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第77話 里の役割と教育

 イーリスの里は、村から追われた子供たちを救うと決めた時点で、教育に力を入れる方針としている。当面、里の復興や緑化に貢献することが難しい子供達を、受け入れる意義のようなものが欲しかったこともある。


 教育は所詮きっかけでしかなく、狙い通りになることはあまりないと知っているが、それでも子供達には期待している。、将来、里や村に縛られることなく、広く活躍する人材として育って欲しい。そのための育成もねらい、子供の教育方針を立てている。


(神父とミランダが来てくれたのは、本当にありがたい。意外と女神の御導きということもあるのかもな。)


 教育には教師役が必要になるが、幸い読み書きや素養を兼ね備えている神父、里に来て農業だけでなく、新しいことにチャレンジするようになったミランダ、有望そうなケイティがおり、子供達の教育を支える人材は問題ない。


 子供のころの教育期間は、基本的なことを教えながら、その子供の特性や将来性も見極める期間でもある。基本的なことというのは、子供達が社会の一員となって生活を送れるようにするための知識と技術などになる。


(うまく行けば、この世界では幸せな生活を送れる人たちになるはずだ。)


 この里では、前世の生活で出来ていたことを、ここの技術レベルでできるだけ再現した状態を日常としていくつもりなので、この世界の中では良い生活が自然と送れるようになっていくはずだ。子供達には、再現した生活に必要な衣食住などについて、基礎的な理解とそれを継続するための技術を身に着けてもらうことになる。


ただ、俺の考える普通の衣食住の内容は、こちらで再現可能な範囲に絞っても特殊で、言葉で説明しても中々伝わらないことが多い。なので、俺の考える普通の衣食住を、実地中心で教えながら、補助資料として、特殊性を理解してもらうような補足なども記載した説明書を用意しておく。


(まずは、大人たちだよな。)


 組織を効率よくレベルアップするには、リーダやマネジメントクラスの人材を育成するに限る。ここでは、移住してくれた家族の大人たちだ。まずは里で再現した生活を定着させるために、大人達も含めて繰り返し教えていくことにした。


 衣食住のノウハウを教える前に、基本的な道具として、できたばかりの鉄製の道具を、各家庭に貸与した。道具はナイフ、鉈、鍬の3種類で、荒砥をした状態のものを渡した。日常のメンテナンスを身に着けてもらうために、砥石も渡して、研ぎ方と研いだ後に使い方も説明した。


「これって鉄製ですよね? これだけ貴重なものを貸し出すなんてありえない。」


 ほとんどの住人は鉄製の道具自体を、あまり見る機会もない。新しい道具くらいの認識だったようだが、偶然、鉄について知っている何人かは一様に驚いていた。渡した道具は、これまでも石器だが似た目的の道具は日常で使っており、利用自体には問題はないが、鉄製の道具の性能面に驚いていた。


「ここでは、これらの道具を常用していく。今までの道具より切れて危険なので、利用には細心の注意を払って欲しい。特に子供たちには、当面触れさせないように気を付けてくれ。」


 神父とミランダにも事前に渡している。神父は製鉄にも興味を持ったようだったので、余裕が出て来たら、少しずつ教えても良いかもしれない。


(まあ、そりゃそうか。)


 『衣』については、奥様方の方が詳しく、羊を育てている家庭には、簡易な機織り機まであった。ただ、植物繊維の糸は扱ったことがなかったので、麻糸の作り方を中心に実地で学んでもらい、麻糸を使った衣服の作成もお願いした。どの家族も快諾してくれたが、布の作成は非常に時間がかかるらしく、確保できる時間にもよるが、服1着作るのに半年以上はかかるとのことだった。


「材料がこれだけ豊富なら、冬の作業にしても良いね。危険も少ないし、子供たちの遊びに取り入れても良いわね。」


 ミランダにも麻糸の作り方や、布について相談をしていたところ、そう提案を受けた。


「ああ。ミランダの言う通りだな。それは里としてもありがたいので、是非進めてくれ。必要なものや場所など、なんでも言ってくれれば、優先的に用意する。できれば機織り機を増やしていきたいので、それも併せて検討してくれないか。」


