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〇〇〇お茶会 3


   〇〇〇お茶会 3

  

 水沼の手記が書かれたあと、藤沢がちゃちゃを入れてしまったのか? 順番で言うと次は鹿野信吾の手記になりそうなのだが、いつまで経ってもそれは書かれず、Web小説「殺人事件ライラック~」の連載は更新されなかった。

 しかし、尾崎凌駕からメールが来て、三回目の〇〇〇お茶会が開催され、藤沢は参加した。メンバーは……


 藤沢

 尾崎凌駕

 信吾(諒馬)

 水沼

 

 それに……

 

 近藤グループ名誉会長室

 

 ウィンドウには二人の人物――サングラスとマスクで変装しており顔で区別がつかない――服が青いのと黒いのと……

 尾崎凌駕「近藤名誉会長は自殺された……。でも会長室はまだあってそこのお二人、ということでしょうか?」

 と、近藤グループ名誉会長室のウィンドウが消え、新たに二つのウィンドウが開く。ハンドル名は……

 

 「黒服」と「青服」

 

 尾崎凌駕「ふーむ。埴谷雄高の死霊ですか……」


 少し呆れたといった呟き……


 信吾(諒馬)「亡くなった会長さんの指示ですか? 会長が亡くなったら会長室のお二人にも引き続き、お茶会に参加するように、と」


 黒服「左様でございます」


 信吾(諒馬)「このWeb小説『殺人事件ライラック~』の作者はあくまで僕なんですが、実際の現実の事件にリンクしているため、本格ミステリーにしようとすれば、正しい情報を読者に与えるという点で、僕だけでは書けない――それは理解いただけると思うし、実際に尾崎凌駕、藤沢さん、水沼、それに亡くなりましたが近藤会長に協力いただいてここまでやってきました。ですが、近藤会長――カメラで事件を見ていた――謂わば神の視点を持つ近藤会長が自らの死を選んだことで先に進むのが困難になっている。なので会長室のお二人を――。会長さんはたぶんそう……」


 尾崎凌駕「ふーむ、神の視点……」


 水沼「ちょっと待ってくれ! 信吾、俺の手記を無視する気か! お前の期待通りに、本当に臍の『左』に手術痕があったのか? そう質問したんだぞ! それに答えるんじゃないのか?」

 信吾(諒馬)「まあ、それは待ってくれ! まだ準備が足りない。仮にそれに答えても、読者は余計混乱するだけです」


 水沼「ん? まあ、そうかもしれない……しかし……」


 尾崎凌駕「じゃあ、会長室のお二人続けてください」


 黒服「確かに私達はあの日、あの別荘で設置されていたカメラの映像をリアルタイムで見ておりました。そういう意味では神の視点に近い視点であの事件を見てはおります。俯瞰的に――」


 尾崎凌駕「神の視点に『()()』視点とは? 神の視点ではなくて」


 黒服「カメラの映像は見てはおりますが、神ではございませんので、見えた人物の心の中まではわからない、そういう意味です。AI解析で口元を読むくらいはできなくはないですが……」


 藤沢「なるほど。ではお二人は完全ではないが、ここにいる誰よりも事件を正しく書き下せる、と」


 青服「いえ、我々が見ておりましたのはあの別荘に設置されたカメラで見える範囲だけです。それ以外は――」


 藤沢「ああ、カメラ設置は限定的でしたね。離れのバスルームと二階のバスルームにはない」


 青服「はい、二階のウォーキングクローゼットの中もございません。あとは外に一台――離れの玄関前に――」


 黒服「カメラについてはそれくらいで――。とにかく我々は会長に最も近いところで働いておりましたので、会長についてもかなりのことを知っております。先にこれはフィクションとしておりますので、それについても喋ることは可能です。すべてではないですが……」


 尾崎凌駕「フィクション――、つまりお二人はこのWeb小説『殺人事件ライラック~』を読んではいる?」


 黒服「いいえ」


 青服「私も読んではおりません。ですから会長も含め、我々の証言は現実の事件について話しております。ただ、その現実はこの小説に取り込まれるわけで――。そういう意味でフィクションと……」


 黒服「先日の会長の御発言もそのような意味かと……」


 青服「フィクションでなければ我々のどちらかは介錯しておりますので、罪に問われる可能性が……」


 藤沢「会長は本当に割腹自殺したんでしょうか? 介錯したのはお二人のどちらかはわかりませんが……」


 水沼「おいおい、藤沢さんとやらと尾崎凌駕は実際に映像で見たんじゃないのか?」


 尾崎凌駕「まあ、その話は――、とにかく青服、黒服、お二人の話を黙って聞きましょう」


 青服「我々が『黒服』『青服』と名乗っていることからもお分かりかと思いますが、埴谷雄高の――」


 黒服「割腹自殺で三島由紀夫を思い出すかもしれませんが、あの三島が起こした事件の前に、三島由紀夫と埴谷雄高のある対談がございまして……」


 青服「三島が、とある二流の――失礼ですがこれは三島が言っていることですが――演技力が二流のある歌舞伎役者が入水自殺することで一流になった、と、そう言っておりまして」


 黒服「つまり芸術はすべて二流で最後自ら死ぬような覚悟――実際に自殺することで一流に達する――」


 青服「武士は命を懸けているから一流で、役者はどんなに優れた演技をしても二流だけども、その二流という悲哀を知って最後自殺すれば一流となる――これは私のかみ砕いた表現ですが――」


