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第46話 サイガの解体と肉の保存

「なるべく、苦しませないようにしないとな。」


 サイガはウシ科の動物なので、小柄だが皮や肉などが確保できる。可哀そうな気持ちもあるが農作物だけでは得られない、動物性たんぱく質などの不足している栄養素を補える機会でもある。ここは我々の今後の糧にさせてもらう。


 狩りでは普通眉間は狙わない。眉間はかなりの強度があり、ウシ科は特に硬いので致命傷にならないからだ。


 今回あえて眉間を狙ったのは、逃げられる可能性が低かったので気絶させることが目的だ。強弓と鏃に使った大型獣の骨による衝撃で、狙い通りに行ったようだ。牛などを処理する場合、ハンマーや屠畜銃と呼ばれる専用の道具を使って眉間にショックを与えて気絶させる。気絶させることは、獲物の苦しみを最小限にさせる工夫でもある。


 時間をかけると、意識を取り戻す可能性が上がるため、速やかに作業を進める。サイガが動かなくなったのを確かめた後、穴に飛び降り近寄る。


 気絶したサイガの片足をロープで結び、そのロープを持って穴の上に飛び上がり、片足を釣り上げて獲物を固定する。そして、再び素早く穴の下に戻り、相棒のナイフを使って、喉を切り裂いて血抜きをしながら出血死させる。あわせて、角と前足も切断する。


 躊躇なく素早く行えたのが良かったのか、獲物が意識を取り戻すことなく、最初の処理を終えることができた。


「うまく気絶させることができてよかった。意識を取り戻してしまうと、苦しませるだけだからな。」


(それで眉間をねらったんですね。)


「本当は眉間より上にある部分の方が良いのだが、中々そこを無防備に見せることはないからな。」


セルカは一部始終を見ていたようなので、少し補足をする。


「しばらくこのままで血抜きを行う。血は少し持ち帰るが、基本はこのまま放置する。血は乾燥させれば肥料として使えるからな。果樹などを甘くする効果が期待できる肥料になる。ここだとトマトか、ナツメヤシに使うかな。」


(肥料ってなんですか?)


「ああ・・・そうか。肥料は、要するに作物が元気に育つために必要なものだ。それを土に混ぜてやると作物は根から吸収する。」


(聞いたことありませんが、そんなものがあるのですね。)


「そうだ。ちなみに動物の骨などを焼いて砕いたものは、別の種類の肥料になる。こっちは花が綺麗に咲くし、実の付が良くなる効果がある。」


(へー。面白いですね。)


 セルカが知っているこちらの農法は、かなり原始的なようだ。情報が古い可能性があるので今は違うかもしれないが、周辺の状況を見る限りかわってなさそうだ。


「ちょっと、ロバの様子を見て来る。」


(はーい。)


 血抜きにはしばらくかかるので、後回しにしたロバの様子を観察する。ロバをとらえてある穴に戻り覗き込んでみると、ロバは相変わらず大人しくしている。特に怯えているようにも見えない。幸い怪我をしている様子もない。サイガの処理にはかなり時間がかかるので、持ってきた餌と水を与えながら時間を過ごした。


・・・


「そろそろ血抜きが終わったな。まだまだ時間がかかると思うから、他のところを見ていても良いぞ。」


(はーい。でも興味があるので、邪魔でなければ見学させてください。)


「わかった。」


 血抜きは、獲物のサイズによっては3~4時間かかるが、サイガは小柄なため2時間程度で終わった。もう一方の足もロープで釣り上げ、獲物を固定し、皮を剝いでいく。


 ナイフを使って、両足首に切れ目を入れた後、肛門から腹側に真っ二つに切り裂く。そして腹側から、さらに首まで切り裂いていく。その処理が終わったら、切れ目から丁寧に、皮を剥いでいく。


「せっかくいただいた命だからな、なるべく無駄なく生活の糧とさせてもらおう。」


 皮を剥いだら洗浄。獲物と皮を池までもっていき、皮下脂肪などを可能な限り洗い流す。ここからは、解体して精肉していくことになるが、解体してしまうと運びにくくなるので、残りの作業は集落で行うことにする。


「この後は集落で作業することにする。」


(はーい。)


 サイガの体長から考えると、50kg程度の重量があると思う。相当の重量だが、マナ操作による怪力をフル活用して、なんとか集落に運び込むことができた。


 集落の家の1つを清掃し、精肉所として使うことに決める。精肉所に獲物を持ち込み、両足にロープを結び釣り上げて固定しなおす。


「今から内臓の処理をする。見ていて気持ちいいものじゃないぞ。」


(・・・そうですね。でも大丈夫かな。気を使ってくれてありがとうございます。)


「わかった。」


 腹側から内臓を摘出していく。傷つけないように、慎重に胃と腸を摘出していく。胃と腸などは色が白っぽいので、白物しろものとも呼ばれる部分。直腸などを下手に傷つけてしまうと、すべてが台無しになるので、かなり慎重に、細心の注意を払って作業を進める。無事に摘出したものを、準備しておいた木の板の上に置く。


 さらに徐々に切り開きながら、心臓・肝臓・肺・隔膜・舌を摘出。こちらは色で赤物あかものと呼ばれる。同じように先ほどの白物から離した場所に置く。


 ここまで処理できれば、最後に片足ずつになるように真っ二つに割けば、たまにテレビなどで映される肉の形となる。


 内臓はすぐに痛み始めるので、時間を置かず処理を続ける。白物のうち、腸は、直腸など不要な部分を取り除いた後、洗浄し塩漬けにする。他は処理に手間がかかるし、すぐ痛む。残念ながら焼却して肥料にする。


 赤物は、すぐに食べられる分だけ洗浄して、同じ理由で焼却して肥料にする。


 肉は1人では食べきれないので、長期保存できるように処理していく。長期保存と言っても、当然冷蔵庫などはない。常温でも保存できる方法を取る必要があるが、今できる保存方法は、どうしても原始的な方法になる。


 選択肢は、乾燥、燻製、塩蔵、脂漬けだろう。幸いなことに、以前、岩の階段づくりの時に、塩を十分確保できているので塩蔵、いわゆる塩漬けを選択する。塩蔵の方法は、塩が少ないときは食塩水に漬けることもあるが、今回は贅沢に塩を使って処理する。


 塩蔵の仕組みは単純だ。塩は、菌の繁殖をほぼ防止できる特性をもつので、保存したい肉などに、塩を塗るだけで、長期保存が可能となる。


(うーん。味の面では少し残念だが致し方ない。)


 本来は、腐らない工夫をしてから、つるした肉を成熟させる期間とるが、そのために必要なものが足りていない。やや味は落ちるが、いくつか処理を省略し、そのまま塩を塗っていくことにする。


 つるした肉を、ナイフで適当なブロックに切り分けていく。大きな脂肪の部分は、後で別に使うため切り分ける。ブロックになった肉に塩を振り、ソルガムの葉で包んでいく。この作業を繰り返して、一通り塩蔵を終える。


 もともと体長から想定した重量は50kg程度の個体だった。一般的な牛であれば、重量の4割程度が可食部になるが、サイガはそこまで多くない。それでも15kg程度の肉が保存できた。俺1人分としては十分な量だろう。


「さてと!」


 概ね肉の処理は完了したので、いよいよ楽しみにしていた実食。獲物に感謝しながらいただこうと思う。この体では、生まれて初めての肉食になる。


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