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イケメン達はヒロインから逃げ出したいようです

誤字脱字報告ありがとうございます。

「ごめんね、プリムラ。今度の試験は絶対に落とせないから」

「エリクったら……。仕方ないわね、私の誘いを断っといて、落ちたりしたら承知しないわよ?」

「はは、肝に命じるよ」


 神殿の敷地内にある庭園の一画。

 穏やかな陽射しの元、少年少女が連れ添っている。


 少年の名はエリク。平民で家名は無い。赤味の強い茶色の髪に焦げ茶の眼。まだ幼さの残る顔立ちに、少女への思慕を溢れさせている。

 少女はプリムラ・ジャイン男爵令嬢。桜色の髪に新緑の眼の小動物系の美少女だ。


 仲睦まじい様子の二人は、しばし庭園を散策した後、本殿の前で別れた。

 プリムラはそのまま本殿へ入り――直ぐに横道に逸れてまた庭へと出、雑木林へ入る。

 そこでキョロキョロと辺りを確認し――手近な木の幹に拳を叩き込んだ。


「使っかえないわねぇ! 何が落第のピンチよ! 勝手に落ちてなさいよ! あーもうサイアク! 今日はエリクと遊ぶつもりで他の誘い断っちゃったのに!! 今から捕まるかしら? フィリップ様は確か……」


 先程、エリク少年と居た時とは別人のような様子で悪態をつくプリムラ。一頻り苛立ちを吐き出すと、また愛らしい少女の顔でその場を去る。


 プリムラが去って、しばし。

 直ぐ近くにある孤児院の壁がガコンと凹み、スライドする。中からは数人の十代前半から二十手前程の少年達が出て来た。

 そして、そのうちの一人は、先程プリムラと共に居た少年、エリクだった。


 エリクは幽鬼のような顔でフラフラと、プリムラが殴りつけていた木へと近付く。


「プリムラ……ウソだ……こんな……」


 ガクリとその場に膝を着くエリク。

 その肩にポンと手を乗せるのは、金髪碧眼、王子様フェイスの美少年。


「分かっただろう? あれが、彼女の真実だ」

「でも……プリムラはあんな子じゃないんです、王都に来て、色々あって、だから」


 現実を受け入れられないのか、足掻くエリク。

 その様子に王子様フェイスの少年――アルセルス王国第三王子ミハイル・アルセルスは痛まし気に顔を歪めた。


「そうか……。そうかも知れないね。けれど同じ事だ。君の恋した素朴な田舎貴族の少女は、もうどこにもいないんだよ」

「っ………!!」


 知りたくなかった。認めたくなかった。

 けど……本当は、どこかで勘付いていた。

 その場に蹲り、嗚咽を漏らすエリク。ミハイルも傍らに膝を着き、静かに寄り添う。


 ――そんな二人を、隠し扉の前で眺める人影が三つ。

 そのうちの最も小さな影が呟く。


「寒いんだけど。もう帰っていい?」


 空気を読まず、平坦に言う十二三程の少年に、傍らの十代後半の少年が上着を脱ぎ、少年に着せかける。

 季節は冬。いつまでも外に居るのは厳しい季節だ。


「ごめんね、もう少し付き合って」


 心底申し訳なさそうな少年に、十二三の少年、シエルは渋々頷く。

 シエルは青灰色の髪に青緑色の眼の、美しくも醜くもない平凡な、平たく言えばモブ顔の少年である。

 この神殿内にある孤児院に赤ん坊時代から世話になっている孤児だ。


 そんなただの孤児に過ぎない自分が、なぜ王子などと行動を共にしているのか、なぜ、こんな愁嘆場に居合わせるハメになっているのか。

 シエルは深々と溜め息を吐いた。






 事の始まりは何か?

 色々と要因はあるだろうが、起点はやはり、地方の田舎貴族、ジャイン男爵家の令嬢プリムラが祝福の儀で【聖魔法】を授かった事だろう。


 成人式でもある祝福の儀。

 満十五になると受けられるこの儀式では、誰でも必ず祝福(ギフト)と呼ばれる特別な力を神々より賜る。

 それは本人の生まれ持った素質や、それまでの研鑽を補強するようなものがほとんどだが、稀にそういった事とは無関係に賜る祝福(ギフト)もある。


 その代表例とも言える祝福が【聖魔法】。

 この世界には穢れと呼ばれる禍々しい"何か"が蔓延している。それがいつ生まれ、なぜ存在するかは不明だ。

 それは、大地を穢し、生き物を変質させる悍ましいモノ。

 その穢れに対抗する唯一と言っていい術が【聖魔法】だ。


 【聖魔法】は神々より穢れに対抗すべく与えられたものと考えられており、【聖魔法】を授かった者は神々より特別に選ばれた者として崇められもする。


 【聖魔法】は一国につき数年に一度しか現れない希少な祝福。

 見つかり次第国と神殿で保護し、養育し、穢れに立ち向かって貰うのだ。


 そして、プリムラも慣例通り王都の神殿へ送られ、学園に通いながら神殿で修行する事になったのだが、ここからが政治も絡む面倒臭い話。


 前述したが、穢れは世界中に蔓延しており、聖魔法使いは希少。

 それが何を意味するか。

 国家間での聖魔法使いの取り合いである。


 聖魔法使いは基本、穢れの対処をしていれば良い。けれどその重要性ゆえに世間知らずでは危険だと、出自を問わず学園に入る事になっている。

 当たり前だが学園というのは同世代の男女が集まる場だ。そして学園には友好目的で他国からの留学生が複数来ている。

 結果、高位貴族間でプリムラ争奪戦が勃発した。


 そうした事態を防ぐ為に、プリムラには王都に来て直ぐ、第三王子ミハイルとの縁談が打診されていた。

 相手は王子。同い年の美少年。断る理由は無いと思われた。

 しかしプリムラはこの縁談を蹴った。「畏れ多い」「自分に王子妃が務まるとは思えない」そう言って。


 王宮はその言葉を受け入れた。

 聖魔法使いと言えど男爵出身、王族など雲の上の存在であり、怯えるのも当然だと。

 しかし、折しも今は学園に要警戒な国の公爵令息が滞在中だ。このまま野に放すのも危うい。

 王宮は学園に通う国内の貴族令息に非公式ながらも命令を出した。


 誰でも良いから新しい聖魔法使いを口説き落として国に繋ぎ留めよ、と。


 アホな命令である。


 しかし懸念は当たり、他国の貴族令息がプリムラに接近する。

 そうなれば放置は出来ない。正しく危機感を持った者、単に野心から動いた者、普通にプリムラに惚れた者、動機はそれぞれだが、学園の男子生徒の多くがプリムラに群がった。


 そんな状況に置かれた、田舎から都会に来たばかりの少女がどうなるか?

 まあ、調子に乗るよね。

 これに関しては王宮の方が悪いと、シエルは思う。もうちっとマシな指示出せや。若しくは形だけだからとか説得して誰かと婚約させとくとか。


 ちなみに、エリクは王都に来た結果プリムラが変わったと主張しているが、アレは元からの性格だとシエルは思う。


 シエルは神殿内にある孤児院に住んでいる。神殿は広いが同じ敷地内だし、聖魔法使いの業務として孤児院に顔を出す事も何度かあった。

 その時の、プリムラの子供達を見る目は冷ややかだった。

 表面はにこやかに子供達と交流を持とうとしていたが、こちとら大人の感情に敏感なお子様。それに貴族の慰問は度々あり、本心から子供を慈しんでくれる貴族も上っ面の慈悲を垂れてくる貴族も沢山見て来た。

 あれは、平民など、それも孤児など人間とも思っていない者の目だった。


 ついでに言えば、神殿内はシエルの庭だ。

 この神殿はおよそ六百年前、アルセルス王国が興る以前から存在する遺跡と言ってもいい建物で、冒頭に出て来たような隠し通路や隠し部屋があったりする。


 シエルは幼少期に、小さな子供が使う事を前提としたような小さい通路や低い位置にある仕掛けを多く見付けた。なぜそんな子供専用の隠し通路があるのか不明だが、どうやら孤児院関係者は知らない様子で、シエルは大人に隠れて外と出入りしたり、大人が子供の前ではしない話を盗み聞きしたりしていたのだ。


 そして偶に、プリムラが一人で居る所に遭遇し、冒頭のような人前で見せているのとは別人のような言動を何度か聞いた。


 そうして盗み聞きした中に、こんな噂があった。


『プリムラを追って田舎から出て来た、プリムラと付き合ってると思い込んでいる勘違い男』


 その男は確かにプリムラとは幼馴染みであり、父親の男爵の覚え目出度く一度は婿候補になったらしい。しかしプリムラ本人はその気は無く、しかし父のお気に入りゆえに無碍にも出来ずにいたら両思いだと勘違いされ、聖魔法使いとなって手の届かない存在になったにも関わらず今も恋人気取りで付き纏っているという。


 エリクの事である。


 神殿に足を運ぶエリクを実際に見てシエルは思った。

 ああ、いいように転がされてるなぁ、と。


 終いには『プリムラを無断で連れ出し堕落させようとする不逞の輩』『粋がって入学したクセに落第しかかっている落ちこぼれ』なんて言われてて、流石にシエルも同情した。


 シエルは元々本好きで神殿内の図書館をちょくちょく利用している。

 そこでしばしばエリクと遭遇したのだが、エリクは真剣に頑張っていた。

 何があったかまでは知らない。ただ、エリクが噂されるような悪辣な人間ではない事。そうやって孤立する中、それでもプリムラの為にと勉強に真剣に取り組んでいるのは分かった。


 気の毒に思ったシエルは、エリクに声を掛けた。

 思い返せば、あれも分岐点の一つだった。


 そして自然とエリクに勉強を教える事になった。

 なぜ年下のシエルが勉強を教えてるのか。シエル自身疑問に思うが、エリクは平民の職人の子で、勉学には熱心でない環境で育った。

 本人も頭を使うより体を動かしたい質で、読み書きと足し算引き算が一応出来る程度。

 それでよく学園に入れたなと思うが、エリクは祝福の儀で【武芸の才能】を授かっていた。

 これもレア且つ有用な祝福だ。【武芸の才能】ゆえに、エリクは平民で学力で劣るにも関わらず入学出来た。

 こうした、有力な祝福を得たけれど学べる環境に無い人間を育てるのもこの学園の役目なのだ。


 そして、シエルは()()()神殿の孤児院育ち。王族も慰問に訪れるこの孤児院は、勉強にも力を入れている。

 そしてシエルは頭を使う方が得意な質で、本も好き。ついでにお手伝いをサボる口実にもなるので学業には力を入れていた。


 結果、年下のシエルの方が勉強が進んでいたのだ。

 また、勉強を見る礼として、シエルはエリクに武術を教わるようになった。

 これはシエルが孤児院を卒業した後、冒険者になるつもりだからだ。

 シエルの頭の良さから学園への入学も勧められたが、平民が入学する場合は祝福に左右される所が大きく、試験で良い点を取れても確実に入学出来るとは限らない。

 それに単純に冒険に憧れる気持ちが強かった。

 この時には冒険者ギルドに仮登録もしていて、王都近郊でなら薬草採取したり罠を使って野うさぎを狩るくらいはしていた。

 時には共に依頼を受けて王都近くの森に入ったりもした。


 そうこうするうちにエリクの方も状況が変わって来たらしく、学園の先輩だという人を連れて来るようになった。

 その先輩は貴族だったがスルリとシエルの懐に入り、あっと言う間に一緒に冒険に出る仲間になった。


 その後またメンバーが増えて、やはり学園の生徒かと気楽に冒険してたら後になって王子だと知ったり。

 そんでタイミング良くミハイル達が居る時にプリムラとエリクが会ってるのを見つけて、良い機会だからエリクに現実を見て貰おうとなって。

 で、冒頭に戻る。






「いやホント、なんでこうなった」


 場所は変わって、孤児院の隠し部屋の一つ。

 いつまでも外にいては寒いし人目に付き兼ねない。シエルの秘密基地にエリク達を案内してお茶を用意したりして落ち着いた所である。


 ちなみにこの部屋に入るには、通気口ダクトのような小さい通路の先にある仕掛けを解除しなければならない。

 シエルはまだ余裕で出入り出来るが、成長したら二度と入れないだろう場所だ。

 更に認識阻害的な魔法が掛けられているらしく、仕掛け自体シエル以外には見えないようだった。


 この部屋はいわゆる1LDKで、ミニキッチンにトイレ付き。水道も普通に使えた。見付けた時にはソファセットや食器棚と食器と調理器具と一通り有り、寛げる用意が揃っていた。

