〇〇〇お茶会 2
〇〇〇お茶会 2
水沼の手記が書かれたあと、藤沢は尾崎凌駕から二回目の〇〇〇お茶会の案内をもらった。尾崎凌駕の説明によると、近藤名誉会長からの要請があったらしい。
要するに会長が何かをしゃべって伝えるようだ。水沼は「喋ってもいいが、俺にも書かせてくれ、次の章を」と直訴したとおり、多少グダグダしてはいるが、一応、手記は書いたわけで――あれで終わってしまうと困るが――、約束として次に近藤会長が何か喋るのは当然の成り行きになる。
果たして約束の日時に指定されたアドレスにアクセスすると既に尾崎凌駕が待っていてくれた。すぐに信吾(諒馬)も、水沼もログインしてきて、最後に近藤名誉会長のウインドウも開いた。
ウインドウに映っているのは前回と同じだった。
近藤名誉会長はソファーに座る能面を付けた年配の男性で、服は医者が着るような白衣だ。そして、画面の端にサングラスとマスクで顔を隠した人物が二人。
信吾(諒馬)は静止画のプロフィール画面で例のインタビュー記事の写真。
水沼のウインドウは相変わらず真っ暗……
尾崎凌駕「近藤会長、要請がありましたので、オンラインにて全員集まりました。何かお話いただけると思うので、我々は黙って聞けばいいですか?」
近藤名誉会長「話す、というより、覚悟をお見せしたい」
尾崎凌駕「覚悟?」
近藤名誉会長「世界の悪意のすべてを私が引き受ける、そういう覚悟」
近藤会長はただしばらくそのままソファーに座っていた。顔には能面を付けているので表情は読み取れない。
能ということになれば、人ならざるものを演じる主役 「シテ」が会長で、小さく映っている二人のサングラスとマスクの従者が「ワキ」ということだろうか? 少しうつむいて陰りのある様子 (「曇ル」というらしい)のシテ――会長。
と、ワキの一人がシテの白衣のボタンを外し、腹部が見えるようにした。露わになった痩せた腹部には包帯が巻かれており、少し血がにじんでいるように見えた。
尾崎凌駕「覚悟? カゲバラ?」
近藤名誉会長「左様。伊集院大門のごとく――。詫び状は追って――」非常に苦しそうな声。
尾崎凌駕「まさか!」
近藤名誉会長「これくらいでは人間死にはしない。漫画の世界と現実は違う。ここからが本当の覚悟!」
サングラスとマスクのワキの一人が日本刀を構えている。そして――
尾崎凌駕「おい! 冗談だろ!」
日本刀が振り下ろされる。会長の首が能面ごと下に落ち、身体が前に倒れる。
カメラが下に振られ、更に少しズームアウトする。映像にはしっかり会長の胴体――前面に斬首された断面が――両脇に赤い鮮血を吹き出す頸動脈と少しどす黒い血をダラダラと滴らせる頸静脈を横に二対従えた、上が尖った三角屋根とその下に丸みを帯びた四角――それが頸椎だろう。屋根と四角の間に神経――頚髄が通っているのだ。そしてその下にぽっかりと開いた食道なのか気管なのか、とにかく孔が縦に二つ見えた。カメラはその断面にズームインして、ウィンドウに大写しに――
近藤名誉会長「会長の指示に従い、僭越ながら介錯つかまつりました。詫び状は後ほど」
いや、斬首された会長は喋れない。喋っているのはワキのサングラスとマスクの人物! 二人のうちどちらかはわからない。
水沼「どうした? 何があった?」
信吾(諒馬)は黙ったままだ。
尾崎凌駕「くそ! 強制終了します。茶番だ!」
それで〇〇〇お茶会は唐突に終了した。藤沢は呆然とそれを見ていた。
――これも私が書くのか? いや、書くべきだな……




