第50話 村人ミランダの現実
「ミランダ、これまで村に尽くしてくれてありがとう。申し訳ないのだがね。村の掟だ。一か月後、旅立って欲しい。」
昨日、ついに村長から伝えられてしまった。その後の記憶はあまりない。私には旅たちのことが伝えられることは無いかもしれない、そういう淡い期待を持って真面目に暮らしていた。真面目に慎ましく暮らしていれば、村から追い出されることは無いかもしれない。そう思っていた。
だけど、村長から実にあっさりと、事務的な口調で淡々と告げられた。まだ実感がわかない。私の何が悪かったのかしら。
夫も子供とも死別していて、この村に未練はないのだけれど。村長から告げられて、私がこの村に必要とされていない、その現実に、思いのほかショックを受けてしまった。
この村に生まれてから、これまで波風立てずに、従順に暮らしてきたのに。生活が苦しくて、子供に満足な食事を与えられなくて、若くして喪ってしまった。それでも私は、神に対しても祈りを欠かさなかったのに。
村の掟は知っていたけれど、どこか遠く他人事。嫌な村人が、村長の護衛に追い出されたところを見て、むしろ当然のように考えてしまったこともあったわ。従順に暮らしていれば、お目こぼしがある。私は大丈夫という、根拠のない希望をいだいていたけれど、結局そんなことは起こらなかったのね。
確かに、この村の生活は貧しいしわ。ひと間しかない、日干しレンガの小さな家。ほとんどの住民が、朝から働いているのに余裕はなくて、一日の食事は1食か、多くて2食。水に困らないだけのちっぽけな村。
近くに大きな村や町もなくて、商人が来ることはない。あまりに辺鄙な場所にあるから、盗賊や人さらいが来ないのは良いところなのかもしれないわね。もしかしたら、いっそさらわれた方が良かったのかしら。
村の掟は、移動ばかりの暮らしに疲れた祖先が、ここに定住するために、最初に決めたと聞いているわ。貧しくて病気の住民も多くいる。むしろ私のように、50歳まで健康な人の方が少ないくらいね。
夫も子供もなくなったとき、悲しかったけれど、今思えば、出ていけと言われるより、その方が幸せだったのかしら。
掟に従い、子供を失った親は多いし、これからもそうなるのでしょうね。村の畑で採れる作物では、限られた人数しか養えないのは、良く分かっている。この村では、子供が多く生まれるたびに、悲しみが生まれるわ。
目を背けてきたけれど、何人もの子供が掟に従っていった。私は、それを知っていて、何も行動してこなかった。私が生まれる前からの決まり事として、諦めてしまった・・・
後悔があるとしたら、そのことかしらね。当たり前のこととして、子供達を見殺しにしてきた、その罰で私が追い出されるとかんがれば、当然の報いなのかもしれないわね。
そう思えば、旅立つことも諦めがつくかしら。そして、私が旅立つことで、1人の子供が救われる、そう思うことにしましょうか。
それでも、どうしても考えてしまうわ。何か行動に起こせば、変わったのかしら。どうすれば良かったのかは、今でもわからないわ。今更遅いのだけれど、やっぱり、何も考えず従順に生きてきたことは、反省すべきね。
・・・
そうね。旅先で、なにかを見つけられる。希望を持てば、そうもいうことあるのかもしれないわね。これまで旅立った人が、何かを持ち帰ってきたことはないけれど、それは遠くで幸せに暮らしているから・・・嘘ね。村長に告げられてから、どうしても落ち込んでしまうし、思考がぐるぐる回ってしまう。
「ミランダさん、おはようございます。良い天気ですね!」
近くに住むケイティに、元気よく挨拶されても、どうしてもいつものように返せないわ。ケイティの顔が少し強張るのを見て、後悔する気持ちはあるのだけれど。どうしても駄目。
・・・
一通り後悔して、落ち込んで、やっと実感がわいてきた。少し冷静になれたから、残りの時間を、これまで縁があったご近所に、挨拶をして過ごしてみたのだけれど、すぐに後悔が増えるだけと分かったわ。
1件目、2件目・・・ 結局、挨拶は私の自己満足にしかならなくて、挨拶に行っても互い辛いだけだったわ。話が弾むわけもなくて、気まずさが残るだけ、当たり前のことに気が付かされただけだった。
残りの時間、ここに居ても自分だけでなく、周りも傷つけてしまう。そのことに気が付いてしまった。もうこれ以上は耐えられないわね。
「予定より早いけれど、旅立つ方がよさそうね。」
少ない蓄えと水を風呂敷に包み、旅立ちの準備。いっそ何も持たずにとも思ったけれど、どうしても希望を捨てられなかったわ。
明日旅立とう。そう心に決めて、強がりだけれども、希望を捨てず前向きに出ていくことにしたわ。