 何年前からあるのか分からないが、どれも汚れも劣化も見られず、直ぐ使える状態だった。

 ――本当に謎な場所である。


 愚痴るシエルの視線の先には、未だぐずぐずと鼻を啜っているエリクと、隣に座って慰めているミハイルが居る。


「まあ、そう言わずに」


 そんなシエルに横手から声が掛けられる。

 エリクが最初に連れて来た先輩、ライフェルト・シラー。子爵家次男だそう。

 ライフェルトは少女漫画に出て来そうな中性的で優しげな風貌のイケメンである。

 淡い色合いの茶の髪に紫の眼。背は高く、一見して細身に見えるがエリクと同じ騎士科で筋肉はしっかり付いている。


 更に反対側からも声が掛かる。


「お陰様で、私共は助かっていますよ」


 言葉と同時に、シエルの前にミートパイが置かれる。いつの間に用意したのか、皿からは湯気が上がりアツアツなのが分かる。そして漂う美味しそうな匂い。

 それを用意したのはディラン・エアレフト。爵位とかは聞いてないが貴族らしい。

 ディランは黒髪金眼の、一言で言うと執事なGa○kt様。長身の超美形。


 ついでに加えると、エリクはかわいい系の美少年である。少年誌バトル漫画の主人公で、小柄で女顔で、初見舐められまくるけど戦ったら強い系のアレ。

 実際、見た目と裏腹に戦闘では無双する。


 この部屋に居るのは、この五人で全部だ。シエル以外の顔面偏差値が無駄に高い。なんでや。


 シエルは空腹を刺激する匂いに唸った。

 ぐぬ……こ、これくらいで誤摩化されたりなんか……!!


「ああ、甘味の方が良かったでしょうか」


 どうぞ遠慮なくお召し上がりください。

 シエルの反応を見たディランは、そう言って更にフルーツと生クリームを盛ったプリンアラモードを追加した。だからいつ用意したの。

 育ち盛りの男の子(シエル)に、この攻撃は効いた。


「っ……いただきます!!」


 数瞬迷ってミートパイから手を打つ付けた。これはあったかいうちに食べないと。


「……うまぁ」

「お気に召したようで何より」


 もっきゅもっきゅとミートパイを頬張るシエルの両サイドで、イケメン二人もおやつを摘む。

 ……ま、分からんでもない。


 エリクのみならず、この場に居る四人は碌でもない噂がある。

 ライフェルトもディランもプリムラ争奪戦に参戦してる扱いで、ライフェルトは女を取っ換えひっかえし既婚者だろうと手を出すクズだとか。

 ディランはその美貌で男女問わず貢がせまくってて破産した者は数知れずとか。

 ミハイルは差別意識が強く平民や下位貴族を見下してるとか。

 こうして実際にあって話せばデマだなと分かるが、彼等は悪い意味で人の注目も浴びている。

 そんな中、人目気にせず寛げる場所を見つけたのだ。その場所を確保したいと思うのは仕方あるまい。


 一応、ミハイル達がガチのクズでシエルが騙されてるだけ、と言う可能性もあるが。

 まあ、そんなオチだったらシエルが己の見る目の無さに絶望するだけである。


 ミートパイが出て来てしばらくして、エリクのお腹がぐりゅりゅりゅと鳴った。

 エリクは顔を真っ赤にし、鼻を鳴らしながらもミートパイにかぶり付いた。食欲があるなら、大丈夫だろう。




「とにかく、もうプリムラ様の誘いには乗らないようにね。ちょっとでも二人になるのもダメ。せっかく噂が下火になったのに、また再燃してしまうから」

「はい……」


 お腹が膨れると、反省会が始まった。


「神殿の図書館は、もう利用しない方がいいでしょうか……」

「学園のは……どこぞの子息に絡まれるか」

「はい……」


 エリクは勉強に集中するのもままならんのか。


「あ、図書館にプリムラ様が来たら、俺が人呼べばいいのでは」

「シエルくんが?」

「だいたい一緒に勉強してるし。プリムラ様、しょっちゅう修行サボってていつも誰かしら探し回ってるから、不自然でもないし」

「サボってるの? いつも?」


 エリクが信じられない、と言う顔で問う。う〜む、まだ幻想が壊れきっていないようだ。


「……まさかと思っていたが、プリムラ様の修行、進んでないのか?」

「入学当初は真面目に修行していたと報告にあります。しかし、幾多の令息に観劇や食事に誘われるようになり、頻繁に出歩くようになりました。神殿側の日程までは把握しておりませんでしたが……」

「神官様達が言うに、プリムラ様が真面目に修行してたの、入学前までだって。入学して社交するようになったらそっち優先って、修行の予定かなり減ったって。その少しになった修行も、しょっちゅう抜け出すって頭抱えてたよ」

「なるほど……」


 納得とうんざりをミックスした顔をするミハイル。


「……せめて聖魔法使いとしてきちんと活動してくださっていたなら、苦労して機嫌を取る甲斐もあったが…………」

「もういっそ隣国にくれてやりましょうか」

「実に心惹かれる提案だが、聖魔法使い不足は深刻なんだ」

「今、王都の実働部隊の聖魔法使い、カイヤ様お一人ですもんね……」

「アグノス様が総本山に行かれてしまったのは痛手だったな……」


 アグノスの名前が出て、シエルはつ……と視線を逸らせた。

 アグノスとはプリムラの前に見出された聖魔法使いだ。彼女が神殿に入った後、本好き同士で話が合い仲良くなった。

 そんな彼女が国を出た理由は、とある小説。作中で総本山――神殿の元締めだ――が舞台になっていたのだが、その小説を推していた彼女は聖地巡礼のチャンス! と総本山での修行を志願し、意気揚々と旅に出たのだ。

 そんな動機による出奔が、自国にこんなピンチを招くとはアグノスとしても予想外だったろう。

 こんな事実、ミハイル達には言えない。


 ちなみにアグノスが【聖魔法】を授かってからプリムラが現れるまで三年の開きがあり、アグノスの前は二年ほど間があったが、その時の聖魔法使いは現在産休中。

 また、【聖魔法】を授かったとしても皆が皆、前線に出られる訳ではない。どうしても荒事はムリ、と言う人も居り、そうした人は護符や霊薬を作って全体のサポートをしている。

 他にも聖魔法使いは居るが、穢れ被害の深刻な地域はいくつか有り、そこの守りがあるので王都に来る訳にも行かず。

 現在、カイヤと言う聖魔法使いがワンオペで回している状態なのだ。


 そんな状況なので、不真面目で遊んでばかりの聖魔法使いでも、縋らざるを得ない。ゆえに多少遊んでいても重用されるのだが、それで図に乗って更に好き勝手すると言う悪循環が発生していた。


「仕事してないなら機嫌取る意味も無いのでは……?」

「それが、最低限、ホンッッットに最低限ギリギリだが、仕事はしているんだ」

「何それ質悪い」

「本当にね……」


 次々と出て来るプリムラの所業にエリクの目が死んで行く。

 エリクは嫌がらせの対応と授業に着いて行くのに必死で、その辺のプリムラの動向にまで気が付かなかったのだろう。


 この日はエリクの様子が落ち着くとそこで解散となった。

 そして数日後の学園が休みの日、シエルはエリク、ライフェルトと共に依頼を受けて王都の外へと向かった。

 シエルは孤児院卒業後の資金稼ぎの為に。エリクとライフェルトは要人警護の練習とか言っているが、要はシエル一人で森に入るのを心配しての事だ。


 何せ、シエルがちょくちょく踏み入っている森は穢れ溜まりの一つ。

 国内どころか、大陸でも有数の穢れ溜まり。広大な森の、更に先に聳える山脈を含めた地域丸ごと穢れに覆われている魔障の森なのだから。




 なぜ、そんな危険な森の直ぐ側に王都があるのか。

 話はアルセルス王国建国の、更に前に遡る。


 六百年前、アーテラス帝国と言う大陸統一を果たした大帝国があった。

 帝国は時代が下るにつれ分裂していき、大小いくつもの国が興った。アルセルス王国はその一つで、大帝国時代にこの魔障の森の管理を任されていた一族が興した国である。

 現在王宮として使っている建造物も、当時の領主館。

 そもそも魔障の森の監視の為に建てられた都市を、現在の王都として使っているのだ。


 あまりに危険な立地に引っ越しも何度か検討されたそうだが、いつも流れていた。

 と言うのも、王都の建物は王宮や神殿、各種ギルド、そればかりか民家に至るまで上下水完備、水洗トイレもシャワーもある。これは再現しようと思ったら途方もない時間も金も掛かるし、何より()()()()()なのだ。


 この上下水設備や防衛設備はオーパーツと言うべき物で、六百年後の今も、この設備を超えるどころか、並ぶ物さえ作れずにいるのだ。


 話が逸れたが、要するに、この王都を離れると生活の質が格段に落ちる上に安全性にも不安が出てしまう。

 かつて魔物暴走が起こった時、目の前の王都が無事で、遠くの都市の方が被害が大きかった、なんて事が実際にあった。

 目の前に魔障の森が広がっていても居座るというものである。




 エリクとライフェルトは気を張り詰めて、シエルはのんびりと、穢れの中に踏み入った。

 靄のような、触れないのにどこか粘っこい感じのする穢れ。触れればじわじわと侵食され穢れ物と言うアンデッドじみた怪物に変化してしまうそれ。


 しかしそれも、シエルには害を成さない。

 シエルが特別なのでは無い。これは、全ての人間が受けられる、期間限定の恩恵。

 十五未満の子供には、穢れは害を成さないのだ。更に、大人が採取すると即効能が失われる浄化の霊草も、子供の手で摘まれたなら効能を維持したまま持ち帰れる。


 なぜそうなるかは不明。しかしこの現象ゆえに子供はしっかりと保護され、又、冒険者ギルドに登録して危険極まりない森に入る許可が降りるのだ。

 今回も、シエルはそうした希少な霊草の採取依頼を取って来た。祝福の儀まで後数ヶ月。今のうちに稼がなければ。


 ちなみに、エリクとライフェルトは神殿で販売している護符を装備して森に入る。

 聖水なども準備している。それらは決して安くはなく、この辺の資金繰りに失敗すると赤字なるので、大人――祝福の儀を終えた者――が穢れ溜まりに入るのは色々な意味でリスクが高い。

 今回はシエルと言う、高価素材を確実に持ち帰れる人員が居るのでその辺りの心配は無い。


 既に何度も訪れ、どこに何があるかは把握している。一行は順調に採取地を周り、危なげなく王都に帰還した。


「お疲れさま〜」

「お疲れ様です」

「お疲れ、つっても穢れ物もろくに出なかったし、おれらなんもしてないけど」


 依頼完了の手続きをし、無事報酬を得てシエル達は手を叩き合う。


「肩車とかしてくれたじゃん」

「ライフェルト先輩がな」

「まあまあ、エリクか警戒してくれたからこっちは採取に集中出来たんだよ」


 ちょっと拗ね気味のエリクをライフェルトが宥める。

 そんなやり取りをしつつ神殿へ向かっていたところ。


「あら? ライフェルト様?」


 軽やかな女性の声に、ライフェルトの足が止まった。


「まぁ! やっぱりライフェルト様! お久しぶりですわ」

「お久しぶりです、グライデル嬢」


 そう言って小走りに寄って来たのは二十歳前後の貴族の女性。この辺りは治安も良く、貴婦人や御令嬢がそぞろ歩く姿が普通に見られる。


「もう、他人行儀ね。ミリーと呼んでって言ってるのに」

「ご容赦を」


 グライデル嬢とやらは、やたら近い距離でライフェルトに話し掛ける。

 態度といい、言葉の内容といい、ライフェルトの恋人かと思える光景だか。

 ……ライフェルト、嫌がってるね?


