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第92話 炭鉱で得た成果

(この臭いにも大分慣れたな。)


 寝床でうとうとしていると、やがて石炭を燃やすと独特の臭いがしてくる。木や紙の燃えかすの臭いに近いが、石炭には硫黄や油分が含まれているため、やや不快感がある。


(大分長く滞在したな。)


 炭鉱の村での生活も1か月を越え、ここでの暮らしが日常になり、臭いもあまり気にならなくなった。訪れた当初は冷え込むことが多かった朝も、暖かくなり過ごしやすくなってきている。今朝もいつものように、臭いの少し後に朝飯の知らせが来た。


 炭鉱の村の朝は早く、まだ少しけだるい感じがするが、無理に体を起こす。部屋を出て、朝飯が用意されたテーブルにつくと、目の前には、すっかり見慣れてきた親方がおり、既に朝飯を半分以上食べ終わっていた。


 共和国の主食が麦ということもあり、朝飯にはパンが出てくることも多い。パンは硬いものが多く、前世のふわふわのパンが少し懐かしくなる。口の中をケガするくらい硬い硬いが、スープも出してもらえるため、それに浸して食べれば困ることはないし、味も素朴で悪くはない。いつものように、ありがたく頂戴する。


「リコルド、今日発つのか?」


 親方は朝食を食べながら声をかけて来る。


「ああ、そのつもりでいる。大分世話になった。」


 坑道の対策が終わった後、残りの契約期間である10日間、炭鉱で石炭の採掘を行った。すっかり手になじんだスコップで鉱床を掘り続け、かなりの量の石炭を掘り出した。


 俺が掘り出した量は、熟練の炭鉱夫が1年かけて採掘する量より多いとのことで、親方は出来高をさらに追加をしてくれた。結局、1か月分の給与と出来高を合わせて、銀貨220枚分になった。銀貨だとかさばるだろうということで、金貨2枚と銀貨20枚で支払ってもらい、既に受け取っている。


「成果を考えれば、安すぎるがな。その3倍払っても全く問題ないのだが。」


 親方からは、そう言ってもらい、高い評価を得たが、熟練の炭鉱夫の給与が1か月銀貨10枚であることを考えると、これ以上はもらい過ぎだろうと遠慮をしておいた。その代わり俺は、この炭鉱の村にも祭壇を作らせてもらった。


 『しるし』もいつも通りに気づかれないような形で、設置させてもらっている。共和国には一神教の国教があるが、他の宗教を弾圧するようなこともなく認められており、2つ返事で祭壇構築の許可をもらうことができた。親方には、困ったときや願い事があるときに、気が向いたら祈ってくれと伝えある。


「世話になったのは、こちらのほうだ。リコルド。あの事故以降、小さな崩落はあったが、炭鉱夫に被害が出るような事故は起こっていない。このまま事故が少ない状態が続けば、嬉しい限りだ。」


 親方は本当にうれしそうにしみじみ話をした。


「それで、これからどうするつもりなんだ? 一度戻るのか?」


 確かに村に戻るという選択肢もある。ただ、将来、里や村の生産物で商売するなら、炭鉱の村とだけやり取りするわけにもいかない。それと親方の母国でもある共和国を、単純に見てみたいという気持ちもある。やはり戻らずに、このまま共和国の調査も行っておくべきだろう。


「いや、共和国に行こうと思う。金も貰ったしな。」


 そう答えると、親方は少し心配そうな顔をした。


「ん。そうか・・・。共和国は初めてだったよな?」


「ああ、生まれた村以外で初めて来たのがこの炭鉱の村だからな。」


「・・・なんだろうな・・・。共和国は、恐らく帝国もだが、周辺の治安が正直悪くてな。一人で向かうとなると、俺の母国ながら勧めにくい。戦争が長く続いていることもあって、余裕がないやつらが多い。」


