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3話

 まず目を引くのは自分達の10倍は軽く超えるのではないかという程巨大な体躯だ。

 黒い四肢は太く、その脚は自身の巨体を支える。

 顔は鉄仮面を被っているかの様で、白い兜に覆われている。

 そして赤い角はその先を天に向け、まるで鬼のようなシルエットを描いていた。


 しかしそれらよりも更に誠と勇太の目を引いたのは胸から腹の部分にある黄金の獅子の顔だ。

 黒い身体に黄金の鬣が際立っている。


「これは……」


「魔人決戦兵器ブラック・ライオ……我ら人類の希望だ」


 英司は呆気に取られている2人に目の前の巨人を紹介する。

 ブラック・ライオ、それが目の前の巨人のなであった。


「勇太君、君にはこれに乗り込んでもらいたい」


「「えぇ!?」」


 思わぬ言葉に誠と勇太は驚きの声を上げて英司の顔を見た。

 何かの冗談ではないかとも思ったが、しかし英司の表情は真剣そのものであった。

 思わず勇太は目の前のブラック・ライオを見上げた。


「これは……ロボットなんですか?」


「あぁ、この国が秘密裏に開発をしていた人型決戦兵器……外敵に対して唯一取れる、私達の希望だ」


「外敵……?」


「おいちょっと待てよ。外敵って何と戦うんだ?この国の……日本の周りには()しかないんだぜ?」


 誠の疑問に英司は少し視線を向ける。

 しかしすぐに背を向けることでその視線を外し、そして2人から距離を取るかの様に歩きながら語り始める。


「この国日本……海に四方八方を囲まれたこの国……延いては日本列島以外の陸地は存在しない。つまりこの日本の周りには人間……いや、世界が存在しない。これがこの国の常識だ」


「えぇ……そうです。しかし日本列島の大きさはこの地球を覆う海に対してあまりにも小さい……だから日本の領海を定め、そしてその領海から出ることを法律で禁止している……そうですよね?」


 勇太は義務教育……いや、それ以前から知っているいわば世界の常識を英司に言った。

 その内容はまさにこの世界で生きる上では常識であった。

 この日本の外には海が広がり、そしてその先にあるのは日本……この地球上に人間の住める陸地は日本しか存在しない。

 それがこの日本の、世界の常識のはずなのだ。

 誠も勇太の言葉に同意するように首を縦に振る。


「確かにそうだ。私達は唯一この地球上に存在する生命をこの小さな陸地に閉じ込めている……しかし少し違和感を覚えないか?例えば料理、様々な種類の料理があるが……明らかにこの日本発祥ではない料理も存在する」


 英司の言葉に誠と勇太は首を傾げる。

 彼が何を言っているのか、言いたいのかがわからないからだ。

 しかしその反応が予想通りだったのか、英司は二人を見て少し苦笑を漏らす。


「常識……それも幼少の頃からの擦りこみというものは恐ろしいものだ……何故人は人と会ったら挨拶をするのか、何故人はルールを守るのか……確かに必要なこと、この社会を形成する上で重要なことではあるがしかし、人々はそこまで深く考え、それらの常識を行っているわけではない。あくまで自身の幼少の頃からの慣例……大方の理由はそれくらいのものだ」


「つまり、この国の外に出ないこともただの慣例……そう言いたいんですか?」


 勇太の質問に英司は首を縦に振った。


「そうだよ勇太君。確かにそのルールが出来た当初は……いや、それを作った者からすれば今でも意味がある物だろう……しかし少なくとも今を生きる我々にとってはただの慣例、意味がある物ではない」


「ならなんで法律を変えないんですか?海に出れば海洋資源がたくさんあるはずだ……中学生の僕にだってそれくらいはすぐに思いつく、それくらい国の人が思いつかないわけがない……慣例だというのなら、意味がないというのなら、そんな法律……そんな枷早く取り払うべきなんだ!」


「陸があるのだよ」


 口から疑問を発している内にそれが想いとなり、思わず英司に勇太は飛び掛からんと足を進めていた。

 しかし英司から発せられた一言が、勇太の動きを止める。


「陸が……ある……?」


「君のお父様は5年前、この国を出て外海へと旅立った……確か私の情報網が正しければ禁書をいくつか所持していたはずだ。それを君が目にしているかどうかは分からないが……あったのだろう?この日本という国では到底あり得ない氷の大地や砂の大地……夜空に輝く光のカーテン……人々を狂わせるには十分な事象の数々を綴った禁書が」