「ちょっとそこでお茶しましょう? それくらいの時間はあるわよね?」

「申し訳ありません、私は仕事中でして」

「仕事?」


 言って、ライフェルトは女性からスッと離れ、シエルに寄り添う。

 そこで初めて女性はシエルを見た。平民然とした格好のシエルに、女性の目に侮りの色が浮かぶ。


「この方の護衛で、魔障の森へ行ってきたところです」

「魔障の……ああ、神殿の子なのね」

「神殿まで送り届けなければいけませんし、その後も細々と」

「ライフェルトがそんな仕事しなくてもいいでしょうに」

「何をおっしゃいます。神殿との繋がりは重要ですよ」


 女性は少しごねたが、渋々と引き下がる。


「今度食事でも行きましょう? ね?」

「予定が空くようでしたら」

「絶対よ!」


 そう言って女性と別れ、また神殿へと進む。その足取りはこころなしか速かった。


「ライフェルト、疲れた? 秘密基地行く?」


 無言のまま神殿に着くと、シエルはライフェルトの顔を覗き込んだ。


「シエルくん?」

「さっきの人の事、嫌がってるように見えたよ。しんどいなら休んでったら?」

「…………」


 ライフェルトは一瞬泣きそうになって、「お言葉に甘えさせてください」と言った。


 孤児院の職員に帰還の挨拶だけして、秘密基地に籠もった。


「あの人、おれの事も無視してたな」

「ねー。何あれ」

「ごめんね、二人とも」


 持ち込んだ茶葉でお茶を淹れる。寒かったので、スパイスとミルクも入れて。シエルは砂糖もたっぷりと。


「ライフェルトが謝らなくてもいいよー」

「だよね。と言うか、あの人何なんです?」


 やはり持ち込んだビスケットの瓶から、お皿にザラリ。塩っぱい系と甘い系と複数用意されているのが有り難い。

 お茶を甘くしたので、シエルは塩っぱい方を噛じった。

 エリクの何気ない質問に、ライフェルトは少し苦い顔で答えた。


「あの方は兄上の婚約者です」

「「え?」」


 シエルとエリクは顔を見合わせた。あの令嬢は、どう見てもライフェルトを狙っていたが。


「ミュリエル・グライデル伯爵令嬢。私の実家のシラー子爵家と商売で提携を結んでいて、より強固な結び付きをと縁談が組まれたのです。それで、跡継ぎの兄上にグライデルのご令嬢が嫁ぐ事になったのですが」

「あー、ひょっとして、ご令嬢はライフェルトの方が良い、とか言い出した?」

「お察しの通りです」

「「うわぁ……」」


 この縁談は、あくまで家と家の結び付き。シラーの子息であればどちらでも良いだろう、と言うのが彼女の主張。

 しかしシラー家の跡継ぎは大分前から嫡男で確定しており、跡継ぎ教育を始めて数年経ち、今からの変更は厳しい。それに、シラー子爵はライフェルトは商売も領地経営も向かないとし、跡継ぎは嫡男で変更はしないと断言している。

 するとミュリエルは「なら、ライフェルト様が跡を継いで、実務を長男にやらせれば良いじゃない」と言い出した。


「酷くない? ……それとも貴族の価値観だと普通だったり?」

「いえ、貴族の常識から見ても有り得ない事です」


 おそらく、爵位が上な事から強気に出ているのだろうとライフェルトは言う。

 又、グライデル家との提携による利益は大きい、この話が流れて痛手を負うのはシラー家だと、グライデルの要求は断われないと踏んでいるのだろう、と。


 実際の所、シラー家とグライデル家とではそこまで大きな力関係の差は無い。

 グライデル家は現在落ち目で、提携当時は大きな存在だったが今ではそこまで重要でもない。

 一方、シラー家は商売で成功し羽振りは良い。この縁談が潰れても、シラー家に致命的なダメージは無い。

 かと言って問題が無い訳でもなく、彼女の我儘の為に長年の協力関係を潰すのもバカらしい。問題は娘一人の我儘、グライデル伯爵が諌めてくれれば。

 そう思い一歩引いた態度でいたのを、彼女は都合良く解釈したらしい。


「そこに、昨年プリムラ様が現れ、私はプリムラ様の婿候補に上がりました。そして彼の方に気に入られ側に置かれるようになりました。これにはグライデル嬢も諦め、兄上と正式に婚約を結びました。けれど」

「最近になって、先輩はプリムラから離れ始めた」

「それを聞き付けて、まだ望みがあると思って接触した?」

「おそらくは」

「人を馬鹿にしすぎでは? 人って言うか、ライフェルトのお兄さんを」

「そうなんですよ……」


 この一件で兄弟仲は冷え切ったらしい。

 ライフェルトは悪くないだろうにと思うが、こうした事例はグライデル嬢が初めてではなく、これまでにもお兄さんと仲良くなった令嬢が、ライフェルトと顔を合わせた途端お兄さんを捨ててライフェルトに、という事があったそうな。

 始めからライフェルト目当てでお兄さんに近付いた令嬢も居たとか。


「どっちにしろ悪いの令嬢達じゃん」

「それでも、兄から見れば私は邪魔者に変わりはありませんから……」


 それはそれで分からなくもない。


「ん? ライフェルト先輩、ひょっとしてその為にプリムラの取り巻きやってました?」

「ええ」

「あ、そんでお兄さんと婚約が成立して、もう大丈夫と思ってプリムラ様から離れた?」

「そうです。見通しが甘かったようですが」

「いや、それは……」

「お嬢さんがそこまで馬鹿だと思わなかったと」

「シ、シエル君……」

「だって、平民の俺でも分かるよ? そんな好き勝手通る訳無いって」

「「…………」」


 ライフェルトは深く長い溜め息を吐いた。グライデル嬢と結婚する気は無い。しかしそれを相手に納得させる手が思い付かない。

 苦悩するライフェルトに、貴族に産まれなくて良かったと平民二人は思うのだった。




 唐突だが、この世界も地球と同じように太陽は東から昇り西に沈む。そして四季がある。

 太陽が最も弱まる冬至は、地球でも特別な時期として、大抵の地域で祭りが行われていた。それはこの世界でも同じで、けれど地球以上に重視されている。

 穢れと言う脅威があるからだ。


 穢れの本質は不明ながら、昼に弱体化し、夜に強化されるのは分かっており、太陽は人々の守護神として崇められている。

 その太陽が弱まる冬至。

 この世界では、冬至を中心に計三日間、穢れと闇を警戒し、夜通し起きて火を灯し続る風習がある。

 これをアルセルス王国では不夜祭と言い、国を挙げて祭りが行われる。

 この三日間は王宮で盛大なパーティーが開かれ、国中から貴族が集まり、太陽の復活を願うのだ。


「そこで、シエル。頼む、僕のパートナーになってくれ!!」

「頭大丈夫? ひと眠りする?」


 辛辣なシエルの反応に、ミハイルはガックリと項垂れた。

 いつもの秘密基地。ミハイルは窶れていて疲れているのは明らかではあるが。


「シ、シエル君、もうちょっと、こう……」

「や、だって。パートナーって普通女の子でしょ? なんで俺に言うのさ」

「はい、ですから女装していただきたく」

「は???」


 ともかく話を聞いてください、と乞うディラン。

 どうやら真面目な話らしいと耳を傾けたが、要するに。


「政治情勢がややこしくてパートナーに出来るご令嬢がいない。でも王子としてパーティーに参加しない訳にはいかない。そこで『実在しないご令嬢を用意しよう』ってなった。で合ってる?」

「はい、ご理解いただけたようで何より」

「受けるとは言ってないからね?」

「……」


 ちょっとディランさん?

 ちなみに女性を伴わず参加するのも不味いらしい。なんか色んな思惑が渦巻いてるとか。

 そんな中に不慣れな平民放り込もうとすんなや。


 大体、貴族の夜会に参加出来るようなマナーなんざ知らないし、ダンスも踊れないし、と断るシエル。


 このパーティーは貴族社会に参入の決まった、希少な祝福を授かった平民の慣らしも兼ねており、マナーも何も無い平民が普通に参加しているので問題無い、とディラン。


「それ以前に女装しても違和感とかあるでしょ。無理があるって」

「いいえ、シエルさんなら何も問題ありません」(キッパリ)

「…………」


 あまりに力強く断言されて、シエルは二の句を告げなくなった。

 分かってる、シエルはもうすぐ十五になるが、成長が遅く十二か十三に見える。つまり、小柄で華奢なのだ。

 実は声変わりもまだなので、普通にドレス着てカツラでも被れば女の子に見えるだろう。特別な工夫も要らない。

 そういう()()()()()それは良い。

 しかし、納得出来るかどうかは別問題であって。


「……そ、それなら! エリクでもいいじゃん!!」

「ぶふぅっ!?」


 対岸の火事を決め込んでいたエリクは、突然の飛び火に紅茶を吹いた。


「ちょ、何言ってんの!?」

「ふむ」

「ディラン先輩!? 何検討してんですか!?」


 エリクもまた年齢より小柄で華奢だ。女顔な事もあり、騎士服を着てても女の子に間違われた事もある。普通にドレスも似合うだろう。問題は声だが、この世界には魔道具がある。変声機みたいな物もある筈だ。


 良し、押し付け成功!

 内心ガッツポーズを取ったシエルだが、そうは問屋が降ろさなかった。


「ちょっと宜しいでしょうか」

「ライフェルト殿?」

「つまり()()、何の柵も問題も無い()()がここに居る、と」

「ライフェルトさん? 何言ってるのかな???」

「どちらかお一人、私のパートナーを務めていただけませんか?」

「「ちょっと待てー!!!」」

「私も下手にご令嬢を誘えないんですよ! かと言って一人で出たり欠席したりしたらグライデル嬢が何を言い出すか! エリク君かシエル君か、どちらかと出席出来れば色々解決するんです!!」

「こっちはこっちで切実!?」

「よし、詳細を詰めようじゃないか」

「いやだから受けるとは誰も」


 結論だけ言うと、女装する事になりました。


 いやだって、ミハイルもライフェルトも必死なんだよ……。ライフェルトは人生掛かってるし、ミハイルに至っては国の未来掛かってるし……拝み倒され泣き落としされ、とうとう折れました。




 で、パーティー当日。


 シエルとエリクは王宮の控え室にて、ディランにメイクアップされております。ディラン、何でそんなスキル持ってんの。


「なんで……こんな事に……」

「エリク、ここまで来たら腹を括ろう」


 ハイライトの消えた目をして呟くエリク。そんな彼は今、ミルクティー色の鬘を付け、ふんわり淡い藤色のワンピースだかドレスだか(シエルには違いが分からない)に身を包んでいる。

 ハッキリ言おう。めっちゃ似合ってる。

 シエルは金茶の鬘に黄色のドレスだかワンピース。そばかすも追加して子供感を強調。シエルに淑やかさを求めなかったディランの策だ。アレな言動はお転婆さんで乗り切ります。




 ミハイル達は不夜祭まで数日を切っていたにも拘らず、これらドレスの用意と男を女装させパートナーとして出席させる許可をもぎ取って来た。

 ……ええ、はい。許可、降りちゃいました。

 流石に無断でとはいかなかったらしい。それはそうだろう。しかし、なぜ許可が降りた。


 なんでだよ、と思わず呟いた所、


「プリムラ様によって、貴族間の人間関係がめちゃくちゃになってますからね。これ以上、おかしな問題が起こるよりはと思われたのでないかと」


 そう真顔で返された。おのれプリムラ、厄病神め。

 支度が整い、それぞれのパートナーに手を取られる。


「今日はよろしくね、()()()()

「……はい、ミハイル殿下………」


 ちなみに、ミハイルのパートナーはエリクことエリー。王子のパートナー役は何とか押し付けた。頑張れエリク、いや、エリーちゃん(笑)!

 王族用の出入口に向かう二人を見送り、シエル達も移動する。


「では私達も行こうか、シェリー嬢」

「はい、ライフェルト様」


 ライフェルトの腕に捕まり、にっこりと笑うシエル。

 ここまで来たらグジグジしててもつまらん。何、コスプレだコスプレ。何事も楽しんだ者勝ちよ!!


