……助けて……
……助けて……
初めて会った時、その女の子は……
……助けて……
泣きそうな顔でそう言った。
施設に、ひょっとしたら自分は親戚かもしれない、とその女の子を訪ねて行った時、私はまだ大学生だった。
その女の子はまだほんの子供であったのだが……
施設の一室で二人きりになった時に……
いきなりだ……
その女の子に抱きつかれてしまったのだ。
そしてそれは明らかに性的な接触を意図していた。
私は思わず拒絶した。
……助けて……
……ここから連れてって……
……何でも言うことをきくから……
……気持ちのいいことしてあげるから……
およそ性的に成熟していない子供にそういうことをされて面食らってしまった。
ただ、それで大体のことは理解できた。
彼女は虐待されてきたのだ……
しかも、性的な虐待を受けてきたに違いない。
それで、彼女は自分は未熟なまま、男性がどうすれば性的に快楽を得るのかを知っていたのだ。
その時の戸惑いと……
怒り……
本来なら彼女を「可哀そう」そう思うべきで……
その怒りも彼女を虐待している「知らない男」に向けられるべきなのだが、私は彼女に対して怒りを感じたのだ。
間違いなく私はあの時頼られていた。
ひょっとしたら施設から連れ出してくれる救世主に見えたのだろう。
しかし――
彼女の取ったその行動はすべてを台無しにしたのだ。
私は彼女に怒りを感じた。
彼女を激しく突き放した時に彼女が倒れて大きな音がした。それで何事かと施設の職員が部屋に入ってきて、私は……
……もう少しで犯罪者になるところだった……
職員の誤解を解こうとしたが、無理だと悟った。
警察沙汰にはならなかったが、私は追い出されてしまった。
それきりその女の子とは会っていないが、いずれにせよ、当時私は大学生だったし、経済的にその女の子に何かしてあげられるわけでもなかったので、私は父に手紙を書いた。
あなたの初恋の相手の女性とあなたの間に生まれた娘がどこそこの施設にいるので手を差し伸べてほしい。
そう書いて送ったのだ。
そして父は「こちらで何とかするので、これ以上彼女には近づくな」と返事をくれた。
実際に父は彼女を何とかしてくれたようだった。彼女は健全な施設に移り、父からの経済的な支援を受けたようだった。
ああ、これを書き忘れていた。父の初恋の女性の名前は良美だが、苗字は祐天寺なのだ。つまり、成人後彼女は苗字込みで自分の母の名前に改名したのだ。おそらく父がそうさせたのだろう。
彼女がどのくらい幼い頃から性的虐待を受けてきたかはわからない。
それは想像するしかないが、かなり幼い頃から……
虐待とまではいかなくても、少なくとも男性からの何かしらの性的接触はあったのかもしれない。
いや、幼い子に対する性的な接触はすべて虐待だ!
いちりとせ♪
やんこやんこせ♪
しんからほっけきょ♪
は ゆめのくに♪
とにかく、あの童歌の意味を考えると、そんな気がする……
彼女と尾崎諒馬=鹿野信吾=佐藤稔は幼馴染だという……
どういう関係なのか? それはわからないが……
幼い頃の彼女にとって、彼は救世主だったのかもしれない……
しかし、彼はそれをよく憶えてはいないようだが……
いや、もう彼は人間ではないな……
AIに男女のこと、性的なことはわからないだろう……




