表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

魔法学園のはぐれ者 下

ここから出て行くための計画。緻密に準備を重ね、奴らの行動を少しずつ誘い・・・遂にその日を迎えた。



「エドガー・クロス、貴様はこの学園で、様々な非道な行いを犯した!この罰は相応なモノになるだろう!!」



多くの学生が行き交う、昼休みの広場。差出人不明の【昼休み、広場に来い】という手紙を受け取ったエドガーが足を踏み入れると、あの時噴水に突き落とした上位貴族の学生から、そう言い渡された。


「もう・・・もう限界です。貴方をこれ以上、見逃せなくなりました」


その学生達の中心にいるのはシルクだ。おそらくこの数ヶ月間、クラウドが隣にいたため行動がままならず、しびれを切らして人前での行動に踏み切ったのだろう。学内のモノを故意に破壊しただの、試験をカンニングしただの、シルク・ワイツベアーに暴言を吐いただの、いわれのない罪をドンドン押しつけられていく。


それでもシルクの完璧な演技で、周囲はあっという間に彼女に味方した。完全にコッチが悪役か、とエドガーは察する。


ここまで公開処刑されれば、あの無表情でも反応するだろう。そんな周囲の予想は、当たってはいた。ただし負の感情ではなく、ニコニコと微笑んで。ハンカチで水を拭き取るばかりで、エドガーは動じていない。


「な、何が可笑しい!」


「いや、随分うるせぇと思っただけ。そんなこと、この時間で言うことじゃねぇだろ。昼休みを長引かせて、授業時間を減らしたいのか?」


「何を言っているの!?悪いことをしたのはそっちなのに偉そうね、場違いな態度は控えなさい」


「場違いなのはそっちだろ。こんな言い争いを全体の前でして、多くの学生は何を見せられてるんだとゲンナリだぜ」


昔から色々な言葉をかけられてきた。それ故、傷つけられる言葉にそこまで動じない。むしろ反論して相手を黙らせることも多かったエドガー。言われると分かっている罵倒など、かすり傷にもならないのだ。


勿論、周囲の空気に押しつぶされて、弱ることもあるが・・・今は違う。


「くそっ、減らず口を叩きやがって!少しは反省の色を見せろ!」


「反省も何も、やってないことを謝るなんて無理だろ」


「っ、テメェ!!」


遂にしびれを切らして、1人の学生がエドガーへと拳を向ける。流石に、暴力だけは耐えられないエドガー。殴られる、その恐怖が彼に襲いかかった。


バキッ!!と鈍い音が響く。襲いかかってきた学生が、地面に倒れ込んでいた。左の頬には殴られた跡が、くっきりと出来ている。



「随分がさつな拳だな。よくそんなんで挑もうとしたもんだ」



パキポキと指を鳴らすのは、少し遠くで見ていたクラウドだ。野次馬になった学生達を押しのけ、エドガーの前に立つ。暴力沙汰になったため、周囲の学生はざわめき出した。


「ひ、ひぃい!貴方、なんてことを!!人を殴るなんて・・・」


「はぁ?先に手を出したのはそっちだろ、オレはエドを守っただけだが」


「で、でも、こんなに大勢いる場所で、こんな目立つ真似をして・・・。そもそも貴方、普段から暴力沙汰を起こしてばかりだって聞くわよ!」


「学内の秩序を乱す者は、この学園に置いておけないだろ!」


「ここにいるシルク様はね、この学園にお父様が理事としていらっしゃるの!アンタ達なんか、退学処分にだって出来るんだから!!」


退()()という望み通りの言葉が出たことに、2人は内心ニヤリとした。


「こんな場所で騒ぐお前らも、学内の秩序乱してるんだが」


クラウドの堂々たる態度に、思わず口を紡ぐ上級貴族の学生達。何事にも動じない彼の後ろ姿は、やはり格好いい。エドガーはドキドキしつつ、クラウドの後ろに立つ。


「にしてもお前ら、随分悪目立ちしてるっての、自覚してるか?上級貴族の権限振り回して、自分勝手に振る舞う姿、本当に貴族の恥だぜ」


「失敬な!そちらの方が恥だろ、貴族どころか人として非道だ!」


「へぇへぇ、そうだな。でもさ、お前らも同罪だろ。特定の人間を虐めて楽しんで、それを正当化させるのはクズだろ」


わなわなと震え出すシルク。とはいえ、淑女である彼女がそんな非道な行為をしているとは、取り巻きも野次馬も誰も思っていないだろう。これを覆すつもりなど2人にはない。


理事の娘の権限を使うことを、今か今かと待ち望んでいるのだ。


やがて、その瞬間は訪れる。



「い、い、いい加減になさって!これ以上騒ぎになったら、学園内が混乱します。


あなた方は・・・この学園から出て行ってください!もう顔も見たくありません!!」



涙を流したシルクは、2人を指差した。本来なら1学生の言うことなど、命令にはならない。だが今は違う、周囲は完全に理事の娘である彼女の言うことに同調していた。道端の石やら丸めた紙やらが、コツコツと背中にぶつけられる。が、全く彼らは動じていなかった。