 会場に入ると、早速ご令嬢達の視線が集まった。サッと扇で顔を隠したが、ギラギラした視線がシエルことシェリーに突き刺さる。

 ――モテモテだねぇ、ライフェルト。

 普通のご令嬢なら早速具合を悪くしそうなほどの注目度だが、そこはシエル、いやシェリー。

 視線に気付きつつもガン無視で、きらびやかな内装やどこからか漂う美味しそうな匂いに意識を向けている。


 ライフェルトに先導されるままキョロキョロしつつ歩いていると、近付いて来るカップルがあった。

 女性の方は、先日見た顔。そしてもう一人は初対面だが、誰だか直ぐに分かった。ライフェルトの兄だ。


「やぁライ。久しぶりだね」

「これは兄上、お久しぶりです」

「会いたかったわライフェルト様。全然顔を出してくださらないんですもの」


 うっわあ……。

 シェリーは内心呆れた。この人、婚約者の目の前でもライフェルト(他の男)に色目使いやがった。

 あ、お兄さん、目が笑ってないや。笑ってないっつーか、背後にブリザードが見えるわ。

 なんでまだ破談になってないんだろ。不思議。


「ところで、そちらの可愛らしいお嬢さんは?」


 お兄さんは婚約者の発言をスルーしてシェリーへと話題を振った。


「はい、こちらはシェリー嬢。懇意にしてる方の依頼で、不夜祭の間の世話をする事になりました。シェリー嬢、私の兄のフェルディナンドと、兄上の婚約者のミュリエル・グライデル嬢です」

「フェルディナンドだ。よろしく、シェリー嬢」

「まぁ、そうなの。よろしくね、シェリー嬢」

「シェリーと申します。よろしくお願いします」


 言って、付け焼き刃の下手くそなカーテシーを披露する。ミュリエルさんや、殺気がだだ漏れですぞ。


「何分急な話で、連絡が間に合わず申し訳ありませんでした」

「こればかりは仕方ないさ。しっかり面倒を見てやりなさい」

「はい、兄上」


 兄カップルはそれだけ言うとさっさと離れた。ミュリエルは未練がましい視線を向けていたが、場所が場所だからか素直に従った。

 二人が十分離れると、ライフェルトは、ふぅ、と息をついた。


「ありがとう、シェリー」

「まだ何もしてないよ?」

「いや、十分だよ。前はなんだかんだ言って私にエスコートを変えようとしてきたから」

「ええええ……」


 ライフェルトは明言を避けたが、シェリーが平民なのは直ぐに分かっただろう。そしてこの場に現れるこの年頃の平民と言えば、有力な祝福を授かった者しかいない。


 神々より有力な祝福を賜った者の保護は貴族の義務であり、異を唱えるのは恥となる。

 更に「懇意にしてる方の依頼」。これを逆らえない何者かからの指示と解釈したと思われる。立場上、そうした者の世話をしなくてはならないが、平民の相手などしたくない高位貴族が下位貴族に押し付けるのはよくある事なのだ。


 流石にシェリーの排除は得策ではないと判断したのだろう。

 その後も何人かと挨拶を交わす。ご令嬢やら貴婦人やらからは値踏みされ、男性陣はライフェルトが女連れな事に安堵していた。


 と、離れた所からどよめきが伝わって来た。

 何事か、と思っていると何やら騒ぐ声が。


「あっちは高位貴族の集まる場所なんだ。行ってはいけないよ」

「はーい……」


 興味津々でいたら釘を刺された。


「おや、あれはプリムラ様か。相変わらず人気者のようだ」

「ねぇ、あれはフィリップ・ウッスィーラ様じゃなくて?」

「まさか! エレーヌ様はどうなさったの!?」

「わたくし、先程エレーヌ様がお一人でいらっしゃるのをお見掛けしましたの。たまたまかと思っていましたが、まさか……」

「馬鹿な! ウッスィーラ家とフォーテスキュー家の婚姻は国家間の契約だぞ!? 反故にするなど……」


 周りで口々にその騒ぎが語られる。断片的なそれを聞くだけでも、何が起きてるかは大体分かった。

 会場はそのフィリップとやらの話で持ち切りだったが、王族入場が告げられ、王族一家が姿を見せると話題は一変した。


「ミハイル殿下が連れてる令嬢は、どこの誰ですの!?」


 悲鳴じみた令嬢の声があちこちで響いた。

 HAHAHA、俺知ってる。騎士科の学生(♂)だよ☆

 貴族達の動揺をよそに、国王陛下の挨拶があり、王太子夫妻が広場の中央に出て踊る。

 それが終わったら、貴族も順次踊るそう。


 あ、エリーちゃん(笑)がダンス会場に連れ出された。顔、めっちゃ強張ってる。でもちゃんと踊れてるな。

 ほんの数日しか練習期間はなかったが、エリクは持ち前の身体能力の高さで基本のステップは覚えたのだ。


「そろそろ私達も踊ろう」

「おう! ……んんっ、はい、ライフェルト様」


 クスクスと笑うライフェルト。シェリーは踊る事自体は好きだった。女子パートだが、楽しいものは楽しい。

 ステップはイマイチだが、リズムには乗れている。後はライフェルト、リード頑張って。(他力本願)


 活き活きと楽しそうなライフェルトに、見ていたご令嬢達は目を剥いた。何よあの娘、私の(違う)ライフェルト様と踊るなんて何様のつもり!?

 プルプルと震え、射殺さんばかりにシェリーを睨み付けるご令嬢達。

 呪いの視線も何のその、シェリーは全く気付く事無くダンスを楽しんだ。


 ダンスを気に入ったシェリーにより、二人は続けて三曲踊った。その後、空腹を訴えた為ビュッフェコーナーへ移動。

 お城のご馳走に目を輝かせるシェリーを微笑ましく見守っていたライフェルトは騎士科の先輩に捕まり、シェリーから離されてしまった。

 ちなみに、この先輩はとあるご令嬢の差し金である。


「シェリー嬢、ここに居てね? 必ず迎えに来るから」

「? はい」


 全く分かっていないシェリー。意識は既にご馳走にしか向いていない。

 あれこれ盛ったお皿を手にテーブル席に着き、ライフェルトを見送ったシェリー。

 早速ご馳走にパクつく。ではローストビーフから。

 その周りを無言で囲むご令嬢総勢六名。普段は反目する間柄だが、今ばかりは協力も吝かではない。


 なんとなく囲まれてるのは気付くシェリー。でも声掛けられてないし、と食事の手は止めない。噛みごたえがありつつ簡単に噛み切れるお肉。口に広がる肉の旨味。

 全く反応せず食事を続けるシェリーに、令嬢の一人が痺れを切らせた。


「ふん、図々しいこと。これだから卑しい者は」


 それを皮切りに、口々にシェリーを遠回しに貶す令嬢一行。シカトしてご馳走にパクつくシェリー。

 ただ単に無視している訳ではない。貴族ルールで、下位から上位に話掛けるには細かい手順が要るのだ。

 シェリーは平民で最低位。そしてこのご令嬢達は、その手順を踏ませる気が無い。

 シェリーがイビリに反応してご令嬢に何か言ったら、ここぞとばかりにマナーの無さを強調し、イビリも指導だったと言い訳が出来るのだ。

 なので、ここはスルー一択だ。


「ライフェルト様もお可哀想に、こんな小汚い娘の子守りなんかさせられて」

「一体どうやって取り入ったの?」

「どうせ汚らわしい手を使ったんでしょ? これだから平民は」


 む。肉と野菜が共に口の中に広がる。両者の間をゼリー? が繋ぎ絶妙なハーモニーを奏でている!! これは美味い!!


「ちょっと! 聞いてるの!?」


 無反応なシェリーに、とうとうご令嬢が声を荒げた。

 と、そこに。


「お止めなさい」


 静かな声が割り込んだ。

 見れば、そこに佇むのは清楚で儚げな印象の美少女。か弱げな姿だが、凛と背を伸ばし、気迫はシェリーを囲んでいるご令嬢とは比較にもならない。

 清楚系令嬢はシェリーを取り囲む令嬢一行に警告する。

 分が悪いと思ったのか、シェリーを囲んでいるご令嬢達が怯んでいる。

 しかし、次の雑魚臭を醸し出して来たご令嬢の次の言葉で空気が変わる。


「まぁ、このような平民にまで気を遣われるとは、流石はエレーヌ様ですわ。でももっとご自身の周りに気を付けた方がよろしいのではなくて?」

「! そ、そうですわ、フィリップ様はどちらにいらっしゃるのかしら!」


 フィリップ、の所で清楚系令嬢の目がスッと細まる。

 それに勢いを取り戻した雑魚臭を醸し出す令嬢達が次々に言う。


「まぁ、お人が悪い。フィリップ様はプリムラ様と……」

「本当、お気の毒に。わたくしでしたら人前には出られませんわ」

「ねぇ、エレーヌ様。こんな所で平民に構ってないでご自身の魅力を磨く努力をなさるべきでは?」

「そうですわ、殿方をしっかり捕まえておけないなんて、笑われてしまいましてよ」


 ホホホホホホ、と笑う令嬢達。

 食べながら(まだ食べてた)ふと疑問に思ったシェリーは、それをそのまま口にした。


「お姉さん達は男の浮気を認めてるの?」


 ピタリ、と笑い声が止む。


「なんですって?」

「いや、さっきから、そのお姉さんが悪いみたいな事ばっか言ってるけど、普通、浮気した方が悪いんじゃないの?」

「っ、それは! 貴族には色々あるのよ!」

「へぇ? じゃあ、お姉さん達は浮気されても『しっかり捕まえておけない』自分が悪いって受け入れるんだ? 大変だね」

「なっ、こ……この」


 ザコ令嬢の手の扇がギシリと鳴る。さてどうなるかと眺めていると。


「おほほほほほほほほほ」


 直ぐ近くで高笑いが起きた。

 ザコモブ令嬢衆は勿論、シェリーもそちらを向く。

 そこに居たのは派手な装いの華やかな美女。緩く巻いた艷やかな黒髪、意思の強さを表すキラキラとした青い眼。女性としては長身で、豊満な胸にくびれた腰のダイナマイトボディ。

 何よりも、溢れんばかりの生命力が彼女を輝かせている。

 そんな派手美人は、余裕を感じさせる笑みをザコモブ令嬢衆に向けた。


「そうねぇ、男の浮気を女の魅力不足と言うなら、自分が浮気されても自分に魅力が無いのが悪いと受け入れないといけませんわよねぇ」

「っ、これはソフィア様。ご機嫌麗しゅう」

「ご機嫌よう、ソフィア様。この度はご婚約おめでとうございます」

「おめでとうございます、ソフィア様」

「おめでとうございます」

「ありがとう、皆さん」


 コツコツと近付いて来る派手美人。

 あ、よく見たら隣の男性と腕組んでるわ。男の人、影薄くて気付くの遅れちゃった……。

 男の方は……芋顔、と言うか……。うん、男は顔じゃない。もっとも注目すべきは、婚約を祝われた時に、心底嬉しそうに派手美人と芋顔男(失礼)が顔を見合わせた事だ。

 あー、これはラブラブですわ。派手美人さんがこうもキラキラしてるのも、芋顔男の力かな? やるなぁ、芋。(本当に失礼)


 ザコモブ令嬢衆は祝いを口にしつつも男の顔を扱き下ろす。ん? この派手美人さん、ミハイルの婚姻者候補だったの? へぇ。それを気の毒がって見せるが、モブさんそれどう考えても悪手だよ。

