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第85話 炭鉱の村

(さてと、今日が予定して最終日だ。)


 村を出てから5日目の朝。朝は若干冷え込むものの、ロバのルシオとロシナンテに挟まれて寝ているため、あまり寒さを感じない。簡単に朝飯を用意して食べ、いつも通り走り始める。


 景色は相変わらずの荒野続きだったが、遠くに見える風景が変わり、山が見えるようになってきた。山が見えているだけなのだが、変わらない風景に辟易していたので、それだけでも新鮮に感じ、気分が高まる。


「ルシオ、ロシナンテ、山が見えたぞ」


「グーグーヒー」


 俺が山の方角に指をさしながら話しかけると、ルシオとロシナンテは返事をしてくれる。ロバの泣き声は、グーという音と、息を吸うときにたまに出る、高い音を交互に出すような感じだ。耳心地のよい声とは言い難いが、こちらの問いかけに応えてくれるので、寂しさがまぎれる。


 メスのルシオは比較的おしゃべりだが、オスのロシナンテはあまり反応を示さない。それぞれ特徴があって愛らしい。


(・・・あれは煙か?)


 景色は変わったものの、相変わらず人の気配はなく、当初予定していた片道の日数である5日が経過しようとしていた。走りながら、予定通り引き返すか、延期をすべきかを改めて考えていたところに、山からのろしのような黒い煙が出ていることに気が付いた。


 同じ場所から時々煙が出ているので、人為的なもののように見える。煙が出ている場所までは、まだ距離がありそうだが、初めて見つけた人の気配だ。せめて、その場所だけでも確認したい。


 これまでの主な成果は、松ぼっくりの確保と、探索の癖で拾っている木材くらいで、今回の旅程での成果としては寂しすぎる。


「よし、あの煙が何かを確認するまでは進むぞ。」


「グヒー」


 ロバたちからは、若干嫌がっているとも思える声が返ってきたが、素直に2匹とも進んでいく。

 

・・・・・・


 村を出て6日目。今日も1回目の煙が見えた。どうやら朝と夕方に、黒煙があがるようだ。村の飯時と同じ時間帯に上がっているため、烽火などではなく食事の調理の火による煙という可能性もある。その割には黒煙で目立つということは気になる。


(あそこか。)


 近づくにつれ、黒煙が上がっていた正確な場所がわかってくる。山を50m程度上ったところに建物が見える。どうやらその建物から上がっていた煙のようだ。そして、今回の目的である人里がそこにあるのだろう。


 さらに近づくと建物の様子などが見えてきた。柵などの防衛施設は、今のところ見当たらない。人影らしきものも見えるので、確実だろう。目的としていた人里を、ようやく発見することができたようだ。


「よかった。人類は滅んでいなかった。」


 当たり前なのだろうが、生まれた村の住民以外の人間に、これまで全く会えず、気配すらなかったので、不安が募っていた。さて、人がいたのは安心したが、どうしたものか。


 第一印象は大事だろう。防衛施設や見張りがいないため、治安が悪くないのだろうが、見知らぬ人が来た時の反応は未知数だ。言葉が通じないということもあるのかもしれない。


(まあ、まず争いにはならないだろう。)


 俺は見た目が子供ということもあるので、そこまで警戒されないとは思う。とりあえず嘘はなるべく言わずに、直球で行くことにする。


 いよいよ人里が近づいて来た。長屋のような建物が、道を挟んで複数建てられている。そして道の先に山があり、人が入れる大きさの穴があいている。そして穴の両脇には、黒い石のようなものが山になっている。


(炭鉱か。)


 恐らく石炭だろう。初めて見つけた場所は、どうやら炭鉱の村のようだ。今は採掘などで働いている人が多いのか、村にいる人はまばらだ。見える人は皆、手や顔が真っ黒になっている。村の1人が俺の姿を見つけて、不思議そうに首を傾げた後、声をかけてきた。


「おーい。こんなところに子供が来ると思えないが。お使いか? 親はどうした。」


「こんにちは。同行者はいない、俺は一人で旅をしている。煙を見てこの村に寄らせてもらったところだ。いきなりなのだが俺の持ち物を買ってもらえないだろうか。」

 

