第57話 布の調達に向けて
今後の生活基盤や子育てを考えると、どうしても布を調達したい。村との物々交換による調達も考えているが、相応のリスクがある。その前にリスクが低い、自前調達の可能性がある、自生している植物を探しておきたい。
(とりあえず、里周辺を調べて見るか。)
イーリスの里周辺の探索範囲を広げながら、麻のような繊維の取れそうな植物を探すことにする。走るだけでは暇なので、村と物々交換の方法についても考えていく。
(はあ、広いなぁ。まず探索範囲だが・・・)
里周辺は、ほぼ荒野か砂漠になっていて、地平線が見えている。俺の身長は、実年齢3歳だが、その倍の速さで成長しているようなので、6~7歳程度。その年齢の平均身長を考えれば、約1.2m程度だろう。
この星が、地球と同じくらの大きさだと仮定すると、地平線までは4km程度になる。その先の範囲については、視界に入れることができないため、何もわかっていない状態だろう。
俺の走る速度は、あくまで感覚だが、マラソン選手並みとして分速0.35km。その速度でまっすぐ走れば、12分弱で地平線の場所につく計算となる。うかつに走り続けると、里が見えなくなり、迷子になる可能性があるので、『しるし』を複数持って、里から村を背にして、まっすぐ探索を広げていくことにする。
1時間程度走り続けたら、左に10分程度、さらに左に1時間程度、最後に左に10分程度走って、大きく左回りに探索をして、集落に帰る計画にする。
(最低限の装備は持つべきだな。)
念のため軽めの武器である相棒のナイフと、大型獣の骨から作った剣を一振り持っていく。武器の練習は、我流に近いが毎日続けており、大分、様になっていると思う。さらに最近は武器に加え、石を投げる練習も繰り返している。
武器をなくしたとしても、地面や岩があれば、スピードを活かし、ひたすら逃げながら戦うという戦略も使えるはずだ。万が一、野生の動物に襲われたとしても、数が少なければそれで対応できるはずだ。チーターのような動物には対応できないが・・・
(さてと、行くか)
探索の準備ができたので、さっそく走り始める。周りに目を配りながら、走り続けるのだが、暇なので、村との物々交換についても考える。
村から攻められる懸念が捨てきれないため、物々交換を行うのであれば、里のことを知られずに行う必要がある。あの村は、商人が寄り付かないほど、辺鄙な場所にある。
ミランダが言うには、国に所属しているという話は、噂も含めてきたことがないという。所属していたとしても、これまで役人はみたことがないそうだ。特区扱いで、税金は免除されている可能性はあるが、国に所属しているのであれば、今のように全く支援が無いとは考えにくい。所属していたとしても、ろくに税収もあがらないので、放置されているのが現状だろう。
(役人や商人どころか、貧乏過ぎて盗賊すら近寄らないしな。)
だから、そんな辺鄙な場所に、見ず知らずの商人が突然物々交換に来るという時点で、怪しまれるだろう。しかも6~7歳に見える俺が交換に行ったら、怪しいどころではない。
(村の子供のふりをするというのはどうか。)
ミランダの話では、村では羊毛は余り気味で、羊を飼っている村人に頼めば交換してくれるはずとのことだった。俺があの村の子供ふりをして、親のお使いできたことを装う・・・
そこそこ住民がいるとはいえ、見知らぬ子供とすんなり交換してもらえるとは思えない。当然、どの家の子供かは聞かれるだろうし、上手く説明できなければ疑われるだろう。いっそ、ミランダに村に行ってもらうことも考えられるが、それこそ、今どこで暮らしているか聞かれる。
(対面は無理か。)
色々と思案を巡らせてみたが、やはり対面での物々交換は無理がある。結局、羊毛の刈り入れ時期などに、こっそり忍び込んで、勝手に交換させてもらう方針が、正解ではないかと結論づけた。そうでなければ、遠くても人の出入りが多い、他の町を探して行った方が良いだろう。簡単に他の町が見つかるとも思えないが。
・・・
そんな思案を巡らせながら、結構走った。途中、遠目で野生の動物がちらほら見えたが、どれも俺の視線を感じたのか逃げて行った。隠れるところもない平地が続いているので、捕まえるのは難しいだろう。
植物もちらほら見えたが、繊維が取れそうなものには見えなかった。見渡す限り砂漠か荒野。こういった土地が、世界中に広がっているのなら、思った以上に環境破壊が進んでいるのかもしれない。
(うーむ。悩むな。)
1時間以上走ったかなと思い、そろそろあきらめようとしたところ、地平線のあたりにちらほら緑が見える気がした。
あくまで簡素な行動計画ではあるが、予定時間を超えて、さらに探索のために進むのには抵抗がある。あれこれ悩んだが、進む前に閃いたアイデアを試すことにした。確実に緑があるなら、やはり追加で調べたい。
「セルカ。今大丈夫か?」
ちょっと間があったが返事があった。
(はーい。大丈夫ですよ。探索どうですか?)
