第97話 共和国のギルド
(何をやるにしても、情報が足りないな。)
共和国の王都は、疫病や公害などが発生した前世の都市と状況に似通っており、近い将来同様の被害がおこる可能性がある。しかも、帝国との戦争が続いているというリスクも抱えている。
まだ、共和国自体に大した縁があるわけではないが、俺には何もせずに見捨てるという選択肢は採れない。当然国家レベルのリスクに対して、俺が単独でできることは限られるが、王都に腰を据え、できることをやっていくことに決めた。
宿屋で睡眠をとり十分に休むこともできたので、対策の糸口とする情報収集を兼ねて、気になっているギルドを見に行くことにする。
ギルドの存在は知っているが共和国の土地勘が全くないので、宿の女将さんに相談する。
「ギルドを見に行きたいのだが、石工、紡績、毛織物、鉄工、それと冒険者ギルドの場所を教えてくれないか? できれば金も稼げるギルドも教えて欲しい。」
おかみさんは納得したように頷いて、親切に教えてくれた。
「ああ、弟子になりに来たのかい? 紡績と毛織物は男の弟子はとらないかもしれないよ。どのギルドも受付で説明してくれるから、よく聞いておいで。だけど弟子では稼げないからね、すぐにお金が必要なら冒険者ギルドしかないね。」
女将さんは色々と他の情報を補足してくれながら、丁寧に道順も教えてくれた。お喋り好きなのか、聞いていないことも含めて色々と教えてくれた。助かったのだが話が長く、解放されるまでに1時間以上かかった。
共和国のギルドは、冒険者ギルドだけが特殊なギルドで、それ以外は基本的に徒弟制度を採用しているそうだ。親方や兄弟子の下で修業を積みながら、3~6年間、業務を行いつつノウハウを身に着け、一人前の職人になっていく。
職人の身分制度は、見習い、ジャーニーマン、マスターという定義があり、その上に親方がある。親方にまで登り詰めると、それぞれのギルドの運営にまでかかわれるようになるそうだ。ギルドごとに専門の店舗を持っているそうで、弟子入りすれば、その店舗で働きながら修業をすることになるそうだ。
「女将さん、そろそろ行ってくるよ。」
「あいよ。気を付けてね。」
基本的にギルドは王都の中央に集まっているらしく、大通りをまっすぐ進んでいけば、あまり迷うことはないらしい。女将さんに教えてもらったように、宿屋を出てすぐの大通りを、暫く進んだところ、目的のギルドを見つけることができた。
(うーん。修業がしたいわけではないが、一応興味があるところは予定通りまわるか。)
王都での長期滞在を視野に入れるとすると、食い扶持の確保が必要になる。興味があるギルドの説明も聞くつもりだが、本命は冒険者ギルドになりそうだ。本命は最後に回ることとして、興味がある順に、石工、鉄工、紡績、毛織物のギルドに訪問していった。
・・・
(予約もせずに来たのに、ここまで力を入れてくれるとは正直思わなかったな。)
どのギルドも、人材確保には積極的なようで、受付の担当者が、ギルドの成り立ちや、主な作業内容、有名な職人のサクセスストーリーなど説明をしてくれ、最後にギルド内にある販売所を案内してくれるまでをセットで、それぞれ1時間程度の説明をしてくれた。弟子入りを目指す人には、さらに作業現場の見学と体験会を別途実施してくれるらしい。
ちなみに石工ギルドは、石材建築物の構築、石材の表面へ彫刻、石細工物の製作などを生業としていたが、聞く限りマナ操作を使ってよければ、今すぐマスター以上のことができそうだった。
(裏の目的も透けて見えるな。)
一通りの説明を聞き、販売所を見ることで、色々と理解できることがあった。ギルドは、基本的に国が重要な産業につながると認定した分野ごとに作られており、各分野の技術を身に着けた職人の育成と保護、製品の品質担保を主な目的としているという。
言葉にはしていないが、要するに技術詳細を秘匿することも目的なのだろう。そして、独占した技術を背景に、その技術で作られた製品の販売の独占し、店舗を運営するマスター達が談合し、価格統制することも大事な目的のようだ。
(これだけ仕組みが出来上がっていると、ギルドが存在する分野の商売は難しそうだな。)
元々ギルド発足のきっかけの1つは、大抵商人に対抗することなので、当たり前なのだが、イーリスの里や村の物を売るという方針は修正が必要そうだ。ギルドが存在する分野の製品は、実質各ギルドに販売する権利がある。
例えば、紡績や毛織物は共和国内で売る場合は、一旦ギルドで買い取ってもらう形になるため、恐らく相当買いたたかれることになるだろう。ギルドと対立する気はないが、商人と直接やり取りする方が、まだ良い値がつくかもしれない。しかし、各ギルドが国のお墨付きを受けている状況なので、各ギルドの分野での商売は控えるか、慎重にするべきだろう。
(未開拓の分野を狙うべきかもしれないな。)
逆に言えばギルドが存在しない分野は、未開拓の分野である可能性があり、市場開拓のねらい目と考えることができそうだ。共和国では二次産業や三次産業は、まだまだこれからという感じがあり、機会があれば参入して、上手くいけば状況によっては、新たなギルドとして承認をうけることもできるかもしれない。
(まあ、悪いことばかりでもない。)
商品が扱えないのは残念だったが、既存のギルドの存在は、悪いことだけでなく、良い点もあった。ギルドの職人が使うような道具は、ギルドに所属しなくても購入ができる点だ。
道具にはノウハウが詰まっているものもあるので、販売に制限があると思っていたが、価格統制を行える圧倒的に優位な立場にいるからか、そこは緩めのようだ。ギルドに所属していれば3割引なため、割引なしというのは少し厳しいが、それでも購入できるのはありがたい。
織機など里と村の発展に貢献できそうな道具は、金を貯めてでも購入したい。石工ギルドでは鉱石を、鉄工ギルドで鉄を購入できるのもありがたい。なんとか金を稼いで、必要そうなものを購入してから、里に戻ることを考えようと思う。
(しかし、徒弟制度か・・・ 何年もの間、奴隷のように働けということだよな・・・)
ちなみに職人の身分制度は、女将さんからほぼ聞いていた通りだったが、マスターになるまでは、ギリギリ食べて行けるかどうかの待遇だった。弟子入りしてもとても金を稼げるような状況にはならないだろう。
女将さんの話と違う点として、実は親方のさらに上の身分として、守護聖人というものがあった。守護聖人は教会が任命する身分で、どのギルドでも自慢話を聞かされるような職人の憧れのようだ。
守護聖人への憧れの強さは、それを任命できる教会の影響力にもつながる。そういう仕組みが作り上げられているのだろう。当然国と無関係であるはずがない。特別な理由でもない限り、そのような強い影響力を持つ教会には、あまり近づくべきではないだろう。
一通り興味があったギルドの説明を聞いた限り、やはり冒険者ギルド以外では、すぐに収入を得ることは難しそうということを再認識できた。