 黒服「そういう考えの三島はあの事件を……」


 信吾(諒馬)「その対談は知っています。その三島の考えに埴谷さんは異を唱える」


 青服「左様でございます。暗示者は死ぬ必要はない――二十一世紀の芸実家は死ぬんじゃなくて、死を示せばいい。そうおっしゃっています」


 黒服「これに――この埴谷さんの考えに吉本隆明は賛同していて、三島由紀夫には<死>と<死の伝達>の区別がついていない、<芸術>と<芸術の伝達>の区別がついていない、と――」


 尾崎凌駕「なるほど……」


 藤沢「うーん、なんとなく、そうかな、とは思いますが」


 尾崎凌駕「会長の切腹についてはそこまでにしましょう。今はあの別荘の事件――現実の事件について――。まずはカメラについて――」


 青服「確かにあの別荘にはカメラが複数設置されていました。あの当時でも撮影データはデジタルで、別荘内にサーバーがございました。一階の三つの客室の一つに籠って、私はサングラスとマスクで変装してずっとカメラの映像を監視しておりました」


 藤沢「変装男はあなただったと――。すると、水沼は?」


 青服「小説に書かれているのなら、その方もサングラスとマスクで変装した一人だと思いますが、彼はちょっとしたお遊びでやっただけでしょう」


 水沼「ああ、サングラスとマスクは近藤社長からもらってたんで、ちょっと信吾にちょっかいを掛ける時の変装に使った。それだけのことだ」


 尾崎凌駕「しかし、なぜカメラを設置したのですか?」


 黒服「会長は心配してたのです。尾崎諒馬――ここにおられる信吾さんの次回作『針金の蝶々』の執筆支援、内緒のプレゼント、サプライズを映像に収める、ということではあったのですが、御子息のサイコパス気質――幼いころからかなりオカシカッタと聞いておりますが――わざわざ死体の人体模型や小道具として本物の自分の血液を用意する異常性から、本当に別荘で何か惨劇が起こることもあるかもしれない――いや、これにはきっかけが……」


 青服「あくまでカメラを設置したのは『針金の蝶々』の執筆支援ですが、リアルタイムの監視員を送り込んだのには理由があります」


 藤沢「それはどういう?」


 青服「いえ、まだ言える段階ではないんじゃないかと……」


 藤沢「そうですか……」


 青服「説明を続けます。とにかく私はずっと徹夜でカメラの映像を監視していたのでございます。そして最初の殺人が起きた。それで……」


 藤沢「その監視映像は記録してたんですよね?」


 青服「ええ、当時はネット上にサーバーをおいて遠隔で映像監視することはできませんでしたので画像データはローカルの――別荘の一室のサーバー上のハードディスクに記録されておりました。それで何か起きたらすぐ会長に電話をして指示を仰ぐと――」


 黒服「当然、会長も映像を見たいとのことで、データを届けたいのですが非常に大きなデータですので、携帯電話で送ることもできず……。現在ならスマホで簡単ですが……。当時はハードディスクからリムーバブルなメディア、ZIPだったか、JAZだったか? 果たしてMOだったか? とにかくそういうメディアにコピーしてそれを持ってバイクで会長の元に持参するという……」


 青服「小説では会長とその部下がリアルタイムで見ているようになっていると聞いていますが、リアルタイムで見たのは私――青服一人でございまして、母屋の二階で最初の殺人が起きましたので慌てて、会長に連絡しその部分の映像データを会長にお見せするためコピーして……」


 尾崎凌駕「ちょっと待って。先ほどお二人は小説は読んでいない、そうおっしゃいました。今も、小説ではこうなっている、と聞いています、そうおっしゃいました。誰から聞いているのですか?」


 青服「それは今は申せません。とにかくまだ話す時期ではないとそちらから指示されています」


 尾崎凌駕「その人はここにいますか?」


 青服「さあ、どうでしょう」


 尾崎凌駕「わかりました。続けてください」


 黒服「では、続きを……。その連絡――母屋の二階で殺人があったという連絡は私にもありましたので入れ替わりに私が……。私は万が一のリザーブでして……別荘の客室に空きがなかったものですから、麓のホテルにおりまして……。彼――青服が別荘を出てから三十分ほどで到着したかと思いますが……交代でリアルタイムで監視を……」


 藤沢「映像データは今も残っているのですか?」


 黒服「いえ、会長に見せるためにコピーはとったんですが、会長がご覧になられたあと廃棄されました。なので現在は確認できません。オリジナルのハードディスクはご存じの火災で消失しました。それと……」


 青服「それは私から説明します。これは私のミスなんですが……。まさか監視中に本当に殺人事件が起こるとは思っておらず、気が動転してカメラの録画を誤って止めてしまったのです。それでその後の映像が残っておらず……」


 黒服「私が到着して復旧させましたので、その後の映像は撮れているのですが……三十分ほど空白の時間がございます。しかし、その後の映像はしっかりと……コピーして……」


 尾崎凌駕「なるほど、その映像は残ってはいないが、その内容について、ここで話してはいただける、と」


 黒服&青服「はい」


 藤沢「本格ミステリーとしては奇妙な展開ですが、一応制限はあるものの、神に近い視点を持つものが事件について語る、と」


 黒服「はい、ある程度まで……」


 藤沢「ある程度というのは?」


 青服「やはりフィクションつまりミステリーですので」


 藤沢「なるほど」


 青服「あの……、気を付けてはおりますが、一応、まず、こう宣言させてください」


 藤沢「宣言?」


 青服「はい、というか注意ですが――」


 黒服「以下、()()()()()()()()()()()がございますので、注意してください」


 尾崎凌駕「うーん。まるで本格ミステリーの巻末の解説に書かれるような文言ですねぇ」


 藤沢「しかし、とにかく、お二人の登場で役者がすべて揃った気がしますね。この『夢の国――ワンダーランド』という()()()()()()の住人――つまり生き残った者すべてがこのお茶会に参加しているわけです」

 


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