第58話 自生の王
「さてと、探査を続けるか。」
布の素材になる植物を目当てに、いーリスの里周辺の探索を行ったところ、目的のものではないが、村から1.5時間ほど走ったところに、ナツメヤシの群生地を見つけることができた。今は季節的に実がなく残念だったが、実がなるころにまた来ることにしたい。
目的の植物は見つけられていないが、既に予定の範囲を超えており、これ以上広げるときりがない。里から離れるのはここまでにして、里に戻りながらの探索を行うことにする。コースを変えて戻るので、諦めずに帰り道に期待したい。
(コースは、セルカのアドバイスに従うべきだな。)
『しるし』を上空に投げて、セルカに上空から調べてもらった際、帰り道の方角に、緑が見えたという報告を受けている。元々の予定した、左回りのルートではないが、変更して右回りにルートで帰ることにする。
(そうですね。もう少し右、もうちょい。はいそこです。)
走ってくる途中に、定期的に設置した『しるし』の1つから、セルカに俺が進む方角を見てもらい、方向を調整してもらう。元来た方向を背にして、右に90度、そこから12分程度走り、さらに右に90度方向を変えてから、里に戻る方向に走り出した。
緑が見えた所に着くように、セルカに方向を微調整してもらいながら走り続ける。20分程度走り続けたところに、目指していた緑があった。上空から確認できただけあって、少し広めで緑の中に、ピンク色の花が開花しているのも見える。
「おぉ。セルカ、ここは当たりだ!」
ピンクの花が見えた時に期待していたが、その植物は想定していたものだった。元々探していた、麻類ではないのだが、その植物は羅布麻だった。名前に麻とついているが、アサ科ではなく、キョウチクトウ科の植物で、タクラマカン砂漠地帯などにも自生している植物だ。かなり有用な植物で、自生繊維の王などと呼ばれて重宝されている。
開花時期が長く、春から夏頃に薄紅色または淡紫色の綺麗な花をつける。葉は楕円形で、お茶としたり、生薬として使われたりする。古くから親しまれ、紀元200年頃、中国の三国志時代に活躍した、名医華陀が薬草として使ったという記載も残っている。
多年草で、樹高が1.5m~4mにも達することもあり、繊維の王の名に相応しく、繊維が多く含まれている。薬効は、高血圧による眩暈、頭痛、不眠、精神不安定、心不全、浮腫などに改善効果があり、ラフマ茶を飲む地域は、病気の人が少ないとさえ言われる。
「目的の麻もあったぞ!」
(良かったですね!)
さらに調べていると大麻も見つかった。大麻は、日本ではダメ・ゼッタイというスローガンも作って禁止されている。所持しているだけで逮捕されてしまうほど、制限されていおり、禁じられた危ないものというイメージが定着しているが、これは昭和に入ってからの刷り込みの結果だ。
元々は日常に浸透し、日本神道では必要不可欠のものだった。穂は、医薬品、種は食品、食用油など。葉は衣料品、肥料、飼料、茎の皮は糸、ロープ、織物。茎の芯は、エタノール燃料、紙、プラスチックなど、余すところなく利用できる。
しかも、荒れ地や塩分を含む土壌など、農作物を育てるのに向かない不良地でも、少しの水で育つうえ、輪作も可能で害虫にも強く、100日で3~4m成長するという異常に有能な植物だ。そもそも雑草より伸びるのが早いので、除草剤なども必要ない。
時間をかけて調べまわったが、使えそうな植物は、羅布麻と大麻の2種類だったが、布の素材を確保する目的としては十分で大収穫だ。
「よし。持ち帰ることにする。」
ナツメヤシの群生を見つけただけでも良かったが、大麻と羅布麻を見つけられたのは大きい。何本か掘り起こし、里や里の外で増やしていこう。
探索には武器ではなく、スコップみたいな農具を持ってくるべきだったと後悔しながら、地面を掘り起こし、移植用と繊維を確保する分を確保した。繊維を確保する分は、周りの枯れたものを中心に集めてきた。結構な量だが、重さは大したことはないので、可能な限り多く持って帰る。
(リコルド、もう着いたんですね。速すぎてちょっと引きますよ。)
充分な収穫があったので寄り道せず、一直線に里に向かった。疲れているはずだが、行き以上に足取りが軽く、あっという間に里に着く。セルカの言葉を適当に流しながら、使っていなかった畑を、軽く掘り起こして持ち帰った植物を移植しておいた。どちらの植物も生命力が異常に強いので、これで問題ないはずだ。
(あー。ミランダにも説明しておかないとだな。)
村で扱っていなかった植物なので、このままだとミランダから、また変なことをしていると冷たい視線で見られそうだ。先手を打って、説明した方がよいだろう。
早速、繊維と糸まで作る準備に取り掛かる。ミランダへの説明目的なので、あまり多くを作らなくてもよいだろう。とりあえず、長めの大麻の茎を1本選んで持ってくる。
収穫直後であれば、茎を水につけて10日程度してから乾かすが、枯れたものを持ち帰ったので、その工程を飛ばす。乾いている茎を、ハンマーの代わりの手ごろな岩でたたいて、内部の繊維を壊していくと、中から藁のようなものがはがれていく。
そこからさらに、たたき続けると、長い繊維の束が残ってくる。それを、剣山のような道具に何度も通し、ゴミを取り除いて純粋な繊維を取り出す。今は品質を落とすことになるが、その工程を省略する。
ある程度取り出した繊維を、さらに竹で作った櫛で、何度も梳かすと、段々つやが出て糸のもとになる繊維になる。繊維になれば、後は以前羊毛でやったように、東北スピンドルなどで撚って、紡いで糸にしていく。あまり品質にこだわらなかったので、2時間程度でサンプル繊維と糸が完成した。
植物から繊維を取る方法は、基本同様なので、羅布麻でも作れる。できた繊維の色合いや特徴は少し違うので、組み合わせても良いかもしれない。この後の糸から布を作る工程は大変だが、ミランダに繊維の説明をしながら相談しながら進めていくことにする。




