6話
変化は突然であった。
標的を殺し、面白そうな存在を見つけたので男は外に出て待っていた。
その存在が自身が思っているような存在であるのか、そうではないのか、見極める為それを待っていた。
そのときだ、空に浮いている自身の下の地面が割れたのだ。
そしてそこから現れたのは黒い戦士、人の十倍はあるのではないかと思える巨体により繰り出される、弾頭となって繰り出される高速の拳が甲冑を揺らす。
「おっしゃぁぁぁぁぁ!」
実際に聞こえてくるわけではない、しかし目の前の黒き戦士は歓喜で拳を握り締めているのはわかった。
甲冑の中……目の前の敵と同じようにこの鎧に乗り込んでいる男は口元を手首で拭うと操縦桿を握り締める。
「さて……楽しませてもらうとするか……」
「おっしゃぁぁぁぁぁ!」
対して誠は仇である男が乗り込んでいる甲冑の騎士に渾身の一撃を与え、雄たけびを上げた。
発進口から高速で地上に向かいリフトで上がったブラック・ライオは得た加速を十分に拳に乗せ、目の前の敵に渾身の一撃を与えたのだ。
初めて振るう自身の力ではあるがしかし、十分なダメージを与えたのは感触としてあった。
「どうだ思い知ったか!」
「兄貴!まだ動いてるよ!それに地上に墜落する様子もないし……」
「わぁってるよ。勝負はこれからだってことはな!」
初撃は確かに効果的であった、しかしそれだけで済ますのは喧嘩の素人がやることだ。
更に一撃、二撃と追撃をするべく甲冑の騎士へと空を蹴り接近する。
そして右のストレートを放とうとした瞬間、甲冑の騎士の両手には先程までなかった剣が出現しそれを胸元の前で交差させブラック・ライオの拳を受け止める。
「ちっ」
追撃を止められたことに舌打ちしつつ、しかしブラック・ライオがストレートを放とうと身体がねじれていることを利用し左足で蹴りを繰り出す。
しかし甲冑の騎士はその攻撃を右腕で受けると左手に持つ剣の剣先でブラック・ライオを突く。
気付いたときには剣先はブラック・ライオの胸元に突き刺され、誠達は後方に吹き飛んだ
しかし吹き飛ばされたブラック・ライオだがある程度距離が離れたところで宙返りし体制を整えることに成功する。
胸元を見るとそこには剣を突き立てられたことによる傷はなかった。
「あ、危なかったぁ……」
「流石にやばいかと思ったがこいつ……中々かてぇじゃねえか」
「剣が来るって思った瞬間、なんか僕の中で力がブラック・ライオの胸元に集中したんだ。そしたらあいつの剣を弾けたんだ。衝撃までは防げなかったけど……」
少し申し訳なさそうにする勇太の言葉に誠はニヤリと口端を上げる。
「申し訳がることねえ、逆にそれを聞けて俺は嬉しいぜ……反撃だ!勇太、俺の動きに合わせろ!」
「あ、兄貴!?……うん、わかった!兄貴の動きはいつも後ろから見てたんだ!」
勇太が叫んだ瞬間、ブラック・ライオの四肢に力が宿る。
空を蹴り、甲冑の騎士に急接近し距離を詰めると先程と同じく右のストレートを放った。
甲冑の騎士は先程と同じく剣でそれを受け止めようとする……しかし結果は剣を砕き、ブラック・ライオの拳が甲冑の騎士の左肩に到達した。
先程までよりもブラック・ライオの拳の威力が上がっている、そのことを確信した誠は更に甲冑の騎士の顎先目掛けて左のフックをぶちかます。
仮面は歪み、首の方向も殴られた方向に向かって傾いてしまう。
そして間髪入れずに右の拳のアッパーで甲冑の騎士の身体を更に上空へと吹き飛ばす。
「よし!ここから……!」
吹き飛ばした甲冑の騎士に追いつこうとブラック・ライオも上空へと跳ぶ。
更にもう一撃を与えようとブラック・ライに対し甲冑の騎士は砕かれたはずの剣を振るい空を切る。
常識的に考えれば意味のない行為であるがしかし、振るわれた斬撃は光となってブラック・ライオに襲い掛かる。
「ちぃっ!」
ブラック・ライオは一度上昇をやめ、両腕で飛んでくる斬撃の光を受け止める。
幸いなことに勇太が力を両腕に集中させているためダメージ自体は軽微であり殆どない。
しかしその速さと予測される斬撃の衝撃からブラック・ライオは上昇を止めざるおえない。
そしてその様子を見て甲冑の騎士は更に斬撃の雨をブラック・ライオに降り注いでいく。
「クソ!何か飛び道具がこっちにもないのかよ!」
『あるよ。必殺の飛び道具が』
斬撃の雨に防戦一方になり思わず叫んだ愚痴に通信が入る。
誠と勇太が乗り込んだブラック・ライオの外を見ているモニターの端に先程地下から地上にブラック・ライオを放出させた女性、鵜井の顔が映し出される。
『勇太とか言ったね、君が今ブラック・ライオを動かしているのは君の身体に宿る膨大な魔力のおかけだ。その膨大な魔力を胸元……黄金に輝く獅子に集中してやりな!』