 ミランダは嬉しそうにうなずくと、講習会や機織り機の研究会などを企画していった。


 『食』に関して、農法と料理を教えていった。里の住人には農法について、詳しく解説することにしている。皆、農業の経験は豊富なので、現状の農法の欠点である、凶作が起こる理由や連作障害などから説明し、緑肥や堆肥の使い方、輪作なども含めて教えていった。


農法については、これまで苦労してきて、解決できない問題と諦めていたこともあり、最初は先入観から疑心暗鬼だったが、収穫を見て少しずつ考えを改めるようになっていった。


「こ、これだけで?! これを知っていれば、どれだけ苦労せずに済んだか・・・」


 特に最初の収穫の時の豊作を見た時には、目を丸くしており、これまでの苦しい暮らしを思い出してか、感激して涙ぐんでいる家族もいた。自分の親や知人が亡くなっている住民は1人や2人ではなく、嬉しさより後悔の言葉が最初は多かったが、徐々に前を見ているように感じる。


 料理については、少しずつ伝えているが、教会の食卓で好評だったうどん、サラダ、スープなどを教えている。これまでの主食は、ソルガムを水に浸した後、つぶして焼いたものなどだったこともあり、うどんはかなりうけが良かった。


 教えた日からしばらくの間、奥様方が毎日作るようになり、飽き気味になるほどだったが、今は程よく作られるようになってきている。今では、定期的にうどん教室が開かれ、こちらも子供たちの実習に組み込まれており、子供たちは楽しそうにしている。


 『住』に関しては、竹材での食器づくり、かご作りなどの日用品の作り方、手洗い・うがい・歯磨きなどの衛生習慣、水浴びやトイレなどを教えていった。竹材の細工は、ナイフなどが必要なため、基本的には大人の作業としている。これ以外にも、あまり機会がない革の鞣しや、肉の塩漬けなども、狩りの成果が上がったタイミングで教えていった。


「いーーーーやーーーー。」


 衛生習慣は子供たちに特に不評で、中々定着しない。そもそも効果が分かりにくいため、大人たちにも、まだ定着できていないのが課題だ。


 これらの衣食住に関する生活基盤の向上の取り組みに加え、基本的な能力として読み書き、簡単な計算を、神父とミランダに指導してもらっている。これまで2カ月かけて教えたことで、ある程度は浸透し始めているが、普及というにはもう少しかかりそうだ。ただ、これまでの生活が改善されている実感があるのか、概ね皆前向きなのは、頼もしい限りだ。今後も整理した教育方針に従いつつ、実習を多めにした教育を進めていくことにする。


・・・


(また、来たか。)


 ケイティは、ことあるごとに俺のところに来る。見かけの年齢が近いこともあるが、どうも対抗心を燃やしているようだ。ケイティは将来性が楽しみな顔立ちをしており、物覚えも良い。手先も異様と言って良いほど器用だ。


 子供達にも人気があり、この里にとってなくてはならない人材に、早くもなっているが、ちょっと面倒だ。


「リコルド、私は子供支援隊を発足したわ。あんたも暇なとき手伝いなさいね!」


 ある程度、衣食住の教育を進めたとき、いきなりケイティが宣言してきた。どうやら子供支援隊というのは、子供を集めて実習で身に着けた作業などを中心に、各家庭の手伝いして回る部隊らしい。


 ケイティの統率力の高さに驚く同時に、頼もしさすら感じている。付き合っている子供たちが、楽しそうにしているのが、また凄いところだ。正直煩わしい面もあるのだが、競争心をあおりながら、もっとできるようになってもらおう。そういう意味では、楽しみな人材だ。今後に期待したい。意外とこういった子が、将来期待する人材になるのかもしれない。


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