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終章、又は序章

 それは宇宙(そら)を埋め尽くしていた。

 浮き出た無数の赤い目からの視線、開かれた口から垂れる唾液と細長い舌。

 無数の赤に染められた黒を前に、勇者は立っていた。


 勇者の背には死屍累々の山が積まれている。

 1人は顔が裂け、1人は下半身がなく、五体満足な死体は誰1人としていない。

 まるでそれらが勇者の通った道であるかのように、彼と共に歩んできた仲間達が倒れていた。


「こりゃあもうだめですかね……?」


 1人の青年が勇者の背に隠れながらそう問いかける。

 まるで頼りのないそんな青年だが軍神と呼ばれる程に卓越した頭脳と人心掌握で世界を駆け抜けるコマンダーであった。

 しかし彼の言葉を聞き、手足として動く人々はもう誰もいない。

 既に彼の手足はもがれ、ただ死を待つだけの男であった。


「戦力差は1万対1……いや、既にそれ以上か」


 勇者の隣に立つ長髪の男は愛銃の引き金に指をかけながらそう呟いた。

 彼の射撃の腕は百発百中、その人生で的を外したことはない。

 しかし眼の前の赤の前ではそんな事実は意味をなさない。

 例え10、100、1000と引き金を引いても相手の数は減ることはない。

 既に幾度も仲間を救うためにその引き金を引いた……しかし実際に助けられたその命は皆無だ。


「ひゃひゃひゃ、絶望的……それを通して絶命的というわけだ!」


 手足の長い男は手を叩きながらはしゃいだようにそう言ってみせた。

 奇人、狂人、様々な言葉で男のことを形容しようとされてきたがしかし、どれも男を表すことはできない。

 卓越した体術と魔術とまで言われた幻術、それらにより形成された世の中とは玩具箱という価値観、混沌を望む彼にしかし本当の混沌は牙を剥いた。


「……お手上げか?」


 男は寡黙であった。

 背丈ほどある斧を肩に掛け、勇者に視線を送る。

 護るため、その為に勇者に着いてきた。

 しかし何も護れなかった。

 最後に残った世界をどうするのか、それを男は勇者に託した。

 護りたいものがあった世界を護り抜くためにどうするべきか、それを勇者に託すのだ。


「……」


 勇者は生まれたときから勇者であった。

 この世に生まれ落ちたその時から彼は自身のことを勇者であると自覚していた。

 故にその人生は勇者として邁進する人生であった。

 時には修練を、時には勉学を、人々との関わりも欠かさず誰もが認める勇者としての人生を歩んでいた自負があった。


 しかし彼は勇者としての役割を全うすることができなかった。

 共に歩んでくれる仲間が多くいた。

 期待をしてくれている民衆が多くいた。

 世界が勇者に味方をした、だから勇者は世界を護る責務があったはずなのだ。

 しかしその背には、歩んできた道のりには死屍累々の仲間の道があった。


「……」


 勇者は自身の手に持つ剣を地面に突き立てる。


「……待つさ、いつまでも」


 突き立てた剣の柄に握っていた手の力を込める。

 込めた力に呼応するように光を放ち始める。

 それは勇者としての聖なる力、彼を彼たらしめる世界の力。

 その力は勇者を中心に輝きを広めていき……

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