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第91話 坑道の対策2

(ふはは。今なら城も作れそうだ。)


 坑道を改善するための対策として、最初に崩落防止のために坑内支保に取り掛かり、石材で柱を作っていった。柱づくりは、どこか子供のころの積み木のワクワク感を彷彿させ、完成した柱のできの良さも相まって、楽しく作業を進めることができた。


 6日目に目標にしていた17本目の柱を作り終えた時には、このまま石材を使った左官職人になるのも悪くないなぁとぼんやりしていたが、朝のまだ涼し気な風で正気を取り戻した。


(さ、さて次の作業に入るか。)


 気持ちを切り替えて、提案していた残りの作業にも着手することにしよう。残りの作業は、排水と空気穴の作成になる。


 採掘と水は切り離せない。どこかを掘っていれば、いずれ問題にぶつかることになる。なので、今から作る排水用の穴は、結局、現時点での問題解決にしかならなず、恒久対策にはならない。そこは割り切るしかない。


 坑内の排水は、基本的には排水溝を作り、水を坑底に集めて池を作るか、坑外へ排出するしかない。ポンプやホースなどがあると、多少の高低差や距離があっても水を移せるため、排水の仕方が工夫できて少し楽になるのだが、今はそれだけの技術力を持ち合わせていない。地道に排水溝を作っていくしかないのが現状だ。


 今回の対策の基本戦略は、排水溝を作りつつ掘り進み、坑外へつなげることで、排水と空気穴を同時に作ること。完全にマナ操作を使った力押しの戦略だ。俺以外でも物理的には実施はできるが、工期がどのくらいかかるかわからない。


 マナ操作は地味なスキルだが、ここでは効果が絶大だ。マナは水に溶け込む特性があるため、マナ操作は水との相性が悪い。そのため、排水溝を作るときには、なるべく水に触れないようにしながら、勾配を付けつつ外へと掘り進んでいく。


 外まで穴を掘らなければならないため、場所によっては、かなりの距離を掘り進む必要がある。しかも、掘る場所が崩れやすいと、生き埋めになる可能性もあるため、あえて固い場所を選んで掘り進むことにした。


(まるで、モグラだな。)


 なるべく短期で排水を実現したいので、掘る穴の大きさを最低限にしてひたすら掘り進む。マナを流せる特製のスコップをフル活用しながら、無心に掘り進んでいった。


 どうしても軽めの崩落が起こったり、水がわき出したりと、問題はあったが、怪力などでその場をしのぎつつ、作業を進めた。幸い泥だらけになる程度の被害で済ますことができた。


 光源の確保が意外に面倒で、一度、掘り進んでいるときにロウソクが消えてしまい、若干パニックになったことはあったが、比較的順調に進み、1か所の排水を行うのに2日程度で済んだ。炭鉱で、湧き水のため採掘を断念していた3か所は、合計6日間で無事排水することができた。


 この3か所は、いずれも有望な鉱床だったと聞いていたので、採掘が可能になったと知れば、親方も喜んでくれるだろう。親方が上手く上層部にアピールすれば、出世なども見込めるかもしれないし、そうでなくても親方が、評価されるようであれば嬉しい限りだ。


 俺としては、親方を信頼できそうな人物と思っているので、なるべく今後も付き合っていきたい。付き合っていくなら、偉くなっていてもらった方が、なにかと良いだろうという、若干の邪念もある。

 

(よし、思った以上に順調だな。)


 空気穴が必要だった7か所のうち、水の排水と合わせて3か所完成したので、残り空気穴を4か所作るだけになった。


 残りの空気穴を作る作業は、排水溝を掘り進んだ作業と大きく変わらないが、周りに水が少ない分、順調に作業を進めることができた。穴を掘り進めていると、時々あらたな鉱床らしきところにもあたったので、親方にはそれも併せて伝える。


 ちなみに、一般的に石炭と認識されているものは歴青炭れきせいたんのことだ。その他に、石炭としては若く、石炭の原料である植物の形が残っており褐炭かったん、歴青炭より炭素量が多く、黒くキラキラしている無煙炭むえんたんがある。


 ここの鉱山の鉱床は、新たに発見したものを含めて歴青炭の割合が非常に多く、かなり優良だろう。継続的に新たな鉱床が見つかっており、当面掘りつくすことはなさそうだった。


(なんか、あっという間だったな。)


 無心に作業をしているうちに、残りの空気穴4か所も特に問題なく作成できた。マナの展開速度なども、さらに向上した感触があり、他の作業と比べると空気穴の作成はあっさり完了した。


 坑道の対策は1か月では終わらないかも知れないとの不安もあったが、結局20日ほどで、提案した坑道の対策を完遂することができた。石炭は今後も重要なエネルギー源になる可能性が高く、共和国では有望な事業となりそうなのだが、環境の悪化が心配される。


 その懸念を無視できるのであれば、石炭採掘業を請け負う会社を起業することで富豪になることも夢ではないだろう。ただ、女神の使命を考えた場合、できる限り石炭を使わない環境に配慮したエネルギーに力をいれるべきだろう。それに会社を起業すれば、政治や利権が絡んでややこしいことになりかねない。よほどのことがない限り起業しない方がよさそうだ。


(よし、親方にも報告しにいくか。)


 坑道の対策が終わったので、休憩してから親方に報告しにいった。


「・・・は? もう一度言ってくれ。」


 上手く報告が伝わらなかったようなので、もう少し具体的に報告する。


「予定していた17本の柱、排水溝と排水用の穴3つ、7つの空気穴の作成が先ほど完了した。俺が提案した作業はこれで一通り完了だ。」


 親方は急な頭痛でもあったのか右手でおでこを押し、そのまま頭を掻いた後、少し間をおいてから話始めた。


「聞き間違いじゃなかったのか。あの仕事量は普通に考えたら1年分くらいはあった。流石にお前でも数か月はかかると思って、遠回しに契約を延長してくれるという意思だと勝手に思っていたんだが・・・もう、終わったと?」


 俺はうなずきながら続けた。


「ああ、俺としても中々に効率的にはできたと自負している。柱の出来はかなり満足だしな。これで崩落の心配はないとは言えないが、可能性はかなり減るだろう。後は、前にも言ったが、空気穴の前で火を焚いてくれれば、坑内の空気が巡回するようになる。ガスなどによる爆発事故も減るはずだ。」


 親方は少し呆れたようなため息をついた後、話の内容を理解したのだろう。本当にうれしそうな顔をした。いかついオヤジの顔だが、良い笑顔だった。


「そいつは、本当にありがたい。炭鉱に事故に付き物。起こってはならないが、正直防ぎようがなくい。被害者が出るたびに、そいつらの家族にも申し訳がなかった。少しでも事故が減るのであれば、それ以上にありがたいことはない。感謝する。」

 

 そう言って親方は、俺の背中を叩きながら喜んだ後、俺に視線を合わせ、深々とお辞儀をして感謝を表した。


「頭をあげてくれ、こちらも提案したことを自由にやらせてもらって感謝している。充実感もあったしな。喜んでもらえて嬉しい。まだ約束した日まで10日ほどある。残り期間で、採掘でもやらせてもらおうと思っているから、作業を割り当ててくれ。」


 親方はまた少し呆れたような顔をしながら、ガハハと笑った後に俺に指示を出した。


「わかった。本当は十分な働きをしてもらったので、ここで契約完了でも良いくらいだがな。正直なところ、石炭が不足していてな、採掘を手伝ってもらうのは助かる。流石に今日は休んでくれ。明日からまた頼む。」


 俺は頷いて、少し早めの休憩に入ることにした。


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