「んじゃ、そうと決まればおさらばしますか!」


クラウドはエドガーの手を引き、そのまま走り出した。背後からの数多の罵声や、何があったと集まってきた教員など気にせずに。一直線に、学園から飛び出した。


その顔に、失望など無い。これからの明るい未来に、ただ晴れ晴れしていた。


「うっしゃあ!上手くいったな、アイツらも思ったとおりに動いてくれて助かったぜ」


「あぁ、あとはここからずっと遠くに行くだけ。アイツらも数日は動けないだろうし、今の内に離れねぇと。既に荷物はある、早く向かうぞ」


「・・・やっと、やっとだな。誰にも縛られずにいられるんだぜ、エド!」


クラウドのニカッとした笑みに、思わずつられて微笑むエドガーだった。





エドガーとクラウドが学園を退学し、国から出て数週間。エドガーが買った新聞には、魔法学園の不正について取り上げられていた。


今回退学となったクラウド・へブリックだが、学園の理事を務めるワイツベアー公爵は睨んでいた。というのも、クラウド・へブリックは入学前、国内で最も魔力を持つ人間であると判明した。魔力があるだけで、国の中枢機関では主要な地位になれる。そして有力家にも繋がりを求められる。


ワイツベアー公爵はへブリック伯爵を買収して、クラウド・へブリックを思うがままに利用しようとした。どんなに成績が悪く問題を起こそうが、彼を決して学園から逃さない。こうして学園生活や卒業後の進路など、彼を強制していたのだ。


そしてワイツベアー公爵の娘であるシルクも、学園の権利を牛耳る者だった。気に入らない学生に対して、成績を餌に利用したり、退学を脅迫材料にしてイジメを行っていたのだ。


今回の退学騒動により、ワイツベアー公爵とその娘の不正や問題が露わになった。ワイツベアー公爵家とへブリック伯爵家、そしてシルクなど騒動に関わった上級貴族の学生達は、全員相応の処罰を受けているという。


クラウドはそんなシルクの行動を利用した。彼女からわざと退学を言わせることで、学園や実家から逃げる理由を作ったのだ。


「お前も政略道具だったんだな、しかも学園を運営する側の」


「まぁな。エドと同じで、あんな場所から逃げ出したかった。だからこそ、あの時の“逃げたい”に応えたかった。当然、好きな奴と一緒にな」


クラウドはチョコレートを頬張りつつ、1粒をエドガーの口元に持って行く。エドガーは笑いながら言うと、その1粒を口で受け取った。


「シルクが上級貴族の学生ばっかと関わってて、オレの立ち位置知らなくって助かったぜ」


「もう公爵家も立つ顔無いな。俺達を追うのもままならないか」


「へブリック伯爵家も、繋がりで得てた利益がすっからかんだと。まぁあの親父、オレを金のなる木としか思ってなかったし。エドの実家は?」


「没落はしてねぇけど、不満が続出してるだろうな。俺に押しつけていた分を怠けていた弟がやってるらしいけど、かなり滞っているみたいでさ。まぁ自業自得だけど」


2人は今まで閉じ込められていた分、様々な場所へ行く旅をしている。目的地などない、先立つものも少ない。それでも、今までよりずっと幸せな日々を送っている。


「このチョコレート旨いな」


「市で売ってたから、思わず買っちまったんだ。2つくらい国を越えた先に本店あるらしいし、行ってみようぜ!そこで働いても良いかもな」


チョコレートが完全に溶けたのを合図に、クラウドはエドガーの手を引き、進み出した。


初めての自由、初めての幸せ。守りたいと思った、一緒にいたいと思った。


そんな思いにさせてくれた、他でもない同じはぐれ者。


この手は絶対に離さない。そう互いに誓って。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

次回は絶賛制作中!とある令嬢の「時戻り」の話かと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