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第40話 『しるし』

 虚を突かれて、ゴーレムにとじ込まれた状況だが、幸いなことに元の体に戻してもらえるようだ。相手を信じるしかない状況だが、どちらにしろ俺に打つ手はない。


 ただ、恐らく大丈夫だろう。長い間1人だったセルカにとっては、話し相手は得難いらしい。今後もセルカに話しかけることを条件に、戻る方法を教えてくれることになった。


(その程度であれば是非もない。)


 まず、イデアに取り込まれた俺やセルカは、特殊な形が彫られた『しるし』に接続することで、イデアとの道ができ、こちらの世界に影響を及ぼせる。その『しるし』への接続方法を、今から教えてもらうことになった。


 教える条件である、話しかけることについては何度も、何度も、何度もしつこく念を押された。


(よほど寂しさが堪えていたようだ。無理もないが。)


 セルカがその気になれば、このまま、俺の体を乗っ取ることもできる。その選択肢を取らない善良さをセルカは持ち合わせているようだ。


 接続方法といっても、呪文のようなものがあるわけではなく、感覚的なものだった。『しるし』に意識を集中し、彫られている模様のような形を正確にイメージする。その模様に意識を流し込み満たすようにイメージするだけ。


(知っていれば誰にでもできる感じだな。)


 俺の体に刻まれている『しるし』は、へその下2cmあたりにある。それに向けて成功するまで何度も練習をした。1回成功するまで苦労したが、それ以降はさほど難しくなかった。


 接続に成功しても、今接続しているセルカが拒否すれば、やり直しとなる。それを繰り返し行い、イメージが安定するまで続けた。充分コツをつかんで自信がついたので、元の体に入れ替わることを伝える。


「必ず話しかけてくださいね。そうしないと恨みますから。」


 そんなに念を押さなくてもとも思うが、素直に承知していることを伝える。いよいよ、入れ替わるために、俺の体の『しるし』へ接続することをイメージ。セルカからも、こちらに接続しようとしていることも感じる。


 お互い相手の接続を受け入れ、やっともとの体に戻ることができた。


「ふー、やっと戻れた。」


 手足の感覚や動きを確認、違和感なく動けるし、しゃべれる。セルカは、相当有利な状況だったはずなのに、大した交渉もせずに体を返した。このことは忘れずにおこう。


 今後、セルカとの共同生活になるので、いくつか今後の取り決めなどの相談することにする。ゴーレムの宝石に触れて、さっそく話しかける。


・・・


 会話は最低限1日1回、ゴーレムのエネルギー補給は3日に1回、部屋の割り当て、鍵のかかった部屋にあった書物の貸し出しを約束する。


(何とか負担にならない程度に落ち着いた。)


 ちなみにゴーレムへのエネルギー補給は、女神像の前の祭壇にある球体に対して祈りを捧げることでできる。あの球体は、祈りをささげるとマナを吸収し、イデアに力がそそがれるそうだ。残念ながら、セルカは球体の製造方法を知らなかった。セルカが生身だった当時でも知っている人は皆無だったそうだ。


 イデアにそそがれた力は、女神たちのエネルギー源にもなるし、『しるし』を通じてゴーレムの動力にもなる。今は信仰が失われつつあるうえに、人口がかなり減っており、その影響でイデアに流れ込むエネルギーが少なくなっているという。


 そのため、活動に膨大なエネルギーを必要とする神々は休眠しているという。人口が増え、祈る人が多くなれば女神イーリスの復活も早まるかもしれない。


(信仰を広めることも考える必要があるな。)


 セルカに別れを告げ、自分の部屋にもどる。今日は、終わってみれば貴重な経験と、有用な知識が得られた。


 『しるし』は接続すれば、視覚も聴覚も使えるので、複製ができれば活用の幅が広がる。彫られた形は、接続の練習をしたときに何度もイメージしたので、かなり正確に把握できている。その形を再現すれば複製できるかもしれない。


(うまく使えれば、現代製品の再現もできるかもしれない。)


・・・


 活用の可能性と実現したときのインパクトを考えると、一刻も早く再現したい。早速、新たな『しるし』を作ってみることにする。


 長く使うことを考えれば、やはり宝石のような固い素材を使うべきだが、工具などがなく細かい細工をするのは難しい。そのうえ、宝石は希少だ。宝物庫にいくつかあったが失敗したらいつ手に入れられるかわからない。


(とりあえず、ありきたりの加工しやすい素材で試すべきだろうな。)


 耐久性は除外し、細工のしやすさを優先して、砂をアラビアゴムノキの樹液で固めたもので試してみた。 確かに加工はしやすいのだが、彫った形が安定せずに失敗。次に調達しやすい岩で試したが、やはり工具不足で断念。


 結局、木材を使うことにした。短剣と大型獣の骨を削って作った工具を使って、木材に細工していく。少しでも形が崩れると使い物にならないらしく、中々うまく行かない。


 木材には、内部に裂け目や空洞があることも多く、うまく行かない。心が折れそうになるが、成功した時のインパクトの大きさを念頭に、あきらめず繰り返し彫り続けた。


「今日は諦めるかな。」


 周りに失敗作の山ができている。諦めかけたころにやっと、接続可能な『しるし』を1つ作ることができた。


(さてと、どこまで使えるかな。)


 ようやく完成した虎の子の1つを使い、色々試してみた。


・・・


 接続すると、その木の『しるし』に視点が移る。遠くにおいても接続ができるし、もとに戻ることができる。距離に限界があるかもしれないが、今のところ集落の入り口から教会までは問題なくつなげることがわかった。残念ながら動くことはできなかった。


(当たり前か。)


 『しるし』に加えてゴーレムが再現できるなら、応用がかなり広がる。理屈ではその通りなのだが、ゴーレムは素材の想像もつかない。そもそも、間接の切れ目がない構造で、前世の技術でも再現できそうもないオーパーツ。セルカに作り方を聞いてみたが、元神官で詳細な技術や作り方では知らないらしい。


(ゴーレムの再現は無理だな。)


 ちなみに一度接続できた『しるし』は、大体の位置がわかれば再接続可能なこともわかった。池に浮かべても問題ないし、ゴーレムに持ってもらっても問題なかった。短期間であれば、十分木材でも活用できそうだ。


 現時点では、単に監視カメラの代わりくらいしか使えないかもしれないが、それでもかなりの可能性を感じる。もっと複製できたら、村の出口や子供がながされる場所に設置すれば、人材確保にかなり役に立ちそうだ。


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