第66話 神父の後悔
ケイティが行方不明になってから3日が経った。村長の指揮のもと、捜索は今もなお続いているが成果はあがっていない。決して広くない村での捜索範囲は限られている。まだ、決定されていないが、これ以上探す場所はなく、明日には捜索は打ち切られるだろう。
ケイティの両親も必死に探しているが、空振りに終わっており、憔悴していく様子がうかがえる。
「やはり報告すべきだろうか。」
神父は、教会地下の祭壇に続く通路で、ほんの少し何かを引きずった跡が付いているのを見つけた。跡といっても30cm程度の線であり、最近ついたものかどうかも、確証がもてない。ただ、神父は、その跡はケイティがつけた可能性が高いのではないかと考えていた。
(私の不用意な行動が、彼女を・・・)
先日、ケイティから、女神の国に行ったカールへ、どうしても自分自身でプレゼントを届けたいと懇願され、彼女の熱意に負けて、地下の祭壇に案内したことを思い出していた。ケイティはプレゼントを送った後、祭壇の奥の暗闇を食い入るように見ており、そのまま水に飛び込むのではないかと心配したことが頭に強く残っている。
心配は杞憂に終わり、ケイティはその時は結局飛び込まずに戻ってきた。それでもあの時のケイティの様子を思い出すと、祭壇の場所を知った彼女が、自ら女神の国に行こうと考えてもおかしくないのではと考えていた。
神父はケイティが行方不明になったと聞き、そのことが気になり、通路を調べた結果、通路の引きずった跡を見つけた。見つけてしまった。
(あの跡はやっぱり・・・)
捜索開始当初は気のせいだと思い、他の場所の捜索で有力な手掛かりが見つかるだろうと思っていた。しかし、1日目、2日目と、ケイティの行方につながるような報告はなく、そのたびに自分の想像が、現実である可能性が高くなっていくように思えていた。
今までに挙がっている報告では、ケイティは行方不明になった当日、竹林に向かう姿が目撃されており、当日だけでなく、1週間以上も前から竹林に通っていたことも報告されている。
村では、ケイティが竹林で事故などに巻き込まれ、行方不明になったのではないかとの仮説が主流で、本日の捜索でも、竹林の捜索に力が入れられたが、行方に関する情報はあがらなかった。
神父は、今日の捜索で見つかることを祈っていたが、結局成果はなく、自分の中での想像が、限りなく事実ではないかと思い始めていた。
「取り返しのつかないことをしてしまった。」
神父は憔悴しきった声でそう呟いた。
神父は、村の掟を教会の儀式として受け入れていることに、今でも納得はできていない。納得できるわけもないが、前任者から引き継がれ最初の1人に加担してしまってから、流されるように続けている。
子供は2歳になれば表情も豊かになりつつあり、可愛い盛りになってくる。そんな子供を、無理やり奪われる親の心情を、考えただけでも気が狂いそうになる。いつもぎりぎりの精神状態。叫びたい気持ちを忍耐力で押さえつけながら儀式を行っているが、そのたびに罪の意識が積み重なっていく。忘れようとしても、逆に考えてしまい薄れることがない。
(もう、耐えられない。)
村に生まれた子供が2歳になり、掟に従わせる子供が決まるたびに、耐え切れなくなりそうになり、深夜から朝にかけて祈祷をし、かろうじて精神の状態の悪化を抑えている。
先日カールを送ったばかりで心が重く、昨日も深夜まで祈祷を続けていた。そんな中で、自分がしたことで、ケイティを死に追いやったことが事実であれば、もう耐え切れないと思っていた。
毎日、捜索活動の成果が報告されるなかで、他の場所からの報告なら最悪の事態でも良いとさえ思って、3日間を過ごしていた。
「やはり、ケイティは女神の国に行こうとしたということでしょうね・・・」
神父は、激痛に苛まれているような苦しそうな表情をしながら、ケイティが祭壇から飛び込む想像を繰り返し、それが事実だろうと結論付けた。
(良かれと思ったのですけどね。)
しばらく呻いた後、覚悟を決めたような表情で、神父は何かを始めた。個室移動し、自分自身の仕事の引継ぎと、後任者の指名、後任者宛の手紙を一心不乱に書き始めた。神父はそのまま一睡することなく、資料や手紙を完成させ、最後にケイティの両親宛に手紙をしたためた。そこには、自分の不用意な行動とケイティの行方が示されており、懺悔と謝罪が書き込まれていた。
(今度は私の番にするべきでしょう。)
神父は、これまで子供が流される両親に対して、自分自身も信じていない女神の国の存在を説いてきた。子供の両親が、神父の説明を信じていたとは到底思えないが、そのことで両親も神父も希望にすがることができていた。例え逃避に近い話であったとしても。
「本当に女神の国と言うものがあるのであれば、私もそこに・・・」
もし女神の国があったとしたら、自分を許せるかもしれない、そんな自分自身も大して信じていないことを口に出していた。これからやることは自殺だ。それでも少しでも希望を感じて、最後を迎えたいと神父は考えていたのかもしれない。
手紙を書き終えた神父は、個室の机の上に書き上げたばかりの資料を置く。
「ここなら、教会に訪れた人がいずれ気付くでしょう。」
そして、そのまま自然に地下の祭壇に進む。どれだけの覚悟を決めていたのか、地下の祭壇をのぼり、かなり冷たい水の中にそのまま表情を変えることもなく入っていった。