 勇太は視線を英司から僅かに反らす。


「確か君は進学を希望していないそうだね。君の成績なら国内トップ校に無償の奨学金で入ることも叶うだろうしそのことは君も把握しているはずだ。母子家庭で母親に迷惑を掛けたくないそうだが……本当にそうかな?」


 勇太の顔色が悪くなる。

 完全な図星であることは自明であった。


「君は本当は外の世界に出ることなのではないか?それはそう……君の」


「やめねえか!黙って聞いてりゃ人の敷地に土足でずかずかと入り込みやがって!」


 言葉を続けようとする英司の胸倉を誠は勇太の前に立って掴む。

 その力が明らかに先程までより強いのは自身の為ではなく、自身の弟分の為の怒りだあるからか……

 その様子に英司は少し、僅かに目を言開いた。


「これは大事な確認作業だ。部外者は黙ってもらうか」


「あぁ、確かにお前の言い分なら俺は部外者だろうさ。でもよ、こいつの夢は……こいつの想いはそうはいかねぇ……こいつの夢を!想いを!汚そうと、踏みにじろうとする輩は俺は許さねぇ!」


「兄貴……」


 英司は誠の言い分に少し息を吐く。

 その様子を見て誠は更に力を込めようとするがそれに掌を出して待ったを掛ケル。


「勘違いをしているようだが……私は外の世界に行くことを否定するつもりはない。逆にこのブラック・ライオは外の世界に行く為の兵器だ。まあ確かにここで世界の真実を話すことは勇太君にとってはマイナスでああるかも知れないが……生憎そうも言ってられないのが現状だ」


「は?」


 誠の力が緩んだ隙にその腕を払い除け、英司は指を鳴らす。

 すると彼の頭上に画像が投影される。

 それは地図のようなものであった。

 真ん中によく知る日本列島があり……それを囲むように大きな大陸が5つ存在している。


「なんだこれ……」


「これが世界の真の姿だ。ユーラシア大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸……これらの大陸と呼ばれる広大な大地……これが本当の世界の姿だ」


「これが……父さんの見たかった世界……」


「しかし……残念なことにこの世界を支配しているのは人間ではない」


 次の瞬間、先程まで緑に塗られていた大陸が赤に塗り直される。


「古来、人間はこれらの大陸に根を生やし暮らしていた。しかし外敵が……奴等の出現によりこの世界の人間は追いやられ、この狭い島国での生活を余儀なくされた……」


「そいつらは何者なんですか……?」


「魔人」


 そう呟くと英司はブラック・ライオの方に視線を送る。

 魔人決戦兵器……言葉の意味を教えられた訳ではないがしかし、どういうものかを直感で誠と勇太は分かった気がした。

 それは古来からの敵を討て、自身達がいたはずの場所を取り返せ、そう言いたいのだろうと。


「魔人の力は強大だ。そしてこの日本は海に囲まれ今まで被害はなかったが……しかしいつ奴らがこの国を襲うかはわからない。それならば!私達は戦わなければならない!そして取り戻さなければならない!安息の生活圏を……この手で!」


 その為のブラック・ライオだ!


 その叫びがフロアをこだました。

 まるでアニメか何かの展開だな、と誠は思った。

 そして同時に何故それに勇太が呼び出されたのか見当もつかなかった。


「このブラック・ライオは魔人と同じ力、同等の力を行使することができる……しかしそれは普通の人間では行使することができない……少なくとも量が、たかがか1億2千万程度の人間の力では動かすことは出来ない……しかしいたのだ、遂にこの世に!ブラック・ライオを動かせる程の力を持った人間が!それが下田 勇太!君だ!」


 次の瞬間、英司の胸元を剣先が突き破る。

 口から鮮血が溢れ、足は突き破ってきた剣の勢いで宙を浮き身体は釣りあげられる。

 フードを被った男が英司の身体を貫いていた。


「やはり……いたか、魔王の力……」


「親父ぃ!!!」

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