第59話 村の少女ケイティの違和感
ケイティは両親と一緒にご飯を食べながら、最近の母親の様子について考えていた。両親は、ケイティは何かを考え出すと、周りの音が聞こえなくなることを知っている。特に注意することも無く、暖かい目で彼女を愛おしそうに見ている。その様子を近くで見ている妹は、少し呆れ顔をしている。
(最近お母さんが、少しだけど元気になっているような感じがするわ。結局お父さんも、お母さんの元気がない理由を教えてくれなかったけれど、安心して良いよね。このまま元気になってくれたら、カールと一緒に散歩したいな。)
(お母さん、私が布団に入った後、毎晩、何かを作っている見たいなのよね。元気になったのは嬉しいけど、無理しないで欲しい。私も手伝うと言ったけど、駄目だったわ。)
(弟のカールがもうすぐ2歳になるから、お母さんも、きっと私と同じでカールへのプレゼンを作っていると思うのよね。わざわざ、私が寝てから作らなくても良いのに。サプライズなら、絶対誰にも言わないのにな。)
(私の方は、もうばっちり、しっかりサプライズ誕生会の準備はできている。今日は早く寝て、こっそりお母さんのサプライズプレゼントを覗いちゃおう。流石に見られたら教えてくれるでしょ。そうしたら、うんと手伝って豪華にしようっと。)
「ごはんごちそうさまー。今日は疲れたから早く寝るね。」
疲れたふりをして、あくびをしながらお母さんに伝えた。
「あらそうなの。まだ夜は寒いからちゃんと布団をかけるのよ」
「はーい。」
ケイティは眠そうなふりをして布団に入り、寝たふりをしている。少し経つと、妹も布団に入って来た。その暖かさにケイティも寝入ってしまう。
・・・
「・・・られなぃ。どうして駄目なのかしら、あなた」
「何度も話し合ったじゃないか。俺だって・・・」
深夜に父親と母親の声が響いている。いつもであれば目を覚まさないケイティが目を覚ました。
(・・・しまった、寝たふりじゃなくて本当に寝ちゃった。でも、もう起きたし。何か駄目にしちゃった? プレゼントがうまくできなかったのかしら。)
ケイティは、音を立てないようにしながら置き、部屋の入り口まで移動し、こっそり聞き耳を立てる。
「村の掟には逆らうことはできないよ。逆らえば村では生きていけない。そういう決まりだよ。お前も分かっているだろう? それに、ここから逃げて暮らせるような場所はない。俺たちは、この村以外では暮らしていけない。何度も話し合った通り、他に方法はないよ。カールが無事に女神の国に着けるように、一生懸命準備をして運命を女神に託すしかない。」
父親からは、できる限り冷静に努めようとしている様な、何かに耐えるような声で、母親に諭している。
「わかってはいるのよ。だから毎日心を込めて、この木の箱を作っているのよ。だけど・・・、女神に託すと言っても、この木の箱を流した先に、カールを育ててくれる女神の国に本当にあるなんて・・・。(ぐすっ)神父様だってきっと・・・。」
母親からは、耐えかねたような涙声が聞こえてくる。
(喧嘩しているのかしら、カールを女神に託すってどういうことかしら?)
「カラン」
ケイティは両親の小声が聞こえにくいので、そっと前に出た。その拍子に手が壁に触れ、壁の一部が下に落ちて音を立てる。両親の話し声がピタッと止まった。
(こっちに来ちゃう。)
ケイティは慎重に、音を立てないように、布団にもどり寝たふりをする。
「ケイティ、起きているのかい?」
(何かわからないけど、あまり聞かれたくない話だった感じよね。ここはとりあえず寝たふりね。)
「ケイティ、寝ているのかな?・・・」
「大丈夫みたいだ。ごみでも落ちた音だろう。」
ケイティの両親は、そっとケイティに近寄り様子を見ている。ケイティは必死に寝たふりをしていたが、少し経つと、そのまま自然な寝息が聞こえてきた。
「・・・あー良く寝た。あぅ。寝ちゃったのね。」
(昨晩のお父さんとお母さんの話はどういうことなのかしら。カールが女神の国に行くって? まあ、カールは可愛いから、神様にも気に入られると思うけどねっ。 うーん。お母さんには聞きにくいし、神父様なら知っているよね。ちょっと聞いてみよう。)
ケイティは外に出る準備をして、すぐ教会に行き、神父を見つけて話しかける。
「おはようございます! 神父様 ちょっと教えて欲しいのだけど、今良いですかっ」
「おはよう。ケイティ。今日も元気だね。私でわかることならね。」
ケイティの明るい声に、微笑みながら神父が答えようとする。
「昨日、お父さんとお母さんから、カールが女神の国に行くって聞いたのだけど、どういう意味かわかりますか? 木の箱を一生懸命作っているとも言っていたのだけれど。」
神父の顔が、一瞬強張ったが、優しい声で話す。
「教会にはね、女神の国とつながっている場所があるのだよ。その女神の国に行くには、心を込めて作った木の箱が必要になるから、そのことを言っていたのかもしれないね。」
神父は、カールに関する話をあえて省いて答える。
「ケイティ、悪いが私はこれから仕事でいかないと・・・」
「はーい。ありがとうございました!」
(そうなのかぁ。女神の国って本当にあるのか。教会から行けるのってすごくない?! カールは行けるのか。いいなぁ。どうして私はいけないのかな。カールが行くなら、一緒に行きたいな。でも、良いことのはずよね? なんでお父さんとお母さんは、悲しそうだったのかな。)
・・・
それから数日が経ち、ケイティが両親から話を聞く聞く機会がないまま、カールの誕生日を迎えた。ケイティはサプライズパーティが楽しみで昨日は中々寝付けず、いつもより遅めに起きた。
(最近、お母さんが少し元気になって、カールの面倒を見てくれるし、ぐっすり寝ちゃうな。)
「カール、お姉ちゃん起きたよ。おはようー。今日は良いことあるよー」
(あれ、だれもいないのかな?)
ケイティは、カールがいつもいる場所を見て、何もないことに違和感を持った。
「お母さんどこー。お父さーん。」
不安からか、ケイティの声が大きめになっている。
「お姉ちゃん、もうちょっと寝たいから静かにしてよー」
妹に文句を言われるが、違和感が不安に変わり、それどころではない。家を飛び出し、直感に従って教会に向かって走る。ケイティの家から教会までは、道をまっすぐ進めば着く。
(あ、お父さんとお母さんだ。)
教会の方からお父さんとお母さんが帰ってくるのが見えた。しかし、いるはずのカールがいない。ケイティはそのまま両親のもとに走る。
「お、おかーさん。カールがいないのだけれど、どこに行ったのか知ってる?」
ケイティは母親の足元で止まり、両手で母親の足を抱えるようにつかんで聞く。
「・・・カールはね、さっき女神の国に行ったわ。ふふ。女神に選ばれたのよ。」
いつもとは、明らかに違う母親の声色に気おされながらも聞く。
「そ、そうなんだ。いつ帰ってくるの?」
その質問に、母親から答えが返ってくることはなかった。




