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第53話 住人を迎える準備

 ミランダを集落に迎える少し前。村を監視しているセルカから報告があった。


(村から女性が1人、掟に従って外に出ることになりそうです。名前はミランダ。先ほど村長から一か月後に、旅立って欲しいとの話をされたようです。)


「そうか。いよいよだな。」


 目標としていた1年が経過し、新しく蒔いた種も順調に育っている。農法を確立し、食糧の確保に目途が立ち、他の課題の改善も進んでいる。いよいよ集落の人材確保に踏み切ろう、そう考えて村の監視強化をセルカに依頼していた。


 元々監視は重要な場所に絞って行うことを考えていた。例えば、村の掟に従い子供が流される場所や、大人が旅立つ場所などだ。監視を初めて見ると、セルカは思った以上に広範囲での情報を収集できるようだった。そのため、村に設置する『しるし』を増やし、当日だけでなく、その前兆に関する情報も集めるようお願いしていた。


(少し怖いな。)


 セルカの報告は待っていた情報なのだが、俺は、自分以外の命に責任を持つことに少し不安を覚える。例え見捨てられた命だとしても、俺の使命に巻き込むことになる。


 できる限り安心して暮らせるよう生活基盤の確保し、協力者には報いるつもりだ。今時点でも村の状況よりは、かなりマシにできると思う。それでも今後を考えれば不安の種は尽きない。集落の運営などと言うものが、本当にできるのだろうか・・・


(覚悟を決めるべきだな。)


 本来の使命のことを考えれば、これぐらいのことは、できて当たり前でなければならないだろう。この集落の運営と緑化は、必ず成功させなければならない。不測の事態に陥り、万が一失敗したとしても、最後まで面倒を見ることを心に誓う。それしかない。


(まずは、1人目、進めよう。慎重に。)


 貴重な情報を伝えてくれたセルカには感謝しつつ、慎重にミランダを受け入れるかどうかを調べるべきだろう。


「よく気づいてくれた。村に監視網を作った甲斐があるな。」


(ありがとうございます。情報を集めることに慣れてきましたし、私にあっていると思います。今後もがんばりますね。)


「ああ、頼む。今後、ミランダの人物像を見極めて欲しい。少人数の集落になる。問題ある人物を、招き入れるわけにはいかないからな。」


(それは、そうですね。)


「ミランダが良い人物であることを祈っている。最初の住民には、子供の面倒を見てもらえそうな人に来て欲しかった。無理強いをするつもりはないが、大人の女性であれば、役割を受け入れてくれるかもしれない。」


 集落が発展すれば、多様な人材が必要になるかもしれない。それでも、集落の復興初期には、できれば常識的で協調性のある人材で固めておきたい。そのためには、事前に人となりを確認しておく必要があるだろう。


(はーい。わかりました。けど、そうなら彼女の日常もわかるようにしてもらわないと。彼女住んでいる家にも『しるし』を新しく設置してもらえませんか?)


「そうだな・・・わかった。準備して設置してくる。」


 最近、セルカは、積極的に監視網を広げようとしているように感じる。俺やセルカは、見たり聞いたりしたものは、記憶としてイデアに残るため忘れない。情報収集には自信が持てるが、監視箇所が増えれば、それだけ確認するのは大変になると思うのだが、いくら監視網を広げても、セルカは一向に気にした様子がない。なにか特殊な技能があるのかもしれない。


(それじゃ、ちょっと行ってくるか。)


 セルカに依頼された、村への新たな『しるし』の設置については、特に問題がない。実は、時々村に直接行っている。マナ操作のスキル向上に伴い、身体能力が上がっており、かなり早く村まで行けるようになっている。


 マラソン男子の最速記録は、公式でない参考記録で42.195kmを2時間切る。分速にすれば約0.35km。集落から村までは、俺が水に流された時間から算出した概算距離だが、片道の距離は約18km。

 

 水路沿いの道を、最速記録と同じペースで走ったとすると、集落から村まで51分強。俺の村への到達速度は、正確な時間が図れないが、それよりも早いように感じる。まあ、当然電車や車などと比べれば遅いが、相当な速さだろう。


(ついでに、また置いてくるかな。)


 村に行く理由は様々だが、時々母親の様子を見に行き、農作物の差し入れをしている。少しでも産んで育ててくれた恩を返したいと思っている。


 最初に母親を見に行った時、まだかなり落ち込んでいる様子で、随分とやせていた。心配になり、村に行くたびにメッセージを地面に書き、農作物を置くようにしている。当然のことだが、最初、母親は不信に思い、農作物に手を付けてくれなかった。それでも何度か繰り返しているうちに、ある日を境に、農作物を食べるようになっている。


