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第63話 女神の国へ

(絶対にカールに会いにいくわ。)


 村の少女ケイティは、あの日、教会地下にある祭壇でカールのプレゼントを、木箱に入れて流して以来、そう心に決めていた。


 プレゼントを流したことを両親に話したところ、父親は微妙な表情になり、母親は喜んでくれた。父親の表情から、女神の国に行きたいと言ったところで、反対をされることを理解しており、どうしてもカールに会いたいケイティは、秘密で準備を進めていた。


(やっと完成したわ。木材がないから竹で作ってみたのだけれど。うーん。箱と言うより板だけど、これ以上は重いし、私が乗れて浮かぶから良いよね。ちょっと小さいけど、私軽いしね。うん。)


 竹林にある乾いた竹だけを選んで、ロープで結んだだけの簡素な筏だが、ケイティが乗れるだけの浮力があることは、抜け目なく確認している。持ち運べる大きさのため、大きさは非常に心もとない。


(後は、牧師様にも見つからないように、こっそり地下に行けば大丈夫ね。)


 既に完成した筏は、見つからないように教会のそばに隠してある。


(よーし。準備はばっちり。昼ごはんをたっぷり食べて、いざ女神の国へ。おー)


 ケイティはいつもより多く昼ごはんを食べ、父親に驚かれていたが、元気な彼女にありがちなため不審がられることはなかった。午後、神父がいなくなる時間に合わせて、隠してあった筏を背中に担いで、見つからないように進んでいく。


 人目に付きやすい昼を少し過ぎた時間帯だったが、幸か不幸か誰にも見つからずに、教会の地下に侵入、そのまま薄暗がりを進み、祭壇に到着する。


 躊躇することなく祭壇にあがり、水の奥を見る。入口から差し込む光以外に光源がないため、暗闇しか見えない。普通であれば、暗闇しか見えない、しかも水の中に進むことはできない。


「カール、お姉ちゃんが今行くからね。よーし、いくぞぉ・・・」


 何度かためらった後、意を決する。


「女神様、今から行きます。カールに会わせてください。」


 筏を水面において、祭壇をけり飛び乗る。勢いをつけすぎたため、筏から少し嫌な音がした。それでも筏は壊れることなく水の流れに乗り、少しずつ祭壇から離れていく。


 地下水の水量は、大きな山から流れ込むためか十分で、筏は順調に進んでいく。やがて入り口から射しこんでいた光が届かなくなると、暗闇に包まれる。


 ケイティは不安になるが、筏から落ちないように、大人しく水の流れに任せている。春先を過ぎて徐々に暖かくなっているが、水はまだ冷たい。水温は10度にとどかないだろう。


 ケイティの不安をよそに、整備された水路のため、筏は順調に進んでいく。やがて天井に開いた穴から光が差し込むようになり、明るくはないが暗闇から解放される。


「ふー。ちょっとだけ怖かったわ。まあ、まだ余裕だけどね。女神の国にはいつ頃つくのかしら。もうすぐかな。」


 筏は水の流れに乗り、相変わらず順調に進んでいる。時々壁に触れるが、図ったように角度が変わり、順調に進む。


「流石女神様ね。この調子なら問題なく着きそうね。」


 余裕が出てきたのか、周りを観察しはじめ、やがてこの水路が自然だけでできているものではないことをケイティは理解した。それでも、女神の国に通じているのだろうと、単純に考えている。


「カールは無事に女神の国に着いているとは思うけど、これだけ長いとちょっと心配ね。」


 これから会えるだろうカールに思いを寄せている。ケイティは完全に油断をしていおり、全体的に薄暗いこともあり、筏の竹をくくっているひもの異常に気が付かない。ケイティの体重は確かに軽い方だが、飛び乗った衝撃でひもが切れかけ、少しずつほどけている。


「早く会いたいなー」


 ケイティはかなり小さい筏でも、器用にバランスを取っている。余裕も出始めて、少し体制を変えた。その些細な体重移動が、少しずつほどけていた紐に止めを刺し、突然筏は分解した。


「きゃ(ばしゃーん)」


 ひもが耐え切れずに解け、筏を作っている竹がバラバラになった。その瞬間、油断していたケイティは水に落ちてしまった。突然のことで、悲鳴もろくに上げられない。


「セ、セーフ」


 ケイティは突然のアクシデントに関わらず、反射的に、竹を2本掴み、何とか浮力を保つことに成功する。必死に陸に上がる場所を探すが、岸までは少し距離がある。


 泳いだ経験がないため、どうすれば良いか少し考えた後、左手で竹を抱え、右手で水をかくことで体を陸に近づけようとする。


 しかし・・・


(あ、あれっ?)


 冷たい水に落ちたケイティの体から、急激に体温が失われていく。体温が失われていくと、体の大きさなどにもよるが、時間経過とともに意識レベルが下がり、やがて意識不明となる。


 意識不明となるまでの時間は、水温によっても異なるが、10度に満たなければ、大人でも1時間も持たない。ましてや体重が大人の3分の1もないケイティの体温は一瞬で奪われ、体の自由を奪っていく。


(おかしいわね。上手く動けないわ・・・)


 しゃべる余裕もなく、必死に手を動かして陸を目指すが、段々力が入らなくなっていく。経験がない動作のため中々前に進まない。どんどん体が冷えていき、力が抜けていくのを理解すると、その先も想定できてしまう。


(・・・ごめんね。カール、私もうだめかも。)


「ばしゃーん」


(・・・なんか水音がしたけど・・・)


 ケイティは、水音を聞いた瞬間、意識を失った。


・・・


 そのころ村では、ケイティがいないことに気が付いた父親が、必死に探していた。家にはケイティが書いたと思われる書置きが残っており、読みにくい微妙な文字だが、カールに会いに行くと書かれていたことは辛うじて伝わった。


 父親はすぐに村長にも相談し、村の協力のもと必死に探したが、結局、ケイティが見つかることはなかった。結局、ケイティの行方らしきものが判明したのは、1週間後に教会で見つかった神父の遺書からだった。


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