 怒った派手美人さん、モブ令嬢を軽く一蹴、サクッと追っ払いました。


「お手を煩わせて申し訳ありません」

「あら、あれくらい大した手間ではなくてよ。それより、面白い方がいらっしゃるわね」


 清楚系令嬢と派手美人さんは知り合いらしい。

 派手美人さんはにっこりとシェリーに笑い掛け、そして――。


「〜〜っ、甘っ、んま〜っ」

「あらあら美味しそうに食べること」

「パティシエが喜びますね」


 シェリーは今、清楚なご令嬢と華やかなご令嬢、趣きの違う美少女二人に挟まれてケーキ食べてまーす。イェーイ。


 清楚系令嬢はエレーヌ・フォーテスキュー公爵令嬢。派手美人さんはソフィア・クロンクッド公爵令嬢。

 ちなみに、二つ三つ年上に見えたソフィアは一つ年上で、年が変わらないように見えたエレーヌは二つ年上でした。

 芋顔はエルンスト・スルース。彼は挨拶した後、ソフィアと何やら言葉を交わしてどこかへと去って行った。


「それにしてもソフィア様とスルース卿の仲睦まじさは噂に聞いておりましたが、噂以上でしたわね」

「ラブラブだったねー」

「まあ! お二人共お上手ですわね!」


 エレーヌが話題を振ったので、シェリーも乗っておく。ソフィアは超にっこにこでいやんと身を捩って、幸せ一杯です! と全身で表現している。

 シェリーも見ているだけで嬉しくなる。ここしばらく、碌でもない男女関係ばかり見ていたから、余計に……。


「羨ましいですわね。わたくしの方は、ご存知の通りですから」


 一頻り惚気けを聞いた後、エレーヌがそう漏らし、シェリーとソフィアは目を見合わせた。ねぇこれ拾うべき? 話を聞いて欲しいんじゃないかしら? ほぼ初対面にも関わらず、二人は目で意思の疎通を可能とした。


「フィリップ様も、困った方ですわね。こんなに素敵な婚約者が居るというのに」

「ああ、フィリップ様に他に想う方が出来た事自体はいいんですの」

「いいの!?」


 愚痴でも聞いて欲しいのかと思っていたシェリーは、その発言に思わずツッコんだ。

 驚いて見せるシェリーに、エレーヌは穏やかに微笑みかけた。


「だって、元々国の為の政略としての婚約ですもの。最初から感情は二の次よ。もし本当に想う方が居るなら、結婚は形式だけにして、その方と家庭を築いてもよろしゅうございましたのに」

「え……? い、いいの? それ、本当にいいの???」

「……褒められた事ではないけれど、そうした夫婦は本当に居るのよ。跡継ぎは双方の血を引いた子をもうけた上で、ね」


 何と言うか、貴族の場合『結婚=仕事』な所があって、家庭……この場合は政略結婚の相手との暮らしはプライベートではないんだと。

 貴族にとっての『家庭』は結婚後、伴侶以外の人と家の外に作るものだとか。


 ただその場合、夫婦仲は冷え切ってる訳ではなく、友人或いはビジネスパートナーとして仲は良いそう。

 本当にただ、仕事とプライベートを区別してるだけ。結婚が仕事に分類されているってだけらしい。


「ですから、政略として表面だけ取り繕ってくだされば、後は自由に恋愛を楽しむなり真実の愛を貫くなりしてくださって良かったのに……それを」


 どうやらエレーヌは貴族としてのプライドが高く、フィリップの浮気も、浮気自体ではなく、家同士の繋がりに私情を持ち込んだ事こそを怒っているらしい。


「ふむ……。ではエレーヌ様は、フィリップ様が他の方を思おうと、婚約がなくなろうと構わない、と」

「ええ。わたくしは家と国の為になる結婚をしたいのですわ。フィリップ様個人に思う所はございません」


 エレーヌ様、めっちゃドライ……。つーか、俺は何を聞かされてるのか……。

 まあ、これから貴族社会に参入しなくてはならない平民に、早いうちに貴族と平民の違いを理解してもらおう、って話なんだろうけど。


 そんな話をしていると、エルンストとライフェルトが戻って来た。どうやらエルンストはライフェルトを迎えに行かされたらしい。

 ソフィア様は途中から現れたにも関わらず、状況を的確に把握していて、あっさりと連れ出され、長々と引き留められたライフェルトに小言を言っていた。


 ソフィア達に礼を言い、会場を後にする。やるべき事は終えていたし、ライフェルトがやたら疲れた様子で撤退を切望したので。


 そして着替えるべく控え室に戻ると、どんよりと暗雲を背負ったミハイルと、部屋の端で体育座りをしブツブツと「女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い……」と呟いている明らかにSAN値がピンチなエリクが居た。


「何、どしたの」

「お帰りなさいませ。お着替えをしながら説明いたします」


 今回、裏方に徹していたディランによると、エリクはご令嬢達の集中砲火を食らったらしい。更にプリムラにも絡まれ、自分だと全く気付かない上に(エリク)には見せない顔で脅迫してきたとか。


 ちなみにプリムラは、シェリーにも因縁を付けようと探していた。見付けたのがザコモブ令嬢に囲まれてる時だったので、「あれなら自分が動くまでもない」と他の用事を優先し、エンカウントはしなかったが。


 そしてミハイルは。


「ねぇシエル君……ソフィアと仲良くなったみたいだね……?」


 生気の無い顔でミハイルが問う。

 そう言えば元婚約者候補だっけ、気になるのかな、と尋ねられるまま答えた。すると。


「そっか、幸せそうだったか……。ハハッ、流石ソフィア。とっくに僕の事なんか切り捨ててたんだね……」


 ……。えーと。


「ミハイル様ってソフィア様のこtむぐぅ」

「お疲れ様でした。お菓子をどうぞ」


 ディランにちっさい焼き菓子で口を塞がれました。言うなって事ですか、りょーかい。


 後でこっそり聞いた所、あくまで候補だったもののミハイルとソフィアは仲が良く、プリムラの件が無ければ婚約は確実だったとか。

 特にミハイルの方は本気で、プリムラに婚約を断られたのを幸いとソフィアとの話の復活を打診していた。

 政治的判断からそれは成らず、また、ソフィアの方はミハイルとの縁談が無くなったと見るやお相手探しを始めていたとか。温度差……。

 それでも今日まで望みを持っていたが、今日のパーティーでソフィアとエルンストの婚約を正式発表。ついに望みは断たれた。


 ……ミハイル、妙にエリクに対して親身だなーって思ってだけど、その理由って…………。


 この後、秘密基地に移動してパーティーの仕切り直しをした。人生の谷を彷徨っている二人を何とか浮上させ、夜通し遊んだ。


 その、翌朝。


 神殿のある一画。プリムラが一人、人目を憚りながら歩き……ある建物の()()()に入って行くのを目撃した。

 いつもの、隠し通路の中から。


「誰かウソだと言ってくれ……」

「残念ながら、現実です」


 絶望の呻きを上げるミハイルをディランがぶった切る。

 あー、面倒臭い事になったなー……。




 面倒且つ大事になった。


 神殿内に隠し通路があるのも一応大事ではあったが、出入り出来るのが孤児院限定だったのでシエルの希望もありこの五人で留めて置けた。


 が、プリムラが入って行ったのは、神殿関係者しか出入り出来ない建物。又、警備員の証言から正規の門(使用人等の裏方用の門含む)を使っていない、つまり神殿の外と中を繋ぐ道がある事も確定した。


 そこにプリムラの素行を足せば、この事を伏せ続けるのは危険だというのはシエルにも理解出来る。

 早速神殿と王宮に連絡が入り、調査が始まった。


 それで様々な事が判明した。

 まず、プリムラが使用した隠し扉は、聖魔法使いでなければ出入り出来ない。

 扉が聖魔力にのみ反応するタイプのようで、妊娠中の聖魔法使いや生産系聖魔法使いの協力が必要不可欠だった。

 そして問題だったのが、聖魔法使い限定通路が王宮にまで伸びていた事である。


 これが発覚した時点で、王宮側の人員は発狂しかけた。プリムラの協力があれば、その辺のゴロツキだろうが他国の間者だろうが入り放題だ。ミハイルなんぞは「それでか!」と何やら腑に落ちていた。プリムラ氏、何をした。


 危うく王宮を挙げての大捜査が始まる所だったが、直ぐにその可能性が低い事も判明した。

 この隠し扉、聖魔法使い本人以外は、有資格者と信頼関係を築いている者でないと出入り出来ないのだ。


 どういう訳か、目の前で扉を開き出入りして見せても、()()()()()()の信頼の無い者には扉を認識出来ないし入れなかった。

 今度は王宮魔導師が発狂しそうになっていた。仕組みの見当も付かないそうな。


 ともかく、それでプリムラが外部の者を出入りさせている可能性はぐっと減った。プリムラのようなタイプは人に信を置く性格ではない、との事。


 ちなみに孤児院の隠し扉も同じで、ミハイル達四人以外は認識出来なかった。めっちゃ嬉しそうにされた。

 又、孤児院内部の隠し扉はやはり十五未満の子供限定だった。聖魔法使いも入れなかった。

 しかし子供全員ではなく、シエルを含め、一部の子供にしか見付けられなかった。これはシエルにとっても意外な結果だ。子供なら誰でも出入り出来ると思っていた。


 そしてあれこれ協議した結果、シエルは今、孤児院内の隠し通路の中からディランと外の隠し扉を監視しています。ちなみに、国からの正式な依頼として。


 どうやらしばらくプリムラを泳がせる事になったらしい。

 この隠し通路の存在は色々と激震を走らせたが、それによって見付かった悪事も多いとか。

 その中に、プリムラを利用した他国の干渉だかなんかがあって、隠し通路の発見は伏せたまま、プリムラの動向をチェックする事になった。


 で、ここで発生した問題が一つ。

 隠し扉への出入りは、認識阻害が強力らしくその場を目撃しても記憶に残らない。

 シエル達がプリムラの出入りを認識出来たのは、同じく隠し通路の中にいたから。

 つまりプリムラの動向を把握するには有資格者とその信頼を得た者が必要で。

 確認すべき隠し扉の中には、孤児院側からでないと見えない場所のもあって。

 出入り出来る子供は数えるほどで。

 その中で、大人を出入りさせられるのはシエル一人だけだった、という。


 まぁ、急に出て来た大人をいきなり信頼なんて出来る訳がない。王宮や神殿の人達も頑張ってはいるが、信頼関係を結ぶのに、時間はどうしたって必要だ。


 そんな訳で、孤児院側の隠し扉はシエル一人で請け負う事になった。

 基本的に、シエルにディランかライフェルトが交代で付く形。ミハイルは王子業で忙しく除外、エリクはプリムラに関しては理性的な判断が期待出来ないとして除外。


 監視と言っても、シエルの役目は出入りの為の鍵。集中力も続かないし、伝言を運んだり差し入れを渡したりといった事が主な仕事だ。

 本を持ち込んだりもしているが、基本は暇。なので。


「疑問なんだけどさ、プリムラ様を処罰したりしないのって、なんで?」


 ディランは一瞬だけシエルを見て、また外へと視線を戻した。


「疑問に思いますか?」

「うん。人手不足で、プリムラ様の協力が得られなくなるとヤバいってのは聞いたけど、それだけでここまで悪化するかなぁ? って。国とか、人の生死が関わってるなら尚更、誰かしら厳しくあたる人が居るべきじゃないの?」


 ディランはしばし考える素振りを見せ、それから口を開いた。


「シエルさんは、穢れが怖くありませんか?」

「怖い?」

「私は怖いですよ。穢れによって化け物に成る事も、穢れにより齎される被害も。それらと関係無く、穢れそのものに、恐ろしさを覚えます」

「……」

「もし、穢れを身に受けてしまった時。穢れ物に襲われた時。聖魔法の使い手に、見捨てられたら? 見捨てるまではいかずとも、()()()()()()で、対処を後回しにされたら? ……穢れの脅威を正しく認識している者ほど、聖魔法使いに厳しく当たれません」

「……」

「又、穢れの浄化は、聖魔法使いに多大な負荷をかけます。レイラ猊下の眼の事はご存知ですね?」

「……うん。三十年前の魔物暴走(スタンピード)の時、より強い力を得る為に両目を捧げたって」


 神殿のアルセルス王国支部のトップ、救国の英雄の一人、盲目の聖女レイラ。常に両目を布で覆う老女の姿は、多くの国民も知る所だ。


「有事の際、私達はまた聖魔法使いに犠牲を求めるかも知れません。厳しく当たり自由を制限して、その後で取り返しのつかない不自由を背負わせるかも知れません」

「……可能性の、話でしょうに」

「ええ、あくまで、可能性です」


 シエルは反論したが、その語気は弱い。かつてレイラ猊下に救われた世代が、猊下を神の如く崇めているのは、シエルも知っている。

 彼等の聖魔法使いへの想いは、シエルには想像も付かない。


「それらの点を含めても、決定的な被害が()()出ていない、と言うのが一番の要因でしょうか」

「まだ」

「ええ。今起きている問題は、まだ対処可能な範囲なんですよ。これから先、問題が肥大化するのは見えていても、今、行動を起こすには被害が小さい。その為に傷を負うのを躊躇う程度には」

