自宅にて(藤沢)
自宅にて(藤沢)
この章は藤沢が書いている。
いや、正直モヤモヤするので自分で書こうと思ったわけだ。そしてこれを尾崎凌駕? いや諒馬? とにかく作者サイドにメールする。
――モヤモヤ……
その元凶はこれだ。
藤沢はもっと多くの事件に関する情報を知っていたが、これ以上話すのはまだやめておこう、そう思っていた。
前章に書かれたこの文章――
いや、確かにあの事件についてもっと多く情報は持っているし、それを前回、尾崎凌駕に話してない。しかし――
藤沢は……、そう思っていた。
そう断定して書かれると違和感があった。
――尾崎凌駕、彼には「私がどう思ったか?」それはわからないはずだ。
そうしたモヤモヤを放置するより自分で書いた方が精神衛生上好ましい。それは確かだ。そう思ってこれを書いている。これを作者に送って小説の中でどう展開されるのかはわからぬが、勝手に心の中まで憶測で書き下されて小説に盛り込まれるのは気持ちが悪い。
さて――
Web小説「殺人事件ライラック~」の連載であるが、第二部までで終了しており続きは止まったままである。
現実の事件を担当した元警察の者であると同時に読者の一人である私、藤沢――
うーん……
確かにこの世界での私は「藤沢」である。本名――実名はどうでもいいだろう。
では他の登場人物はどうだろう?
尾崎凌駕 本名不明
尾崎諒馬=鹿野信吾 本名佐藤稔
坂東善=水沼(苗字のみ名前不明) 本名佐藤稔?
近藤社長夫妻 勝男 良美 苗字は本名ではないが名前は本名
※婚約パーティーとなっているが実際は入籍済み
会長 名前は不明 苗字は近藤のはず 本名不明
その部下? 名前は不明 三名?
さてここからがよくわからなくなってくる
サングラス&マスク変装男 正体は水沼だと思うが
それで現実の事件で……
佐藤稔 本名 逮捕されて死刑囚(未決)
これは水沼? 鹿野? まったくの別人?
やはり水沼だろうな……
うーん……
ミステリーだとすれば本名なんてどうでもいいような気もするが……
佐藤〇〇 本名 逮捕された佐藤稔の妻
この伏せられた名前○○を私、藤沢は知っている。尾崎凌駕が言ったように苗字は本名だから名前は伏せた方がいい――いや、書くと読者は余計混乱してしまう気がする……
現実の事件だが、裁判は被疑者死亡で中途半端で終わってしまった。だが、犯人は確定している。しかし――
やはり冤罪だったのだろうか?
作中での会長の発言だと、近藤良美を殺害して首を撥ねたのは会長の息子勝男だと……
母屋の二階寝室の死体は良美で殺害したのは近藤勝男、つまり近藤社長。
するとその勝男――近藤社長を殺して首を撥ねたのは誰だろう?
――いや、その前に近藤社長は密室で発見されている……
離れは密室だった……
明らかに自殺ではない……
フーダニットの前にハウダニット……
しかしだ……
あ!
ふとあることに気付いた。先ほど取り上げた、この文章――藤沢はもっと多くの事件に関する情報を知っていた。
これはどっちの意味だろう?
あの別荘での殺人事件に関する「もっと多くの情報」と思っていたが、あの別荘での殺人事件「(以外の他の)もっと多くの事件の情報」という意味にも取れはしまいか?
確かに私は元警察の人間。現実の殺人事件も何件も担当している。しかし、現実の事件で密室が問題になることはほぼない。実際今回も犯人が放火したためもあり、密室なんて捜査において誰も気にしてはいない。
しかし――
首を撥ねた殺人事件は現実にも頻繁に起こっている。つい最近も……
笑う赤い月――ルナロッサ……
北海道で起きた、あの事件。そういえば、あの被害者も……
いや、犯人はサイコパス、そういうことか……
世間の注目を集めた殺人事件だが本格ミステリー的な謎は何もないような気がする。
――つまりはキ………
そういえば尾崎凌駕が言っていたっけ……
カミュの「異邦人」――
ちゃんと読んだことはないが、あらすじは知っている。一度ちゃんと読むか? いや、そうだ!
藤沢は、あるAIサービスを使ってみることにした。




