7話
「なんだこりゃ……」
日が頭上の穴から差し込み光がブラック・ライオを照らす。
そんなブラック・ライオに何人かの民族衣装のような服を着た少年達が銃口を向けていた。
「さっきまで僕達街の中で戦ってたのに……ここは……?」
「どっかの洞穴……な訳ねぇよな……人がいるもんな」
誠は周りを見渡すが岩の壁が一面に広がっている。
そしていくつかの穴があり、建物の一階分程度の高さがあった。
どこか生活感があるが、しかし人が住めそうな……日本において人がいるような雰囲気は感じることが出来なかった。
「お、おい……まだ予定日には三日早いじゃねぇかぁ……ソラ、どうなってんだよ……」
「知るか、獣人の考えてることはわからん。でも俺達のやることは変わらない……そうだろ!」
「獣人……?」
周りの少年達はソラと呼ばれた少年の号令に雄たけびを上げ、銃の引き金を引く。
途端に銃口から光が走り、ブラック・ライオに銃弾の様に放たれる。
「う、打ってきたよ兄貴!」
「は、こんな豆鉄砲がブラック・ライオに効くかよ!それよりも……獣人?こいつを何かと勘違いしてるのか?」
誠の言う通り少年達が放つ光はブラック・ライオの装甲を傷つけるには至らない。
しかし少年達は絶えず銃口から光を放ち、銃声が洞窟の中に反響していた。
「や、やめんかお前達!」
「やめろやめろ!獣人様に何をしているか!」
しばらくすると銃声を聞き付けたのか穴の中から1人の背の低い初老の男と三人の屈強な若い男達が少年達を取り押さえようとする。
出てきた男達に少年達は銃を撃つのはやめ、取り押さえようとしてくる彼らに抵抗していく。
しかし見るからに男達と少年達には体格差があり、少年達の抵抗空しく一人、また一人と取り押さえられていく。
「クソ!」
「ソラ!お前もいい加減にしないか!」
次々に少年達が取り押さえられていく中ソラだけは何とか逃げ回っていた。
逃げ回るソラに男達も追いかけるが時には捕まえようとする手を避け、時には足や手で男達から距離を取る。
「ソラは俺達の中でも一番強いんだ!村の大人達でもやられるもんか!」
「黙らんか貴様ら!貴様ら何をやっているのかわかっておらんのか!」
取り押さえられた少年達は縄で縛られ身動きが取れない中で明るくそう叫ぶ。
そんな少年達を初老の男が叱りつける。
「村長!いいのかよ、リンがこいつらに連れ去れらても!」
「貴様……!」
「やいやいやい!お前達だけで話を進めてんじゃねえぞ!」
「あ、兄貴!?何やってんの!?!?!?」
少年達を叱りつける男にソラが反論するようにそう叫ぶ。
そんな2人の間に入るように誠がブラック・ライオの肩に立ち、腕を組みながらフロアに響くほどの声量で2人のやり取りをかき消すように叫んでいた。
「ん?何ってこいつら俺らのこと蚊帳の外にして話を進めるからよ……埒が明かないじゃねぇか」
「埒が明かないってなんだよ!まずこの状況が訳わかんないのに更に混沌とさせようとするのやめてよ!?」
「てめぇ……!」
コックピット内で叫ぶ勇太の言葉にあっけらかんと誠は首を傾げる。
この男にとって騒動の中に入れていない、蚊帳の外にいることは我慢ならないのだ。
そんな誠にソラは片手に持っていた銃を腰に構え、一発放つ。
その一発の光は誠の頬を掠め、一筋の血が流れた。
そしてその一発が隙となり、ソラは男達に捕らえられることになる。
「てめぇ……」
誠は掠めた頬を触る。
僅かであるが血が指についていた。
「お前、獣人と無関係なんて言わせねえぞ!そんなデカ物持ち出して来て、リンを攫いに来やがったな!」
「おい!黙れソラ!黙らんか!」
男達に組み伏せられ、地面に叩き付けれらるソラはブラック・ライオの肩に乗る誠に叫んだ。
しかし誠の耳にはその言葉は届いていない。
久方ぶりの自身への顔の傷、喧嘩において近年では顔面に貰うことがなかった傷を油断していたとは言え貰ったのだ。
そのことが誠の逆鱗に触れた。
「てめえらその坊主のこと離しやがれ!こいつ、一発ぶん殴ってやる!」
「あぁもう滅茶苦茶だよ兄貴!」
ーーーーーーーーーーーーーー
「で……なんで俺らまで牢屋に入れられてるんだ?」
淡い緑に照らされながら、誠と勇太の2人は両腕を後ろに回され手首を紐で結ばれた状態で仲良く同じ牢獄に入れられていた。
理由は単純、ブラック・ライオから出てきたこととあの場にいた男達を殴り飛ばしたからだ。
「いや……これでも温情だと思うよ?僕は……だってあの子を殴り飛ばした後大人数の大人と大立ち回りしてるんだもん兄貴……」
「へっ、流石に途中で銃なんて持ち出されちゃ敵わないけどな。勇太もいたことだし」
