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第72話 村の立て直し

 ようやく長い冬が終わり、俺はこの異世界に転生して4年となった。成長速度は速いまま、見かけは8~9歳くらいの子供になった。


 農業を主な作業とする場合、どうしても冬場は手持無沙汰になる。今年の冬は里の皆には筆記用具の作成をお願いしたが、いずれは冬場の仕事や楽しみを増やして、短く感じるくらいにしていきたい。


 冬に入る前、村長の村を譲りたいという提案があったが、春まで考えるように伝え、俺は冬の間、イーリスの里で、村を譲り受けた後について考えながら、教科書の作成などを進めていた。


・・・


「意思は変わらなかったか。・・・無理もないな。」


(そうですね。冬の間、何度か村長と話しましたが、ゆるぎないようですよ。)


 春になり、村長の考えをあらためて確認したのだが、意思は固く結論は変わらなかった。村を女神イーリスのしもべであるセルカに譲りたい、改めて正式に提案を伝えられたので、了承した。


 村長は冬の間に主な住人と根回しを進め、了承を得ており、大方決まっているが、最後に他の住民にも説明する機会を設けることになった。さほど大きくない村と言うこともあり、重大発表があると伝言で周知され、数日後、村の住人が広場に集められた。


「皆も知っての通り、昨年はこれまでにない凶作だった。それでもこの冬を乗り越えられたのは、女神イーリスの思し召しだ。皆に食糧を配給できている理由は、イーリス教の方々によるものがほとんどだ・・・」


 村長は集まった住民に、女神イーリスの話、村の状況や食糧の配給元の話、春先に植えた種の育成状況、そして掟について説明していった。住民にとっては、ほとんどが公然の秘密であり、村長の口から話されたことで、どこか安心したような印象も受けた。


「私は今後の村のことを考え、1つの結論に達した。この村の宗教をイーリス教にあらため、この村を女神イーリスのしもべたるセルカ様にお譲りする。そうすることが、皆を安心して幸せに暮らせるようにするための最善手と確信している。」


 村長からセルカに村を譲るとの宣言が伝えられ、住人の目の前で和紙の契約書にサインをしてもらい、証拠として保管することになった。


 村の住民は当然混乱したが、その度合いは大きくなく、積極的に反対するような者は現れなかった。住人から大した抵抗もなく認められたのは、正直拍子抜けだったが、だれが村長でもあまり生活に変わりがないと割り切っているのかもしれない。


(さてと、最初が肝心だな。セルカ、後は頼むぞ!)


(はいはい。分かっていますけど、里に続き村でもですか。結構大変なんですよ?)


 住民には新しい村長になったセルカに心酔してもらうために、定番になりつつある手を使う。今後もイーリス教入信のルーチンとしていくことになるだろう。


 村長からセルカについて説明があり、住人の家族の家長に対して、女神イーリスの像を設置した祭壇の前で祈るように伝えられた。いきなり儀式めいた指示に戸惑う住人は多くいたが、祭壇で祈りをささげ、セルカと話をすると一様に驚いた後、納得したようだった。


 しもべとは言え、女神の関係者と、しかも特殊な方法で意思の疎通ができ、相談にも乗ってもらえるという特別な体験が、入信の後押しになる。セルカのコミュニケーション能力の裏付けもあってのことだろう。


・・・


 村長の宣言が終わった後、俺は早速村の立て直しを進めた。セルカは直接指示や指導ができないため、悩んだ末、俺が直接指揮をとることとした。村長をはじめ、村の住人は、子供が指揮することに、当然戸惑っているが気にしている余裕はない。俺も女神のしもべとしてごり押しをする。


 村の立て直しは、当然俺だけでは不可能だ。村の人材を積極的に活用していく必要がある。そのため、冬の間、セルカの協力のもと、村の住人を観察し、適性がありそうな人を既に選定している。