「ああ……」


 何となく、ディランの言いたい事が分かった。

 病気や犯罪の予防みたいな話だ。甘いものや油ものを食べ過ぎていて、不味いと思いつつも止められないのと一緒。

 病気と認定されないと、真剣に取り組まない。下手をすると、病気認定されても改めないが。

 あれと同じような心理状態に陥ってるのか。

 それと。


「それに、自分じゃない誰かが我慢して穏便に済むならそれでいい、とか?」

「……どなたの事をおっしゃってますか?」

「エレーヌ様?」

「どこでそれを」

「当てずっぽうだよ。この間のパーティーで、エレーヌ様の婚約者が他国の人っぽいって聞いて、今回のプリムラ様の問題にも他国の人が絡んでるみたいな事言ってたから」

「……意外と良く見ていますね」

「それ褒めてないよね?」

「シエルさんは政治には関心が無いように見えましたので」

「……。それで、エレーヌ様一人に皺寄せ行きそうなの?」


 あからさまな話題転換だが、ディランは反応せず、少し迷うように眉根に皺を寄せた。


「……今、プリムラ様とフィリップ様は恋人同士だと、社交界では見做されています」

「うん?」

「これは、事実かどうかは関係ありません。問題は、端から見て、他国の人間(フィリップ様)聖魔法使い(プリムラ様)を射止めたように見える事。もし、この状態が続けば、他国の人間がプリムラ様に近くのを許したミハイル様、そしてフィリップ様を繋ぎ留められなかったエレーヌ様に非難が向き、槍玉に上げられます」

「ええ……」

「繰り返しますが、事実かどうかは関係ありません。大事なのは、問題が表面化して被害が出た時、堂々と批難出来る対象がある事なのです」

「ただのゴロツキじゃん。その有り様でよく平民見下せるよね」

「貴族全員が平民を見下してる訳ではありませんよ」

「批難対象を欲しがる人と、人を見下す人って同じじゃない?」

「否定はしません」


 はぁ、とシエルは溜め息を吐く。何ともモヤる話だ。


「ずっとこのまま、という事はありませんよ」

「ん?」

「状況は常に動いています。フォーテスキュー公爵がこのままでは済ませませんし、王家も動いています。何より、いずれは新しく聖魔法使いが現れて、プリムラ様の重要度も下がります」

「それまでの辛抱って?」

「はい」


 いつか、変わるとして。

 ……それまでに、どれだけの人が辛酸を舐めさせられるのか。


 この日はしばらくして、他の場所にプリムラが現れたとの連絡が入り、そこで仕事は終わった。

 その後数ヶ月ほど監視が続いたが、年末を前にシエルへの依頼は終了を告げられた。変化があったのかどうかは、シエルは聞いてはいない。




 この世界の年末年始は、春頃に設定されている。

 太陽に主軸を置き、春分を太陽の活動開始期と見做し、人間にとっての日の出、一日の始まりに該当するものとする思想からだ。


 ゆえに、春分の日を一年の始めとし、その一〜二週間ほど後に仕事初めや学校の入学などが行われる。


 当然、その年末年始にもパーティーがあり、年明けの翌日、王宮では新年を祝うパーティーが開かれていた。

 国中から貴族が集まり、国外の賓客も多く出席する盛大なパーティー。

 その席で。




「エレーヌ・フォーテスキュー! 貴様との婚約を破棄する!!」




 高らかに、そんな宣言がなされた。


 宣言したのはフィリップ・ウッスィーラ。隣国から留学して来ている、銀髪に薄い水色の眼の冷たい印象の貴公子だ。

 彼は片腕に桜色の少女プリムラを抱き、一人の少女と対面している。


 対面するはエレーヌ・フォーテスキュー公爵令嬢。突然の宣言にも動じず、静かな佇まいでフィリップに問うた。


「婚約を破棄、ですか。そちらのお国は承知しておりますの?」

「まだだが確認するまでもない。貴様のような外面だけ取り繕った悪女より、プリムラ様のような女性の方が歓迎されるのは明白だ」

「フィリップ様……」


 フィリップの台詞に、プリムラは恥じ入るように頬を染める。

 しかし、そのくらいで恥じ入るような者なら、他の婚約者が居る男の腕の中に居る現状をこそ恥じるべきだろうに、その事には気付かないらしい。


「左様ですか……」

「不服か? 不満に思うならばまずは己の――」

「承知しました」

「己の不明を詫び……何?」

「承知しました、と申し上げました」


 思わぬ展開だったのか、フィリップは得意気だった顔をポカンとさせる。


「な、何を言っている。この婚約は国家間の取り決めだぞ! 貴様個人に決定権など無いぞ!」

「それはフィリップ様、いえ、ウッスィーラ卿も同じ事では?」

「わ! 私は! 国の代表としてここに居るのだ! 貴様とは違う!」


 ちなみに、彼と同じ国の外交官もこの場に居るが、外交官は顔を赤黒く染めてワナワナと震えている。


 ここで、壮年の男性が一人進み出た。


「では私が応じよう。婚約破棄、確かに承った」

「フォーテスキュー公爵!?」


 フィリップは驚きの声を上げる。

 なぜかフィリップは狼狽えている。彼は自分から婚約破棄を願い出て、それが受理されるというのに、焦っているようにさえ見える。

 傍らのプリムラも、困惑の表情だ。


「お、お待ち下さい!」


 顔を赤黒くしていた外交官が声を上げた。


「これはウッスィーラ公爵令息の独断です! 我が国は貴国を尊重し友好を望んでおります!!」

「なっ! 貴様何を言っている! 下がっていろ!」

「それはこちらの台詞です! 何を勝手な真似をしておられるか!!」


 外交官はフィリップを一喝した。このような場で同国人同士で揉めるなど恥でしかない。

 しかし、恥を晒してでも、国としてはアルセルス王国を侮辱する意図は無いのだと知らしめるべきと判断したのだ。


「少々宜しいでしょうか?」


 そこに新たな登場人物が加わる。神官服に身を包んだ年配の女性、神官長である。

 神官長の登場に、プリムラはビクリと身を縮めた。


「これは神官長殿、いかがなされた」

「失礼、私は政治には関わるべきではないのですが、どうやら問題の中心にこちらの聖魔法使いが関わっているようですので」

「! そ、そうだ! 私はこの女との婚約を無くしプリムラ様を連れ帰る所存だ!」

「フィリップ殿! いい加減になされい!!」

「はい。聖魔法使い様に生涯を共にする方が見付かったのは喜ばしい事。どうかプリムラ様をお願いします」

「何……?」

「へ……?」


 怪訝そうにするフィリップとプリムラをスルーし、神官長はフォーテスキュー親子に願い出た。


「申し訳ありません、フォーテスキュー嬢。貴女からウッスィーラ卿を奪う事、どうぞお許しください」

「そんな、神官長様が頭を下げる事はありませんわ。元よりこの婚約は政略によるもの。より良い縁組みがあるなら、わたくしは喜んで祝福しますわ」

「ちょっ! 何をおっしゃいますの!? わたくしはあんた……んんっ、貴女の婚約者を奪ったのですよ? 恨み言なり何なり、ございますでしょう?」

「まぁ、プリムラ様、そのような……。大丈夫です、わたくしは本心からお二人を祝福していますの。お気遣い有り難う存じますわ」

「っ、……そう、ですの」


 にこやかに、晴れ晴れと言うエレーヌ。この婚約破棄が大した痛手になっていないと分かる笑みだ。

 一方、プリムラは俯がちに顔を伏せる。その姿は罪悪感を抱いているようにも見えるが、その表情はどうなっているやら。


「ふむ。なるほど、フォーテスキュー家とウッスィーラ家との結び付きは我が国にとっても大きな意味があったが、聖魔法使い殿のお望みとあらば仕方ないな」

「陛下……!」


 続いてアルセルス国王が出て来る。


「陛下、このような私事で国政を乱した事、深くお詫び申し上げます」

「良い、良い。聖魔法使いは神に選ばれし者。彼の者の為に便宜を図るのも神殿の務め。こちらとしても、協力するに吝かではない」

「寛大なお言葉、感謝致します」

「……!」


 これはプリムラへの皮肉だ。プリムラは神に選ばれた事を笠に着て好き放題していた。

 だったら今回の()()も、叶えてやろうではないか。

 隣国なり何なり、自由に行けば宜しい。こちらはもう、プリムラ一人に拘る理由は無いのだから。


 フィリップは混乱した。プリムラを引き込む素振りを見せ、プリムラから手を引く代わりにこちらに有利な条件を引き出す筈が、なぜこうなる?

 アルセルスは今、絶対に聖魔法使いを手放せない。フリだと分かっていても応じざるを得ない筈だ。それが、なぜ。


 その答えは直ぐに提示される。


「皆の者、若き聖魔法使いの門出に祝福を! そして、此度はもう一つ、諸君らに吉報がある!」


 国王はパーティー会場の奥、王族など高貴な者専用の扉を示した。

 その扉が、国王の合図でゆっくりと開かれる。

 そして現れたのは、高位の聖職者である事を示す白いローブを着た、十代前半の少年。


「今年、新たに【聖魔法】を授かった方が現れた! 御名をシエル! 皆の者、歓迎の拍手を!」


 会場は喝采に包まれた。






 突然だが、シエルは元日本人の転生者だ。

 持病があり、四十代で病死した。そんな『私』の趣味は読書で、ネット小説も好んで読み、拙いが投稿サイトに作品を投稿したりもしていた。

 ビュー数もポイントもろくに伸びない泡沫作家だったが、熱心な読者が一人、付いてくれた。

 『✡世界創造の意思✡』と言う厨二全開のペンネーム。その人は更新の度に感想を書き込んでくれた。ある時『✡世界創造の意思✡』は「自分も作品を作ってるんですよ。いつかお見せしますね」と言って(書いて)来た。

 これだけ応援してくれた人である。「是非見せてください」と返信した。割と本気で待っていたが、作品完成の知らせは無いまま『私』は死亡した。

 すると。


「はじめまして! 『✡世界創造の意思✡』です! さ、約束通り私の世界(作品)を見てください!!」


 肉体から離れ、魂だけになった『私』のもとにあからさまに超常存在な"何か"が現れそう言った。

 は……? ってなるよね。


 『✡世界創造の意思✡』さん、ガチで異世界の創世神でした。

 何その超展開。斜め上が過ぎる。

 大分時間を掛けて状況を理解した『私』は、約束通り『✡世界創造の意思✡』の世界へと転生した。

 ……いやだって、色々ツッコミ所は多いけど、『✡世界創造の意思✡』が『私』のファンで、自分の世界に『私』を招待したいのは本心みたいだったし。

 仮に何かの思惑があったとしても、『✡世界創造の意思✡』が長年応援してくれたのは事実だ。それは本当に、嬉しかったのだ。

 そんな『✡世界創造の意思✡』の求めに応えないなんて選択、『私』には無い。


 ちなみに、『シエル』は『私』の作品の主人公だ。

 魔法特化で、魔法は世界トップクラスの天才だが、他はダメダメな極端なキャラ。そんな『シエル』を『✡世界創造の意思✡』は推していて、転生の際、「是非この姿、この性能で!」と懇願された。

 『シエル』は『私』の好きを詰め込んだキャラだし、嫌ではないが『シエル』と『私』では性格が大分違う。『私』は『シエル』を理解しているだろうが演じる事は出来ない。

 『シエル』を再現するのは無理だよ、と言ったが、


「『シエル』の中の人が作者様、って所がポイントなんですよ!」


 と力説された。

 理解は出来なかったが、まあヲタクって端から見ると意味わかんない事に拘る生き物だし、と了承した。

 ちなみに孤児設定も原作基準。年の割に成長が遅いのも、『魔力の強さゆえに幼い姿で成長が止まった』設定を再現したものだ。


 さて、そんな事情で転生したので、当然のようにチートと言うか特典がある。

 それが十五になると受ける祝福の儀で『祝福(ギフト)を自由に選べる』と言うものだ。

 ……いや自由じゃねぇな。『シエル』の設定に反するものは除外されちゃったから。

 除外されたのは主に物理運動系。『シエル』は魔法以外ポンコツで、特に運動能力が低いのだ。


 ――そんな特典があった為、エリクと知り合い、ミハイル達と出合い、彼等の窮状を知った()()()は悩んだ。


 これ、自分が【聖魔法】選べば色々解決するのでは?


