第65話 ケイティの誤解
カールは眠りが深いのか、ケイティが近づいても良く寝続けていた。無理に起こす訳にもいかず、起きるまでケイティに、この里について説明をしていたが納得してもらえなかった。何度目になるかわからないが、俺はケイティ話をする。
「ここは女神の国ではなく、イーリスの里だ。」
ケイティは、村で聞いていた話とちがうことを、年下の俺に諭されるように言われているのに腹を立てているのか、むきになって反論する。
「あなたはそういうけど、ここは村では女神の国と呼ばれているのよ。カールがここに居るのがその証拠。可愛い子は選ばれて、女神の国に行くのよ。・・・あれ、なんで私選ばれなかったのかしら。」
俺はその性格だろうと言いかけるが、話が発散するのでぐっとこらえる。
「よく自分で考えて見ろ。女神が可愛いという理由だけで、子どもを選んで親元から奪うと本当に思うのか? しかも、こんな何もないところが女神の国か?」
「・・・ま、まあ、あんたが言うことが本当で、子供がカールしかいないというなら、ちょっとだけおかしいよね。」
ケイティは、まだ12歳。大人から言われたことをあまり疑うという思考自体がなかったらしく、俺の説明に抵抗しているようだ。だが、俺からイーリスの里の様子を聞くにつれ、段々自説に対する自信を失い、最後にはここが女神の国でないことを、しぶしぶながら認めた。
「・・・そうね。良いわ。それならそれで。カールとも再会できたし、カールをつれて村に帰りたいのだけど? 良いよね?」
村の大人たちに騙されていたことに気づき、ショックを受けたようだが、それも一瞬で思考を切り替えたようだ。相当頭の回転が速いのかもしれないと感心する。
「そう簡単には行かないな。そもそも、帰ったとしても、恐らくカールは生きられないぞ。」
「なんでよ。こんなに元気で可愛いのに。なにか罰でもあるの? 女神の国じゃないなら、そんなことないでしょう?」
ケイティはちょっと心配そうに聞いてくる。俺がどう話していいか悩んでいると、仕事を中断して駆けつけたミランダが、助け舟を出すように話し出す。
「ケイティ、久しぶりね。私のこと覚えているかしら」
ミランダは、ケイティの家の近くに住んでいたこともあり、挨拶や軽い会話をする程度だが顔見知りでだった。既知であるミランダを見て、安心したようにケイティが話をする。
「ミランダさん、村にいないと思っていたら、ここで暮らしていたのね。前あった時に元気なかったから心配していたの。ミランダさんからも言ってください。カールを村に連れ戻したいのに、この子が生きられないって酷いことを言うの。」
その様子を見て、ミランダは決意したように話し出した。
「ケイティ、よく聞いてちょうだい。信じられないかもしれないけれど、私も、カールも村から追い出されたのよ。村の掟なの。村で育てられない子供達を追い出しているのよ。」
「え・・・」
流石に顔見知りの大人からの言葉は、信じるしかないようで、ケイティは言葉に詰まる。
「ケイティ、あなたも気づいていたはずよ。私のような大人や、2歳になる子供が時々いなくなるのを。村の掟で、1家族に育てることを許される子供は2人までと決まっているの。3人目は2歳までに、他に引き取る家庭がなければ、女神の国に送ると言われるのよ。」
「そ、そんなわけないよ・・・」
ケイティは、事実を受け止めきれずにいるようだが、村の大人や子供たちが、突然いなくなることに思い当たる節があるのか、言葉が続かなくなる。
「そ、それじゃぁ、これまで女神の国に送られた子供たちは? ここにはいないといっていたけれど。他の場所にいるの?」
当然の疑問だが、既に察しているようで、ケイティは恐る恐る確認する。
「残念ながら、このイーリスの里に居る子供は、リコルドとカール、そしてあなただけよ。この里は、まだ作られたばかりなの。少し前に女神イーリスに仕えているセルカ様が開いてくださったの。それより前は、何もなかったのよ。」
「・・・・・・」
