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第76話 里での暮し

 村を譲り受け、村の立て直しに着手し始めたころ、どうしても早めに対処してあげたいことがあった。しかし、これまで里の情報は極力秘匿していたこと、それを行うことの影響が読めないこともあり、自分だけでは判断がしにくかったので、セルカに相談してみた。


「セルカ、里で育てている子供と、村の家族が再会できるとしたらどう思うだろう。」


 村の掟とはいえ、子供たちを教会の地下にある水路に流すことには、相当の葛藤があったはずで、女神の国へ行けると信じている両親ばかりではなかっただろう。葛藤の末、流した子供たちと会いたいと思うだろうか。このまま何も告げないという選択肢も当然ある。


(そうですねぇ。私は誰の立場に立つかによって考えは違うと思いますよ。両親なのか、流された子供なのか。この場合、流された子供の立場を優先すべきではないかと思います。)


 流された子供の立場・・・。


 今はまだ3歳未満の子供しかいないため、皆、はっきりとした自我が芽生えていないが、このまま育ったらどうなるか。この時期の記憶を覚えている子供もいるが、鮮明に覚えている子供はまれだろう。


「・・・ああ。そうだな。このまま子供が両親に会えずに里で育った時、自分が捨てられたと知ったら、どうしたって哀しみを抱えることになるだろう。それを思えば、両親は今向き合った方が良いかもしれないな。葛藤はあるだろうが、せっかく生きているのだから。」


(ですね。そう思います。)


 家族によっては向き合えない者もいるかもしれない。しかし、今、もし子供達を両親のもとに返せるのであれば、子供は必要のない哀しみに直面することもない。うまく行けばあたりまえの家族に戻れるかもしれない。里の秘匿も今更という気がしてきた。リスクはあるが、覚悟を決めよう。


「そう決めたら、早ければ早い方が良いな。」


 俺は早速、里で預かっている子供の家族である、村に住む6家族を呼び出した。その中には、ケイティやカールの両親もいる。色々言い方をどうするか迷ったが、単刀直入に告げた。


「俺は、あなたたちのお子さんを預かっている。」


 そう告げた後、俺は両親の顔を見渡した。村の掟に従い、子供を教会地下の水路に流し、女神の国に送り出したことになっているが、やはり本心から信じていた親は少ないようだった。


 ハッとした顔で俺を見つめた後、皆が真剣に俺の話に聞き入った。女神の国を信じていた一部の親への説明は少し苦労したが、里の話や元気に過ごしている様子などを伝えて、セルカの後押しもあり、納得してもらうことができた。


「子供達はここから離れた場所にあるイーリスの里で預かっている。大人が2人しかいない、小さな里だ。皆には子供達と再会してもらう機会を作るが、それだけでなく、できれば里に移住して欲しいと思っている。」


 納得はしてもらえたようだが、直接子供を見てもらった方が確実だ。いっそこれを機に、里を引き上げて村に全住民をまとめようかとも考えたが、セルカを再び一人っきりにすることになるし、ゴーレムの動力を得ることが難しくなる。


 そこで、6家族に対して、里への移住を提案することにした。あくまで提案であり、家族の判断や希望を尊重することを再三伝え、検討してもらった。正直1,2家族が移住すれば良い方だろうと考えていた。


「そうか、よく決断してくれたな。」


 住み慣れた村から移住することに抵抗感はあったようだが、意外なことに、全6家族が移住を希望した。村の掟の真実と向き合ったこと、里での暮しについて詳しく説明したこと、若い夫婦の家庭ということなどが影響しているのかもしれない。


 こちらとしてはありがたい結論でもあるので、早速、荷物をまとめてもらい、水路を活用して里に移り住んでもらった。毎度のパターンになりつつあるが、水路で驚き、ゴーレムで驚き、里の畑などに一通り驚いた後、新たな住人達も少しずつ受け入れていった。


「私に任せておいてよっ!」


 新たに6家族が増え、それぞれの家族は2人の子供を連れてきた。そのため、ケイティ、カールを含めると、子供が18人と一気に増えたが、ケイティは大喜びだった。妹とも再会できたうえに、可愛い子供や友達になれそうな子供が増えたので、テンションがかなりあがっているようだった。


 ケイティは面倒見も良いし、非常に、いや、異様に器用なところがあるので、子供たちの面倒を任せられる気もしている。子供たちには両親もいるし、心配ないだろう。やはり家族がそろって暮らせるというのは、見るだけで微笑ましいものがある。


 自己満足かもしれないが、移住させて良かったと思う。ちなみにケイティだが、負けず嫌いで努力家なところがあり、先日神父から読み書きを教わった際、俺があっさり覚えたのを見て、必死に勉強しており、既に基本的な読み書きができるようになっている。


 移住してきた家族には、教会の外にある家を好きに選んでもらい、選んだ家を住居としてもらうことにした。家の修理と掃除が終わっているのは、8軒だったが、話し合いも含めてすんなり住む先は決まったようだ。


「家も作物が育つ畑も貰えるので、村より良いですね。」


 家族たちの反応や言葉は、少しずつ違うものの、満足度は高いようだった。これからも、定住してもらえるように、積極的に支援をしたいと思う。


 6家族は基本的に農業を行っていたが、1家族は羊を育てていた。里への移住の時に、苦労したが羊を運び、新たに作った羊用の柵に入れてもらった。各家族には、住居の近くの畑を割り当て譲渡しており、収穫の半分を教会に納めてもらうことにしている。


 これまで、税をほとんど納めていないので、収穫の半分をいきなり納めるは不安があるはずなので、その不安が解消されるまで、配給を行うこととした。毎日、教会の大広間に作った食卓で食事を出し、共同で食事を取ることで、食事が必ずできる状況を作っておき、家族同士や俺とのコミュニケーションを増やすことで、安心してもらう。


 俺としては、色々働いてもらうつもりなので、社食のようなイメージで提案したのだが、かなり驚かれ、なんども確認された。教会での共同の食事は、朝と夕方の1日2回することにしている。1日3回と考えていたが、村での食事は1回のことも多く、毎日2回でも多いようだった。


「うまっ、こんなに食べて大丈夫ですか?」


 俺的には粗末な食事と思っているが、塩が贅沢に使えることや、時々新鮮な野菜や肉も出すので、簡単なものだが好評だった。


 共同での食事では、色々なことを話している。里の目的や方針、子供の教育など、運営にかかわる重要な内容は、セルカに祭壇を通して伝えてもらっているが、日々の情報共有、疑問、悩みなどについては、食卓で話をしている。それもあってか、最初距離があったものの、移住してきた家族も含め、里の住民は良い関係が築けていると思う。


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