第81話 農業の効率化
製鉄の課題だった木材に余裕ができたので、鉄の生産に力をいれ、里に必要な分の釘や工具などを確保している。それらを使って、俺は農業の効率化を図っていた。
(効率化の基本は、便利な道具の普及や、自動化だ。)
今の技術レベルでも再現可能な道具を中心に製作し、住民で作れるように図面や作り方の資料を準備した。これがあれば里の人材でも再現や修理ができるだろう。
効率化の効果が高そうな、鍬や刈り入れ用の鎌、千歯などの便利な道具は、俺の方で数をそろえて里の住民全員に貸与し、村には一部の住人にサンプルを貸与している。
さらに、少し難易度の高い、簡易織機や、大麻の種を効率良く蒔くための種まき機(泉田式大麻播種機)を作ったところで、セルカから声がかかった。
(その種まき機、面白そうですね。)
「そうか? まあ、長方形の木箱に大麻の種を入れて、引っ張るだけで種がまけるのは面白いかもな。」
(いや、そうじゃなくてですね。木箱の両端に車輪があって、周りに釘が付いているじゃないですか。その鉄の棒を、このまえリコルドが作っていたマナ合金に変えてもらって工夫すれば、私が動かせるかなーなんて思ってみていました。)
泉田式大麻播種機は車輪が木製だが、そのままだと畑でスリップするため、車輪の外周にスパイクの代わりに定期的に鉄くぎのようなものが刺してある。確かに、その鉄くぎをマナ合金製にすれば、操作できる可能性はあるのかもしれない。
マナ合金を作った後、『しるし』の近くにマナ合金のかけらなどがあれば、簡単な操作ができることは実証している。しかし、そう単純にはいかない。マナ合金と『しるし』の距離が10cm以上離れると操作できないなどの制限も多い。
「あぁ。まあ、そう簡単にいかないだろう。両輪の間に距離もあるしな。」
(そうですか。残念です。ゴーレムで農作業すればよいのですけど、燃費がわるいんですよね。)
里の住人が増えて、住民には祭壇での祈りを日課にしてもらっているので、一日簡単な仕事をする程度のマナは確保できている。今後も住人が増えることを考えれば問題ないレベルではあるのだが、農作業や鍛冶の手伝いなどをさせると、半日程度でゴーレムがエネルギー切れになることもあり、優先順位は高くないものの課題としていた。
「確かに、セルカに作業をもっと手伝ってもらえると助かるな。よし、少し検討してみるか。」
(なにか、閃いたんですか? じゃあ、楽しみにしていますね。)
・・・
セルカが言っていた、車輪のスパイクにマナ合金を使うという発想は悪くない。悪くないどころか、『しるし』との距離が近ければ、恐らく問題ない。動力としては『しるし』にマナ合金製の車軸を接触させ、その近くに両輪を配置することで、前後への動きはできるようになるはずだ。
車輪を4つ配置し、前方2つの車輪を、ラジコンカーのような構造で、タイヤのアングルを変えられるようにした。動力や操作は、『しるし』からマナを流すことで実現できるので、非常にシンプルな構造の4輪駆動の模型ができあがった。
「セルカ、試作ができたから使ってみてくれ。」
簡単な試作品だが、これが動くようであれば、活用方法はかなり広がるだろう。
(結構時間かかりましたね。大変でしたか?)
言われて気が付いたが、ほぼ夕方になっていた。午前中、結構朝早くから作業をしていたので、8時間程度は時間が経過していたらしい。
「ああ、もう夕方か。気が付かなかった。結構面白くてな。まあ、とにかく使ってみてくれ。」
そういうと、模型を教会の広間にもってきて地面に置いた。
(どうやって使ったらいいですか?)
「車輪にはマナ合金が付いているので、それを使って回して動かしてくれ。前輪のアングルはここを引っ張るとかえられるようになっている。これを使いこなせば、前後左右の動作ができるはずだ。」
(あー、ちょっと難しいかも。こうですかね。あれ? あれ!? いや・・・)
地面に置いてから、既に30分は経過している。無理かなと思い始めたころに、少し前に動いた。
「キュルキュル。」
少し動いたかと思ったら、1つの車輪だけが空回りしていた。
(これ、調整が難しいですね。後、車輪を同時に4つ同じように動かさないといけないのがちょっと。えぃ。)
「ああ、そうか。そうだな。じゃあ、前の2つの車輪だけだったらどうだ。」
いきなり四輪駆動を目指さなくても、前輪駆動でも十分動けるはずなので、そうアドバイスをしたところ、模型が動き始めた。ただ前輪駆動にしても、中々思うように動かない。
(うーん。難しいですね。)
「そうだ、車輪にこだわらなくて良いんじゃないか。前の2つの車輪でなく、それをつないでいる軸だけうごかしてみたら。」
いくつかアドバイスをしながら、動かしてもらったが、どうやら今のままでは、上手くいかないようだ。
(難しいですね。軸だけに動きを伝えたいのですが、どうも周りも動いてしまう感じです。なれればできそうなきもしますけど、この構造だとすぐにはできないかも。)
「なるほど、そういうことか・・・!」
そういうことならやり方はある。前の車軸とアングルを変えるギミックの部品だけマナ合金にして、後は普通の素材に。マナ合金ごとに『しるし』を付ける。
「これでどうだ。前後に動かすときと、アングルを変えるときは『しるし』を切り替えてつかってみてくれ。」
再チャレンジで、また床に模型を置く。
「スー。」
簡単に模型が動き出す。最初は前後だけだったが、やがて左右にも動き出す。
(できました。これ、切り替えるのに、もう少し慣れが必要ですが、使えますね。速度調節もできますし。良いですね!)
やっと成功例といっても良いものが完成した。それからも少しずつ工夫を凝らし、1週間程度で満足いく模型を作ることができた。
・・・
それ以来、里の外では、箱に入れた大麻の種が無くなるまで、自動的に動作する種まき機がみられるようになっていった。種まき機は種まきが終わると、入れ替わるように、2例目の水まき機も動いていく。自立型緑化機、試作品の完成である。これにより里の周りを中心に、緑化が順調に進んでいくことになった。




