第56話 子育てに足りないもの
「ねぇ。リコルド、相談があるのだけれど。」
ミランダから、子育てに必要なものについて相談された。
「子供を無事に救えた後の話だけれど。子供達は2歳になれば離乳食が与えられるから、食事はあまり心配ないわ。食糧の貯蓄量も心配ないしね。だけれど、布や糸が足りないわ。後は、できれば遊び道具があると良いわね。飲み込めないくらいの大きさで、あれば簡単なもので良いわ。」
確かに食事に関しては順調だ。人が少ないので、畑の農作物が貯まる一方だし、時々罠に獲物がかかるので、肉や革もある。水路にいた魚に定期的に餌をやり、増やそうともしている。
遊び道具も、なんとかなるだろう。竹材がある程度使えるようになっているので、暇なときに、なにか作れば間に合うだろう。竹材で、積み木を作ってやれば、知育玩具としても使えるかもしれない。
問題は布や糸。狩りでも羊やアルパカなど毛糸が作れる動物は、まだ確保できていない。ロバは少し確保できているが、短毛種で毛が取れるタイプではない。動物でなくても、例えば乾燥に強く繊維がとれる麻でも良いだが、村でも扱っていなかった。麻の繁殖力や、前世での世界分布を考えれば、この周辺にもあるはずなのだが。
「うーむ。遊び道具はなんとかなると思うが、布と糸はすぐには入手できそうもないな。」
「そうよね。私が持ってきた服や布をうまく使いまわせれば、少しは時間が稼げると思うわ。ただ、子供が増えたり、大きくなったりすると無理ね。足らなくなると思うわ。」
実はミランダは既に、俺の服を作ってくれている。服装があまりにもみすぼらしいため、最優先で作ってくれたのだろう。そのこともあって、使える布は減っている。安心して子供を育てるためには、別途調達が必須だろう。
「村では羊を放牧しているし、村から調達できないかしら。こちらの農作物や肉、塩は、どれも村でも必要なものだから、交換してもらえるかもしれないわ。そうだ、ここの食糧や知識を村に提供してあげれば、掟をなくすこともできるかもしれないわ。どうかしら?」
ミランダが言っていることにも一理ある。ただそこまで単純とも思えない。性善説に寄り過ぎで危ういとも思う。
「言っていることは分かる。将来的には食糧や知識の提供も良いと思う。ただ、ミランダが村で暮らしていたときに、俺が知識を教えたとして、信じていたと思うか?」
ミランダは少し考えて返事をした。
「そうね。信じないと思うわ。ここの畑を見て、貯められている食糧を見た今でも、半信半疑なのよ。」
「だろうな。人間は、長年の常識から外れることは理解できないし、理解しようとしない。年を取ればとるほど、その傾向は一層強くなる。例えば半信半疑でも良いから知識を伝え、その証拠として、ここを見せたとする。ここを見た村の住人たちが、ここの食糧を奪おうと考えない保証はないだろう?」
「そんなこと・・・。」
少し、何かを思い出すような表情を浮かべながら、ミランダは続ける。
「そうね。冬の辛さや、掟に従っている惨状を思えば、完全に否定はできないわね。」
悲しそうな顔をしながら、ミランダは答えた。
「村人がここを攻めて来たら、ただでやられる気はない。お互いにとって、あまり良いことにはならないだろう。せめて、ここを攻める気が起こらない程度の武力があれば、知識を伝える選択肢もあるとは思う。いっそのこと、村を勢力下において、農業改革を推し進めた方が、早いかもしれない。」
ミランダの顔が一瞬強張った。
「どちらも現実的とは思えないわね・・・」
意識せずに、村を勢力下におくと口走った。ミランダには否定されたが、緑化促進のためには、村を勢力下におくことも、視野に入れても良いかもしれない・・・
「知識を伝えるのは当面先として、物々交換はありだな。怪しまれるだろうが、どこから来たのか悟られなければ、いけるかもしれない。」
「そんなこと可能かしら? もしも、それができて、布が手に入れられるなら良いけど。羊毛だけでもよいわね。」
「少し考えてみる。」
村との交易については、検討しても良いだろう。それだけでも、村の状況はかなり良くなるはずだし、こちらとしても、必要なものを手に入れることができる。
「わかったわ。村では食糧もだけれど、塩は相当貴重よ。採れる場所がほとんどないの。」
食糧は、蓄積が進み余裕が出てきている。塩も当面なくなりそうもない。うまく村と物々交換ができればよいが、相応のリスクがある。
(少し余裕が出てきたし、探して見た方が良さそうだな。)
布を手に入れるための別の方法としては、麻の入手。ここにも村にもないが、もともと乾燥に強い植物で、自生している可能性も十分ある。
麻はいくつか種類があるが、前世では、自生の王と呼ばれるような麻もあった。探索範囲を広げれば、見つかる可能性があるかもしれない。そちらは、確保できればリスクがほとんどないため、物々交換の前に、探してみるべきだろう。