 気が付いたが、最初はそれを選択する気にはなれなかった。

 この世界に生まれて、魔法や冒険者の存在を知って、魔法キター! 冒険者キター! とテンション上がって、よし、冒険者になって世界中を旅しよう! と決めて祝福の儀を楽しみに備えて来た。

 そこから別の道を選ぶのは、惜しくて。

 けれど、ミハイル達の窮状を知り、それをどうにかする切り札を持ちながら知らんぷりするのも気が咎めて。

 でもやっぱり、貴族社会に入れさせられるのは嫌だな、とかさんざん迷った。


 結局、【聖魔法】を選択したのだけど。

 その結論に至るまでに色々と葛藤はあったが、ぶっちゃけシエルが一人でグダグダ悩んでるだけなので割愛。


 いやだって、このまま旅立ってもミハイル達が気になって心から楽しめないだろうし。

 それに聖魔法使いには特定の国に付かず、旅をしながら世界中の穢れを浄化して回る者も居る。国が安定したらそんな道を選んでもいいし。

 と、誰に言ってるのか分からない言い訳をしつつ、【聖魔法】を選択し、神官に報告した。

 いやもう、大騒ぎになったよ。






 そして大騒ぎは今も続いている。

 盛大な拍手の中、シエルはミハイルの先導に従い、会場入りする。超特急で作られた正装のローブがクソ重い。

 会場より高い位置にある、バルコニーっぽい場所で止まり、一拍置いてミハイルが手を上げる。

 するとピタリと拍手がやみ、静かになる。凄い統率……。

 シエルは注目を一身に集め、教わった礼を執る。で、えーと。


「この度、【聖魔法】を賜りました、シエルと申します。皆様、どうぞよろしくお願いします」


 ……で、また一礼っと。

 また拍手が響く。後はミハイルが引き継ぎ、シエルの後見にはミハイルが付く事を発表し、皆シエルに良くしてあげてね、みたいな事を言う。


 その間、プリムラの視線が痛いほどに突き刺さっていた。

 その顔は市井でもよく見る、"自分の男を横取りされた女の顔"で。

 いや自分も男なんですけど。つうか、ミハイルに気があるならなんで婚約断ったんだよ。


 若しくは、シエルの周囲を固めているメンバーに関してか。

 シエルの背後にはエリク、ライフェルト、ディランといつものメンバーが揃っている。

 急に馴れない場に立つ事になったシエルへの配慮、と聞いているが……それも嘘じゃないだろうけど、九割はプリムラへの意趣返しだよね、これ。


 プリムラは多くの人間を欺いて来たが、対人に関しては社交界には経験も素質も遥か上の猛者がうじゃうじゃ居るのだ。

 プリムラが一度は断っておきながら第三王子妃の座を狙っている事も。

 その側に控えている美形従者も一緒にものにしようと企んでいる事も。

 それでありながら、自分を一途に慕う幼馴染みや、爵位は低くとも好みのイケメンをも侍らせようと画策していた事も、大体お見通しで。


 今まで好き放題暴れて来た彼女に、最後に仕返ししようと関係各所の皆様、頑張ったようです。

 いくつかは「いや、そこまで考えてるか?」と疑問に思っていたが、プリムラの様子を見るに、大体当たっているようだ。

 恐ろしい話だ。プリムラも、それを見抜く社交界の皆様も。


 会場に降りたシエルの前に挨拶の為に人が集まり、プリムラ達の姿は見えなくなった。

 高位貴族、各国の重鎮と挨拶を続け、程なくしてはた迷惑カップルが再び姿を見せる。

 順番待ちを無視して、堂々とシエルの前に立つプリムラ。

 フィリップ共々、貴族らしい落ち着いた態度だが、両者共その目にはギラギラとした圧がある。負の方面に、だ。


「はじめまして、シエル様。もっと早く挨拶したかったですわ」

「こんにちは、プリムラ様。はい、私もご挨拶したかったのですが、プリムラ様が見つからなかったそうで。お会い出来て嬉しいです」

「……! っそう」


 先達に挨拶もしない無礼な新人、とやろうとしたプリムラだが、あっさりと返り討ちに遭う。

 シエルに【聖魔法】が授かった後、直ぐに他の聖魔法使いと引き合わされ、挨拶した。その場に、プリムラだけが見つからず不在だったのは本当だ。


「はじめまして、フィリップ・ウッスィーラと申します」

「はじめまして、シエルです」

「この度は【聖魔法】受託、おめでとうございます。事前にお知らせくだされば祝いの一つも用意したものを。一体いつ祝福の儀をなさったのです?」


 これはミハイルへの「お前ら聖魔法使いを隠しやがったな!?」という当て擦りで、僅かばかりでもダメージを減らそうという足掻きである。


 一連の計画は、アルセルス王国の『聖魔法使い不足』を突いたもの。

 前回現れた聖魔法使いは国を出、その前の聖魔法使いは出産の為活動休止中。新しい聖魔法使いはやる気無し。

 プリムラが現れたばかりの今、次の聖魔法使い誕生まで二〜三年は掛かる。

 この危機を利用し、アルセルスより優位に立つ。


 その作戦の最大の問題点が、事の成否が新しい聖魔法使いの誕生――運に委ねられている点だ。


 確率は低いとはいえ、二年連続で聖魔法使いが現れた前例はある。だからこそ、フィリップ一派は神殿の動向に気を配り、直前まで聖魔法使い誕生の報が無いか探っていた。

 だから断言出来る。昨日までは確かに新しい聖魔法使いは居なかった。可能性としてはこの聖魔法使いが偽物か、故意に隠していたかだ。


 どちらにせよ、それは不正。そうでなくても大袈裟に非難して少しでもアルセルスにも瑕疵を付けてやる。

 シエルに訊ねたのは、この子供なら素直に吐くのではないかという期待からだ。他の王侯貴族では上手くはぐらかされかねない。だが、この子供はおそらく平民。いくらでも付け入る隙がある。

 はたして、シエルは素直に答えた。


「昨日です」

「はい?」

「お、私の誕生日は、昨日なんです」


 フィリップはポカンと口を開けた姿で固まった。


 昨日誕生日と言うのは本当だ。

 【聖魔法】の報告の後、妙に周りが急いでるなーと思ったが、この日に事を起こす事を察知していたからか。

 またギリギリを攻めたな我が誕生日。当日じゃなかっただけマシだろうか。


 この結果は偶然とも必然とも言えるだろう。

 原作『シエル』の設定を考えた時、「こいつゼッテー牡羊座だろw」と三月二十一日産まれにしたのだ。

 その設定を再現すべく、『✡世界創造の意思✡』はシエルを地球の三月二十一日に該当する春分の日に産まれさせた。

 そしてこの世界において、春分の日は年明け、元旦になる。

 ――新年を祝う正式で各国の重鎮が多数出席するパーティー。そこをフィリップが狙うのは自然な事ではあるが、出来すぎていると思うのは、穿ち過ぎだろうか。


 数秒でフィリップは復活した。

 いいや、昨日だって祝福の儀が行われていたのは把握している。その後確かに【聖魔法】を授かった者は居ないと報告を受けたのだ。

 フィリップはそこを突くが、再び撃沈するハメになる。

 これに関しては調査した者の手落ちだ。祝福の儀は国中でほぼ毎日行われている。その全てをきっちり調査し続けるのはどうしたってダレる。

 昨日、王都の神殿を担当した者は、新成人の親族が集まる場に潜り込み、そこで新しい聖魔法使いの話が出なかった所で『新しい聖魔法使いは出なかった』と結論を下したのだ。

 何せ、【聖魔法】を授かったのならそれを黙っていられる子供など居ない。自分は選ばれたのだと、喧伝せずにはいられないものなのだから。


 彼等の不幸は、その例外が存在し、最も最悪なタイミングで現れた事だろう。

 シエルとしては【聖魔法】取得は苦渋の決断だ。騒がれても面倒だし、と人が捌けた後で神官一人にだけ告げた。なので同じ日に祝福の儀を受けた者達は何も知らないのだ。


 シエルの話から大体の事情を察したフィリップは、あんまりな事実にメンタルが砂と化した。

 フィリップが完全敗北したのを見て取り、ミハイルもプリムラに畳み掛けた。


「プリムラ様も、この度はご婚約おめでとうございます」

「えっ? いえ私は」

「プリムラ様もようやく落ち着かれて、私も安心しました。どうぞお幸せに」

「…………!」


 欠片も未練などありませんよ、むしろ大歓迎ですよ、とプリムラに突き付ける。

 ディラン、ライフェルトもそれに乗り、超笑顔でプリムラの婚約を祝福した。

 実は婚約破棄は成っても、二人の婚約はまだ成っていないが、んなこたぁどうでもいい。プリムラに異性としての好意なんか無ぇんだよ、と全力で主張する。

 ちなみにフィリップも、本心では『顔が良くてもこんなバカ女要らねぇ』と思っている。なのでガチで結婚するしか無さそうな流れに軽く絶望していたりする。

 プリムラは、本人が思っている程モテてはいないのだ。


 例外としてエリクが居るが。


「おめでとうございます、プリムラ様。どうぞお幸せに」

「エ、エリク、あのね」

「……かつては、貴女様をお慕い申し上げておりました。愚かにも貴女様と想い合っていると勘違いしお側に侍ろうとした事、お詫び申し上げます。今後はそのような事はありませんので、どうぞご安心ください」

「い、いいのよ、そんな事。それより……」

「寛大なお言葉感謝します。――さようなら、プリムラ」

「〜〜っ!!」


 なぜか裏切られたような顔をするプリムラ。――なんて。

 本当は何となく理解出来る。プリムラは、万一自分の本性を知られてもエリクだけは付いて来てくれると思っていたのだろう。

 実際、エリクは直前までプリムラに想いを残していた。一途にも程がある。


 ちなみに、エリクは本当にプリムラとフィリップが結婚すると思っている。ミハイル達がそう思うよう誘導してた。横で冷静に聞いてる分には分かるような誘導だった。

 その誘導に、エリクはようやくプリムラへの想いを断ち切ったのだ。いくら一途だからって、結婚相手の居る者に横恋慕を続ける程愚かではない。


 そのやり取りを合図のように、フィリップはプリムラを連れて下がって行った。

 その後はまた挨拶デスマーチが続いた。途中、ライフェルトの家族も来て、その時ライフェルトは神殿に入ってシエルの専属騎士を目指すと決意表明した。

 シラー子爵は機嫌良く次男の進路を支持した。何せ神殿と王族、権力との繋がりを掴んで来たのだ。大喜びだった。


 その斜め後ろで、ミュリエルは何か言おうとしてフェルディナンドに阻止されてた。

 神殿に入る、と言う事は所属を国から神殿に移すと言うこと。貴族籍が無くなる訳ではないらしいが、家を継ぐ道は完全に無くなるそう。

 つまり、ミュリエルとライフェルトの結婚の可能性も消えたのだ。


 ……それが判明した時の、フェルディナンドの顔はしばらく忘れられそうにない。

 ミュリエルを見下ろして、こう、ニタァ、って……。

 シエルはホラー映画の怪異とか悪霊とかを連想した。そんな笑みだった。

 ミュリエルはライフェルトを注視していて気付かなかったようだ。自ら蒔いた種だ、頑張ってね。(目を逸らしつつ)


