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第69話 筆記用具の準備

 イーリスの里にいる子供たちは、俺を除くと、まだカールとケイティの2人のみだが、今後も増えていくことになるだろう。村の行いは残念だが、里にとっては将来の人材確保。里では育成方針に従って、6歳まではのびのびと育て、それ以降は畑仕事や緑化などこの里の目的にも貢献させながら、知識のある将来を担う人材として育てていくことにした。


(筆記用具なんて、普通にあるものだと。あるわけなかったな。)


 教師役は、神父に担当してもらうことを考えているが、教えるための道具、特に筆記用具関連が不足している。セルカに指摘されて、失念していたことに気が付いた。


 この世界に、筆記用具がどの程度普及しているかはわからない。里の宝物庫らしき部屋にあった本は、羊皮紙によるものが中心だったので、もしかしたら、植物紙は普及していない可能性もある。


 それはさておき、今後の育成のための筆記用具の目途はつけておきたい。今から準備を始めておけば、子供が増えるころには必要な量はある程度揃えておけるだろう。


 紙は、幸い大麻を見つけているので、和紙であれば作れる。和紙に書くのであれば、筆と墨も併せて用意しておきたい。和紙、墨、筆を準備しておこうと思う。すぐに量産は難しいが、工程をセルカにも見てもらえれば、他者に教えることもできる。


(まずは、試作してみるか。)


 材料を集めて、作業に入ろうとしたときに、ケイティが近寄ってきた。年齢が近い子供が俺しかいないからか、最近手が空くと、すぐにこっちにくる。


「ミランダさんが、リコルドが、また何か変なことするみたいだから、見たらって」


 変なこととは心外だが、セルカ以外にはろくに説明していないので、説明不足は否めない。


「変だと言われるのが引っかかるが。まあ、いい。この里では、子供たちに文字の読み書きも教えるらしい。その準備で、今日は字を書くための道具を作ってみようと思っている。興味あれば手伝ってもらうから、声をかけてくれ。」


 あまり押し付けると、反発を受けそうなので、あくまで自主的にやりたい場合のみやらせることにする。


「へー。読み書きは興味あるから、嬉しいかも。早く覚えてカールにも教えてあげないとね。そうね、手伝ってあげるわ。」


 ケイティは、興味津々なの隠すような表情で返すが、まったく隠せていない。俺はケイティに頷きつつ、まずは、和紙の作成に取り掛かる。必要な道具は前もって作っておいたので、問題ないはずだ。紙をすくスノコは、釘が無くて苦労したが、マナ操作で木をくり抜き、溝に竹をはめ込むなど工夫をして作ることができた。


 和紙の歴史は相当古い。今回作ろうとしている和紙は、大麻を原料としており、弥生時代には作られていた。


 今回は和紙の原料として、大麻の茎などにある繊維を使う。作り方は、弥生時代の方法ではなく、前世での無薬品パルプ化装置を参考に、紙のもとになるエコパルプを作って製紙していく。と言っても、そんなに難しい話ではない。


 材料を裁断して、石臼のようなもので繊維を粉々にし、洗浄することでパルプを作る方法になる。この方法でパルプ化した材料を、水に溶かし、スノコで掬って正方形の形にし、平らな岩と岩との間に挟んで、少しずつ脱水。最後に乾かして、和紙の完成となる。


 繊維を粉々にする工程と、脱水の工程は、俺の力押しなので、他の人にもできるようにすることが、今後の課題だ。


「ケイティ、こんな感じで、水の中のものを救って、なるべく均等な正方形の形を作ってくれ。」


 そう説明しながら、作業例を見せて、ケイティにも手伝わせる。


「わかったわ。結構面白そうね。」


 ケイティは、最初の1枚こそ、試行錯誤をしている感じであったが、あっという間に慣れ、自ら工夫しながら正方形の紙を量産していく。前から思っていたが、非常に器用だ。


 スノコの作業はケイティに任せ、俺は出来上がった紙の脱水作業を進めていく。ほどなくして、用意してあった材料がなくなり、後は乾かすだけとなった。


「上手いな。助かったよ。この紙で教科書の作成や、読み書きの練習をするつもりだから、かなりありがたい。」


 俺は、単純に褒めるのではなく、ケイティにやりがいを感じてもらえるように、感謝を伝える。


「まあ、お姉ちゃんに任せておけば良いのよ。でも、その怪力は真似できないわね・・・ どうなってるのかしらね。ほんと。」


 紙を脱水するときに、俺は岩を持ち上げており、最初ケイティが見た時に目を丸くしていた。


・・・


「さて、次は墨を作るか。紙に字を書く時の材料だな。これは手伝ってもらうようなことはない。興味があれば見ていてくれ。」


「良いわ。ちょっと疲れたし、休みながら見てる。」


 墨は、すすにかわを混ぜて、練って作る。煤は、松脂が出た部分を燃やした松煙、菜種や胡麻などの油を燃やした油煙からとったものを使うのが一般的だが、今回は教会や家のかまどに残っていた煤をかき集めて作ることにした。膠は、狩りを行った際に動物の皮や骨などを煮出して作っておいたものを使う。


 墨の作り方自体は簡単だ。湯煎などで膠を溶かして煤と合わせて、ひたすら練るだけ。十分練り合わせたら、岩をくりぬいて作った型に入れてか固め、その後、灰の中で乾燥させていくだけ。しっかり乾燥させるには1~2か月かかる。


「これは暫く乾かす必要があるから。次は筆だな。文字を書くための道具だ。」


 筆は、動物の毛などがあると良いのだが、これまで狩りで確保したロバやサイガなどは毛が短すぎる。丁度よいものがないので、竹筆と麻筆を作っておく。これはこれで簡単に作れるので、子供達に必要な時に作ってもらっても良いだろう。本格的な筆は、今後、長い毛が生えている動物から入手できることを期待したい。

 

 竹筆は、竹の枝を節の部分で切り出し、片方の節の部分を細かくつぶして、乾かし整えるだけ。味のある字になるが、十分筆として使える。良い筆ができるかどうかは、選んだ素材次第なところがあるため、ひたすら数を作って出来の良いものを使うしかない。


 麻筆も似たような作り方になる。皮の部分をひたすらつぶして植物繊維を取り出し、その繊維をまとめて成形して筆にする。いかに根気よくたたいて、繊維を取り出すかがポイントになる。


 紙も、墨も、筆も、作業と考えると面倒なのだが、ケイティに手伝ってもらった工程は、10歳を超えた子供なら十分できるので、今後の体験授業など教育に盛り込むことにする。当面は教育目的に使うが、普及していなければ、将来的には商品になるかもしれない。


 手伝っていたケイティは、珍しい作業ということと、役に立つ物が出来上がることもあり、非常に楽しそうに作業をしていた。ケイティは、非常に器用らしく、どの作業をやらせても俺より上手くこなす。ちょっとした才能があるようだ。


 手伝わせた作業が、どれも正直俺より上手かったのが、若干納得がいかない・・・


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