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第39話 ゴーレムの中身

 男の子の右手がゴーレムの宝石に触れる。


「あらためてですけど、わたしはセルカと言います。今、あなたと意識を共有するパスを構築しました。話したいことを考えてもらえれば、伝わるはずですよ。」


(何をしたのかわからないが、確かに何かが繋がるのを感じた。)


 こちらも名乗り返す。


「俺はリコルドという。」


(考えただけだが、伝わっているのだろうか。)


 こちらでつけられた名前を伝える。


「リコルドさんですね。やっと話せました。正確には話せてないですけどね。」

「しばらくぶりに人と話せましたっ。どこから来たんですか? 一人だけですか?」

「趣味とかありますか?」


 いきなりテンポが速まり、日常会話のような内容をとめどなく聞いてくる。伝わってくる言葉に、喜びの感情がのっているのが分かる。しかし、そんなにホンワカ話している場合ではない。セルカの質問を無視して、こちらの聞きたいことを聞いていく。


「何が目的だ、俺をどうするつもりだ」

「・・・えーと、ずっと一人だったので寂しかったんですよ? 特にどうするつもりとかなくて、どうしても話したくて。」


(あまり説明が得意なタイプではないことは分かった。)


 体が人質に取られているような状況なので、こちらが弱い立場だが、質問に対しては素直に答えてくれるようだ。なので、今の状態の説明、この集落のこと、セルカのことを中心に質問していく。


・・・


 どの質問にも、素直に答えてくれるようだが、想定外で斜め上の回答が多い。


(不思議ちゃんか・・・)


 こちらの質問に対して、意図した回答が返ってこないため、情報を中々引き出せずに苦労した。結局2時間くらい質問し続け、いくつか有用な情報を引き出すことができた。


 まず、セルカだが元々は人間の神官だった。女神イーリス(勝手につけた名前だが)を信じ、長年仕えたところ、女神イーリスの声が聞こえるようになったそうだ。


 セルカは仕え続けていくうちに、少し緩い女神イーリスに対して、敬愛する気持ちに加えて、ほっとけないという気持ちが強くなっていったそうだ。


(少し緩いでは済ませるのは大物かもしれないな。)


 そして、ある日病気にかかり、死ぬ運命になった時に、女神イーリスに「選ばれた」そうだ。ちなみに、女神の名は本来違う名前だが、イーリスで良いとのこと。名前はあまり気にしないらしい。


 女神イーリス以外にも神は存在しており、それら人間を超越した存在を、総じてイデアと呼んでいる。超越した存在に「選ばれた」人間は、その魂ごとイデアに取り込まれ、その一部として存在が許される。


 イデアに取り込まれても、女神などになるわけではなく、単に存在が許されるだけ。イデアの大きさは広大で、人間の魂の存在に必要な大きさは、砂漠に存在する砂粒1つにも満たないレベル。人間の魂は、イデアに対してなんの影響もないらしい。


 どの話も、にわかには信じられないものばかりなのだが、色々思い当たることがある。俺が転生した後、前世の記憶や考え方などが完全に残っていることや、転生後、異様に記憶力が良いことなど、色々を疑問に思っていたが、俺の魂もイデアに取り込まれているとするなら納得感がある。


 前世の記憶などが、そのまま取り込まれているし、前世の体験や記憶などすべてが、イデアの中に取り込まれているのだろう。こうして意思の疎通ができるのも、イデアに取り込まれた影響かもしれない。


 まあ、どうやって実現しているのか、まったく理屈は分からないが。魂と記憶が、データとしてクラウドに保存されているようなものと考えるのがしっくりくる。


 イデアにある魂が現実に影響を及ぼすには、『しるし』が彫られた物体が必要となる。例えばゴーレムについている宝石がそれにあたる。必ずしも宝石である必要はないそうで、ゴーレムの一部として宝石が選ばれたのは、彫られた『しるし』が崩れないようにするための工夫だそうだ。


 ちなみに俺の体の中にも『しるし』があるそうで、おそらく女神によって、体内に刻まれた聖痕ではないかとのことであった。聖痕の刻み方はセルカも知らないそうだ。


 今、俺の魂はゴーレムの宝石に、セルカの魂は、俺の体に接続されている状態だそうだ。虚をつく形で一方的に入れ替わりができたが、お互いに接続の仕方を知っていれば、一方的に入れ替わることができないそうだ。


 『しるし』への接続の仕方が理解でき、お互い合意していれば、もう一度入れ替り、元に戻ることは可能らしく、少し安心している。


(どうやって、元に戻ってもらうか。相当の対価が必要そうだな。)


 意思の疎通をするためだけであれば、入れ替わる必要はなく、今のように接触していれば良いらしい。ちなみに、聞き出せなかったが、他にも方法があるそうだ。


 セルカは一人でここに残されており、かなりの時間が経過している。正確に何年たったか、もうわからないそうだ。10年を超えたあたりから数えるのをやめたため、数十年、もしかしたら100年以上になるかもしれないらしい。ゴーレムのエネルギーが切れ、動けない状態で放置されたため、非常に寂しかったそうだ。


(あっさり言っているが、相当に恐ろしい話だ。一人で動けない状態で何年も過ごす・・・考えたくもない話だ。)


 今回のチャンスを逃すと、次いつ会話ができるようになるかわからない、という思いから、俺を逃がさないために入れ替わったそうだ。今後も話しかけてくれるなら、接続の仕方を教えて体を戻してもよいそうだ。


(拍子抜けだが、正直ありがたい。)


 ちなみに、この集落の状況については、ほぼ想定していた通りだった。この集落に大型獣が時々襲ってくるようになり、犠牲を出しながらなんとか撃退していた。大型獣が、この集落を襲う理由を調べたが、根本的な原因は結局分からなかったようだ。


(大型獣への対策が分からないのは厳しいな。)


 徐々に襲ってくる頻度が増え、住民たちの不安が膨らんでいった。そんなある日、偶然、多数の大型獣がこの集落の方向に向かっていることがわかり、集落の移住が計画されたそうだ。


(1度あることは2度あるか・・・ 集落に定住するなら定期的な見回りが必要かもしれない。)


 ゴーレムのエネルギーは、女神像の前に設置された球体がないと供給できないため、移住計画が実施されたときにここに残されたということだ。移住した人々が、その後どうなったかはかなり心配していたそうだ。


 俺の元居た村にあったナイフでここの鍵が開いた話から、うまく逃げ延びて村を作った可能性があるという話をしたら嬉しそうだった。


(残されたことを恨んでもよさそうだが、根っからのお人よしっぽい。)


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