ケイティは流石にショックだったようで、しばらく沈黙していた。沈黙している時間は長めだったが、きっちり気持ちを切り替えたらしく、勢いよく話始める。
「やっぱり、流石私の弟ね。村の人たちは嘘をついていたのかもしれないけど、結局カールは、女神に選ばれたと言っても良いくらいよね。できたばかりの里で救われたのだから。よーし。カールが村に戻ると生きられないなら、私はここに残って面倒を見るわ。ミランダさんお願い、私もここに居させて。カールの面倒を見させて欲しいの。」
ケイティの切り替えの速さと提案内容に、ミランダは気圧され気味に答える。
「え、えぇ。良い考えね。でも私にはその権限はないのよ。後で、セルカ様から話があると思うから、そこでお願いして見なさい。私からもお願いしておくわね。」
「ありがとう。どうしてもカールと一緒に居たいの。駄目だと言われても、諦めないで頑張るわ。」
ミランダのお陰でケイティの誤解は解けたようだ。切り替えの早さについていけないところはあるが、ここまでのやりとりで、ケイティが言い出したら聞かないことも理解できた。ここはひとまず流れにのっかるべきだろう。
(セルカ、見ているよな? 今からこの子を祭壇に連れていく。この里の話と住む条件を伝えて、問題なければ在住許可を出してやってくれ。)
(はーい。わかりました。女神のしもべとしてがんばりますね。でも、ケイティのご両親は心配されていますよね?)
(ケイティの両親には悪いが、ケイティを村に戻す訳にはいかない。少なくとも今は、こちらの情報が村に洩れるのを避ける必要がある。ケイティの両親には何か手を打つ必要も出て来るかもしれない。今後注視しておいてくれ。)
(そうですか・・・。分かりました。)
それ以上考えるのは止め、ケイティをセルカの元に案内することにする。
「ケイティ、ではセルカ様のもとに案内するから来てくれ。」
「わかったわ。でもあなた年下でしょ。呼び捨てはどうかと思うわ。まあ、これからあなたも、私が面倒見てあげるから、少しずつでも良いかしらね。」
ケイティは、長女としての気概みたいなものがあるのか、マウントを取ろうとする。とりあえず、お世話になることはないと思うが、黙って祭壇に連れて行く。
「ケイティ、こっちだ」
「は? そこは誰もいないじゃないの? どういうこと?」
誰もいない祭壇の前に、ケイティを案内したところ、不審に思ったのか疑問を呈してきた。
「いいから、この祭壇の前に立って、祈りをささげてくれ」
ケイティは不審な顔をしながらも、俺の声音に押され、大人しく祭壇の前に立った。そして目を閉じて祈りをささげる。
(ケイティ、良くこのイーリスの里に来てくれました。私はセルカです。)
「はぇ? あれ? 頭の中に声が聞こえる? そういえば、起きた時にも聞こえたような??」
「その声がセルカ様だ。この里を作ってくださった方だ。」
「えっ。女神さまの声? あれ、やっぱり私あっている? 女神の国あれ? あぁ、女神の里?」
ケイティは理解が追い付かないのか、パニックを起こしたようにあたふたしている。
(落ち着いてくださいケイティ。私は女神イーリスに仕えるしもべの1人です。あなたがこの里で暮らしたいということ、ミランダも反対しなかったことわかっています。あなたの覚悟が変わらないのであれば、良いでしょう。ただし、条件があります。)
(え、あ、ありがとうございます! カールと一緒にいられるなら、なんでもやります。)
(わかりました。それでは、この里の話、それと条件を説明しますね・・・)
ケイティは、セルカから里の生活や目的、守らなければならないことなどの説明を聞き、改めて里に残りたい宣言した。そして無事にセルカから許可をもらえたことに、満足したようだった。
「よーし。私ががんばっちゃうよー。」
ケイティは、少し前に落ち込んだのがウソのように、目を輝かせて大声を出した。俺とミランダは、その呆れるほどまっすぐで元気な様子に、苦笑しながらも、和やかな雰囲気を感じていた。