「獅子に魔力を……」
勇太は同じくモニターの端に映る誠の顔を見る。
勇太と誠は同じブラック・ライオの中にいるが搭乗しているコックピットは違う。
勇太がブラック・ライオの胸の位置に、誠が頭部の位置にそれぞれ設置されたコックピットに搭乗している。
故に同じブラック・ライオに搭乗してはいるがこのコックピット内では一人の孤独な空間とも言えた。
そして感じるのだ、その獅子を目覚めさせるには全ての勇太の力をそこに集中させなければならないことも。
しかしそんなことをすれば飛んでくる斬撃に対応が出来なくなる。
だからこそ迷いが生じる。
「けっ、あるんじゃねぇかそんなびっくりどっきりメカがよ」
「兄貴……?」
誠は笑っていた。
勇太の不安を知ってか知らずか、しかしこの状況から逆転できる一手を見つけて笑みを溢していた。
「なんだ勇太?不安なのっか?」
「不安って言うか……多分それをやろうとするなら俺の力の全てを注ぎ込まないといけない……でもこの状況でそんなこと……」
「なんだそんなことかよ」
もしもこの場に2人が隣り合っていたならば誠は勇太の額にデコピンでも喰らわせていただろう。
誠は鼻を鳴らし、勇太の不安を笑い飛ばす。
「今までお前は何を見てきたんだ?俺はお前の兄貴だぞ?目の前のあいつに一泡吹かせれる術を弟がもっえるなら、そこまで俺が連れてってやる」
「兄貴……」
「こんなときはよぉ……!」
ブラック・ライオは斬撃の雨の中防御に回していた右腕を引き絞る。
そして振ってくる斬撃に合わせて、その斬撃の形をした光を横から殴りつけた。
刃を支えるいわば刀身の部分を殴られ、光は粉々に砕け散る
「思った通りだ、刃は確かに鋭いが斬撃自体は脆い……なんせブラック・ライオに当たった瞬間、斬りつけはするが砕け散ってなもんな!」
ブラック・ライオは更に斬撃に向かって拳を振るう。
そしてその拳は次々と斬撃を粉々にしていく。
「勇太!俺はお前を信じてる、兄貴分って慕ってくれて信頼してくれてるお前をだ。だから、お前は俺を信じろ!お前が信じてくれてる俺がお前を信じてやる!」
「兄貴……あぁ、やってやる!」
その瞬間、勇太は自身の中にある力を獅子へと込めていく。
拳を振るうブラック・ライオの胸の獅子から黄緑色の光が溢れ、更にその全身に波及していく。
先程までも全力で力を込めていた、しかしこの獅子へと込めていく力は今までよりも何倍、何十倍も違う桁外れの力を呼びこしていた。
「兄貴!」
「よっしゃぁ!」
「「ブラック・ライオ!キャノン!」」
誠と勇太が叫び、その瞬間獅子の口が開かれる。
全身の光が獅子へと集まり、そしてそれは膨大なエネルギーとなり甲冑の騎士へと力の濁流となって襲い掛かる。
「!!!???」
力の波は甲冑の騎士を飲み込み、爆ぜる。
全てを破壊できるのではと思う程の力に誠と勇太は勝利を確信した。
しかし爆ぜた煙が晴れるとそこには甲冑が所々吹き飛ばされ、大きなダメージを負ったものの健在な甲冑の騎士がそこにいた。
「なっ!馬鹿かよ!」
「僕の……僕達の全力だぞ……」
「……面白い」
驚愕する2人に確かに甲冑の騎士から一言呟きが発せられる。
そして甲冑の騎士は既に刀身すらない剣を振るい、空間に裂け目を作る。
それは甲冑の騎士が入り込めるほどに大きくなると手をブラック・ライオの方へと振るい、裂け目は移動する。
そしてブラック・ライオの足元に移動すると更に裂け目は大きくなる。
「まずっ!」
甲冑の騎士のあまりにも強靭な耐久力に驚いていた二人はその一連の動きをただ見ていることしかできず反応することが出来なかった。
気付いた時には裂け目はブラック・ライオを取り込み、更に甲冑の騎士が蹴りを放ちその巨体は深淵へと叩きこまれることとなる。
そして裂け目の深淵へとブラック・ライオは突き飛ばされ、空から砂の地面へと落下することとなる。
そして更に砂の地面から地面の中へとブラック・ライオは落ちていく。
「っっっ……大丈夫か勇太」
「だ、大丈夫……」
やっと落下が止まり、地面へとブラック・ライオは叩き付けられその衝撃が誠と勇太を襲った。
かなり軽減されブラック・ライオの中にいる2人には伝わっているだろうとは言えその衝撃はかなりのものであった。
そして何とか周辺の状況を確認しようとモニターを見ると、そこにはまるで落とし穴に掛かり地面に座り込むブラック・ライオに対し銃口を向ける若い男達の姿があった。
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