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第47話 久しぶりの焼肉と後悔

「さてと、楽しみの前に、もう一仕事してからか。」


 比較的スムーズに、サイガの解体を終えることができたし、肉の塩蔵も問題ないだろう。


 解体の時に取り分けた内臓のうち、腸の部分は、ソーセージの材料として大事に使わせてもらう予定だ。一般的なソーセージを作るには材料が足りないため、血を使ったブラッドソーセージの仕込みをする。


 血抜きの際に確保した血と、肉の余りや内臓の一部を細かく切って作ったひき肉、ソルガムの粉、塩、脂肪を合わせて練ったものを、腸に詰めていく。中身が出ないように結べば、下ごしらえは終わりだ。


 後は、低温でゆでるだけで完成する。見た目は赤黒く、元日本人としては抵抗が出るほどひどいが、栄養素は豊富だ。臭みもローズマリーで少し緩和しておく。


 残りの内臓は、傷みやすく長期保存は難しい。冷蔵庫や、せめて氷室でもあれば話は変わってくる。折角マナがあるのだから、氷魔法でもあれば氷漬けなんてことがあれば良いが、残念なことに、そういう便利なものはここには一切ない。保存を諦め、食べられるだけ食べることにする。


 マナを取り込んでいるため、食べなくても体調は維持できるが、普通に食欲はある。マナだけで、体が大きくなるとは考えにくいこともあるので、体を大きくするためにも、食べられるのなら、できるだけ食べた方が良いだろう。


(余すことなく、ありがたくと。)


 白物で残った胃の部分と、切り分けておいた赤物、下準備を終えたソーセージを、教会の調理場に持ち込む。調理場といっても、薪をくべる台がある程度の粗末な施設だ。岩をくりぬいて作った水入れも、追加で設置している。


 薪の上には、薄く板状に加工した岩のプレートがあり、そのうえで調理する。プレートには、薄い鍋のようなへこみも作ってあるので、そこにはソーセージを茹でるための水を注いでおく。


 プレートの素材が岩なので、調理できる熱さになるまで時間がかかる。肉の下準備に入る前に、先に火をつけて温めておくことにする。火は面倒なのだが、必要の都度おこしている。火種を燃やし続ける選択肢もあるし、薪は、結構集めてあるので余裕があるが、今後のことも考えて節制している。


 火起こしは大分コツをつかんでいる。弓錐式で火種を作り、薪に火をつける、かかっている時間は数分だろう。少しずつ薪を足し、火力が安定させてから、肉の下準備をする。


 下準備といっても、複雑なことは残っていない。内臓を取り分けるときに、下処理は終えているので、廃材で作ったまな板で、ぶつ切りにし塩を軽く振る程度だ。塩があるだけましだとは思うが、もっと調味料を増やしていきたい。


 確保した白物の胃、赤物は心臓・肝臓・肺・隔膜・舌。焼肉の呼び方であれば、ミノ・ハチノス・センマイ・ギアラ(すべて胃の部分)、ハツ(心臓)・レバー(肝臓)・フワ(肺)・ハラミ(隔膜(横隔膜))・タン(舌)。


 フワはかなりくせがあるうえ、おいしく食べるには、さらに下処理が必要で難易度が高い。今回は諦めて、肥料の方に回すことにした。


 プレートが熱くなってきたので、水を入れておいた鍋の部分にソーセージを入れる。こちらはそのまま放置で大丈夫だろう。


「いよいよか。楽しみだ。」


 プレートに、牛脂をのせて油をひき、肉が貼りつかないようにして、ぶつ切りにした内臓をのせていく。鉄板ではないので、焼けるには時間がかかる。早く食べたい気持ちが、自然と薪を加えて火力を強めていく。


 ジュージューという音とともに、なにか本能に訴えかけるような、ものすごくいい匂いがしてくる。


「ぐぅぅぅ」


 匂いに体が反応し、お腹から耐えかねたような音が出る。この世界では初めての焼肉。楽しみ過ぎる。忍耐力を動員して我慢していたが、我慢しきれなかった。若干生焼け感が残る、ハラミを口に入れる。


