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第9話 スニーキングミッション3

 一発勝負の潜入ミッションは、想定内の範囲で推移し、無事に目的の金属製の武器、それも想定していた中で、最上のナイフを手に入れることができた。


 油断していたわけではないのだが、目的を達成できた安堵は正直あった。その俺の気持ちに冷や水をかけるように、小部屋の扉を出ようとして移動したときに、突然扉の前方から、人の声が聞こえた。


「ひゅっ・・・」


 目的を達して安堵したところに、想定外の声が突然聞こえてきたため、反射的に声が出そうになる。あまりに突然のことに、パニックを起こしそうになり、それに耐えようと気持ちが焦り、心臓が飛び跳ねるように鼓動している。


 忍耐力を絞り出して、それ以上声を出さないようにしながら、鼻から大きく息を吸う。苦心の甲斐もあり、何とか声が漏れないように抑えることができた。


(見つかったわけではないか。)


 小部屋の外から、声はまだ聞こえている。扉の前あたりから聞こえているのだが、話しかけている、先はこちらではなさそうだ。少し落ち着きを取り戻し、聞こえる声に耳を傾ける。


「・・・どうか・・・の魂をお救いください・・・」


 あまり大きな声ではないため、断片的なところしか聞こえない。内容は分からないのだが、声には聞き覚えがある。おそらく声の主は神父だろう。


 誰かと話しているわけではなく、同じ内容を繰り返しているようだ。何かの祈りだろうか。


「・・・の魂をお救いください・・・」


 何度も何度も、同じ内容が繰り返される。聞こえてくるのは断片的なのだが、何度も聞いているうちに、内容が理解できてくる。神父は、女神に祈り、名前読み上げ、懺悔をする、この内容を繰り返していることが分かってきた。


(そういうことか・・・)


 読み上げられている名前は、1人ではなく多くの名前があがっているのだが、その最後は俺の名前になっていた。時々嗚咽も混ざる。


 俺の名前が入っていることから、その内容が理解できた。養えないと判断した2歳の子供を、地下水の流れに任せる。それは村で決めた掟が元なのだろう。それを宗教の儀式として取り込み、その儀式は神父が取り仕切っている。


 神父は教会で、定期的住民を集め、教義の解説や悩みの相談などを主催している。それには俺も、母親に抱えられて参加したことがある。その時見た神父は、それこそ神父のイメージ通りに、落ち着いた心に響くような声で、いつも淡々と儀式を行い、いつでも落ち着いている印象だった。


 そのイメージとは全く違い、神父が嗚咽を漏らしながら、祈りと懺悔を繰り返す。


(村の掟とはいえ、こんなことをやりたい奴はいないな。)


 何度も同じ内容が繰り返されるので、名前を数えてみた。全部で43人。いつからの数なのかはわからないが、決して少なくない人数だ。


 ただ村の規模から考えると、掟ができてからの人数としては少ない感じもする。恐らくだが、今の神父が着任してからの人数なのだろう。


 犠牲者の人数を知り、更に増えていくのだと思うと、改めてぞっとする。生き残ることができたなら、この状況をどうにかしたいと強く思った。


(長いな・・・)


 神父の祈りは、何度も繰り返されている。30回を超えたあたりから、緊張感が薄れ、俺もすっかり落ち着いてきた。落ち着くとともに、思考も正常にもどり、冷静になっていく。


(このままだと、まずいな。)


 小部屋の前には神父がいるため、俺は閉じ込められている状況になっている。神父は、長い時間祈り続けており、終わる気配がない。もう何度目になるのだろうか、俺が想定より時間がかかっている。


 このまま祈りが続くと、ロウソクがもたなくなる。補充もいくつか持っているが、残り少なくなってきている。


(そろそろ休んでくれ! 俺のためにも!)

 

 先ほどまでは、神父の後悔の念に、共感と寄りそう気持ちが芽生えていたのだが、それが薄れていき、焦りが募り始めている。耐え切れず、心の中で悲鳴のような願いを叫ぶ。


 その瞬間、俺の願いが届いたわけではないと思うが、祈りが止まった。あたりが静寂に包まれて行く。それから、さらに暫く経ったとき、ようやく、ゆっくりと神父が大部屋を出ていく気配が伝わってきた。


(ふ~。よしギリギリだが間に合いそうだ。)


 焦る気持ちを抑え込み、神父の気配がなくなってからも、慎重を期して時間を置く。十分に待ってから、音を立てないように小部屋を出る。


 急ぎながらも慎重に、侵入経路を逆にたどっていくと、いきなり暗闇になった。懸念していた通り、ロウソクが予備のものも含めて、燃え尽きてしまった。


(無駄に良い記憶力の使いどころだ。)


 だが、もう脱出口は目の前まで来ている。暗闇の中、建物の構造を思い出し、イメージしながら手探りで進み、無事に脱出。本当にギリギリだった。


 外は既に白み始めている。そして、村の朝は早い。早起きの村人が、時々朝の散歩だろうか、外に出てきている。


 2歳児が俊敏に動く姿を見られるわけにはいかない。村人の気配を感じる度に、身を隠し、見つからないように、何とかかわしていく。


 何度か見つかりそうになりながらも、寝ぼけている人に救われながら、ヒヤヒヤしながらも、どうにか無事に帰宅することができた。ナイフを隠した後、寝床にもぐりこんで、ミッションコンプリート。次に目を覚ましたのは、昼過ぎになっていた。


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