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第82話 変わりゆく里と村のくらし

「あー。今日も平和だな。」


 俺は空を見上げながら、ぼんやりと考え事をしていた。異世界に転生して6年が経ち、俺は6歳になった。成長速度は植物と同じようにほぼ2倍という状況が続いているようで、見た目は12歳以上だ。


(そろそろ、違和感が隠せなくなるかもしれないな。)


 イーリスの里で最初の住人に会ったのは4歳の時、村に戻った時は5歳過ぎの時だ。住民達とは、まだ1~2年しか一緒にいないこともあり、俺の成長の早さを奇異な目でみられることは、1人を除いてない。成長が早い子供というくらいで済んでいるが、いずれ違和感を与えるようになるかもしれない。

 

「あんた、大きくなるのが早過ぎよ。」


 少し前から、ケイティには文句のようなことを言われることも多くなっている。他の住民が違和感を覚えるのも時間の問題なのかもしれない。例え成長の早さに気づかれたとしても、必ずしも何か悪いことが起こるとは限らない。それでも、不安を感じる。何か理由を見つけて、一度ここを離れた方が良いのかもしれない。


(里も村も順調だ。俺が離れても大きな問題はないかもしれない。)


 里と村の立て直しを始めてから、里では知識の伝授、実地指導、資料作成、村では実地指導を続けている。それぞれ人材が育っていて頼もしい限りだが、やはり里の方が、平均的に能力が伸びているように感じる。


 特に自主的に考える力が身についており、里の住民は俺の指示だけでなく自分たちで工夫するようになっている。その一方で、村では、技術担当のフレッドとアシーナ、それに加え、その周りの数人は能力が伸びているが、その他は指示に従う傾向が強く、目を見張るような伸びを見せる人材は見当たらない。


 やはり知識がなぜ必要なのか、そして技術の本質まで理解できた方が、工夫する余地が生まれるのだろう。里の教育は負担で面倒だが、つくづく、教育は重要なのだと感じる。


(そろそろ、教える側に回ってもらっても良いかもしれない。)


 教えることで学べることも多い。例えば、里の人材と技術担当の交流を進めて、教え合うような環境を作っても良いのかもしれない。


 里の人材は、大人も子供も順調に伸びているが、やはりケイティが飛びぬけて伸びている。あれは天性の才能なのかもしれない。俺にしょっちゅう突っかかってくるが、それ以外はむしろ常識的で、かなりの努力家でもあり、言ったことは必ずやり遂げる。このまま順調に育てば、どれほどの人材になるのだろうかとも思う。


(ケイティには、もっと広い世界を見せてやりたいな。)


 ケイティも、この里や村に居続けていたら、いずれ成長が遅くなり限界が来ると思う。競争相手や、能力を発揮する必要性がない場所では、能力の延びにも限界が出てくるはずだ。この世界が滅びていないのであれば、大きな街に連れて行ってやりたい。


(まさか、ここ以外人がいないと言うことはないような・・・)


 周辺探索は時間が取れるたびに広げており、里を基準に120kmの範囲は探索を終えている。別のオアシスを発見したり、牛を確保したり、新たな成果はあがっているが、人里は見つからなかった。


 大型獣にも一度も出会ったことはなく、人も大型獣も滅んでしまったのではないかと不安になる。この里や村が所属している国があるのかもわからないが、税がとられないのも道理だろう。人里が見つからなかったのは残念だが、ここまで人の気配がないということは、里と村は安全ともいえる。その点は大きな利点だ。


(ここは良い土地になっていくのかもしれない。)


 この辺りは、山からの水は絶えることなく、水量も豊富だ。里と村の復興が順調に進んでいる一因が、安全で水も豊富なことであることは間違いない。


 最初に整理した農法は、少しずつ改善を加えており、大量の収穫物を安定して得られている。農作物の収穫についてはまったく問題がなく、蓄積もかなり進んでいる。植物の育成が早いこともあり、五公五民と労役の税を課しても余裕が出始めている。


 家畜のえさも十分にあるため、羊と牛を中心に畜産を強化している。家畜の成長速度は、植物と違い常識の範囲のため、まだそれほど増えてはいないが、当面増産の指示を抑える必要はない。もうしばらくかかると思うが、普通に肉が食べられるようになるだろう。


 安定した食糧事情に支えられて、人口も順調に増えている。村を譲り受けてから2年目には、俺がどうしても許容できなかった村の掟を撤廃した。撤廃した日を収穫祭にして、あのような掟が二度と作られないように工夫もした。


(緑化もまあまあ。この里と村は、今後のモデルケースとして十分だな。)


 周辺の緑化は、徐々にだが着実に進んでいる。村の周辺には、水を引き適当に耕して、十分に貯蓄できているソルガムと大麻を適当にばらまいている。暇なときに収穫をしているが、基本は放置している。元々乾燥に強く、雑草より成長が早いので、自然繁殖もできているので、周りを軽く耕すだけで、水が行きわたる範囲に限られるが、広がっていきそうな感じだ。


 里の周辺は、木を中心に栽培をしている。北東の山を避け、出口の西にオリーブ、アラビアゴムノキと、東にジャトロファ、南には竹とソルガム、大麻、ヨモギ、ラフマなどを育成している。


 東のジャトロファは、元々家畜の柵としても使われる植物なので、将来的には家畜を放すことを視野に、四角形に囲むように植えて栽培している。


 外に植物を増やすことで、土が安定してきており、年々周りの緑が濃くなってきている。


(甘味を広げるタイミングは、もう少し先かな。)


 以前見つけたナツメヤシの群生地からは、葉を多く収穫して持ち帰っているが、実のデーツは、まだ住民には提供していない。甘味は貴重で、かなり喜んでもらえると思うのだが、虫歯の原因にもなりかねない。


 当面はドライフードやデーツシロップにして、個人的に備蓄するだけにとどめておくことにしている。ナツメヤシの群生地までは、かなりの距離があり迷いやすいので、セルカの自動種まき機で、緑化も兼ねて緑の道を少しずつ作ってもらっている。その道で住民が迷わないようにできれば、遠いが収穫を任せ、その頃に解禁しようと思っている。


 里も村も、食糧に困っていたのがウソのように、食糧事情は安定している。大人の住民達は、まだ飢えていた時代の記憶が鮮明に残っているので完全には安心していないが、いずれ昔の生活を笑い話にできる日も来るのかもしれない。子供たちにとっては、そんな時代は体感しないで済みそうだ。


(使う必要がなければ良いがな。)


 トイレによる堆肥づくりも順調で、堆肥の住民による利用も普及し始めている。里のトイレには2つだけ、セルカ管理のものが存在する。時々そのトイレに、藁や枯草、ヨモギ、土を時々入れてもらっているが、理由は説明していない。住民達は新しい堆肥づくりとでも思っているはずだ。


 実際にやっていることは、尿に含まれる尿素を発酵させることで、アンモニアから亜硝酸、亜硝酸から硝酸を作っている。硝酸は灰汁と煮ることで硝酸カリウムになる。要するに火薬の原料だ。使わないに越したことはないが、作るのに数年かかる代物なので、用意だけはした方が良いと判断した。


(この状況は、6年の成果と考えると十分満足いくな。)


 子供たちも順調にのびのびと育っており嬉しい限りだ。酷い環境に転生させられたものだと思っていたが、今となっては平和な良い場所になりつつある。防衛面は、ほぼ未着手で弱いままだが、それさえ除けば、里と村の暮らしは大きく変わり、のどかな田舎暮らしが満喫できる環境が整いつつある。今の技術力でできる前世の日常を、ほぼ再現できたと言ってよいだろう。


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