 セルカからは、食べるようになった日の母親の表情は、どこか嬉しそうだった聞いている。掟で追い出された時に、気休めで残した書置きと、筆跡が同じことに、気が付いてくれたのかもしれない。


 今は顔色もよく、だいぶ体調がよさそうで安心している。いずれ直接会いに行きたいと思っているが簡単ではない。いや、会うこと自体はそれほど難しくないのだが、俺の体は年齢とギャップがあり過ぎるので、信じてもらえるとは思えない。成長が止まり、実年齢とのギャップが少なくなったらと名乗りに行きたいと思っている。


(もう着いたか。)


 岩から掘り出して新しい『しるし』を準備した後、時間を見計らい走って村へ行った。考え事をしながら走っていたので、いつの間にか到着していた。もう、村からの距離を走っても、息が切れることもない。


 ミランダが外出した瞬間をねらい、家に忍び込み複数設置した。設置作業が、かなり手馴れてきている。無事に設置が終わったので、セルカには調査を開始してもらった。


・・・


 調査を開始してもらってから2週間後、セルカから報告があった。


(ミランダですが、性格は温厚そうで、健康面も問題なさそうです。もうすぐ50歳とは思えませんね。秀でた面はないものの、これまで農業に従事しており、子供も1人6歳まで育てた経験もあります。ただ、夫とその子供とは既に死別しており天涯孤独です。周りの人との人間関係も良好のようです。この集落の住人として適任かもしれませんね。)


 思った以上に、詳細な報告があがってくる。


「よく調べてくれた。しかし・・・やけに詳しいな。」


(ふふふ。頑張りましたよ私。褒めてくれても良いですよ。まあ、実は情報が得られたのは最近です。ミランダはここ2日ほど、ご近所に挨拶に行っており、そこでの話が多いですね。)


「なるほどな。それにしても良い情報で助かる。確かに適任だな。彼女、ミランダをこの集落に招くことにしよう。じゃあ、この後は手筈通りに頼む。」


 少し沈黙が続いた後、セルカから返事がある。


(うーん。本当にやります? 考え直しませんか?)


「考え直さない。」


 セルカには、威厳があり神秘的な雰囲気を醸し出す、女神のしもべ役をお願いしている。


(まあ、完全に嘘じゃないので良いですけど。うーん。威厳を保ちながら話しかけるとか、難易度高いですよ。すぐぼろがでちゃいそう。)


「まあ、その時はその時で大丈夫だから。頼むよ。」


 セルカと事前に相談し、この集落のトップは、セルカということにした。女神イーリスと集落の住人の間を取り持つ役目を担い、威厳を保ちながら、女神の期待や指示を伝えることをお願いしている。ちなみに、集落の祭壇の前の床には『しるし』を埋め込んであり、そこで祈る人とセルカで、意思の疎通ができるようにしてある。


 当初俺がその役割を担う予定であったが、さすがに年齢が若すぎる。不思議な雰囲気を漂わせて、何とかすることも考えたが、より適任のセルカが仲間になったのだから無理する必要はない。俺は住民との接触も多くなるので、ぼろが出るに決まっている。ここはセルカが適任だろう。集落の運営方針なども既に、セルカに伝えている。


 俺はセルカに仕えるしもべの1人という立場で、集落に貢献していくことにしている。


「ま、住民との接点は、祈りに来た時だけだから、ばれにくいだろう。頼むよセルカ」


(もー。しょうがないですね。やってみますよ。私が長く経験を積んでいることが、だてではないところを見せてあげましょう。なので頑張り続けられるように、時々ご褒美お待ちしていますよっ。)


 恐らくセルカには100年以上の経験があるのだろう。女神様のしもべとして、十分期待できそうだ。しかし、改めて経験年数の長さに驚く。普段の明るい感じも、長い経験から来るキャラづくりなのかもしれない・・・


(そうだ、ミランダは明日旅立つかもしれません。)


 突然予想外のことを報告してきた。


「なに? まだ一か月たっていないと思うが。」


(ご近所への挨拶で気まずい思いをして、落ち込んでいたのですが、吹っ切れたようです。旅立つ覚悟をするためか、準備を始めています。)


「そうか。ではこちらも急がないとな。夜にいって手筈通り進めて置く。」


(はーい。よろしくです。)


「あぁ、そうだ。この集落に名前がないと不便なので、イーリスの里と名付けるから、以後よろしくな。」


(え? あー。そうですね。名前なかったですね。了解です。イーリスの里、復興頑張りましょうね。)


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