 村人は俺を見て、孤児と思ったのかもしれない、少し悲しそうな顔をした。俺の方は、普通に言葉が通じたことに安堵していた。


「あぁ・・・。そうか。よくこんな何もないところに来たな。わかった。親方に聞いてみよう。何があるんだ? その背負っている木材も売り物か?」


 村人は、俺の顔から持ち物に視点を移しながら聞いてきた。俺の持ち物では、竹の水筒の方が目を引きそうだが、材木のことを真っ先に聞いてくることを不思議に思ったが、商談にのってもらえるのなら是非もない。


「木材は、見ての通りそこまで多くないが売ることはできる。塩や布などもあるので見てもらいたい。」


「わかった。ちょっと待っていろ。」

 

 村人はそう言うと、村の建物に入っていき、ほどなくして帰ってきた。


「親方が会ってくれるそうだ。売れるものを持ってこっちについてこい。」


「わかった。ありがとう。」


 素直に村人についていくと、長屋を横切り、その先へと進んで行った。そこには長屋の陰に隠れて見えていなかった建物があり、外見から家と集会場が一緒になったような構造に見える。恐らく親方が住む家なのだろう。


 ついていく途中で見た長屋は、お世辞にも綺麗とは言えないが、親方が住む家は、さすがに掃除が行き届いている。


「おう。小僧のくせによくもまあ、こんな辺鄙なところまできたな。話は聞いた。買うかわからんが、まあ、見せて見ろ。」


 こんな飛び込み営業みたいなやり方で、話を聞いてもらえる機会は中々ない。この降ってわいたような状況に正直頭がついていかないが、この貴重な機会を逃す訳にはいかない。


「ありがたい。色々とみて欲しい。」


 俺はこの炭鉱の村でニーズがありそうなものを選び、優先順位をつけて説明していく。和紙は需要があると思えないので、それ以外で売れそうなものを並べていく。先ほど引きを感じた、木材はあえて最後に説明することにする。


「まずは、塩、ソルガム、うどん、サイガの塩漬け肉が提供できる。」


 見せた感じ、親方の反応は正直あまり良くない。


「塩は分かるが、ソルガムはこの辺りじゃくわんな。小麦か大麦なら買っても良いが。うどんというのは初耳だが・・・パスタじゃないのか? うどんは良くわからんが、買っても良いのは、塩と肉くらいだな。」


 残念ながら、ソルガムはこっちでは主食ではないらしい。うどんについては、機会があれば、後でもう少しアピールしてみよう。


「わかった。このうどんはお湯で茹でて食べる保存食だ。時間があれば説明させてくれ。次は、籠と、水を持ち運ぶ水筒だ」


「その水筒は珍しいな。素材は何を使っている?」


 どうやら竹は普及していないらしい。


「竹という植物で作ったものだ。この水筒の筒の部分は、ほぼ竹そのもので、切って利用している。水筒の中に入れた水は、少し竹の香りがしておいしくなる。籠の方も素材は竹で、薄く削ったものを編んで作ってある。弾力があり耐久性もある。乱暴に使わなければ、かなり長く使える。」


「なるほど。それも珍しいから、買っても良いな。それで終わりか? 木材とその他いくつか買ってやろう。」


 まだすべてを説明していなかったが、木材は購入確定らしい。なにか事情があるのかもしれない。


「わかった。値段だが・・・」


『ズシーン、ガラガラ』


 炭鉱の方から地鳴りのような大きな音がし、その後、労働者の怒号などが聞こえてくる。すぐにドタバタと音をさせながら、労働者が駆け込んできた。


「親方、また崩落ですぜ。」


「チッ、またか。この時間はまずい。被害状況はどうだ。」


「まだわかりやせん。ただ、通路がうまっちまって、奥に居た奴らが出てこられません。」


 親方の顔が強張る。


「小僧、話はまた後だ。いつになるかわからんが。」


 そう告げると、親方を先頭に皆でていき、俺だけ取り残された。


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