やはり密室トリックが一番重要
やはり密室トリックが一番重要
はて? 今の乱入は誰だろう?
AIとなった尾崎諒馬=鹿野信吾=佐藤稔だろうか?
解決編に入っても脱線につぐ脱線!
これでは読者は納得するまい……
やはり密室トリックの解明が一番重要だろう。
しかし、それに辿り着くまでには準備が必要なのだ。
確かに叙述トリックらしきものはあるに違いない。要するに、それが密室トリックに繋がるはずなのだ。
叙述トリック……
ヴァン・ダインの二十則
第二則
作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
叙述トリックは果たして本格ミステリーに許されるのか?
まあ、令和のこの時代、叙述トリックを認めない視野の狭いミステリーマニアはいないだろう。登場人物に「稔」出てくれば、当然それは……。まして勝男はサイコパスのシリアルキラー……
とにかく、ルールは破られるためにある。
であるのなら……
第十則
犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。
第十一則
端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。
この二つも破って差し支えないのでは?
わざわざ本に書くほどの事はない!
だからWeb小説になっているのではないか?
読者は作者に対価を払う必要はない!
読後に床に叩きつけようにも本自体が存在しない!
謂わば……
虚体としての本……
いけないな、また脱線している……
とにかく――
ほら、第一部 二章に――
先ほど別れた二、三人の女性の声が聴こえてくる。
そうある。二、三人……
二人なのか三人なのか? そんな存在の曖昧な「その女性の一人」が真の犯人ではないのか?
いや、その前の――
とある死刑囚(未決)の手記にこうある。
「代表って近藤さんですよね? 専務じゃなかったですかね?」
「いえ、社長に昇格しました。今は代表――トップです、近藤メディボーグの。まあグループ内の一子会社にすぎませんが、まだ――」
勝男が専務から社長に昇格したのだろう。そうすると、専務の椅子が空くから、誰かが専務に昇格してはいないだろうか? そうしてその専務もパーティーに参加していたのではないだろうか?
叙述トリックは読者の思い込みにつけこむ――
専務と聞いて、五十代くらいの男性を思い浮かべるだろうが、若い女性が専務という可能性もゼロではないだろう。
彼女の歌に合わせて私も歌った。「いちりとっせ♪」
彼女が一段下がり、私は一段上がる。
「やんこやんこせ♪」彼女が更に一段下がり、
「やんこやんこせ♪」私も一段上がる。
……
第一部 二章
ずっと彼女、彼女と記述されて――
私はしばらく放心していたが、ハッと我に返り、良美の抱擁をやんわりとほどいた。
ここで彼女が良美に変わる!
そうだ……
この時、夢の国、即ちワンダーランドに迷い込んだのだ……
ミステリーというワンダーランドに……
そしてこの世界のヒロイン――彼女の名前は「良美」だ。この世界での彼女の名前は「良美」でなければいけない。
そう説明されているが――
彼女が良美に変わる瞬間……
ハッと我に返り!
そう記述されている。
果たして、彼女=良美なのだろうか?
しかも良美は二人いる。
良美ちゃんなのか? 良美なのか?
尾崎良美なのか? 佐藤良美なのか?
いや――
やはり密室トリックが一番重要、そう書きだしたのに全然違う話になっている。
しかし――
もう一人誰かいたかもしれない!
それが密室トリックに繋がるのではないだろうか?




