第90話 坑道の対策1
(さてと、親方に許可はもらったが、どこから手を付けたものかな。)
鉱山の改善案は、鉱山での爆発事故低減のため、坑道の換気用の空気穴を7か所、湧き水が出てしまっている場所の排水用の穴を3か所、崩落の恐れがある場所に支柱17本、それぞれ作成することだ。後先考えずに、調子に乗って提案したことは否めないが、後悔はない。
(汗が頬を伝っていったが、これは気温が高いせいだろう。)
夏が来る前の朝の少しひんやりとした風が、俺の周りを流れていく・・・
契約期間である1か月で終えられるか、正直厳しい。それは認めよう。だが事故が減ると思えば頑張れる。
(さてと、まずは、崩落対策だな。)
最初に着手すべきは、やはり事故の頻度が高い、崩落への対策だろう。見た所、いつ崩れてもおかしくない場所が散見されていた。
今後掘っていく新しい坑道については、親方に説明したルーム・アンドピラー法により、一定間隔で柱を残しながら採掘を進めることになった。親方が現場で直接指揮を執りながら進められており、任せておいて良さそうだ。
この対策法の欠点は、柱の部分の石炭が採掘できずに、産出量が減ることにあるが、今はまだ潤沢に鉱床がある。問題が出るとしたら、この炭鉱の鉱床が無くなり始めるころで、その心配は当面ないだろう。
崩落対策は、支柱を作ることになるので、下手に手伝ってもらうより、むしろ一人でやった方が早いだろう。里で色々と試したときのように、孤独な作業が増えるが、無心に、淡々と、着実に進めていく。
既存の坑道の崩落防止対策として作る支柱は、坑内支保と呼ばれる。坑内支保は本来木製のものが多いはずなのだが、こちらでは木材が異常に高騰しており、材料として木材を使うことができない。
本来であれば、代わりの素材探しに難航する場面だが、マナ操作のお陰でその必要がない。そろそろ名人級と言っても過言ではないほど石材の掘り出しが得意になってきており、材料は近くにいくらでもある。
(この能力は鉱山のためにあるような気さえするな。)
本来石材は、切り出し、運搬、工事など、どの作業もコストが高く要素が満載で、普通は木材の代わりにはなりえない。だが、マナ操作スキルを存分に活用することで、コストがほぼ俺の人件費のみになり、一気に魅力的な素材となる。
十分に木材の代替材として活用できるレベルだ。俺は石材を量産しては、目星をつけた崩落が予想される場所に運んでいく。
(積み方は選ばないとな。)
石材は下から積み上げていくことで、構造物を作っていくが、その積み方には大きく『空積み』と『練積み』の2つに分かれる。
空積みは、石材や砂利だけを使って積み上げていくが、練積みは、コンクリートやモルタルを石材と石材の間に入れ、固めることで安定させながら積み上げていく。当然、練積みの方が強固になる。
コンクリートやモルタルは残念ながらなかったが、セメントはこの村にも常備していた。共和国では、木材が高価なこともあり、建築物はレンガや石材で作られており、セメントは欠かせないそうだ。
ちなみにセメントは、コンクリートやモルタルの材料でもある。もし、セメントがなかったら作れば良いのだが、原材料に、石灰石・粘土・けい石などが必要で、それらを調達することが、かなり面倒だったに違いない。
高さ2m程度の柱であれば、空積みでも積み方を工夫すれば、それなりに強固にできるのだが、やはり皆の安全を考えると練積みを採用したい。俺はセメントに、水・砂・砂利を加えて、念入りにかき混ぜ、コンクリートを作成した。
既に現地に運び込んである石材とコンクリートを使って、練積みで崩落を防ぐための柱を作っていく。
(まあ、強度と積みやすさ重視だな。)
練積みは、石材の大きさや粒度、積んだ時の見た目などで、積み方が細分化されており、ぞれぞれ、布積み、谷積み、間知石積み、切り石積みなどと呼ばれている。
俺が用意した石材は、レンガのような直方体で、大きさも形もほぼ均一なこともあり、間知石積みを採用することにした。この積み方は、レンガでも良く使われるが、下から石材をならべ、その上に石材を積むとき、下にならべた2つの石材の切れ目に、上の石材の中央が来るように並べて行く。
そのように積み続けることで、1つの石材に6つの石材が接するため、大きな圧力がかかっても、力を均等に分散する能力があり、かなり強固になる。その間知石積みで、1辺80cmの柱を作り、中心にコンクリートを入れて固めておく。鉄筋を入れられれば完璧だが、今は望むべくもない。
(うむ。良いできだな。)
最初の柱一本がほどなく完成し、我ながら美しい柱が、坑道に現れた。
「おいおい。俺の家より立派な柱じゃねーか。リコルドに俺の家も建てなおして欲しいくらいだな。」
ガハハと笑いながら、親方が感心したように若干高い声で話しかけてきた。親方は当然のように忙しいのだが、流石に最初の柱の完成は、気になるようだ。完全に丸投げするようなことなく、現場の確認を怠らない態度は、責任者としては適切で好感が持てる。
「固まるまで、皆に近づかないように指示してくれ。工夫をしたので1日でも固まるが、念のため6日は近づかないようにして欲しい。」
セメントは乾くことで固まっていくが、コンクリートの場合、水和反応という化学反応が起こり硬化していく。そのため、24時間程度で十分固まるが、大きな負荷に十分耐えるようになるには、6日は欲しい。
「わかった。そうしよう。しかし、早いな。流石使徒様といったところか。」
最初は試行錯誤しながら、柱を作ったが、それでも1日かからなかった。後は石材を大量に製造しながら、柱を増やしていくだけだ。このペースなら、馴れれば、1日2~3本の柱を作れるので、目標の17本作るのに、1週間程度で行けそうだ。
しばらくは、石材製造と左官職人のような日々を過ごすことになりそうだが、中々に柱づくりは面白く感じた。親方に冗談で言われたが、将来暇になったら石材を使った建築家を目指しても良いかもしれない。