「それでは、今後この村でのまとめ役を発表する。最低でも1年で、皆が食べ物に困らないようにするつもりだ。不安や不満もあると思うが、まず1年黙って従ってくれ。」


 俺は村の住民を集めて、村の復興体制の説明を始めた。


 全体的なとりまとめ役は、これまでの経緯や実績がある村長にお願いする。その他に、俺から直接指示をする主担当者も選出した。要するに技官や中間管理職のような立場の人材だ。組織を変えるには、とりまとめ役の質を上げることが一番効果的と考えている。


 主担当には、直接指示ができる程度の前提知識と技術を教え、俺からの抽象的な指示に対して、作業内容の決定、他の人への作業指示、進捗管理など担当してもらうことを説明し、必要なことを伝えていった。俺の見た目など、気にしている暇がないほど、どんどん伝え、覚えさせていく。


「農業の面は、フレッドに頼みたい。」


「は? 俺かい?」


「ああ、そうだ。フレッドはセルカ様から、真面目で農作物に対する知識もあり、今の凶作にも諦めず、研究を重ねていたと聞いている。是非頼みたい。」


 農業の主担当として、村の住人であるフレッドを指名した。フレッドはびっくりして、戸惑っていたが、頷いてくれている。満更でもない様子だ。


 村の畑はやせており、細菌やカビなども発生しているようなので、事前に準備しておいた岩製の鍬を使って深く掘り起こし、土を入れ替えさせる。入れ替えた後、土がフカフカになるまで耕してもらい、その作業が終わったら、状態がましな畑にはソルガム、それ以外は土壌改良のために、大麻の種を撒くよう指示した。


 ソルガムが育ったら収穫し、実以外の部分を緑肥として畑にすき込むように指示をした。フレッドも含め、村人は不思議そうな顔をしていたが、基本は指示のみで、指示の理由はど細かい解説はしないことにしている。


「次はアシーナ。色々と細かいものを作ってもらいたい。」


「任しときな! そう言うことなら得意だわ。」


 裏山の竹林は、村の生活向上のために積極的に活用していきたい。非常に器用で根気強い村人アシーナを主担当として、竹材の切り出しと乾燥の指示を出した。切り出しには、岩製の斧を複数渡して、作業を行うように指示した。


 アシーナには細工を任せることとしている。乾燥させて竹材ができたら、コップや籠などの日用品を作らせる予定だ。それ以外に、畑に植えた大麻が収穫できれば、和紙の量産も指示するつもりだ。頼られることが多い女性なので、上手く進めば細工師という職業を作り、取りまとめ役になることも期待している。


 羊などの畜産を行っている住民には、家畜の頭数制限を解除し、どんどん増やすように指示をしている。毛糸や織物なども、可能な限り量産するように伝えてある。


 ちなみに、イーリスの里とイーリスの村では伝える知識レベルを変えていく。村の住人には基本的に作業指示を出し、詳しい知識は伝えない。一方でイーリスの里の住人には、作業指示だけでなく、どういう理由でその作業が必要なのかを解説するなど、可能な限り高度な教育を行う方針とする。村の住人は小学生レベル、里の住人は高校や大学、それ以上のレベルを目指してもらうつもりだ。


 村の住民には、畑の準備と竹材の準備が終わった後、作業を体験してもらう形でやり方を浸透させていく予定だ。まずは、優先して大人たちに、具体的に種まきや竹細工、和紙作りの方法などを教える。大人が作業を理解したら、子供たちにも育成をある程度兼ねて体験してもらうもりでいる。


 子どもたちにも、村の生活に必要な衣食住に関する簡単な作業を担ってもらえるような方針で、育成を進めていく予定だ。


 畑の種まきや収穫などは、こどもの実習としては楽しみながら農業を学ぶための良い機会となるだろうし、竹細工も、準備次第だが、簡単なものであれば子供でも十分作成可能だろう。竹材を十分に乾燥させるためには、2~3か月かかるはずなので、その間に、細工をするための道具を準備する予定だ。


 兎に角、できる限り早く村の衣食住を安定させ、野生の動物のような環境から抜け出せるように、村の立て直しを図っていく。特に食糧の安定確保を優先し、達成した暁には村の掟の廃止を宣言する。


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