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第48話 サイガの脂身と骨と皮

「うっぷ。」


 サイガの内臓と肉の処理が終わり、久しぶりの焼肉にもありつけた。若干の後悔はあるものの、俺自身も味わえたし、今の状態も今後の監視継続のための必要経費と思えば、納得もできる。きっとセルカも、食べた分以上に活躍してくれることだろう。


 セルカは、俺の体が限界になるまで、焼肉を食べたことで満足したのか、静かになっている。早速、監視業務に戻っているのかもしれない。気を取り直して、邪魔が入らないうちに、残りの部分を処理していく。


(まずは、油か)


 切り分けておいた脂身から、牛脂を抽出する。やり方は簡単で、鍋に水と塩を少々いれ、脂身を入れて煮る。2~3時間煮たものを冷やすと、油が上に分離されるので、上澄み掬うだけ。


 鍋はないので、岩のプレートを細工した、石鍋もどきを利用する。熱伝導率の悪さを懸念していたが、岩を薄く加工したのが良かったようで、特に問題はないようだ。脂身は、そのまま煮ると臭いので一工夫、ローズマリーを入れることで、臭いもそこまで気にならなくなった。完成した牛脂にも、程よく香りが付きそうだ。


 上澄みは竹の筒で掬って、比較的涼しい場所、教会の祭壇部屋にある、池の近くで冷やしておく。一通り掬った後、残りの脂身に同じように水と塩少々、ローズマリーを加えて煮ると、さらに油が取れる。


 3回までが限界だったが、繰り返してかなりの量の牛脂を抽出できた。牛脂は、要するに油なので、調理や石鹸などに活用できる。残りかすは焼却して肥料とした。


(骨油はどうするか。)


 骨からも油は抽出できる。骨から抽出した油は骨油と呼ばれるが、前世ではBSEなどにも配慮して、工業用に利用させることが多かった。骨油をエステル交換で処理できれば、グリセリンと脂肪酸が作れるので、かなり応用範囲が広がるのだが現状では難しい。残念ながら、骨の一部を出汁用に確保した後、できる限り肉や油をそぎ落とし、焼却・粉砕して肥料とした。


(本命の皮だが、処理が難しい・・・)


 最後に皮の処理を行う。皮はそのままだと単に動物の皮膚でしかないため、腐敗したり、水分が抜けて硬くなったりして、すぐに使えなくなってしまう。やっと入手できた貴重な皮だが、適切な処理をしないと無駄になってしまう。そして、現時点で適切な処理ができるものがそろっていない。


 皮には、いくつかの使い道が考えられるが、今回は衣食住の衣の素材にすることを優先したい。単なる皮膚を、安定した素材である革にする必要があるのだが、そのために鞣す(なめす)必要がある。


 鞣すとは、漢字のつくりを見てもわかるように、革を柔らかくする技術だ。皮にはコラーゲン繊維が含まれるのだが、これが腐敗しやすい。そのため、なめし剤とコラーゲン繊維を結合させ、柔らかく腐敗しにくい素材に、変質させる必要がある。それを鞣すと言う。


(今できる、鞣し方か。)


 前世での主流な鞣し方は、なめし剤の種類や使い方により、フルタンニンなめし、クロムなめし、ヘビーレタンなめしと呼ばれる3種であった。残念ながら、どの方法を採っても、肝心のなめし剤を今すぐに入手できる見込みがない。そのため、これらの方法は使えない。


 今できるは、もっと古い時代のやり方、例えば脳漿鞣し、油鞣し、燻煙(くんえん)鞣しが、選択肢になるだろう。


(燻煙鞣しだな。)


 脳漿鞣しは脳みそを使った技法で、インデアンなどが行っていたものだ。しかし、できた革を使ったときに、健康被害がでる可能性があるため選択から除外する。油鞣しは大量の油が必要となるが、牛脂もそこまで多くはない。消去法で燻煙鞣しを採用する。


 この方法は単純で、松の葉や稲わらなどを燃やして出る燻煙に、皮をあてることで鞣していく。燻煙に含まれる化合物が、皮のタンパク質と結合することで、革となっていくとされていた方法だ。燻煙により着色されるてしまうのを嫌がる人もいるが、俺は味のある良い色合いと思っているので、その点は問題ない。


 今回は稲わらの代わりに、刈り入れが終わったソルガムを燃やした燻煙を使って、燻煙鞣しを行ってみる。


 皮をテントのように広げるために竹材を組んで、その上に皮を広げる。そして、その下で煙が多く出るようにソルガムを燃やしていく。ソルガムの収穫は順調で、蓄積が進み余裕が出てきているので、ケチらずに燃やす。皮の色が少しずつ変わっていき、茶色の渋めの色になっていった。


 実は、燻煙鞣しは現代の科学的な分析により、厳密には鞣しではないことが分かっている。鞣すには、本来コラーゲン繊維を変質させる必要があるのだが、燻煙鞣しではタンパク質を変質させることはできるが、コラーゲン繊維は水分が抜けるだけで変質せず、質の良い革は正直期待できない。


(・・・思ったより出来が良い。)


 良くて、硬め革ができるものと予想していたが、普通に鞣された革が出来上がった。要因を色々想定したが、ソルガムの種皮に含まれる、ポリフェノール(タンニン酸)や、タンニンが、本来のなめし剤として作用し、タンニン鞣しのような効果が出たのだろう。この方法で、安定した革ができるのであれば、ちょっとした発見かもしれない。


 完成した革は、簡単な細工だけして、上着として利用していくことにした。子供が身に着けるには、ちょっと渋めな色という気もするが、まあ、贅沢はいえない。いつかは、きちんと加工できる革職人に、服などの製作を頼みたいものだ。


 これでサイガは、ほぼ余すところなく使わせてもらった。あらためて獲物に感謝する。元々改善を図りたかった、衣服の材料の確保に加え、動物性たんぱく質、更に牛脂の確保もできた。まだ、確保できた量が少なく、課題解決とは言えないが、改善に向けた手ごたえとしては十分だ。今後も狩りを続けることで、いずれ解決できそうだ。


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