「まるで僕がいなかったら勝てたみたいなこと言うね……」
「あいつ、もな」
誠はそう言うと視線を自身がいる牢獄とは反対側の牢獄に向ける。
そこにはソラが誠と勇太と同じような状態で牢獄に入れられていた。
「しっかし他の奴らはお咎めなしなのにお前だけ牢屋行きとは……嫌われてんのか?」
誠はソラに対してやや煽り口調で話しかける。
そんな誠をソラは鼻で笑う。
「あいつらはただ俺に脅され、口車に乗せられただけ……武器も全部俺が用意したからな、あとは脅すなり騙すなりで無理やり参加させた……ってことにしてるんだよ。それにあいつらだってこの村の立派な戦士見習いだからな、牢獄に入れられてないだけでみっちりしごかれてる」
「ふーん……つまり牢屋に入れられてるお前は特別扱いだと……そう言いたいのか?え?」
「……まあ、そうだな」
それだけ言うとソラは目を伏せる。
その様子に誠は勇太に耳打ちする。
「どう思うよ勇太」
「え?いきなりそんなこと言われても……でも、あの人相当強いと思うよ。兄貴とやり合ってもいいところまで行くくらいには……それにさっきも兄貴に銃を撃ったから捕まっちゃったけど多分そんなことしなかったから大勢の大人を連れられてたのはあの人だったかも……捕まってた人達もあの人が一番強いみたいなこと言ってたし……」
「ふーん……ま、お前がそう言うならそうなのかもな」
誠はそう言うと納得した様子で勇太から顔を離す。
するとツカ、ツカ、と人の足音が響いてくる。
足音の方を見れば歩いてきたのは一人の少女であった。
「ソラ、また無茶したの?」
「リン……」
淡いピンクのローブを着た、ショート髪の少女はしゃがんでソラと目線を合わせると腰のポケットからハンカチを出すと柵の隙間から彼の顔を拭いてやる。
先程の騒動で土や血がついてそのままだったのだ。
「無茶なんてしてないさ。それにこれはあいつらが悪いんだ。リンが、リンが生贄になるんて認めて……」
「ソラ……」
悔しそうで奥歯を噛むソラの頬を少女、リンは優しく撫でてやる。
「私が自分で決めたことなの……だからソラがお父さんや大人達と争うことなんてないのよ……」
「でも……でもリンなんだぞ!村長だって自分の娘なんだ!なのに……俺は……俺は……!」
今にでも悔し涙を流しそうなソラにリンは横に首を振る。
「私は村長の娘だから……それはお父さんも同じ。お父さんもお父さんである前にこの村の村長なの……わかってるでしょ?」
「……」
そう言い、ソラに対して微笑むとリンは立ち上がる。
誠達の方を一瞥するとすぐソラの方を向き直った。
「多分すぐに出れると思うから……そしたらまたお話ししましょう?ここは私も長居出来ないし……」
「わかってるよ。村長の娘が気軽に来ていい場所じゃない。悪かったよ、じゃあな」
「うん、じゃあね」
リンはそう言うと牢獄から去っていく。
その後ろ姿をソラは悲しそうな、複雑な目で見送った。
そしてその様子を誠はニヤニヤしながら見ていた。
「まさかまさかとは思ってたが……ほう、女か?」
「何?」
「ちょ、兄貴やめなよ!」
ニヤニヤとまるで野次馬の如くソラを見る誠に流石の勇太も止めに入る。
人の恋愛事情に首を突っ込むのは悪いという考えがあるのは確かだが、今の2人の雰囲気がただならぬものであったということを感じたからだ。
「いいか勇太、よ~く覚えとけ?男が無茶するとは大体女って相場が決まってんだ。それにあの雰囲気……もしかしたら既に……」
「おい」
誠が言葉の先を言い終わる前にソラが柵を蹴り飛ばす。
その蹴りで柵が壊れることはなかったが蹴った音が大きく、誠の言葉は強制的に遮られた。
「やめろ」
威圧的な、有無を言わせぬ怒気を孕んだソラの言葉に誠は口先を尖らせながら勇太の方を向く。
「つまんねぇな、なぁ勇太」
「いや……兄貴が全面的に悪いと思うよ……というか今回の話全部兄貴が悪いと思うよ!?」
勇太は誠の様子に思わずため息を漏らす。
この誠という男は頼れるときはとことん頼れるのだがこういったときはまるで暴走列車の如く制御が効かない。
総理大臣なんて政治の重鎮の息子などと未だに信じることが出来ない。
「なんだよ勇太も釣れないなぁ……ん?」
誠と勇太が喋っているとまた足音が聞こえてくる。
しかしその音は先程よりも大きく、また複数人の足音が聞こえる。
男が2人、誠と勇太のいる牢獄の前に歩いてきたのだ。
「立て。村長がお会いになりたいそうだ」
「へぇ……村長、がねぇ」
誠は男2人の言葉に舌なめずりをした。
その様子に勇太は思わずため息を再度吐いた。
波乱の予感しかしなかった……