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第75話 製鉄

 里での生活は安定してきており、村の復興も順調に進んでいる。だが、前より良くなっただけで、まだまだ満足できるレベルにない。


「道具のレベルアップが必要だな。」


 今後、短期間で復興、そして更なる発展を目指すのであれば、優れた道具が数多く必要になる。できれば、石器を使っている状況から、鉄製の道具を揃えていきたいと思っていた。


 鉄製の道具が完全にないわけではなく、俺が持っている短剣は鉄製だし、品質がかなり悪いが、里には鉄製の農具もあった。しかし、里にも村にも残念ながら製鉄技術は受け継がれておらず、鉄製の道具は貴重で日常の道具に使えるだけの鉄がない。


(製鉄の設備もあるし、質は悪いが鉄鉱石も確保した。)


 里には製鉄を行ったと思われる建物があり、その裏に赤くさびたような色合いが特徴の赤鉄鉱が取れる場所もある。セルカに時間があるときに、赤鉄鉱は掘り出してもらっており、それなりの量が確保できていた。


 ちなみにセルカに、俺がやっている岩のくりぬき方を教えた所、あっさり習得していた。俺の体内に取り込んだマナと、セルカのゴーレムに流れ込んでいるマナは、同様の性質をもったものなのだろう。


(窯も準備できたし、炭作りも目途が立った。)


 俺の方でも準備を進めており、時間があるときに里に戻り、石材で窯を作り、集めておいた木材を使って、炭を作っておいた。炭は単に燃やすだけでは、燃えカスばかりになってしまうため、意外に作るのは難しい。


 効率よく炭にするには、木を蒸し焼きにしなければならないのだが、炎がたたないギリギリになるよう空気を送り、燃焼させなければならず、ちょっとしたミスで燃え上がってしまう。


 蒸し焼きにした後、窯に蓋をして酸素を断ち切って消化して、冷えてから完成した炭を取り出す。中々満足いく炭ができていないが、火加減は大分コツがつかめてきたので、もう少し経験を積めばなんとかなりそうだ。少し失敗しているとはいえ、これまでの炭ものも十分使える。


(設備の修理も大丈夫そうだ。)


 製鉄の設備については、里に元々あったものを、きれいに掃除をして、壊れた所を修理してある。元々あった設備は単純なもので、構造は俺が炭焼き用に作った窯とほぼ一緒だった。熱を逃がさないように、レンガや石で作られた窯で、煙を逃がすための穴が窯の奥にあり、窯の入り口に材料と空気を入れるための口がある簡易な設備だ。


(準備は整ったので、製鉄に取り組もう。まあ、火力が足りないので原始的な方法からだがな。)


 製鉄だが、刀のようなものを作る場合は、品質の高い鉄が必要となり、加工に必要とされる温度も1,000度~1,300度と高くなる。ここまでの高温が必要なのは、金属の一般的な性質による。


 鉄に限らず、純度の高い単一金属は融点が高くなるが、これは原子が規則正しく並んだ、結晶構造になるためだ。美しい構造の物質は、安定して存在する。


 一方で、鉄鉱石から原始的な方法で精製される鉄は、不純物を多く含んでおり、大きさも・性質も異なる原子が混ざっているため、結晶構造がろくにできておらず融点が低くなる。そのため、質を追求しないのであれば、製鉄にはそこまでの高温は必要ない。


 赤鉄鉱に含まれる鉄の化学式はFe2O3になるが、木炭と赤鉄鉱を交互に重ね、空気を送り込みながら燃焼させることでCOを発生させ、Oと還元させることで鉄を作り出すことができる。


 この科学反応に必要な温度は400~800度程度。炭の燃焼でも十分得られる温度なので、化学反応を十分起こせる。炭でなくても、この温度は十分だせるため、前世では技術レベルが低い古代でも、場所によっては製鉄が行われていた。


(よし、試して見るか。)


 窯の中に、空気通るように炭を積み、その上に赤鉄鉱を並べる。さらにその上に炭を置く。窯に詰め込み過ぎないように、炭と赤鉄鉱を交互に積み重ねて火をつける。


・・・


 炭が燃え尽きるまで待った後、赤鉄鉱だったものを取り出すと、あまり温度が高くならなかったのか、固体のまま還元された孔だらけの海綿状の鉄が多くできた。火力を安定させることができれば、もう少し質の良いものもできるはずだ。


(まあ、質が良くても悪くても、やることは変わらない。)


 この状態の鉄は、当然不純物を多く含んだ状態で、このままでは到底つかえたものではない。できた海綿状の鉄から不純物を取り除くために、鍛える工程が必要になる。


 鍛える工程には火床と言われる設備が必要になる。火床にはいくつか種類があるのだが、今回は簡易な構造のものを選択した。掘り込み式と呼ばれる火床だ。


 石材で四角い外枠を作り、その真ん中あたりを掘る。掘り込んだところに火のついた木炭を入れ、そこに空気を送るための送風口を作る。ふいご定期的に空気を送ることで、そこの燃えている木炭を赤熱させ、その中に海綿体の鉄を突っ込み赤くなるまで熱する。


 構造は単純だが、セルカにふいごの操作を頑張ってもらえば、木炭の熱は1,000度程度まで出せる。俺が作業している間、セルカ(ゴーレム)が休まず動かして送り込んでいる。文句を言っているので、後が怖い。


(よし、頃合いだ。鍛えるか。)


 赤くなった鉄を、大型獣の骨で作った工具で取り出し、岩を切り出して作った台の上に置き、ハンマーで何度もたたく。この動作で鉄原子どうしをくっつけつつ、不純物を絞り出していく。


 冷めたら熱して、たたくを繰り返す、いわゆる「鍛錬」と呼ばれる工程だ。これを続けると、鉄の塊が出来上がる。満足いく鉄の塊ができたら、平らにしながら炭に包んで熱して炭素分を加えて、さらに鍛えることで鋼にしていく。


 ここまでくれば、包丁はもちろん武器、質は十分ではないが刀が作れるレベルの鋼が出来上がる。今回は、村の発展速度を上げるための工具が必要なので、ナイフや鉈などを中心に作っていく。


・・・


 ひたすら作業を続け、かなりの量の鋼を作ったが、今後のことを考えるとまだ十分とはいえない。赤鉄鉱はまだ確保できそうだが、木材が不足しそうだ。里だけでなく、村の周りの木材も集めているが、量は限られている。探索範囲を大幅に広げない限り、いずれは木材が枯渇して製鉄の難易度があがってくるだろう。


 赤鉄鉱を掘り出す中で、石炭も見つかっているのだが、今の技術レベルでは、石炭を使った製鉄は難しい。単純に木炭の代わりに石炭を使うと、石炭に含まれる硫黄が流れ出し、鉄と硫黄が科学反応起こして脆くて使えないものができあがってしまう。


 石炭から硫黄を抜いて、コークスを作ったところで、コークスの燃えにくさを考えれば、ふいご程度では処理が不可能だ。現状では木炭による製鉄が最適となるはずだ。


(魔法があれば別なのだろうが・・・)


 とりあえず、村と里で使う程度の道具は、これでなんとか足りそうだ。成形がまだ荒いので、もう少し手を加えるが、最終区工程である研ぐ作業は、住人にやってもらうつもりだ。


 研ぐ作業は少し楽しさもあるので、みんなでやった方が良いだろう。こちらも楽ができるし、住民が自分で鉄製の道具のメンテナンスを覚えることにもつながる。


 製鉄については、当面俺だけの技術とする。特に鍛錬については、里にあった鉄器を見る限り、あまり知られていないとおもうので、当面極秘としていこうと思う。


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