第54話 里に来てから数日
「ふう。少し休もうかしら。もう若くないしね。」
私がセルカ様に導かれ、このイーリスの里に訪れてから数日が経った。作業に一区切りがついたので、ここに来てからの出来事について思い返していた。
村での暮らしでは、一生体験することがないことばかりあったわ。まだ数日しかたっていないのだけれど、これまでの常識が崩れそうになる出来事が多くて。体験したことなのだけれど、理解できなくて頭が整理できていないのよね。
(あんな場所があるなんてね。)
そもそも、荒野でのリコルドとの出会いから理解できない。あんなところに洞窟があるなんて、村では聞いたことがなかったわ・・・
岩陰に、隠されるように穴があり、しかも、そこからこの里にまでつながっていた。リコルドは、逆に進めば村までつながっている、そう言っていたけど、昔からあったとは思えないわ。
村の教会地下に、水の流れがあることは知っていたけれど、その先がこの里まで続いていることは誰も知らないのではないかしら。かなりの距離の水路があって、何年かければ作れるのか想像もつかない、それこど女神の奇跡なのかしら。子供を流す儀式が、女神の国へ送るという方便が、まるで真実になったようだわ。
それに出会ったリコルド・・・
「なんですかあの子供は!」
理解できないもやもやが、ミランダの口から言葉として出る。リコルドは出会ってすぐ、荷物を持つと言ってくれた。大人びた口調なのは気になったけれど、優しい子だなと思ったわ。
私が持っていたのは大荷物で、子供が持てるはずがない、そう思ったから、お礼を言って小さな手荷物を渡そうとしたら、女神の加護があるから全部渡せと言ってきたの。
当然持てるわけがないと思うわ。大人の私が持ってギリギリの量の荷物よ。子供特有の勘違いから来る自信、そう思って苦笑いしながら荷物を渡したら、すべて軽々と持ち上げたわ。しかも洞窟に入ってから、歩きにくい道を何キロもの間、息も切らさずに運び続けたのよ。
もう、意味が分からないわ。女神の加護ってなんなの?!
(この里もおかしいわ。)
滝の横にある階段を下りたら、大きな女神像があったわ。そこまではまあ、村にも女神像はあるし、大きさにびっくりしただけだったわ。作ったばかりのような石の階段も、まあ分からなくはないのよ。
だけど、その横にあった大きな人形はいったいなんなのかしら。勝手に動いていたし、人が入っているとしか思えない動きだったわ。リコルドを問い詰めたら、神のしもべの1つですという説明だけしてくれた・・・
最初に見た時には、恐ろしくて固まってしまったけれど、見た目にからは想像できないほど器用で、ソルガムの実をすりつぶして粉にしたり、掃除をしたりするのよ。理解不能なのを超えて、可愛くさえ感じているわ。
(収穫量が、信じられない程多いしね。)
イーリスの里を案内された時に見せてもらった貯蓄された農作物や肉。一体何人分なの? 村長の蔵の貯蓄より多いのじゃないかしら。しかも集落の中の畑だけで、それも1年程度で収穫したと言っていたわ。
収穫量を落とさない農法があると、リコルドは言っていたわ。そんなものがあるなんて、聞いたことがない。本当なのかしら? これまで長い間、畑仕事をやってきた私の経験では信じ難いし、正直、これまでの努力を否定されるような気もしてしまうわね。
それでも、それが事実なのであれば、信じたいし、村の暮らしは良くなるに違いないわ。私もやってみたいわ。
(本当に、他に誰もいないのかしら。)
信じられないのは、ここの住民がリコルド1人だったことね。自動的に動く人形は別としてだけれどね。年齢は7~8歳だとは思うわ。そんな子供が一人で作物を育て、狩りをして生きているとは、とても信じられないわ。
女神の加護のおかげと、リコルドは言ったけれど。でも、この数日間で、それが事実なのは見てわかったわ。リコルドは、すべてが見た目とかけ離れているわ。無尽蔵とも思える体力に、素早い動き、集落の様子がすべて見えているのではと思えるほど、無駄なことをしないわ。
兎に角、この里は理解できないことが多い。私自身、女神に導かれてここに来ている。そもそも、理解する必要はないのかもしれないわね。
セルカ様からは、この里を豊かにしていき、村で捨てられる人を救いたいと伝えられている。私もやりたいわ。微力ならが協力していきたいと思っているの。
これまでのことは、後悔することは多いし、もう取り返しはつかないけれど。これから捨てられる子供たちが救えるなら、力が湧いてくるわ。ただ、この里で、子供を育てながら自給自足を目指すなら、色々足りていないわ。
人も足りていないけれど、リコルド1人より、私がいれば少しは楽になるはずよ。もう年だし、いつまで生きることができるかわからないけれど、これからは後悔しないように生きたいわね。できる限りのことをすると女神イーリスに誓うわ。




