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第49話 ロバの扱い

「さて、あいつはどうするかな。扱いが難しいらしいが。」


 昨日は、罠にかかった2匹の獲物のうち、サイガの処理をおこなったが、今日は、残りの1匹であるロバについて考える。ロバは食用にもできるし、やや難はあるが家畜としても考えられる。メスであれば、乳を採れる可能性もある。


 ロバは、ウマ科の中では小さいが、力は強く記憶力もよい。乗用、荷物の運搬などとしても役に立つ。しかも、砂漠に野生の個体がいることからわかるように、乾燥した環境や山道などの不整地に強い。非常に強健で、比較的少ない餌で維持できるし、寿命も30年近くと長い。


 良いことづくめのようにも聞こえるが、知能が高く、相手を見て態度を変える個体も多い。ロバはウマと比べると従順でない個体が多いが、その半面、信頼している人に対しては、良く懐く。


 攻撃的な面もあり、地域によっては、護衛犬の代わりに使うことすらある。前世で多くの利点をもつのに、馬と比べて家畜化が進まなかったのは、従順でない性質にもよるのだろう。


(ちょっと相談してみるか。)


 ロバの扱いを決めかねていたので、セルカに相談してみる。


「捕まえたロバの扱いをどうするか考えているのだが、意見あるか?」


 しばらく悩む気配があった後、返答があった。


(昔、私がいた村では何頭か飼っていましたよ。でも、私はどのロバにも懐かれなくて。気性が激しいので、なるべく近づかないようにしていました。)


 あまり直接的な表現はしないが、ひどい目にあったようだ。


(ただ、実だけでなく植物の根も食べますし、餌にはあまり困りませんよ。放置しても生き延びるので、管理は楽ですよ。飼っても良いかもしれませんね。捕まえた個体の性格を見て、判断したらどうですか。)


「そうだな、ありがとう。そうしよう。」


 判断を先送りしただけだが、問題点は性格だけなので妥当だろう。飼うと決めた場合、集落に連れてくる必要があるため、ロバを引く準備をする。


(簡素なものだが、ロープホルターを作成しておくか。)


 ロープホルターは、ロバの口の周りと首にかけて固定する道具で、簡易な物はロープさえあれば作成できる。作成は、コツは必要だが、ロープを決まった形で結ぶだけなので、本来はそこまで苦労することはない。ただ、こちらで用意できたロープは、前世のものと違い、木の皮を使ったものだったので、結び目などが作りにくく苦労した。


(一応持っていくか。)


 武器類も忘れずに携帯する。肉は、ある程度確保できているので、ロバは集落で飼う方に気持ちは傾いている。傾いているのだがロバの皮からは、漢方としても使えるにかわが取れる。膠も用途も幅広いので、正直手に入れたい気持ちもある。可哀そうではあるが飼いにくい性格であれば、判断を変えることも視野に入れている。


 集落での準備を終えて、罠のところまで移動する。走ったので、ほどなく到着した。移動時間が、少しずつ早くなっている気がする。


 罠を覗き込んでみたところ、最後に餌を入れた場所で、大人しくしている。こちらに気づき、顔をこちらに向けてくる。朴訥で頭のよさそうな目が印象的だ。


「セルカ、罠に到着した、ロバは興奮などしていないようだ。近づいて見る。」


(はーい。見ていましたよ。気を付けてくださいね。来るときはいきなりきますよ。)


 なにが来るのかはあえて聞かず、ピットフォールの中に飛び降りる。ロバはびくっとして離れたが、興奮して襲ってくるようなことはなかった。昨日、俺が水と餌を与えたのを、覚えているのかもしれない。


 俺の体は、本来の歳とくらべてかなり大きいが、それでも6~7歳の子供の体格だ。野生の動物にとって体格は、相手を見極める大事な要素となるので、なめられるかと思ったが、そういう様子はない。


 ゆっくりと近づく。ロバは怯えた様子もなく、大人しくしているたので、なるべく平常心を保ちながら、頭を撫でてやる。最初に触れた時に、怯えのようなものが、ロバから伝わってきたが、すぐに受け入れたようだ。


「大人しい性格のようだ。撫でているが問題ない。集落に連れて帰ることにする。」


(そうですか、そういうロバもいるらしいです。経験ないですけど。ちなみにどっちですか?)


 セルカの問いの意味が一瞬分からなかったが、理解して回答する。


「あぁ。メスだな。オスも確保できれば、繁殖や乳も確保できるかもしれないな。」


(良いですね。また、罠にかかったら伝えますね。)


「あぁ。よろしく頼む。」


 ひとまず飼う方針としたが、ピットフォールの中から上を見上げて、連れて帰る大変さに気が付いてため息をついた。穴の深さは1.5m程あるので、無理に引っ張り出すと怪我をするかもしれない。


「ふー。戻るまでにはしばらくかかりそうだ。」


(あーーー。はい。そうですね・・・頑張ってください。)


 察してくれたのか、言葉を少なめに同意してくれた。その後、罠からロバが抜け出せる程度に階段を作り、ピットフォールの外に連れ出した。罠を仕掛けなおしてから、用意したロープホルターを、ロバに着けて一緒に集落まで戻った。


 こちらの意図を察してか、ロープホルターを付けた時もあまり嫌がらなかったし、帰り道も、特に抵抗する様子は見せなかった。相当賢そうで大人しい性格のようなので、集落の中で飼うことも考えたが、畑があるため荒らされる可能性を考えると、放し飼いは抵抗がある。


 かといって、ロープにつないだままでは可哀そうなので、集落を出たところに簡易な囲いを作った。囲いは簡素なものと考えたが、それでも十分な材料がない。集めた木で作れるが、木は使い道が多いので残しておきたい。


 少し考えた結果、固い地面を50cm程度掘り下げ、掘り下げた部分をブロックにして、積み上げて囲いとした。囲いができたころには、夜になる直前になっていた。


「今日は良く働いたな。まあ色々と新鮮で楽しいが。」


 なんとなく、一人ごちた後、ロバに話しかけた。


「ここが今日からお前の住処だぞ。」


 休むための寝床なども用意したのを理解したのか、素直に囲いの中に入り休んでいる。


「名前はそうだな。メスだけど、ルシオにしよう。つがいが見つかったら、ロシナンテかな。」


 某騎士様の愛馬(?)から拝借した名前を付けることにした。今日もぐっすり眠れそうだと思いながら、いつもの寝床に行く。腹は減っているはずだが、昼頃をピークにあまり空腹を感じていない。


 暗くなり始めているので、そのまま寝ることにした。眠気は体に精神が引っ張られるように急激に訪れ、そのまま気を失うように眠りに落ちた。


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