 親方は俺を心配してか、さらに言葉を続けた。


「首都近郊は壁に囲まれていて、入国には入国許可証が必要になる。発行に銀貨10枚、さらに保証金として銀貨40枚が必要になる。その保証金は許可証返却時に返してもらえるが、新たに入国するだけで一般年収の半分の金が必要になるからな、当然金が払えず入国できない奴が多い。そいつらが国の周辺に居ついてスラム化しているうえに、盗賊も横行している。国は手が回っておらず、対策をうてていない状態だ。」


 なるほど、親方が心配するのも理解できる。12歳程度に見えるガキが、ロバを2頭連れて歩いていれば、盗賊が襲ってくる可能性は当然予想されることだろう。自衛のために、武器の使い方は村を出発するまで毎日練習していたし、出発後もスコップで素振りなどは続けてきたが、いかんせん実戦経験がない。こちらが不意を突いて襲う側ならまだしも、急に襲われて対処できるとは正直思えない。


「なるほどな。そういう状況だと厳しいかもしれないな。」


 俺が親方の話に相槌を打ちながら、悩んでいると、親方は何か閃いたようで手を軽くたたいた後に、提案してきた。


「まあ、リコルドには世話になったしな。せっかく俺の国に行きたいというのだから、協力しようじゃないか。気が向いたら、また、ここで働いてくれるのも期待したいしな。」


 そういうと、親方は定期便の利用を提案してきた。この炭鉱で採掘された石炭は、共和国と村の間で定期的に運行される荷馬車で輸送しており、その定期便での移動となるようだ。定期便に乗るための運賃は、荷馬車への石炭の積み下ろしを手伝うことで賄えるよう手配してくれた。


 俺にとって、石炭の積み下ろしが、苦にならないことを分かったうえでの提案だろう。さらに、入国時に必要な保証金についても、親方が保証人になり、不要となるようにもしてくれた。俺としてはありがたい提案なので、受けながら、また機会があれば、またここで働くのも悪くはないなと思った。


 定期便は20日に1度で、次の便は3日後の予定だという。それまでに出立の準備をしておくことになったが、元々今日出る予定であったし、荷物は大部分買い取ってもらい身軽な状態だ。準備らしいことはあまりなく、出発前に水を補給するくらいで十分だろう。


 共和国には無事につけそうなので、滞在する場合の注意点などを親方から聞いておく。


「親方のお陰で、共和国へ入国するまでの算段がついた。2週間程度は滞在しようと思うのだが、宿屋やおすすめの場所、後はそうだな、滞在費を稼ぐくらいの働き先があるかを教えてもらえないか。」


 親方は、お安い御用だと言いながら、詳しく教えてくれた。やはり見かけによらず、面倒見が非常に良い。


 親方によると、今の共和国は、来訪者の入国を実質、金で制限しているようなもので、住民以外の流入者が多くないこともあり、宿屋の数は限られているという。おすすめの宿屋を数件紹介してもらったが、安い部屋で1日銀貨1枚はかかる。観光地になりそうな、おすすめの場所も教えてくれたが、飯屋の比率がかなり高かった。


 働き先については、目的にもよるが手っ取り早いのは、冒険者ギルドに所属することだろうという話だった。共和国にはギルドがあり、冒険者ギルドの他にも、石工、大工、紡績、毛織物、鉄工、漁師などの複数種類のものがあるそうだ。


 冒険者ギルド以外のギルドは、ギルドが認めた人材に必要な技術を教えるとともに、技術そのものを秘匿することを運用目的としているそうだ。そのため、ギルドに所属した場合、徒弟制度で弟子として、ただ働きに近い状態になることが多く、すぐに金を稼ぐということにはならないそうだ。


 技術の習得を目的とするなら、ギルドに所属して弟子になれば、住む場所も確保できるそうだ。どのギルドも新人確保のため、定期的に説明会を開いているとのことなので、参加してみるのも良さそうだ。


(冒険者ギルド以外は、中世ヨーロッパのギルドと似たようなものか。)


 親方にその他のことも色々と教えてもらい、それでも暇ができたので、宿代代わりに、親方の指示に従い働いて暇をつぶすことにした。


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