第84話 ロバと荒野
村の皆に見送られながら村の門をくぐると、心地よい風や新緑の香りが感じられ、あらためて村周辺の環境が変わったことを実感する。そのまま北の竹林に入り、しばらく歩いていくと、すぐに昔から見慣れた残念な風景になった。
わかっていたことではあるが、見渡す限り森などはなく、緑が少ない荒野が広がっている。そして、ところどころが砂漠化している。
「ふぅ。まだまだだな。」
いきなり現実を突きつけられ、ため息をついた。気を取り直して、一歩ずつ、いつもの探索と同じように『しるし』を置きながら、ひたすら北に進んでいった。
・・・・・・
村を出発してから既に3日。かなり進んだはずだが、今も見慣れた風景の中を進んでいる。代り映えのない風景ではあるが、転生してからの初めての遠出ということもあり、何かが起こるのではと期待していた。
しかし、俺には主人公フラグは立っていないらしく、淡々とした日々が続いている。人がいないのだから、盗賊もいないし、ましてや王族や商人などと出会うわけもない。
道のようなものもなく、人里もみつからない。周りの景色に特徴的なものはなく、代わり映えがない。何も起きないが、いつもの探索のくせで、見つけたものは採取している。
今後どこまで進むか分からないが、長距離移動することは確定なので、負荷を考えると荷物を増やさない方が良いのかもしれない。それでもまだまだ余裕がある。問題ないだろう。
特に木材は荷物になるが、野宿の焚火などにも使え、何かと便利なので、マナ操作で適当な大きさに切り、自分で背負ったり、ルシオとロシナンテに載せたりしている。
(ちょっと調子に乗って載せすぎている気もするが・・・)
木材を集めている中で、大き目の松ぼっくりを見つけ、持ち帰る用の籠にしまってある。里や村の周辺では、松を見かけなかったので帰ったら植えてみたい。松は建材としても優秀なうえ、松脂は墨の材料や滑り止め、薬としても利用できる。増やせることができれば、将来役に立つだろう。
(いつまで、この風景が続くのか。)
草も時々生えているが、今のところ目ぼしいものはなく、これという発見はない。定期的に方位磁石を見ながら、北を目指しているので、間違えなく進んでいるはずだが、似たような風景が続くので、本当に進んでいるか、どうしても不安になる。
不安と言えば、水の量は最低限としたため、足りるか懸念していたが、今のところ水の減り具合は遅く心配ない。水の減りが遅いのは、定期的に水源を見つけているからで、それにルシオが大きく貢献してくれている。
(動物の感覚はすごいものだな。)
どうやらルシオは、水源を見つけることができるらしい。時々昼を過ぎると、ルシオが先に立って進むことがあり、ロシナンテもそれに続いていく。最初に不思議に思い、ついていったところ、水源にたどり着いた。それ以降も不定期だが、同じような動きをするたびに水源を見つけてくれている。
俺も蠅やミツバチなどの昆虫を見つければ、水源が近くあることは知識として知っているが、遠くから水源の場所を見つける能力はない。ゾウは足の裏が敏感で、地面の振動から10km以上先の水源を見つけるというが、ルシオ達にも似たような能力があるのかもしれない。
ルシオたちは、自分達の水は見つけた水源で補給してくれているし、俺の水の補充もできる。水源の周りには雑草が生えていることも多く、食事もそこで済ませてくれているので、食事と水は十分に余裕が持てそうだ。
(成果なしということではな。)
物資に余裕ができたので、当初予定していた10日間の行程を伸ばすことも視野に入れる必要がありそうだ。このまま目標達成できないのは辛い。
移動速度は当初予定した通り、時速15km程度。あくまで体感速度なので目安程度だ。走りっぱなしだが、今のペースであれば、俺も余裕があるし、ロバたちもかなり余裕そうだ。俺の能力が上がって、もっと早い平均時速で移動できているかもしれないが、無理をすべきではないだろう。
(意外と寂しくないものだな。)
移動中でもセルカと話せるが、周りに人がいなくなるので、もっと孤独を感じるかとも思っていたが、むしろ気楽に感じている。ロバたちがいてくれ、ある程度意思の疎通ができることが大きいのだろう。寂しさを感じない。
時々セルカの愚痴や噂話を聞かされていることも、寂しさを感じない理由の1つではあるのだが。最初は気が付かなかったが、話しかけて来る時間帯や長さが決まっているのは、セルカの気遣いなのかもしれない。
(しかし、順調すぎて飽きるくらいだな。)
荷物を多く持つためにルシオとロシナンテを連れ出したが、日数が経つにつれて、愛着が湧いてきている。同時に保護欲も湧いてきており、野生の動物などに襲われないように、野生の動物を見かける度に警戒を強めているが、近づく前に何かを恐れるように逃げていく。
明らかに肉食の動物もいたが同様だった。野生の動物が逃げていく理由は、今一つわからないが、安全なのは良いことだろう。とにかく道中は安定しており、持参した武器にお世話になりそうなことは起こっていない。
・・・
(この世界は思ったより状況が悪いのか?)
行程自体は順調なのだが、懸念がないわけではない。今日走り切れば、村を出発してから4日間、1日90km進んでいるとして、概算だが360kmの距離を北上した計算になる。
ここまで荒野や砂漠が広がっており、人の気配が全くないとなると、人類は全滅してしまったのではないかと不安になる。進んでいる方向が悪いのかもしれないが、ここまで人の気配がしないのは、異常なのではないのか。
女神が救って欲しいと伝えてきたことを考えれば、どこかに人類は生存しいるのだろうが、近くにいない可能性もある。そもそも生まれた場所の配慮のなさからすれば、その可能性も十分にあり得そうな話だ。
「あの駄女神め。もう少し考えた場所に転生させるべきだろうに。」
どうしても愚痴が出てしまうのは、しかたないことだろう。
(しかし、空が少しおかしい気がする。)
相変わらず人の気配はしないのだが、少し空が曇ってきているように感じる。特に夜の星空が、出発時よりもぼやけてきている気がしている。勘違いの可能性もあるが、気になっている。
雨が降る前兆や、上空の水分の影響ではないかとも思えるが、雨が降る様子は今のところ全くない。単なる気のせいの可能性も十分にあるが・・・
(今日も、成果なしか。)
日が傾き始め、どうやら4日目も目的は達せられなさそうだ。後、1日で予定していた片道の日数に達してしまう。当初の計画を変更するのは良くないが、水の補給が順調で物資の残量に余裕がある。明日、成果があがらなければ、行程を延長することにしたい。
村人が見送ってくれた時のことを考えると、やっぱり何かしらの成果を挙げておきたい。物資の残量にもよるが目的を達成するまで、可能な限り行きの日数を増やす。いざとなれば、荷物を放置して、帰りはロバに乗って日数を短縮して帰るという手も考える必要があるかもしれない。
(今日はここまでだな。)
日が沈むと一気に暗くなる。進むのを止め、食事と野宿の準備をしていく。野宿には大分慣れてきている。最低限の準備を素早く行い、食事を取り出す。
(さてと、食事をしたら、さっさと寝るとしよう。)
水にも余裕があるので、今日はうどんを茹でて、塩漬け肉うどんと、ローズマリー茶の組み合わせにする。明日は、少し速度をあげながら北上を続け、まずは予定の5日間の完走を目指すことにしよう。
夜は若干冷えるが、数日前からロバたちに挟まれて寝るようにしている。ロバたちは体温が高く快適だ。今日も良く眠れそうだ。




