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尾崎諒馬=鹿野信吾から藤沢へのメールを受けて

 

  尾崎諒馬=鹿野信吾から藤沢へのメールを受けて

  

 Web小説「殺人事件ライラック~」の連載ではなく、直接、尾崎諒馬=鹿野信吾から藤沢へメールが来た。

 内容は自分が本当に「尾崎諒馬」だと証明すべく第十八回横溝正史賞の受賞を巡っての話だった。

 授賞式とか、その後のパーティーでの話とか……

 ちなみに出版された「思案せり我が暗号」の巻末に載っている選評以上に詳しい選評の内容を角川は教えてくれたとのことで、そのことも詳しく書いてあった。

 各選考委員の得点は五段階で、

 

 宮部みゆき B

 内田康夫  A

 北村薫   特A

 

 とのことで、ここまでは高評価だが、最後……

 

 その人   Dです。Eでもいいくらいだ。

 

 とぼろくそにけなされたらしい。

 

 あと、応募時のペンネーム「いるまんま」の「る」に「流」という漢字を使ったことで、とある作家と同類だとか思われたらしい。

 藤沢はその「とある作家」の作品を知っていたが、流石にそれは尾崎諒馬が可哀そうな気がした。そもそもその「とある作家」は「小説」を書いていない。

 あと……

 いや、これ以上書くのはやめておこう。

 必要なら本人が書くだろうから……

 

  

 それより密室はどうなったのだろう?

 Web小説「殺人事件ライラック~」はどうなっていくのだろう?


 この章は藤沢が書いた。取り込まれるかはわからんが……

 

 ※藤沢さん、尾崎です。いただいた文章、今回も、ほぼ、そのまま、使わせてもらいます。(ただ一部省略してます)

 また、それを読んだ後の鹿野信吾と私――尾崎凌駕のやり取りを付けておきます。

 

 

 

 尾崎凌駕:なぜ「針金の蝶々」を書くのを辞めたんだい?

 

 鹿野信吾:前に、登場人物を読み上げてもらっただろう?

 探偵とワトスン役以外はすっかり忘れていた。

 つまりは「登場人物に申し訳ない」そういうことだ。

 名前さえ付ければあとはどうでもいい……

 名前は単なる識別記号――

 それがいやだった……

 本当は僕は人間が描きたかった……

 しかし、未熟な僕にはその力がなかった……

 

 尾崎凌駕:つまり、本格ミステリーより純文学ということかい?

 横溝正史より太宰治? あ、武者小路実篤だったか……


 

 鹿野信吾:いや、それでも本格物が書きたいのだ。

 横溝正史賞の受賞パーティで北村さんと少しだけ話をした。

「これから本格物を書いていくのですか?」そう訊かれ、

「はい」と真っ直ぐな気持ちで僕は返事したのだ。

 ただそのあとすぐにこう付け足した。

「ただ、それだけでは駄目だと思っているので……」

 それに北村さんは優しい笑顔で「なるほど」と答えてくれた……

 つまりはそういうことだ。

 僕は受賞パーティで憂鬱だった……

 それを宮部さんはしきりに気遣ってくれた。

「選考会で意見が割れるというのは実はいいことなんですよ」とか……

「自分の好きな風に書けるって、ほんとはうらやましいことなんですよ」とか……

 内田さんは受賞パーティに来ていなかったから話はできていない……

 ただ、あの人が……

 まあ、仕方ない部分もあるが……

 自分が望んだことだ……

 

 尾崎凌駕:あの人……

 その人も北村さんもミステリーにおいては本格原理主義者だったっけ?

 

 鹿野信吾:虚無への供物にこんな話がある

 精神病院の閉鎖病棟――その鉄格子を挟んでどっちが内でどっちが外か?

 北村さんとその人で大きく評価が割れたんだ……

 はて? どっちが内でどっちが外か……

 

 尾崎凌駕:なるほどね

 虚無への供物か……

 つまりはミステリー同好会『威圧』

 これも暗号なんだろう?

 

 鹿野信吾:そう IBMとHAL

 イアツとアンチ

 

 尾崎凌駕:それで

「世界の【悪意】のすべてを一身に引き受けたような、そんな探偵小説を書くんだ」か……

 で、水沼……

 しかし、世界は広い。【悪意】のすべては無理じゃないか?

 世界のすべてというからには舞台を全国に広げて……いや、空間を広げるだけでなく、時間軸も広げて、太古の昔から……

 まさかね。

 

 鹿野信吾:その考えはくだらない。

 逆に世界を狭く――極力狭くするんだ。

 世界には登場人物は二人しかいない。

 それは作者と読者。

 

 尾崎凌駕:うーん、すると【悪意】はどうなる?

 

 鹿野信吾:すべては作者の【悪意】

 それは読者に向けられる。

 

 尾崎凌駕:なるほど!

 確かに虚無への供物……

 アンチ・ミステリー……

 しかし読者は反発するだろう?

 

 鹿野信吾:当然だ。

 反発は読者の【悪意】となって作者に向けられる。

 

 尾崎凌駕:それを作者は一身に引き受けなければならない。

 そういうことか……

 

 鹿野信吾:「死者の微笑」では【悪意】を【善意】に替えてみた。


 尾崎凌駕:なるほどね……

 まあ、このくらいでやめておこうや。

 

 鹿野信吾:大学の推理小説愛好会なら、こんな風な作品も通用するだろうけど……、いや、無理じゃないか、ただただ独り善がりのミステリー談義を並べ立て、さて全体を見直せば、「暗号」をオモチャにしただけのこと

 少し毒があるが、「思案せり我が暗号」の自己評価はそういうことだ。

 ただ、それは本望だった。

 

 最後に一つだけ……

 

「思案せり我が暗号」に暗号の定義が書かれている。

 暗号とは「第三者に秘匿して『意志』を伝える手段」

 そう尾崎凌駕に言わせている。

 勿論本来は「意志」ではなく「意思」が正しい――つまりは誤植なんだが、敢えてその誤植を残したんだ。

 あの「思案せり我が暗号」を書いた作者の「意志」を示したつもりなんだ。

 チェスタトンを引用し「暗号をどこに隠すか?」という問答の答えとして「暗号小説の中に」そう書いている。

 第三者に秘匿して僕はその人への暗号を「思案せり我が暗号」の中に隠した。

 いや、隠してはいない。あからさまに示している。

 それが――

 

「世界の【悪意】のすべてを一身に引き受けたような、そんな探偵小説を書くんだ」


 その一文だった……

 

 Dです。Eでもいいくらいだ。

 

 作者の「読者に向けた【悪意】」はそのまま作者に跳ね返ってくる。

 それを僕は一身に引き受けた。

 ただ、それだけのことだ。

 つまりはアンチ・ミステリー……

 

 気障っぽく、純文学的に、気取って書けば……

 檸檬だよ……

 

 


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