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第64話 水難事故

(リコルドまずいかも! ケイティが祭壇に向かいそうです。今から昼飯を食べた後、筏を持って祭壇に行くようです。)


 村を監視していたセルカから報告があった。


「昼過ぎにか?! 随分大胆だな。祭壇へ向かう道の暗さを考えたら妥当なのかもしれないが。」


 ケイティの動向は、前もって報告を受けていたこともあり、いくつか想定をして準備してある。食事の時間を考えると、まだ少し余裕がありそうだが、俺は念のため、すぐに出発した。


 水路の横に整備した小路を走って、村の近くまで移動する。村まではハーフマラソン以上の距離があるのだが、もう、ほとんど苦にならない。村の近くに到着し、暗がりだと話にくいので、明るさが確保できる場所で待機し、ケイティが来るのを待っていた。


(ケイティは、誰にも見つからず祭壇まで行き、先ほど筏にのりました。もうそろそろ来るころじゃないかと。)


「了解した。こちらも準備はできている。」


(筏が小さすぎて心配でしたが、器用に乗って進んでいきました。なんかすごい子ですね。)


・・・


 セルカの報告から少し待つと、ケイティの声が少し離れたところから聞こえてきた。


「ぱしゃ」

 

 俺は、セルカに最初に話しかける言葉をどうしようかと、少し迷っていたときに、何かが落ちたような水音が聞こえた。続いてバシャバシャと水をかくような音も聞こえる。


「落ちたみたいだな。なんでだ。」


(わかりません。引っかかるようなものはないと思いますが。急いでください。)


「わかっている!」


 俺は身を隠していた場所から飛び出し、弾かれたように走った。40m程走り抜けると、薄暗がりの中、水にゆっくり沈んでいく影が見えたような気がした。


「まずいな。良く見えないが、水に落ちて沈んでいるのかもしれない。」


 光源が少なく確認しにくいが、岸から少し離れた水の中に、影のようなものが沈んでいく行くように見える。その大きさは、魚などより明らかに大きい。


 水の中では、マナ操作による怪力などが使いにくい。念のために持ってきた竹の竿を、影のようなものの下にねじ込む。竿の先には、消防士が使うとび口のように物をひっかける部品を付けており、そこでケイティの服にひっかける。


 水の底に沈み始めていたケイティを、なんとか引き上げようとする。竹には、ずっしりとした手ごたえがあるが、岩を持ち上げることを思えば軽い。力が入り過ぎないように気を付けながら、ケイティをゆっくりと岸まで引き上げる。


「よし、水から引き上げることはできた。」


 ケイティを地面に降ろすと、すぐに状態を確かめる。既に体温が相当失われており、ケイティは意識不明の状態に陥っていたが、幸いなことに心停止には至っていなかった。少し安心したものの、ケイティの意識が戻らない。


「里に戻って火で温める。ミランダに調理場で良いので、火を焚いておくように伝えてくれ。」


(わかりました。何とか伝えてみます。)


 俺はケイティをお姫様抱っこし、そのまま小路を全速力で走り抜ける。イーリスの里の調理場に運びこんだときには、ミランダが火を焚いてくれており、火のそばに簡易な寝床も作られていた。


「ミランダ、助かった。」


 俺は礼を言いながら、ケイティをそっと寝床に横たえる。ミランダは黙って頷き、心配そうにケイティを見つめている。しばらく様子を見ていたが、意識を取り戻しそうにない。


「呼吸は安定しているし、問題ないとは思う。後は自然に意識が戻るのを待とう。」


 俺は、ケイティとミランダにそう伝え、小さな『しるし』をケイティの首にかけ、セルカに起きた時の対応をお願いしておく。ミランダは、知っている子と言うこともあり、俺が去った後も、暫く残っていたが、ぐっする寝ている様子ということもあり、同じく作業に戻っていった。


・・・


「うぅーん」


 暫くするとケイティは寝返りをうち、声を漏らした。意識が戻りつつあるのだろう。セルカは手筈通り、『しるし』を通じて意思の疎通を図ろうとする。手筈では、ケイティが目を覚ましたら、セルカからイーリスの里などの説明をする段取りになっている。


(ケイティ、聞こえますか)


 セルカは住民と最初に意思の疎通を図る際に行っている、いつものパターンでケイティに声をかけていると、意識を取り戻した。


「うぅーん。あぇ?」


(ケイティ、聞こえますか)


(ケイティ、聞こえぇぇー)


 ケイティは突然目を開けると、飛び起きダッシュで部屋の外に出て行ってしまう。セルカは声をかけ続けるが、反応する様子がないので、大慌てでリコルドに呼びかける。


(リコルド、すみません。ケイティとの意思の疎通に失敗しました。ケイティは目を覚ました途端、部屋の外に駆け出してしまいました。伝わっているはずなのですが・・・ 今も声をかけていますが、聞いていないみたいです。どうしましょう?)


「聞いていた以上に、変に行動力があるな。ミランダに、見ていなくても大丈夫と言った手前、なんとかしないとな。今すぐ戻る。」


 俺は畑の見回りをしながら、雑草抜きをしていたが、中止し急いで教会に戻る。


「今どこにいる?」


(部屋を片っ端から探しているようです。ホールの部屋は探し終えて、もうすぐ私のところに来ちゃいそうです。誤解されそうな感じがします。早くきてください。)


「そいつは、まずいかもしれないな。」


 カールは最近の定番である、ゴーレムがゆらゆらと揺らしている箱の中で昼寝を取っている。はたから見たら、ゴーレムに襲われそうになっていると誤解されてもおかしくな状況だ。


「ミランダはどうしている?」


(先ほどから洗濯していましたが、ケイティの声に気が付いてこっちにきそうですよ。)


「了解した。」


 俺は精一杯走るが、ケイティに追いつくことはできそうもない。祭壇部屋の入り口に到達した瞬間、ケイティがゴーレムに殴りかかろうとしている姿を見た。セルカは、最初に会った時のように、降参を示す万歳ポーズをしているが、ケイティは突撃していく。


「あ、いったーーーい。こ、こいつめ。」


 ケイティはゴーレムを素手で殴りつけ、痛さに一瞬ひるんだが、続けて殴りかかろうとする。俺はケイティの後ろに回り、羽交い絞めして強制的に止めた。その時、カールは揺れが止まったため目を覚まし、泣きだした。


 ケイティが必死に藻掻いているので、解放してやると、そのままカールの側に駆け寄る。


「カール、やっと会えた、お姉ちゃんが会いに来たよ。辛かったよね。」


 もしかしたら、感動の再開の場面となったかもしれないが、ケイティ以外は、少し呆れた表情を浮かべ、苦笑するしかなかった。


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