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第93話 共和国への道のり

「あれがそうか。」


 俺が乗せてもらうことになった定期便は、炭鉱の村の入り口に昼前くらいに到着した。荷馬車と聞いていたので、荷物運搬用の幌がある大きいワゴンタイプを想定していたが、到着したのは小型のコートタイプ。


 運搬用ではあるが幌や屋根などはなく、長方形の箱に車輪が4つ付いているような荷馬車だ。それが4台、それぞれ馬2頭立てで到着した。


(あれじゃ、乗ったら地獄だな・・・)


 いずれも単純なつくりの運搬用で、サスペンションなどは見当たらない。もしかしたら、そもそもサスペンションという発想自体がまだないのかもしれないが、それに乗り込むと搭乗者はひどい目にあうはずだ。


 木材は貴重のはずだが、軽量化のためか荷馬車は木製で、車輪のタイヤの部分が、鉄で補強されている。想定していた大型のワゴンタイプの馬車は、道が良くないとかなり移動が遅くなる。積載量の劣る小型のコートタイプを定期便で使うということは、道の状況がよくないのかもしれない。


 コートタイプの荷馬車でも、馬2頭立てであれば、2t近くは積載できるはずなので、複数台を定期便で使うことで、リスクの分散を図っているのかもしれない。


 石炭の比重は1立方メートルあたり、0.8t。荷馬車は幅1.2m、長さは2.5m程度だろうか。この後、石炭の積み下ろしを手伝うが、2t以下の積載量にするのであれば、積み込みの高さは80cm以下くらいにした方がよさそうだ。


 共和国までの距離は、この村から60kmと聞いており、俺とロバたちであれば数時間、1日かからない距離だ。定期便が昼前に着いたということは、朝から出てかなり飛ばしてきたのだろうか。

 

 少し気になったので、何気なく横に来ていた親方に聞いてみる。


「親方、共和国までは、1日かからないくらいの距離だと聞いた気がするが、実際どのくらいで着く?」


 親方は、首をかしげながら答えてきた。


「リコルド、前も言ったが共和国まではこの道を使って大体60キロル程度だ。共和国からこの村に向かう荷馬車は、日用品などの補給物資を運ぶくらいだから、荷が軽く2~3日で着くが、帰りは石炭を満載にするから4~5日はかかるぞ。」


 想定していた5倍以上の日数を聞いて混乱する。60kmを5日とすると、1日で進む距離は12km???、何か事情があるにしても、短すぎる移動距離にびっくりする。相当に道の状態が悪いのかもしれない。サスペンションもないので、馬車に乗ることを勧められても、避けた方が無難そうだ。


「そうだったか。俺の勘違いだな。承知した。荷下ろしが終わったようだ。早速積み込みを手伝うとしよう。」


 到着した馬車の人と馬が、休みを取っている間に、石炭の積み込み作業を手伝う。俺は怪力を活かして、手押し車を2台使って石炭を運んでいき、手押し車を持ち上げて荷台に石炭を積み込んでいく。


 炭鉱の住人には、既に見慣れた風景になっているが、馬車で到着した人たちは目を丸くしていた。今後は少し、目立たないようにするように、意識を変えた方が良いかもしれない。積み込みは1時間程度で完了し、いつもより早いが、馬車が出発することになった。親方に重ねて礼を言う。


「親方、みんな、本当に世話になった。ありがとう。」


 この炭鉱の村で過ごす間、ロバたちを預かってもらっていた炭鉱夫にも感謝を伝え、ルシオとロシナンテを受け取りながら声をかけた。わざわざお別れを言いに来てくれた炭鉱夫たちにも、別れの挨拶をしていった。


 1か月程度の生活だったが、初日の事故日以外は、良い思い出が多い炭鉱での生活だった。後ろ髪をひかれる気持ちになりながら、手を軽く振って別れを告げる。少し寂しさを感じながら、定期便の荷馬車を見ると見知った炭鉱夫が乗り込んでいた。事情を聞くと定期便を使って、共和国在住の炭鉱夫と入れ替えを行っているという。嘘ではないのだろうが、親方からの配慮なのかもしれない。


 出発前、予想していた通り、馬車に乗ることを勧められたが、ロバたちと一緒に居たいという理由をつけて、丁寧に断っておいた。


「リコルドだし、若いし大丈夫そうだな。」


 馬車に乗り込んだ炭鉱夫たちは、あっさり承知してくれた。


「それでは出発する。緊急時には我々の指示に従ってもらうからそのつもりで。」


 護衛と思われる人たちは、村で入れ替わるようなことはなく、帰りも同じ。荷馬車ごとに2名、それと隊長、副隊長と思われる1名ずつの合計10名、分隊のようだ。


 移動に特化しているのか、鎧の統一感はなく、皮鎧か、さらに軽装の人もいた。剣は鉄製のようだが、楯は木製で外側を金属で補強した円形のものを所持している。鎧に統一感がないものの、武器や楯は統一されているので、定期便のための共和国の部隊なのかもしれない。


(予想の範疇だが、遅すぎる。)


 炭鉱の村の住人との別れを惜しみつつ出発したが、すぐに現実を突きつけられ、正直帰りたくなっていた。想定通りの状況ではあるが、想定以上に道が悪く、そのせいで荷馬車の進みが異様に遅い。


 荷馬車の時速は3~4kmくらいだろうか、歩く方がよっぽど早い。しかも、2時間おきに休みを取るため、さらに遅くなっていく。この道の状況では大型の荷馬車は到底運用できない。定期便にはコートタイプの荷馬車が適切なのだろうと実感した。


 あまりの遅さに、一緒に歩いているロバのルシオとロシナンテが暇そうにしていたので、戻ってくれば自由にしていいぞと伝えた所、その日以降、自由にするようになった。改めて頭の良さに感心している。


(もう少し、道の整備に気を使っても良さそうだがな・・・)


 道の状況は、定期便で使っていると言うわりに、メンテナンスをろくにしていないようで、轍の跡が深くなり、溝になっているところが多い。今は晴れているから良いが、天候が悪くなれば車輪が埋まるのではないかという場所が散見されていた。砂利を撒くだけでも、大分変ってくるはずなのだが。


 ここまで道の状態が悪いと、60kmの距離を4~5日もかけて移動するという現状は、仕方のないことなのだろう。


(これが普通の移動速度だとすると、色々と納得がいくな。)


 俺が生まれた村に、商人が一度も来たことがないことも良く理解できた。道があってこれなら、道がなかったらどのくらい時間がかかるのだろうか。


 村から共和国までは約500kmあるので、荷馬車が1日12km進むとすると40日以上かかることになる。余程価値のあるものでもない限り、商人どころか人が来るはずがない。


(うーん。戦略の見直しが必要か。いっそ道を作るか?)


 ある意味、村と里の安全を再認識できたが、村の生産物で商売をするという考えは、画期的な輸送手段でも確保できない限り、変更する必要があるだろう。もういっそのこと、里と村の周辺を発展させて、その周辺だけで経済が回るようにしてしまった方が早い気さえする。


・・・


 定期便は代り映えのない風景の中でのんびりと、かなりのんびりとだが着実に進んでいった。途中襲われるというようなこともなく、のどかな旅程となっている。


 俺は軍人に目を付けられることがないように極力近づかず、炭鉱夫たちと話をして、共和国への道のりを過ごしていった。


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