「あつぅ・・・っ。・・・うっ。うまい!」


 思わず自然に声が出てしまう。竹で作った箸が止まらなくなり、ハラミ以外もどんどん食べていく。レバーは、新鮮なため臭みがまったくない。最高に美味しい焼肉に感動すら覚える。用意した部位を、少しずつ一通り食べて、一息つく。


「しかし、うまいなぁ。体が求めているのかもしれない。」


 今食べている部分は内臓なので、肉の部位の方がもっと美味しいのかもしれないが、それでも満足感が異常に高い。日本では敗戦直後、物資不足で肉が禁制品となったのだが、その中でも内臓は流通し、闇市でこっそりホルモン焼きが流行ったという。俺の体は、今、戦後の人たちに近い感覚なのかもしれない。


 この喜びを、さらに表現することを考える。喜びの感情表現は、大脳生理学の観点で、やる気につながるという説がある。今後のやる気につなげるためにも、もっと体を使って表現することは重要に違いない。


 外人がやるよう(?)に、両手を斜め前にあげるガッツポーズをしながら。


「うーまーいーぞーー。いーぞーー。ぞーー。」


 ちょっと大げさに、どこかのアニメキャラのセリフを叫んでみた。声が教会の中に、響き伝わっていく。


(・・・急に大声を出してどうしたんです?)


 セルカから、少し呆れたような声が聞こえてきた。すっかりセルカの存在を忘れていた。セルカが見学していたはずなので、一連の流れをすべて見ていたはずで、それを思い出し、耳のあたりが赤くなるのを感じる。


「・・・あ、ああ、見ていたと思うが、さっき処理したサイガの肉を、焼いて食べているところだ。内臓の部分は、長期保存が難しいので、焼いて食べられるだけ食べている。それがうまくてな。大げさに喜んでみた。」


 恥ずかしい気持ちを抑えながら、言い訳がましく素直に説明をした。そう、してしまった。


(・・・へー。そうなんですね。)


(・・・良いですねぇ。私も協力した獲物を、お一人で焼いて食べているですか。そうですか。私、罠にかかっていたのを、教えてあげましたよね。毎日監視しているし、功労者といっても良いですよねぇ。)


(へー。そうですかぁ。)


 恨みを込めたような声が、伝わってくる。


「お、おう。教えてくれて感謝している。こっちで初めてまともな肉を食べた。」


 若干、冷静さを失い、地雷を踏み続ける。


(初めてなんですね! そうですか、ちなみに、こっちでも焼肉は食べますよ。あまり機会は多くないし、お祝いなどの時に限られます。私が食べたのは、いつだったかなぁ。)


 記憶はしっかりしているはずなのだが。


(良いですねぇ・・・。私が教えてあげて捕まえたサイガの焼肉。美味しいんだろうなぁ。)


「う、うむ。ありがたいと思っている。」


 セルカからの言葉の圧力が高まり、恨みがどんどんこもっている気がする。正直、気まずい。逃げたくなってきたが、この世のどこにも、セルカから逃げられる場所はない。


「だが、言ってはなんだが、セルカは食べられないだろう?」


 さらに、不用意な発言をする。セルカの表情は見えないはずなのに、にやりしたように感じた。


(じ・つ・は、そんなことないですよ!協力してもらえれば私も食べられますよ。)


「え?そうなのか?」


 俺は当たり前のことに気が付かず、地雷を踏みぬいた。


(ほら、出会ったときに、私たち入れ替わったじゃないですか。その時に、私の五感も戻ることを確認しています。入れ替わってくれれば、私も味わえます!! 私にも食べさせてくださいよっ。監視、かなり頑張ってますよね。毎日大変なんですよ? たまにはご褒美があっても良いと思うんですよね。今後も監視、必要ですよね?!)


「あぁ。ありがたいと思っているよ。これからも必要だし、是非お願いしたいと思っている。」


 確実に地雷を踏みぬいた感覚がある。しかし、俺もまだ食べたい気持ちが残っているので、少し抵抗した。しかし抵抗したが無駄な努力だった。結局、圧力に負けて入れ替わることになった。


 その後はゴーレムの中で、うまさが伝わる声を散々聴いた後、だいぶ重くなった体に戻ることになった。きっと、今後も素晴らしい監視ができるのだと思う。


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