 ちなみに外交官の人は立ったまま気絶しているのを回収されたそうな。

 あの人は今回の計画に荷担してなかったようだ。これから大変だろうが、強く生きて欲しい。


 そうした挨拶が一通り終わった時、シエルは疲労困憊で口から魂を飛ばしていた。

 休憩用の部屋に通されると、シエルはソファに倒れ込んだ。


「お疲れ様でした」

「シエル様のお陰で難を逃れられた。感謝する」

「本当に有り難うございました、シエル様」

「お疲れシエル…様。頑張ったね」


 シエルとは対照的にミハイル達四人の表情は晴れやかだ。


 ……これで、シエルが気儘に旅をする未来は無くなった。

 きっと後悔するだろう。今日のパーティーだけでも、色んな思惑やらドス黒い感情やらを垣間見て辟易した。

 きっとこれから先、この比ではない人間の醜い面を見せつけられて、なぜ黙って国を離れなかったのかと、何度も悔いるのだ。


 でも、仕方ない。


「シエル様、お茶を」

「ケーキも好きなだけ食べていいですよ」


 ディランがお茶を供し、ライフェルトがケーキスタンドを設置する。

 甘いもの出しとけば機嫌直るとか思ってない? 食べるけど。


「うわ、凄い量。流石に全部は無理じゃない?」

「シエル様の好みが分からなくて、あれこれ用意したんだろう。手を付けなかった物は使用人のおやつになるから、無駄にはならないよ」


 エリクが出されたケーキの山にドン引きし、ミハイルが裏事情を解説する。


 仕方ない。

 だって、彼等が搾取され続けるのは、気に入らなかったのだから。


「ほら、シエル様。ケーキ食べて元気出しましょう?」

「……うん」


 シエルは重くなった体を起こしてケーキの山と対面する。うわホントに凄い量。

 そのケーキを囲むように、エリク、ライフェルト、ミハイル、ディランが居る。


 ――いつか、後悔するとしても。

 今、この瞬間に、自由より彼等の方が大事に思えたのは確かだから。


 今は友達と食べるケーキを、ただ楽しもう。






 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






「良くやった、ミハイル。大手柄だ」

「もったいないお言葉です」


 王宮のとある一室。

 新年のパーティーが終わって程なくして、ミハイルは国王に呼び出された。

 実の親子としても仲は良いが、今は政治の時間。親子ではなく王と王子の一人として相対する。


「こうも上手く彼奴らを出し抜けるとはのぅ」


 上機嫌に王は言う。


()()()使()()()()()()()()()()と聞いた時はまさかと思ったが、いや素晴らしい」


 ミハイルがその報を持ち込んだのは、年明けより前の事。

 そう、ミハイルはシエルが【聖魔法】を使()()()と、早い段階で当たりを付けていた。


「シエル様を見付けたのは、騎士見習いエリク及びライフェルト・シラーでございます。その手柄はどうぞその二人に」

「ほう、そうか」


 始まりはその二人。

 プリムラに目を付けられ不遇を強いられていた二人を、ミハイルは以前から気に掛けていた。そうやって二人からの信頼を築いていた己を、全力で褒めたい。


 ある時、ミハイルはライフェルトに相談を持ち掛けられた。ある子供の信頼を得て、その子供から大事な事を聞き出して欲しいというものだ。

 その大事な事というのは孤児院の隠し通路の事で、それ自体も大事だったが、それ以上に紹介された子供が大事だった。


 その子供は、穢れを全く恐れていなかったのだ。

 確かに十五未満であれば誰でも穢れの影響は受けない。しかし普通は、影響が無くとも穢れの悍ましさに近付くのを嫌がるものだ。


 プリムラの件で聖魔法使いについて調べていたミハイルとディランは直ぐに思い至った。

 それは【聖魔法】或いは何処かの神の【愛し子】を授かる者の特徴だと。


 この子は自分達の救世主かもしれない。そんな期待を込めて交流を続けたミハイル、特にディランはある疑惑を持った。


 シエルは既に【聖魔法】を授かっているのではないか?


 二人がそう感じたのは、シエルの反応だ。

 隠す事でもない為、シエルの前でもプリムラの話題はちょくちょく出ていた。そして訊ねられるまま、なぜそうなるのかを説明した。

 そして、シエルは『あれ? これ自分解決出来るのでは?』という顔をした。


 魑魅魍魎が跋扈する王宮を生き抜いて来た二人にとって、自由奔放がゆえに己を取り繕う習慣の無いシエルの心情を読み取るのは造作もない事だった。

 そして、こんな情報のみで、即これがあれば解決すると思える、孤児にも持てる"何か"など、一つしかない。


 前例もある。祝福は基本、十五を過ぎて祝福の儀を受けないと授からないが、穢れ物に襲われる、生死の危機に直面するといった場面に遭遇すると、本人の生存の為かその場で【聖魔法】を授かる事があるのだ。


 その後も何度か話題を振って反応を見て確信した。シエルは確実に【聖魔法】を使えるのだ。


 問題は、それをシエルが申告しない事。

 何があったかは知らない。シエルは人との交流がほとんど無く、孤児院の職員も孤児仲間にも親しいと呼べる人間が居らず、シエルの帰りが遅くなった時も、シエルが居ない事に気付く者が居なかったくらいだ。


 ……そんな環境であれば地元を捨てるのも躊躇いなど無いだろうが、ミハイル達と仲良くなっても、冒険者になって国を出る準備を進めるシエル。


 ミハイルは焦った。

 元より聖魔法使いの行動を縛る事は、国王さえ出来ない。その上、シエルの性格を思えば、権力をもって【聖魔法】の有無を問い質し国の為にその力を使うよう圧力をかければ、即、国を出て行くだろう。

 仮に留めて置けたとして、国に反意を持つ聖魔法使いではプリムラと変わらない。


 なんとしても、シエルの機嫌を損ねず、聖魔法使いとして国に留まる選択をして貰わなければならない。

 不確定な話ゆえに国の機関は使えず、大っぴらに話せる事ではない為に(そんな事をすればシエルは居なくなる)協力者を募る事も出来ない。


 結局地道に好意を得て、シエルが自分達を助ける気になるよう願うのが精一杯だった。


 その中で、エリクとライフェルトは頼もしかった。

 プリムラによる被害が大きく、自然にシエルの同情を引けた。不夜祭に女装させて参加させるのは賭けだったが、エレーヌやソフィアと知り合い、シエルに気に入られたのは予想以上の成果だった。


 その上、隠し通路の件で隣国の干渉も詳しく把握出来、祝福の儀でも静かにしていた為に調査員の目を欺き(それ以前に調査が杜撰だったが)、計画の阻止のみならず、計画を逆手にとって隣国に貸しを作れた。


 シエルの祝福の儀からパーティーまで一日弱。たったそれだけの時間で策を練り、関係各所に根回しをし、準備を整えた。

 文官達には過剰労働を強いてしまったが、彼等からは反対の声も文句も出なかった。プリムラの所業に、フィリップの横暴に、彼等もまた被害を被っていたのだ。

 それらの仕返しを出来るとあって、文官達は顔色を変色させながらも完璧に仕事をやり遂げた。

 パーティーが終わり、王宮には屍の山が築かれたが、彼等は満ち足りた顔をしていた。


 それもこれも、シエルが居てくれたからこそ。


「しっかりと教育し懐かせよ。くれぐれもプリムラ様の二の舞いにはならぬよう」

「御意」


 シエルがギリギリまで冒険者の道と聖魔法使いの道とで悩んでいたのは把握している。

 長年の憧れと下準備を棒に振らせたのは自覚している。だからこそ。


「誠心誠意お仕えし、何者からも守ってみせましょう」


 シエルは、沢山のものからミハイルを守ってくれた。その恩は、生涯を掛けてお返ししなくては。


 ――と言うのは、半分建前で。

 ミハイルには、まだしばらくは気の置けない友人達と過ごせるのが、ただ、嬉しかった。

・シエル (14) 平民 孤児

青灰色の髪に青緑色の眼。

身長:お察しください。

作中ラストで15になる。小柄で12〜13に見える孤児の少年。元日本人の転生者。この世界の創世神に推されている。呑気でマイペース。甘党。


・原作『シエル』とその作者

素人が書いた小説の主人公。魔法ヲタクで魔法は凄いが他はポンコツと言う極端な性能。自分がダメ人間な事を自覚しており、失敗にも開き直るが他者の失敗も(それが自分にも害があったとしても)あっけらかんと受け入れる寛容な面もある。

作者は四十代の若さで病死するが、生まれ付きの持病があり、子供の頃『二十歳まで生きられるか……』と聞いていた為、本人は長生きしたと思っている。


・エリク (16) 平民 騎士科一年生

赤茶色の髪に焦げ茶の眼

身長:お察しください。

プリムラの幼馴染み。プリムラとは幼少期から仲が良く、友達以上恋人未満な関係だった。と本人は思っているが、プリムラには同じような関係を維持しているキープくん(古)が複数居る。その中で、王都まで追い掛けられたのがエリクだった。

無惨に散った初恋を引き摺っている。しばらく女性とのお付き合いは考えたくありません……。


・ライフェルト・シラー (17) 子爵家次男 騎士科二年生

淡い茶色の髪に紫色の眼

身長:180cm台。まだジリジリ伸びてる。

八方美人で押しに弱い所があり、それが勘違い女性を作ってる面もある。

『既婚者にも手を出すクズ』の噂は、元々ミュリエルが流したもの。外堀を埋めにいったつもりだったが、途中で変に捻じ曲がり(某令嬢の暗躍有り)、ただの誹謗中傷で終わった。

人当たりの良いイケメンだが、女性にモテ過ぎて友達が居ない。シエル達は初めてと言って良い同性の友人で、物凄く大事に思っている。

当分は男友達とだけでつるんでいたい。


・ディラン・エアレフト (19) 王家の影 経営科一年生

黒髪金眼

身長:190超え。

ミハイル付きの王家の影。ミハイルに合わせて入学を遅らせた。主人に合わせて従者が入学時期をずらす事は多くあり、明らかに年上な一年がちょいちょい居る。

主な仕事はミハイルの世話と護衛。それとミハイルに近付く良からぬ者をその美貌で籠絡し情報を抜く事。他にも表沙汰に出来ない問題を起こした貴族から"自然に"財産や爵位を巻き上げたりもしてる。

現在の最重要任務はシエルの関心を引く事。


・ミハイル・アルセルス (16) 第三王子 経営科一年生

金髪碧眼

身長:170cm台。まだまだ伸びるよ!

国の都合で長年想っていた婚約者候補を諦めたのに、肝心のプリムラに振られた気の毒な人。その上、王子業と生徒会の業務とで忙しく、それを理由にプリムラからの誘いを断ったら『王子はプリムラを蔑ろにしている』→『下位貴族だから仲良くする気が無い』→『王子は差別主義者』にされた。

ギフトに【生存本能】を授かっており、ミハイルがシエルに着目し、引き留めに掛かったのはこの【生存本能】が仕事した結果でもある。

つまり、シエルを引き留められなかった場合は……。

ソフィアと結婚出来ないならいっそ神殿に入って独身貫こうかな、と思っている。


・『✡世界創造の意思✡』

作中の世界の創世神。

実は何度も世界の育成に失敗し、人類も滅びを繰り返している。その事でいくつかの世界の神に相談しており、その中には地球の神もいる。

色々試行錯誤中であり、現存人類は地球から譲り受けた種族。この世界に合わせてカスタマイズしてるが、ホモ・サピエンスの子孫。シエルの他にも世界の事で相談した地球人がちょいちょい居る。

度重なる失敗に自信喪失していた所に小説の『シエル』と出会い、その失敗への寛容さが創世神の弱い所に突き刺さった。

作中のシエルと原作のシエルは微妙に違う性格だが、中の人が作者なので時々『シエル』な言動をとっておりその度に「リアルシエルきゅんんんんんんっ」と身悶えている。

同担歓迎派。この後ミハイル達は新しいギフトを贈られる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] せっかくですからシリーズ化しましょうよ〜! とても丁寧に創り上げられた世界観やキャラクター達短編一発でお終いなんて勿体無いですよ! せっかく過去の聖魔法使いが穢れを祓う為に云々とか本文に…
[一言] >聖魔法 本当に聖魔法だったのだろうか・・・さり気に全魔法にされてない? >この後ミハイル達は新しいギフトを贈られる と新たにあげてるとこから、『聖魔法も使えるギフト』扱いで・・・
[良い点] ✡世界創造の意思✡さん!やったね! 中の人が作者様なの沸るのわかる!
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