「今のところ成果なし。予定の時間が経過したので方向を変えようと思ったら、先に緑っぽいものが見えていて。」
(そうですか。そこまでいきますか?)
「確実に緑があるなら行きたいが、無駄足になるのも嫌でな。」
閃いたアイデアを説明して、協力をお願いする。
「ちょっとこの『しるし』に視点映してもらって、俺が上になげるから、上からまわりをみてくれないかなと。」
自分でできないこともないのだが、投げた瞬間に『しるし』に接続するのは難易度が高い。
(あーなるほど。なんか怖いですけど、面白そうですね。わかりました。では早速・・・視点移しましたよ。壊れるとどうなるかわからないので、落ちる途中で接続を切ますね。)
「ああ、それで十分だ。よろしく頼む。ちょっと練習してから合図して投げる。」
『しるし』を投げた時、回転が付いてしまうと、観察しにくいと思うので、事前に落ちている石で投げる練習をする。ちょっと斜め前、80度くらいの角度で、安定してほぼ無回転で投げられるようになってから本番。
大体初速100km/hくらいで投げる。実際はもっと早いかもしれないが、その速度であれば、ここの重力が地球と同じとすると、80度の角度で高さ38mちょっとまで上にあがる。
俺の身長を加えて、40m弱までの高さに達するはずだ。そうすれば、ここから20km以上先が見えるはずなので、十分だろう。今後、気球などが作れるようになれば、周囲を探索したいものだ。
「では本番。いくぞ。」
(はーい。お手柔らか・・・ きゃーーーーはやいはやい。あははははは。)
ちょっとハイテンションなセルカの声を聞いた後、少したって『しるし』が地面に落ちて砕け散った。
「どうだった?」
(そうですね。進む先に林っぽい場所があります。木ではないですね。里の近くにも何本かあったヤシかなと思います。その先はまた、砂漠ですね・・・。それと、この後、左に曲がる予定でしたよね? 予定を変えて右に曲がった方が良いですね。そちらの方向には緑があるので、目的の植物を見つける可能性が高そうです。もっと情報が必要であれば、もう一回いきましょうか?)
「いや、そこまでわかれば十分だ。ありがとう。」
(はーい。また何かあったら呼んでください。そこそこ暇です。)
「お、おう。わかった。」
アイデアは思った通り上手くいった。空からの調査結果を受けて、林まで行ってみることにした。そして、その後は計画を変更して、右回りで帰ることにする。
・・・
調査地点から、さらに10分ほど走ったところで、セルカが林と言っていたものが見えてきた。ヤシの群生だろう。
さらに近づいて観察する。植物の外見や特徴を見る限り、ナツメヤシだと思われる。残念ながら春先を過ぎたころのため、実はついていなかった。花は咲いており、その花の特徴もナツメヤシのものと似ている。まず、ナツメヤシの群生で間違いないだろう。
夏を過ぎたあたりにくれば、デーツが収穫できるかもしれない。デーツが取れれば、この辺りでは非常に貴重な甘味になるだろう。
(今後のために、手伝いをしておくか。)
ナツメヤシは、風による自然受粉をするが、あまり成功率が高くない。林になっていて、花粉量も多いので成功する可能性もあるが、収穫量を増やすためにも、すこし受粉の手伝いをしておく。
ナツメヤシの葉は、荒い布や籠などにも加工できるので、少しずつ切り取り持って帰る。今のところ、目的の麻などは見つかっていないが、これだけでも良い成果だろう。後は、帰りながら探索を続けよう。




