と水沼のウィンドウをじっと見て耳を澄ませていたが、何の反応もない。


 尾崎凌駕「信吾、それに水沼さん、どうなんです?」


 水沼「違う! それは俺ではない!」


 信吾(諒馬)「わからない……。僕が殺人現場にいた? 近藤が良美を殺して首を撥ねる現場に? いや、そんな……」


 尾崎凌駕「青服さん、黒服さん、お二人が小説を読んだらわかりますかね? その殺人現場にいたもう一人が鹿野信吾、水沼のどっちだったか?」


 青服「いいえ、わからないと思います。小説には言葉だけ、文章だけ……ですので……」


 信吾(諒馬)「その佐藤稔は……本当に見ていただけ……つまり……」


 青服「はい、良美さんを殺して首を撥ねたのは勝男で間違いございません。佐藤稔は呆然と見ていただけでございます」


 尾崎凌駕「では、そのあとの階段のシーンはどうです? あの『いちりとせ』の――。あのシーンで鹿野信吾は近藤のバケツを引っぺがしています。その男と同じなら鹿野信吾ということになるのですが、そのシーンもカメラに収められているのでは?」


 黒服「そのシーンは私がコピーした部分にあるはずですが、カメラの角度とかで階段シーンは踊り場付近、つまり上の方しか映っていなかったので。会長の御子息がウェディングドレス姿で現れ、手にしたバケツを頭に被ってゆっくり階段を降りてくるのですが、その時階下にいたとされる方が階段を上がってくるようなことはないようでして……」


 尾崎凌駕「つまり、いちりとせは実施されていない?」


 黒服「おそらく――。音声は残っていないので……」


 水沼「いや、いちりとせの声はしたぞ」


 黒服「そうかもしれません。ただ……」


 水沼「鹿野信吾は近藤社長のバケツを引っぺがしたりはしてない! ただ怯えて突っ立っていただけ、そうだろう?」


 黒服「はい。少なくとも階段の上の方しか映っていないせいかもしれませんが、私が知る限り勝男の頭のバケツはずっとそのままでした」


 信吾(諒馬)「違う! 僕はバケツに手を掛けて、しっかりと近藤の顔を見た。僕は意気地なしじゃない。僕は……」


 黒服「とにかく、私が見る限り、バケツが引きはがされるシーンは映っていません。確かに階下に誰かいたようですが、それが誰なのかはわかりません、というか記憶にない」


 尾崎凌駕「ふーむ。近藤の頭のバケツは引きはがされなかった?」


 信吾(諒馬)「いや、そんなはずは……。僕は確かに……」


 黒服「すみません。私の仕事はリアルタイムでカメラの映像を監視することだったのですが、やはり恐ろしくて震えてチラ見程度しか……。すみません、やはり惨劇のあとの監視なので本当に怖くて……臆病者で面目ないのですが」


 青服「小説の方は、現在、お二人の手記が交互に書かれているとお聞きしておりますので、今の我々の話も踏まえて書いてもらえれば、そう思いましてこのお茶会に参加しました。神の視点、とはいいながら、とても全知全能ではないのですけど……。この小説――ミステリーの進展のお役に立てれば……。実際、そう要請されたわけですので」


 尾崎凌駕「他には? 映像を見て他には何かありますか? 離れの中は映像は?」


 黒服「それも私が見ていないといけないのですが……先ほどもいいましたとおり、リアルタイムでは恐ろしくてほとんど見てはいないのです。映像データはコピーして会長が見ているので……」


 尾崎凌駕「しかし、もう会長は亡くなられた……」


 青服「ええ、ただ、もう一人映像を全部見ているものはおりまして……」


 黒服「我々二人はただのエンジニアでして、怖くて映像をちゃんと見てはいないのです。神の視点とか、本当はおこがましいのです」


 尾崎凌駕「そのもう一人とコンタクトとれますか?」


 青服「その人は既に近藤グループを退職しております」


 黒服「しかし、いずれ姿を現す、とは思います。顔見せは難しいので、サングラスとマスクはしているかもしれませんが」


 藤沢「お二人がエンジニアで黒服と青服――。するとそのもう一人は?」


 黒服「もう一人は実行部隊、つまり殺し屋」


 青服「コードネームは首猛夫(くびたけお)です」


 尾崎凌駕「ほう! 殺し屋……。その首猛夫も別荘に来た、と」


 黒服「はい」


 尾崎凌駕「なるほど、他には何かありますか?」


 黒服「いえ、とにかく、本日言えることはこの程度です。力不足の神ですみませんが……」


 尾崎凌駕「最後に一つだけ。リアルタイムの監視員を送り込んだ理由について――。そう最初に――本当に別荘でも何か惨劇が起こることもあるかもしれない――いや、これにはきっかけが、とか、そうおっしゃった。黒服さんか青服さん、どちらだったかは憶えていませんが。それについて――つまりどういうきっかけだったのか? は、やはり話せないのですか? 先ほどはまだ話せる段階ではない、とかおっしゃっていましたが」


 青服「ええ、我々の発言が取り込まれる小説はミステリーでしょうから」


 尾崎凌駕「なるほど……『以下、事件の真相に触れる』とはいえ、流石に話せないことはあると。しかし、お二人はこのWeb小説『殺人事件ライラック~』は読んでないのでしょう? 小説の進行はわかってないはずでは?」


 黒服「ええ、ただある方にまだ話すな、そう指示をいただきましたので……」


 青服「ええ、その方の指示で……」


 尾崎凌駕「その指示者が誰か? はまだ話せない?」


 青服&黒服「ええ」


 尾崎凌駕「なるほど、わかりました。今日はこれでお開きにしましょう」


 こうして三回目の奇妙な〇〇〇お茶会は閉会した。

 


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